盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

文字の大きさ
上 下
30 / 91
火の竜の王との邂逅

火竜の峰にて

しおりを挟む
 #エダ


  ハァ・・・

  何故、ワタシは今ここにいるのだろう

  いえ。理由は分かってる。また陛下の我儘に振り回されて護衛として付き添っているから・・・。

  戻ったらこれまでにないくらい大臣のジェイガン様にお叱りを受けるんだろうなぁ~。今度こそ近衛騎士を降ろされるかも・・・。
  先日のお昼のこともかなりこっぴどく怒られた。今でもなぜ近衛騎士を降ろされていないのか不思議なくらいだ。騎士団長がおっしゃるには「陛下はお前達兄妹の能力を買ってくださっている。その御期待に応えられるよう精進するよう。」とのこと。

  確かにワタシ達兄妹は陛下の鶴の一声で兵士見習いから騎士団、近衛騎士へと昇進させて頂いた。その恩に報いるため陛下のためならば命をかけて御守りする覚悟ではいるが、こう毎度振り回されているとタメ息が出ても仕方がないでしょう?

「どうした、エダ。遅れているぞ」
「ハッ!?も、申し訳ありません!」

  いけない、いけない!呆っとしてしまっていた。ここはもう魔物の棲みか。近衛騎士としてしっかり陛下を御守りせねば。

「エダよ。疲れたか?休憩にでもするとしようか」
「い、いえっ!問題ありません!」

  片目と片腕が不自由で歳もワタシの倍以上になる陛下はまったく疲れている様には見えない。流石は陛下!とは思うがここでワタシが先に疲れたなどと言えるわけがない。

「そうか。だがユリアは疲れただろう?この辺りで少し休憩としようではないか」
「はっ!陛下。ただいま準備を致します」

 先頭を歩いていた兄さんが背嚢から簡易椅子を用意し飲み物を陛下に差し出す。

「ディーンよ。いつどこで誰に出くわすかわからぬ。外ではフリオと呼べと言っているであろう」
「はっ!も、申し訳ありません。フ、フリオ様・・・」
「あと椅子もいらぬぞ。そんな物を使う冒険者などおらぬ。余計に怪しまれるだけだ」

  兄さんは陛下といつものやりとりをしている。ワタシは自分の背嚢から飲み物を取り出してユリアちゃんに手渡す。お皿に水を入れて犬のハリル君にも差し出す。

「エダさん。ありがとうございます」
「ワンッ!」
「もうしばらくしたらお昼にすると思うけどお腹は空いてない?クッキー食べる?」

  背嚢からクッキーも取り出して数枚手渡す。

「ありがとうございます。ディーンさんとフリオおじさんはいつもあんな感じなんですか?」

  ユリアちゃんは陛下と兄さんのやりとりを楽しそうに見ている。

「そうね。兄さんは真面目なのが取り柄ではあるんだけどねぇ。不器用と表裏一体と言うか・・・。どうしてもって呼んでしまうみたいでいつもフリオ様にお叱りを受けているわね」
「フフ。そうなんですね。でもフリオおじさんも面白いですよね」
「どうして?」
「だって、あの変装?バレバレなのに」

  ユリアちゃん・・・。それは言ってはいけないのよ。





 #ジョルジュ


  早朝に炭鉱街を出立し麓の村に馬車を停めた我々はその足で火竜の峰へと入った。火竜の名が付くが、かなり奥地の大空洞内にしか火竜は棲息していない。出くわすのはよく見る魔物ばかりでいてもレッドリザードくらいだ。
  レッドリザードの素材はそれなりの稼ぎになるので出来れば回収したいが今は任務の最中。冒険者だった頃の欲は忘れろ。

  道中はまったく危なげなく進んだ。俺がスカウトとして先行し索敵を行う。進路を塞ぐ場合や襲われた場合のみ戦闘をする。
  城の騎士二人とアベル隊長の三人でほぼ戦闘は終わってしまうため俺の出番はほぼないが、まぁ矢が節約出来ていいか。

  総隊長の腕を是非とも拝見したいところだが、貧相な魔道院の魔法使いのカバーばかりしていてそのチャンスは無さそうだ。

「ジョルジュ。大空洞の入口は見えたか?」
「はい。先の大岩を越えたところです」

  偵察から戻り総隊長へと報告をする。

「ご苦労。よし、ではここに拠点を築き少し休憩としよう。以後はここを探索の拠点とする。魔物避けの魔道具も忘れずにな」

「「「「はっ!」」」」

  大木の根と岩場が丁度洞穴の様になっている場所を利用して拠点築く。アベル隊長と騎士のひとりが足場の整備を、俺ともうひとりの騎士で穴を囲むための枝葉の収集を担当する。

「人違いでしたら申し訳ありませんが貴方は『隼眼』のジョルジュ殿ではありませんか?」

  騎士のひとり、確かロディといったか。枝をナイフで切り落としていた俺に話しかけてきた。

「・・・ああ。昔の名だが、それが何か?」

 『隼眼』とは俺が冒険者をしていたときの通り名だ。周りが勝手に名付けたものだがそれなりに気に入っていた。隼は好きな鳥だ。

「やはりそうでしたか!いえ、昔のことですし大したことではないのでお忘れかとは思いますが、私は北方の騎士領の出なのですが8年ほど前に魔物に襲われたことがありまして。居合わせた冒険者パーティによって撃退されたのですがその冒険者の中にジョルジュ殿がいらしたので」

  8年前・・・。あの魔物か──

「今更かとは思いますがお礼を言わせてください。あの時の冒険者の強さに憧れて、今こうして騎士となることが出来ました」
「あいつを撃退したのは俺の仲間だった奴だ。俺は何もしていない」

  そう・・・。魔物を撃退したのはあいつだ。
  その冒険者生命と引き替えに・・・。

「さぁ。無駄話しはこのくらいにしよう。枝葉もこのくらいあれば大丈夫だ。戻るとしよう」
「え・・・?は、はいっ」

  こんなところであの時の話が出るとは思わなかったな。

  俺が冒険者を辞めて今こうしている切っ掛けの出来事の──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...