盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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再び手にした決意

加護の儀式

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「おじいちゃん!ねぇ?聞いてる?!」

「ん?おぉ・・・すまんすまん。呆っとしていたよ」

  魔力鍛練で草むらに腰を下ろし、目を閉じて集中していたーー いや、余計な考え事をしていたためか、孫娘のユリアが呼んでいたことにまったく気付かなかった。

「もぉ~~っ!おじいちゃんしっかりしてよね?」

  少し離れたところで、儂とは違い実際に魔法の練習をしていたユリアは、いつのまにか儂の目の前まで来て、腕を組み不機嫌そうな顔で立っている。

「すまんすまん。こう、魔力鍛練に集中していると周りの音が遠く聴こえるんだよ。ですよね?ヒルダ先生?」
「え?ええ、そ、そうですね。深く集中出来ている証拠だと思います」
「そうやってすぐ先生を味方に付けないの!」

  間違ったことは言ってはいないと思うんだが。
  まぁ、余計なことを考えていたが。

「で?どうかしたのか?」

  ユリアはまだ不機嫌そうだ。

「もうっ!あのね?今、付与魔法の練習をしてるんだけど、麻痺とか眠と睡眠とかだとハリルにかけるわけにもいかないでしょ?で、能力アップ系の付与魔法で練習をしようってことになったの」

  ハリルは我が家の番犬兼愛犬、ウィンドウルフという魔物である。

「ふむふむ。なるほど」
「でも、先生に一通り教えてはもらったんだけど、先生も普段はほとんど能力アップ系の付与魔法は使わないから少し不安らしくて」
「それもそうだな。パーティでも組まないとなかなか能力付与魔法は使わないからな」
「そこで、おじいちゃんの無駄知識にお願いしようって思って」
「ユ、ユリアさんっ?!フ、フェンスさん!わ、私は決してそのようなことは・・・」

「・・・・・・」

  ユリアにまで、ネタにされ始めてしまったな…。
  あの、猫魔女…。後で魔法ギルドに乗り込んで文句言ってやる。

「おほんっ!まあ、そうだな・・・ハリルを痺れさせるわけにもいかないしな」

  立ち上り近くに落ちていた木の枝を拾い、地面に術式と呪文を書く。

「練習でハリルにかけるなら効果がわかりやすい、速度アップが良いかな?
 まぁ、ついでにその他の能力も書いてやろう」

  ガリガリと地面に次々と呪文を書き上げる。

「──よしっと。え~、これが速度。これが力でこっちが魔力。そしてこれが耐久力だな」
「オッケー!ありがとう、おじいちゃん」

  さっきまでの不機嫌はどこへやら?しばらく眺めて覚えたのか、元いた場所に戻り練習を再開する。
  速度アップの付与魔法が無事に発動し、元気に駆け回っていたハリルが一段と速くなる。

 我が孫娘ながら、ちゃんと魔法を使えて羨ましい限りだ。

「あ!」

  そう言えば、ヒルダに伝えることがあったのを忘れていた。最近、呆っとしたり、忘れることが増えてきたな…。歳は取りたくないもんだ。

「ヒルダ先生。」
「は、はい!フェンスさん、何でしょうか?」 

  駆け回るハリルを笑顔で見つめていたヒルダは、急に名前を呼ばれたからか、少しビクッとして答えた。

「あぁ、いや。明日の授業なんだがな?その日はお休みにしてくれませんかな?」
「明日──あ!そうですね!ユリアさんのお誕生日でしたね」

  理由を言わずとも理解してくれる。本当に出来た娘だ。
  師匠にも見習ってほしいもんだ。

「ああ。その日は朝食を食べ終えたら、そのまま大神殿に行くので」

  そう、明日はユリアの15の誕生日。成人となる。

  そして、加護の儀式を受けるのだ。

「加護の儀式、楽しみですね?ユリアさんはどの神の加護を戴けるんでしょうか?」
「そればかりは受けてみないと何とも、と言ったところだが、あの娘は何を願うんだろうか」

  ハリルに楽しそうに付与魔法をかけているユリアを、二人で見つめる。

  何にせよ、あの娘ならなんでも器用にこなせそうだ。

「今日はもう少ししたら終わりにしましょう」

  ヒルダはそう言い、ユリアの方へと歩き出す。

  ハリルはまだ楽しそうに駆け回っていた。





 翌日──

  朝食を食べ終えた儂とユリアは大神殿の儀式場に来ていた。儂の時とは違い、一応貴族の端くれのため王公貴族用の儀式場だ。一般用とはあきらかに違う綺麗に細工を施された神像。その前にこれまた良い絹を使った敷き布の上に、綺麗に磨かれた水晶が置かれている。

  ユリアはその前で、司祭から説明を受けている。

  今日、補助をしてくれるのはオックルト司祭。なんと、儂の加護の儀式を補助してくれた、ケルナー司祭の遠縁にあたるそうだ。

  一通り説明は終わったのか、オックルト司祭が一歩後ろに下がる。

  ユリアはしばらく動かずじっとしていた。
  自身が望むものを確認でもしているのだろうか。

  しばらくして、おもむろに右手を水晶の上に乗せる。

  オックルト司祭が静かに祝詞を唱え始める。

  水晶から溢れ出した光が、ユリアを優しく包み込んでいく。

 ──はたして、ユリアはどの神の加護を授かるのだろうか。

  儂の息子アルディは、母方よりの遺伝が強く出たようで、十分な魔力を持ち、身体つきの方は俺に似たようでそれなりにがっしりとした体格をしている。両方の特性を活かし、神殿付きの守護騎士として勤務している。

  ユリアの母親であるコーネリアも、その母が王国魔道院の出なこともあってか、潜在魔力は高かったらしく、その遺伝子がユリアに受け継がれている。日頃の勉強、鍛練の成果もあってか、成人を迎えたばかりであるがすでに上級魔法使い相当の魔力を持っている。

  それもあって、どうしても叶えられなかった自分の夢を、友の願いを、託したいと想ったことは、何度もあった。

  でも、それは違う。

  ユリアが成りたいもの、望むもの、願うもの──

  ゆっくりと、ユリアを包み込んでいた光が治まっていく。

  アルディの時はそれほどでもなかったが、今はまるで自分のことのように、胸が、心臓が鼓動する。

  光が完全に治まり、静寂が訪れる──

  さぁ、オックルト司祭、どの神の加護を授かったのか教えてくれ。火の神か?水の神か?いや、ユリアはどれかと言えば風属性の魔法が得意だと言ってたか?

「~~~~っ?」

  オックルト司祭はまだ黙っている。どこか狼狽えている様に見えるのは気のせいだろうか。

「オックルト司祭?どうかされましたか?ユリアはどの神の加護を授かったのですか?」

  少し呆っとしていたらしいユリアも、オックルト司祭に身体を向ける。

「い、いや。なんと、言いますか・・・こ、これは」

  オックルト司祭は明らかに狼狽えている。
  まさか、盾の神だとか言わないだろうな?

「・・・神からの啓示は、ふ、付与の神の加護と出ています」


  ・・・・・・

  はぁ??

  ふ、付与の神──??

  な、なんだそれは?!聞いたこともないっ?!

  そもそも12柱の神々にそんな名前の神は存在しないではないかっ!?

「オ、オックルト司祭。な、何かの間違いでは?」
「・・・私も、そう思いたいのですが、間違いなく『付与の神の加護』と、出ております・・・」

 「「・・・・・・」」

  ううむ。どうしたものか。

  ここは、魔法に携わる者に聞いてみるべきか。

  当の本人は、あまり理解出来ていないのかキョトンとした顔をしている。

  儂と目が合うと、ニコッと微笑んだ──
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