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再び手にした決意
魔王との決戦
しおりを挟む「フハハハハハハハハッ!
見事だ!勇者とその仲間たちよっ」
禍禍しいオーラを放つ巨体から今の今までひとつ間違えば命を取られるやり取りをしていたとは思えない愉快そうな轟音の嗤い声が響き渡る。
それだけで、音波攻撃かと思うほどの衝撃だ。
「くっ・・・ま、魔王よっ!
もうお前に勝ちの目はないっ!そろそろ終わりにさせてもらう!」
剣の女神の祝福を受けた淡く翡翠色に輝く聖剣を構えた勇者、フリオニールが負けじと大声を張り上げる。
「勇者よ、これほど愉しく正に血の踊る様な至極の時を終わらそうとは・・・ そこに関しては面白味のない男だの」
「なっ──ふ、ふざけたことを!!」
「・・・面白味がないのは正解ね」
「ミリアーナ・・・」
猫獣族の魔法使いであるミリアーナがこんな緊迫した場面にも関わらず、魔王の言葉に何度も頷く。
フリオニールは一国の王子という出自もあるが、正義感の塊といった絵に描いたような王道勇者であるため、これまでの旅の中でも冗談を言ったこともなければ、行き過ぎた冗談にはくどくどと説教をしはじめる程の度が付く真面目な性格をしている。
まぁ、悪いことではなくそれが彼らしく勇者の資質であるとは思うのだが、たまには息を抜いてはと思うのは仲間内の本音。
まさか魔王にまで言われるとは思わなんだが。
「フハハ──
だが、我も然程余力は残っていないのが事実。残念ではあるがお主の言う通り終わりにはしなければならんな──
ハァッ!!」
「「「「!?」」」」
魔王がそう言葉を切った途端に、その両手にこれまで以上に禍禍しい魔力が一気に膨れ上がり、魔王の眼前に漆黒の球体を構築しはじめる。
その球体から発せられる波動だけで一国の騎士団が全滅しそうなくらいの圧をひしひしと感じる。
少しガタの来ている鎧兜がギシギシと鳴る。
「なんという凶悪な波動なの・・・。
これが放たれてしまったら、世界の均衡に影響を及ぼし、恐ろしいことになってしまう」
我がパーティの回復役、聖杖の女神教会の司祭であるマリアが青ざめた顔に苦悶の表情を張り付かせる。彼女の在り方からこの邪悪な波動を誰よりも強く感じているのだろう。
「・・・・・・」
俺は自身の写し見、原典そのものとも言える身の丈ほどもある愛用の盾の持ち手を強く握り締め、突風の様な邪悪な波動に逆らいフリオニールの前に歩みでる。
「っ!フェンス!?な、なにをっ」
「ここはどう見ても、数少ない俺の見せ場だろう?ぼさっとしてないで全員俺の後ろに入りな」
「!?」
「フ、フェンスっ!」
「なに。心配するなとは言いたいが、ここは俺とこの盾を信じろとしか言えないな・・・」
「なっ──無茶だ!
フェンスのことは信頼しているが、あれは余りにも強大過ぎるっ!」
さらっと信頼しているなんて言葉を恥ずかしがりもせず言うところがフリオニールらしい。
「・・・私も同感。あれは無理」
「フェンスさん・・・」
ミリアーナとマリアも心配そうな顔をしている。
まぁ、やると言っている俺が一番心配なんだが…。
「術式を見たところ全部はわからないが、あれは生命属性の魔法に魔王の生命力を上乗せして、それを無属性の魔法に変換している・・・。その変換して生まれた膨大なエネルギーを圧縮して放つ魔法だろう。
放たれた無属性の強大なエネルギーは、触れた生物、植物、大地さえも無に変換し文字通り消えて無くなってしまうだろうな」
「・・・出た。フェンスの無駄な魔法知識」
「一言余計だっ!!ミリアーナ」
「それを聞いたら余計に賛同出来ないっ!!」
フリオニールが勢いよく詰め寄ってくる。
「まぁ最後まで聞けよ。俺だってまだ死にたくはないさ。属性と仕組みがわかれば対処法はある」
「本当ですかっ!?わ、私も何かお手伝いを──」
マリアも後ろから体が当たるくらいの勢いで詰め寄ってくる。フリオニールも貴族の令嬢から侍女、街娘まで誰も彼もが立ち止まる美男ではあるが、男の俺には聖母の様な心洗われる美しさを持ったマリアにここまで近づかれると、こんなときに不謹慎ではあるがドキドキしてしまう。
「あ、ああ。マ、マリアにも手伝って貰いたい。
もちろんフリオニールにもミリアーナにも──
「「「「っっ!!!」」」」
言い終える前に、魔王の手元から発せられる波動が更に勢いを増し全員吹き飛ばされそうになる。咄嗟に一番近くに居たマリアを覆い被さるように抱き留める。
「──っ!!」
マリアが何か言った気がしたが今はそれどころではない。
「ちっ!もう時間がないっ!
要点だけ伝えるから全員聞いてくれっ!!」
瞬間、全員の顔が引き締まる。
「まずは、俺が全ての技を使ってなんとか一瞬でもあの魔法を受け止める。かなり無茶ではあるが一瞬だけでも止めてみせる!」
俺はフリオニールの顔を見る。
「フリオニールはその一瞬の隙に聖剣の力を一点に集約し、エネルギーの塊に突き入れてくれ」
マリア、ミリアーナの顔を見る。
「マリアは聖属性の魔力を最大まで高めてくれ。それをフリオニールが突き入れた隙間に一気に放出してくれ。
ミリアーナはマリアへの魔力供給と放出された魔力が効率良く流れるよう補助を頼む」
「わかった」
「・・・ん」
「が、頑張ります!」
俺の言ったことを即座に理解し皆、頷く。改めて思うが、皆優れた戦士だ。
それでこそ、俺も頑張り甲斐があると言うものだ。
切羽詰まった状況ながらも俺は誇らしげな気持ちになり正面、魔王を見据える。
「そこまで上手く運べば、無属性のエネルギーの流れが変わり魔王へと逆流するはず。そうなったらフリオニール、お前の最大最高の技をその流れに叩き込んでくれ。逆流したエネルギーと勇者の最大威力の攻撃が、マリアとミリアーナの魔力を纏い魔王へと突き刺さるはず。
魔王も何かしらの抵抗をしてくるとは思うが、それは俺が何としても防ぐ。
皆、思いっきりやってくれ!」
「っ!くるぞ!」
フリオニールの言葉と共に今にも破裂しそうな禍禍しいエネルギーの塊が魔王の手元を離れ、轟音を響かせ解き放たれた。
「来いっ!!」
俺は地面を思い切り踏みしめ足を固定する。盾の持ち手を両手で力一杯に握り締め正面に構える。盾の力、己の持てる全ての技を開放し衝撃に備える。
この盾もフリオニールの聖剣と同じく、神の加護を受けた最高の盾だ。
きっと防げるはずだ。いや、防ぐ!
「おおあああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
想像した以上のとてつもない衝撃に襲われる。今にも盾ごと吹き飛んでしまいそうなところを、身を屈め足を大地にめり込ませ、血が出るほどに歯を食い縛り堪える!堪えるっ!
「うおおおぉぉぉぉっっ!!」
気合いを入れ直し持ち手に更に力を込める。瞬間、盾とエネルギーの力が均衡しフッと宙に浮いた様な感覚を覚える。
「っ!フリオニールっ!!今だっっ!!」
言い始めた頃には既に、俺の盾の横からフリオニールが聖剣の切っ先をエネルギーの塊に突き立てる。
「マリア!ミリアーナっ!ここだ!」
「はいっ!」
「・・・任せて」
さきほど作戦を伝えてすぐに集中し、可能な限り高めたマリアの眩いばかりの聖なる魔力が、フリオニールが穿った隙間に向けて放出される。
「んっ」
ミリアーナの繊細な魔力操作によって、放出された魔力はより集約し、より細く隙間へと突き刺さる。ゆっくりとエネルギーの流れが逆流を始める。
「フリオニールっ!!やれぇぇえぇっ!!!」
「はあああぁぁぁぁぁぁっっっれ!!!」
逆流したエネルギーの流れに沿うようにフリオニールの、勇者の最大威力の技が放たれる。
放たれた技の波動は徐々に回りのエネルギーを巻き込み、より大きな流れとなって魔王に襲いかかる。
「ぐっ──!フッ、フハハハハハハハハっ!!
素晴らしいっ!美しいまでの連携、その妙技…。敵ながら最大級の賛辞を贈ろう!」
「っ!効いてないのかっ!?」
自分に向かってくる暴威を気にもとめない様子で魔王が声を上げる。
「はああぁぁぁぁっっ!!」
フリオニールが剣により一層の力を込める。より勢いを増した波動に魔王が一歩後ろへ下がる。
──好機っ!
それをチャンスと見た俺は、盾技唯一の攻撃技『リフレクトウェーブ』を放つ。この技は受けた衝撃を蓄え一気に放出する、俺の最大の攻撃手段だ。ここまでに受けた魔王の攻撃を全て返してやる!
盾から波動が放たれたその瞬間──
それは起こった・・・。
なんと、魔王が防御を捨て横に大きく広げた両手から俺たちを挟み潰すように反撃をしてきたのだ。
「なっ──!?」
俺が攻撃技を放った正にその瞬間。技の反動ですぐに防御に切り替えることが出来ない!このままではっ。
俺の視界を何かが遮る──
よく知ってはいるが、普段は俺が矢面に立つため余り見慣れてはいない、頼りになる相棒の背中──
背中──!?
「フ、フリオニールっ!?何を!!」
「こちらは任せてくれ。そちらはフェンス、任せるっ!」
魔王への攻撃は十分足りたと判断したフリオニールがこの状況を読んでいたかの様に、魔王の繰り出した反撃の右手側に向けて剣を構え斬りかかる。
「くっ、くっっそおおぉぉぉぉぉああぁぁぁぁっっ!!!」
俺の失態だ。
誰よりもまず仲間の安全を考えなければならない盾騎士としての役割を忘れ、勝ちを焦り攻撃を行ってしまった、俺の責任だ。
だからこそ!左手側は何としても止める!止めてみせる!
「があああぁぁぁぁっっ!!」
繰り出した攻撃技の反動を無理矢理、腕の、腰の、足の全ての筋肉を稼働させて思い切り右側に捻る。
身体中の筋肉がブチブチと千切れる音が聞こえる。
不十分ではあるが、なんとか右側に盾を向けることが出来た。
途端、衝撃が盾を襲う。
先程のエネルギー塊に比べれば威力は低いが、腐っても魔王の攻撃、更に無理矢理体を捻った代償により筋肉が悲鳴をあげ足をぐらつかせる。
「ぐ、ぐぐっ!」
こんな状態の俺ではあるが、盾で防いでいる上でこの衝撃。
フリオニールは・・・無事であろうか…。
あいつならきっと大丈夫だという気持ちと少なからず感じる不安が、ボロボロの身体を更に攻めつける。
ガクッ!?
踏ん張っていた左足が耐えきれずに膝を付いてしまう。
──ふっと、急に身体が少し楽になった。
マリアが後ろから俺を抱きしめる様に支えてくれる。
回復魔法のおまけ付きだ。
いけるっ!
足の、腰の、腕の筋肉をもう一度奮い起たせ、盾の持ち手を強く握る。
「フリオニールっ!?」
後方からこれまで聞いたことのない大きな声でフリオニールの名を叫ぶミリアーナの声が聞こえる。何かが起きた?!
首だけ振り向こうとしたとき、魔王に変化が起こる。
流石の魔王も自らの魔法と、勇者の最高技、聖女と大魔導の魔力、微力ながら俺の攻撃を乗せた凶暴な威力の攻撃に、防御を捨て反撃に転じた体勢ではその暴威に耐えきれず、断末魔を上げる。
「ぐ、ぐがっ!ぐおぉわああぁぁぁぁっ!!!
フ、フハハハハハハハハ・・・。誠に見事だ、勇者とその一行よ。お前達の勝利だ。我はこれで滅ぶ──」
魔王の身体が光に飲まれ、ボロボロと音もなく崩れ消えていく。
「フ、フハハハッ。何と か 一矢報え た か。魔王 として の矜持 は保て たか の 」
一矢?
魔王は一体何をしたんだ?──フリオニール?!
その言葉を最後に魔王は崩れ去り、辺りは目を開けられないほどの眩い光に包まれた──
俺達は勝った──
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