盾の騎士は魔法に憧れる

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火の竜の王との邂逅

とびきりの攻撃

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「ねぇ、作戦会議は終わった?早くしてくれないと僕から勝手に攻撃しちゃうよ?」

  痺れを切らした魔人が指先に浮かべた漆黒色の魔法球を転がしながら待ちきれないといった感じで声をあげる。

  説明に時間がかかり過ぎてしまったか。甘く見られている内に終わらせなければ。怒らせては元も子もない。

「フ・・・。魔人よ、そう慌てるな。今からとびきりのを食らわせてやるよ。」
「!?」

  儂の言葉に反応して魔人の片眉が吊り上がる。

「フフ。本当に君って面白いね。ここで終わりにしちゃうのが勿体ないくらいだよ」
「儂らはここで終わりはせんよ。なんせ次の儂らの攻撃でお前が終わるんだからな」

  万が一にも奴が逃げに回らないよう念入りに挑発をしかける。

「ハ、ハハ、ハハハハハッ!!」

  魔人は塞き止めていた何かが溢れだしたかのように、実に愉しそうで邪悪な嗤い声をあげる。その威圧で大空洞内全ての空気が震えた。

「ハハ・・・。こんなに笑ったのどのくらいぶりだろ?お腹が痛くて堪らないよ。君、冗談も上手なんだね?」
「冗談?まさか、儂は嘘はつかないと神に誓っていてね」

「じゃあさ、賭けようか?」
「・・・賭け、だと?」

  邪悪な笑顔の悪魔が囁く。

「そう。次の君達の攻撃で僕に傷を付けれたら君達の勝ち!君を逃がしてあげるよ。傷を付けれなかったら僕の勝ち!僕が勝ったらそうだな~・・・」

  まるで子供の遊びだ。
  魔人の精神は滅びない。そのため肉体とはズレがあり、この魔人もまだ少年の様な見た目だが何百年何千年も存在しているはずだ。

  そのわりに考え方や行動があまりにも幼い。思えば先日戦った魔人もそういった精神性は感じなかった。

  魔王の配下だった魔人共とはかなり違いがある。

「決めた!僕が勝ったら君を僕の玩具にしよう♪君が壊れるまで遊んであげるよ」

「・・・それは御免被るな」

  何にせよ負けるわけにはいかない。

「さあ!いつでもいいよ!」

  無防備に両手を広げ愉しそうに嗤う。

  その余裕、精々油断していてくれよ。

「さあ皆!手筈通りに頼むぞ。火竜の王よ!待たせたな」
『・・・策など弄じず我が炎で焼き尽くせば済むものを。人の子とは面倒を好むものなのか。まあ良い、では参るぞ・・・』

  火竜の王はその顎を大きく開く。
  咥内に深紅の炎が渦巻いていく。
  その熱で周囲の温度が跳ね上がり汗が吹き出す。

「ユリア!頼むぞ。魔力を使いきらないようにな」
「う、うんっ!ルーテさん、いきます!!
              『エンチャントマナっ!』

  ルーテの背に触れたユリアの手に暖かな光が灯る。その光はルーテを包んでいく。

「!?」

  ピクリと魔人の表情が動いた気がした。魔人にとっても『付与魔法』は気になるものなのか。視線がじっとユリアを見ているようだ。いつでも動けるように盾の持ち手をグッと握りしめる。

「ふわぁぁ・・・す、すごい。たくさんの魔力が流れこんできます・・・」

  魔力の付与は無事出来たようだ。ルーテは惚けた表情をしているが大丈夫か?頼むぞ。

「ルーテよ、準備は良いか?私に合わせろ」
「はっ!はいぃっっ!!」

  フリオニールがルーテの隣に並び立つ。その手には限界まで気力と魔力を込めた青く輝く剣が握られている。ルーテも気が締まったようだ。

『邪悪なる者よ!滅ぶがよい!!』

  火竜王の口から猛々しい炎の渦が火球となり高速で魔人へと吐き出される。それは障壁へ衝突し防がれてしまうが、周囲と障壁自体を高熱で包む。

 『ソニックインアロウっ!』『アイシクルエッジっ!』

  水の魔力を纏った無数の音速の斬撃とユリアの付与魔法によって何倍にも強化されたルーテの氷属性魔法が極寒の荒れ狂う吹雪の様に、熱せられた空気を凍てつかせていく。

  それもやはり障壁によって防がれてしまうが明らかな違和感があった。魔人も異変に気付いたか、訝しげな表情で絶対の自信があるであろう自らが造り出した盾を見つめる。

「ジョルジュっ!全力で放てっ!!」
貫ク矢ピアースショットッ!!』

  限界まで引き絞ったであろうジョルジュの弓から一直線に魔人へと矢が放たれる。矢は回転を伴い渦巻き周囲の魔素を吸収していく。爆音を轟かせまるで消え失せたかのような速度まで加速した矢が障壁に突き刺さる。


  そして、異変は確信へと変わる。


  先程までの様々な轟音が嘘のように静まり返った空間にその音は静かに響いた。

  硝子が割れるような音を立てて障壁が崩れ去る。

  魔人はまるで自身を砕かれたかのように呆然としている。

  儂はこの状況を信じて既に準備をしていたスキルを発動する。

『リフレクトウェーブッ!!』

  火竜王の炎、そして魔人の2度の魔法を耐えた神盾から凄まじいエネルギーが吹き荒れる。その波動は障壁を失った魔人を覆い光の中へ掻き消していく。


  エネルギーの嵐が治まったあとには何もない──


「・・・やったか?」

  魔人の気配は感じない。やや呆気なさもあるが消滅したのだろうか。

「フェンス。・・・お前を信じ言われるままにやったが、何をしたんだ?」

  まだ警戒をしながらフリオニールが儂の横に並び魔人の居た場所を見つめる。そこには欠片すらない。

「これはな、『焼入れ』の仕組みを利用したんだ」
「?  焼入れ・・・?」

  儂は日頃守護隊の任務の一環として警邏を習慣としている。ただ歩くだけではつまらないので道すがらの街人や商店の売り子などに声をかけて廻る。街の情報や目新しい物品やそれまでに知り得なかった知識を得ることも出来る。『焼入れ』の知識も贔屓にしている武具屋のダンダルから教わったものだ。

「鍛冶の技法のひとつなのだがな、鉄を打つ際により強度を上げるため熱して冷ますを繰り返すんだが、冷ます工程を均一に温度が下がるよう行わないとヒビ割れを起こしてしまうんだ。
  その仕組みを逆に利用して、火竜王の高温の炎で熱した障壁を氷と水の乱撃で均一にならないよう冷やしヒビを入れ、そこに一点の破壊力のある矢の一撃で楔を打ち込み砕いた、というわけだ」

  ざっと簡単に説明したが伝わっただろうか。

  周囲を見ると皆口を開けポカンとした顔をしている。

「魔法だけかと思っていたが、フェンスの無駄知識は鍛冶にも精通しているのだな」

  と、フリオニールまでもが無駄知識と言う。

「こうして役に立っているんだ!無駄ではないだろうっ!」
「ハッハッハッ!冗談だ、冗談。何が何時役に立つかは分からぬものだな」

  あれだけ真っ直ぐで体現勇者だったフリオニールも何十年も経てば冗談を言うようになるのだな。ミリアーナの悪影響が強そうだが。

「・・・お、おじいちゃん。倒せたの?」

  後ろを振り向くと女近衛騎士に支えられたユリアが歩いてくる。魔力を残すよう言ったが、まだ不慣れな魔法だ。調整が難しいのだろう。
  最初は魔力を使いきり気を失ってしまったくらいだ、意識が残っているだけでも少しは成長をしている証しのようだ。

「・・・ああ。まだ油断は出来んが気配は感じない」

  儂はユリアの頭に手を乗せ少し乱暴に撫でた。

「よくやったな、ユリア」

  少し迷惑そうにしていたユリアだが儂の言葉を聞くと目を輝かせて儂の顔を見上げた。

「あたし、おじいちゃんの役に立てた?」

「ああ。ユリアがいてくれて助かったよ」

  それは本心だ。ユリアの『付与魔法』がなければ障壁を崩せなかっただろう。だが・・・

「しかし、駄目だと言ったのにここに来たことは帰ったらたっぷりと説教だ。覚悟しておけ?」
「~~っ!?」

  途端にユリアは縮んだかのように小さくなる。

「フェンス。そのくらいにしてやれ。ユリアが居てくれたことは間違いなく助けになったであろう?」
「・・・フリオニール、まさか自分はお咎めなしと思ってないだろうな。お前も帰ったらマリアとジェイガン大臣から説教が待ってるからな。」
「~~っ!?」 

  フリオニールのあまりの慌て顔に、儂もユリアも、不敬ではあろうが近衛や騎士、守護隊隊員から魔道員まで朗らかに笑い声をあげた。もう既に勝利を確信していた。

『・・・人の子よ。お前たちがここに来た理由はなんだ。お前たちも我の魔石を求めるのか』

  唐突に腹に響くような低音で火竜の王が声を出した。もうまったく敵と認識はしていないが、このままというわけにはいかんな。

  襲われたからとは言え、同胞である火竜を倒したのも事実。敵と認識されても仕方ない。なるべく穏便に済ませたいが。

「火竜の王よ。儂らがここに来た目的は魔石ではない。大型の魔結晶を探しに来たのだ」

『・・・魔結晶。何故それを求める』

「先程の魔人の一味であろう魔人や魔物に我らが王都が襲撃されたのだ。それを防ぐための結界を築くため触媒となる魔結晶を求めているのだ」

『・・・・・・』

  火竜王は言葉を発せず何かを思案している。火竜にとって魔結晶は何か重要なものなのだろうか。

『・・・良かろう。では、これを持っていくがよい』

  そう言うと火竜王はどこからか、結晶の中に揺らめく炎が閉じ込められたかのような大きな結晶を取り出す。見るだけでもとてつもない魔力が凝縮されているのが分かる。

「こ、これは?」
『・・・これは『竜結晶』という。竜たる我の溢れ出た魔力が長き年月で凝縮し結晶化したものだ。結界の触媒として十分な力があるだろう──っ?!!』

  火竜王の手から結晶が転がり落ちる。近くにいたアベルが慌てて抱き抱える。一体・・・、何が起きた?!火竜王は痛みに耐えるような表情を浮かべている。じんわりと胸部に赤い色が広がっていく──

「フフ。君の言う通りとびきりの攻撃だったね?僕の障壁を壊されるなんて思いもしなかったよ。悔しいけど君の勝ちだね」

  火竜王の背の上に、邪悪な笑顔の魔人が居た──
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