盾の騎士は魔法に憧れる

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火の竜の王との邂逅

決意と覚醒

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 #ルーテ


 あぁ    あぁあ    どこぉ

 私のぉ    私のぉ

 私の鞄どこにいったのぉ

「ル、ルーテさん?危ないですからあまりウロウロしないでくださいね・・・?」

 いきなり火竜に襲われて、フェンス様の命令で私が華麗な魔法を炸裂させて……そこまでは最高の展開だったのにぃ・・・。
 まさか、まさか、あそこで地面が崩れて落っこちるなんて。

 きっとあそこからフェンス様の麗しい奥義が炸裂して火竜なんかぶっ飛ばしてしまう最高のシーンが見れたはずなのにぃ・・・。

 それを見れなかっただけでも血を吐く思いなのに、鞄を落としてしまうなんて・・・。大事な、大事な、原稿の入った鞄を落としてしまうなんてぇぇぇぇぇ!!!

「ルーテさん?・・・聞いてます?危ないですから!」

 さっきからこの女煩いわね!あぁ!でも……原稿はまた書けばいいけど、それ以上にこの旅の間に書き留めたフェンス様の勇姿を書き記したメモまで・・・。

  フェンス様の美しい勇姿は目を閉じれば今も目の前にあるかのように鮮明に想い出せるけど・・・、それは違うのっ!!

    あの時!あの瞬間を!想いのままに書き記したメモは、もう二度と書けない・・・。あのメモがあれば、これからの展開にまるで生命が宿ったかのような躍動感ある作品が書けたはずなのにぃ・・・。

「ハッハッハ!なかなか面白いやつだな」

 ハッ!フリオニール様が私を気にしてくださってる?!

 あぁ・・・。折角フェンス様に次ぐ勇者王フリオニール様が近くにいてくださるというのに・・・。メモのことが気掛かりで、フリオニール様に集中出来ないぃ。

 一生の不覚!!

「ルーテさん!危ないですって!!」

 ああもう煩いわね!!この女、溺れさせてやろうかしら。
 フリオニール様付きの近衛だからって調子に乗ってるんじゃないわよ!

 はぁ・・・、空しい・・・。

 落下したあとの私は、フリオニール様と一緒にフェンス様と合流するために洞窟内を歩いている。何度か魔物が襲ってきたけどフリオニール様の下僕共が倒している。あの三人もまぁ悪くはないわね。話のネタに詰まったら使わせてもらうわ。

 しばらく進んだら大空洞を見渡せる高台の上に出たみたいね。すごく見張らしはいいけど、どこにもフェンス様は見当たらない。

「陛─フリオ様。どうやら行き止まりのようです」

 フリオニール様の下僕のひとりがそう報告している。行き止まりってことは戻るってこと?!そんなことしてたら、どんどんフェンス様の活躍シーンを見逃してしまうじゃなぃ!!

「!?」

 急に何もない空間に魔素の乱れを感じた。景色が歪んだかのように見えたあと徐々に魔素が固まり肉眼でも捉えられる姿を形成していく。

「な、何だ?!」

 下僕のひとりがあからさまに動揺してるわね。ふんっ!みっともない。

「これは・・・、火妖霊ですね」

 煩い女が言い当てる。何か癪にさわるわ。

 火妖霊。別名ファイアエレメント。空気中の魔素と濃い瘴気の固まりに魔物のエネルギー体が宿ったと言われている魔物。その土地毎の属性に影響を受けやすく、水のあるところならウォータエレメント、火山ならファイアエレメントになる。

「火妖霊か・・・。厄介だな」

 エレメント系の魔物は精神スピリチュアル体であるため物理攻撃が基本的に効かない。魔法剣だとかフリオニール様の聖剣だったら斬ることは出来るだろうけど、ただの剣では空気を斬るだけ。

 あぁ!もももも、も、もしかしてフリオニール様の聖剣技を拝観させて頂けるチャンスでわっ?!

「こういった魔物の存在を忘れていたな。こんなことなら聖剣を持ってくれば良かったな。ハッハッハッ!」

  
 フリオニール様ったらオ・チャ・メ。

    !!!??

 えぇぇえっ!!ほ、ほんとだ・・・。フリオニール様が腰に下げている剣は聖剣じゃぬわぃ!
 そ、それじゃ、フリオニール様の輝かしい勇姿が見れないのっ!?

 こ、ここは・・・、私が魔法で。

 そう思ったんだけど、何か高台の下の方から声が。
 気になってそーっと覗いてみたら・・・な、なんとそこにっ!

「フ、フ、フ、フェンス様ぁぁっ!!?」

 かなり下の方にフェンス様の勇ましいお姿が見えた。あぁ、ご無事でしたのね。んん?

 よく見るとフェンス様の隣、弓使いの金髪キザ野郎が持ってるのって──

 あぁっ!!?わ、私のげんこう

「?!ルーテさんっ!?あ、危ないッ!!」

 またあの煩い女がわめいてるわね。決めた!魔物より先にあんたを水責めにしてやるわ。──あれ?

 足場が──





 #ユリア



  どうしよう──
 
 今、目の前には火の塊みたいな魔物が4匹もいる。実体の無い魔物らしくて剣とかは効かないみたい。フリオおじさんの聖剣なら斬れるらしいんだけど、ほら。いつもの変装中だから持ってきてないんだって。

 エダさんの魔法は風属性らしいから効果が弱いみたいだし、ディーンさんとロディさん、ルークさんは攻撃系の魔法は使えないって。フリオおじさんも唯一苦手な系統の魔物らしい。

 可笑しな魔法使いのルーテさんって人が居たんだけどさっき下に落ちてっちゃった。大丈夫かな?

 あたしの魔法じゃそもそもの威力が弱いしどうしよう?

 現れた火の魔物は2体。次々と火の玉を飛ばしてくるけど、皆なんとか剣で斬り裂いたり避けたりして防いでいる。あたしも盾で防ぐ。確かに火にも強くなってるみたい。

 どうしよう・・・。こんなときおじいちゃんならどうする。

「私が水の属性剣でも使えればよかったんだがなぁ」

 フリオおじさんがそんなことを言ってまた火の玉を斬る。

 
 ん?属性剣・・・。あ、もしかして。


 ひとつあることを閃く。でもあたしに出来るかな・・・。

 いや!ユリア!!ここでやらずにいつやるっ!?

 想い出せっ!おじいちゃんの言葉で魔法が出来ていった感覚を。術式が組み上げられていく瞬間を!

 
 えっと・・・、あたしの魔力をおじいちゃんに『付与』したみたいに、あたしの力、あたしが持ってるものならきっと『付与』することが出来るんじゃ。だとしたらあたしの短剣に水の属性剣の魔法を使ってそれをフリオおじさんの剣に『付与』出来ればっ!

 うろ覚えだけど属性剣の魔法は授業でやったことがある。魔力を付与する魔法の術式は忘れることなく覚えてる。水を意味する魔法文字はこれだったかな・・・いや、こっちだったかな。
 魔力の魔法文字はこれで間違いないからここをこの魔法文字に変えれば・・・ダメ!違うこれじゃない!じゃあこっち・・・これも違う!

 う~~分かんないっ!!
 やっぱりあたしじゃおじいちゃんみたいには出来ないっ!!

「陛─フ、フリオ様っ!このままでは埒があきません!」
「アツッ!段々と激しくなってるな、これ・・・」

 魔物からの攻撃は次第に強くなってる。火の玉のせいで周りの温度が上がってるみたい。皆汗がスゴい。
 魔法が上手く出来ないからか、あたしもこんなに汗をかいてる。

 魔物から火の玉が飛んでくる。
 盾で防ごうと思ったんだけど、くらっと目眩がした。

「ユリアちゃん!大丈夫?」

 あたしに向けて飛んできた3つの火の玉をエダさんが一瞬で斬り裂いてくれた。

「は、はいっ。だ、大丈夫です──!?」

 エダさんも汗でびっしょり。その身体はよく見るといくつか火の玉を受けてしまったのか、ところどころ黒く煤けている。
 ディーンさんも、ロディさんも、ルークさんも、ハリルも、フリオおじさんも・・・皆・・・。

 パンッ!
 自分の両手で頬を思いきり叩く。

 何弱気になってるのよユリア!あなたがやらなくて誰がやるの。
 どうして盾を欲しいって思ったかもう忘れたの?

 皆を、大切なものを守りたいからでしょっ!?

 思い出せっ!思い出せっ!おじいちゃんは何か言ってなかったか?
 確か、火属性の魔法の授業のときに──

(ファイアーボール等の魔法を飛ばす魔法系統の術式は、魔力を球状にするための『纏める』という魔法文字と、飛ばすための『飛ぶ』という魔法文字に、使いたい属性の魔法文字を組み合わせると出来る。ちなみに四元属性を表す魔法文字はそれを象徴するかのような形をしている。
    火なら燃えるような、風なら風が渦巻くような、地ならゴツゴツした岩のような、水なら──

「雫のような!!」

 そうだ!水の魔法文字はこれだ!
 これを属性剣の術式に入れて──出来た!あとは魔力を付与した術式のここを水の魔法文字に変えて

 出来た!!

 あたしの頭の中で術式が組上がっていく。
 光輝いていく。

 よし・・・まずはあたしの短剣に属性剣の魔法を。

『ウォータエンハンスっ!』

 呪文を唱えるとちゃんと術式が発動し短剣を青い光が包む。

 よしっ!あとはこれをフリオおじさんの剣に。

 お願い!!上手くいって!!

『エンチャントウォータっ!!』
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