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手と手をあわせて

コボルト族の危機

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「ふぉっふぉっふぉっ。神様の名とは、大層立派な名をいただいたのぉ」

 どこに行っていたのか、コボルト達の間からゴブリンメイジのメイ爺が笑いながら歩いてきた。

「な、なに?メイ爺も何か文句でもあるの?」

 ヒーラー様につけてもらった僕の名前──『シダ』

 いい響きの名前だなって思ったら、なんとゴブリンの"神さま"の名前だって言うじゃないか。

「ふぉっふぉっふぉっ。文句なんてありゃせんよ。お前さんにピッタリの良い名じゃと思うてな」
「ふふ。メイ爺もそう思います?」
「う~~~」

 正直なとこ、『シダ』という名前は僕自身もなんだかしっくりくるというか、すごく収まりがいい感じはするのだが、神さまの名前をただのゴブリンに付けてしまっていいものなのだろうか・・・。
 いつか罰でも当たるんじゃないかと不安になる。

 かといって、付け直せ──なんて言えないし、ヒーラー様もとても喜んでくれているしなぁ・・・。
 仕方ない・・・。神さまの罰は甘んじて受けることにしよう。

「ところで、今までメイ爺はどこに行ってたのさ?ヒーラー様の手伝いも見張りもしないで。ちょっとは働いてよ」
「ふぉっふぉっふぉっ。儂にはお前さんらもさぼっているように見えるがの?」

 ぐ・・・。言い返せない。だというのに、この永く生きてきたような達観した雰囲気はどこからくるのだろうか。僕のほうが先輩だよな?

「そ、それで?コボルト達と何か話でもしていたの?そっちの方から歩いてきてたけど」
「そうじゃな。儂らと戦う前に『蛙』達と出くわしたというのが気になっての。話ができそうなのを何人かつかまえて話を聞いとったんじゃ」

 確か、見張りをしていた子達がそれを見たんだったかな?僕達と戦う前に鉢合すなんて不運だなぁと思ったけど、それって偶然だったのかな?

らの話では、前から蛙らと小競合いが起こっていたらしくてのぉ。近々他の獣族と合同で、蛙やトカゲら相手に戦を起こす予定だったんじゃと」
「へぇー、そうなんだ。コボルトって僕達以外とも仲悪いんだね」
「この大森林に住まう魔物らはどれも似たようなものじゃぞ。どの種族も一番の願いは自らの種族の繁栄じゃ。その為に資源を奪い合い、"命"を奪い合っているんじゃからのぉ」

 仲間を増やすために必要な2つの資源──

 "身体の資源"は大森林のあちこちにある鉱脈から採取することができる。では、"命の資源"は採れるのか──

 それは、コボルト達と戦ったことによって分かった。

 "命の資源"とはそのまんま、その字のごとく魔物達の"命"。違う種族の魔物達がお互いに命を奪い合うことによって、その資源を集めるのだ。
 僕達が身体の資源を2つしか持っていなかったのに、命の資源だけたくさん持っていたのは、人間達に仲間をたくさん殺されたから・・・。人間に殺されたときは命の資源のは減らないみたい。その代わり人間は魔力が蓄えられた身体の資源を持ち去っていくのだという。

「それでちと気になってのぉ。わんこらが蛙らに出くわしたのは偶然か・・・。はたまた必然だったのか。儂にはどうにも後者の気がしてな?儂らと争っていたのを監視されとったんじゃないかと思うのじゃ」

 メイ爺ってホントなんなんだろ。頭がいいというか、理解と考察がとんでもなく鋭い。洞窟に落ちていた人間の持ち物だったろう立派な杖を触媒に使ったことが関係するんだろうか?元の持ち主がすごく頭のいい人間だったりしたのかな。

「それで?それが僕達に何か関係があるの?」

 そんなメイ爺が何の意味もなくそんな話をわざわざ聞いてくるとは思えない。僕達ゴブリンも蛙──フロッグマンやトカゲ──リザードマン達と決して仲がいいわけではない。前にも何度か戦ったりしたこともあるみたいだしね。

「ありもありも大ありじゃ。話によると、わんこらは大体300人くらいの一団だったらしいんじゃがな?今回儂らを攻めて来たのは何人くらいじゃった?」
「ええっと・・・、100人くらいって言ってたかな?」
「そうじゃな。ということは拠点に残っている人数は200人くらいじゃろ?中には女子供も混じっているらしいからのぉ。多く見積もっても戦えるのは100から150人くらいじゃな」

 あの逃げ出そうとしたコボルトが精鋭がどうとか言っていたことを考えると、同じくらいの人数でもその強さは全然違うとは思うけど、人数はそう多いわけではないみたい。

「ところがじゃ・・・。わんこらの隙を窺っていた蛙や、結託しているトカゲどもは無傷で同じかそれ以上の人数がおるじゃろう。その上奴らにはらも混じっておるなんて話も聞こえてきたんでのぉ」

 フロッグマン。リザードマン。そして蛇ことナーガの3種族の合同軍。それぞれ100人くらいの兵隊を出したとしたら、その数は300人。コボルト達の2倍から3倍・・・。
 もし、今の隙を突かれでもしたら全滅──もありえる。

「・・・もし、そんなことになったら、きっと次は儂らの番じゃろうのぉ?」
「──っ!?そ、そんなのマズイじゃないかっ」

 僕達は今のところ20人ちょっと・・・。採取した資源を全部使っても100人くらいがやっとだろう。
 そんなの勝ってこないじゃないか!?

「──ンッ!?シダ・・・、向コウカラ何カクルゾ──」

 ハントさんが素早く弓を構える。矢の先はコボルト達がやってきた方角。そこから何かを大声で騒ぎながら1人の茶色いコボルトが走ってくる。

「ドウスル?撃ツカ?」
「・・・いや。ハントさん、ちょっと待って」

 遠すぎて何を言ってるのか分からなかったけど、近づくにつれはっきりと言葉が聞こえてきた。

「た、た、た、大変だぁ~っ!ド、ド、ド、ドーベル隊長はいらっしゃいますかぁ~っ!」

 相当慌てているのか。僕達ゴブリンが一緒にいることは目に入らないらしい。仲間のコボルト達も縄で縛られているというのに。

「・・・あ、あれは・・・、アキタ?どうして彼が・・・」
「ん?知り合いなの?」

 近くでヒーラー様の癒しを受けていた、3色毛のコボルトが走ってくるコボルトに気づきそう言った。

「えっ・・・、は、はいっ!彼─アキタとは幼馴染でして。普段は集落の入口の番をしているんです」

 その彼─アキタは幼馴染だという3色コボルトを見つけると、こちらに走り寄ってきた。

「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ・・・。よ、よぉビーグル。お前無事だったか・・・」
「う、うん・・・。ちょっとケガはしたけど大丈夫だよ。そ、それよりこんなとこにどうしたのさ?番の仕事はいいのかい?」

 すぐ隣にいる僕達には相変わらず気づかない。

「おっと!そ、そうだ・・・。こうしちゃいられねぇっ!おいっビーグル。ド、ドーベル隊長はどこにいるっ?」
「ド、ドーベル隊長?!・・・そ、それは・・・」
「なんだよっ!もったいぶるなよ。緊急事態なんだ!早く教えろっ!」

 アキタと呼ばれたコボルトは、3色─ビーグルの襟を掴むとぶんぶんと揺さぶる。

「・・・ドーベル隊長って人なら、死んだよ」
「ん?お前知ってるのか──って、うわっ?!な、なんで"ミドリ"がいるんだよっ?!」

 ん??それって僕達のことかな?肌が緑色だから?なんて安直な・・・。

「なんでって言われても・・・ねぇ?」

 なんだか応えに困ってしまい、ビーグルに目で訴えかける。ビーグルは少し驚いたみたいだったけど、口を強く結び頷いた。

「アキタ・・・。僕達─コボルトは負けたんだ。ここにいるゴブリンの皆さんにね。そして、彼の言う通りドーベル隊長は死んでしまったんだ・・・」

 アキタは突然のことに整理がつかないのか、慌てふためき、挙動がおかしい。

「・・・え?え?・・・どういうこと?負けた?・・・ドーベル隊長が死んだ?・・・え?」
「そうだよ。アキタ。僕達は負けたんだ」
「・・・・・・」

 今度は口をポカンと開けたまま固まってしまう。コボルト族って見てると面白いな。

「えええええっっっっ!!!」

 今度は大声で絶叫する。賑やかな人だなぁ。

「そ、そんな・・・。そんなバカな・・・。負けた?ミドリに?100人もいたんだぞ?ミドリ達は人間にやられたって話だったじゃないか・・・」

 なんだかちょっとミドリミドリ言われるのがムカついてきたな。バカにしてるってことだよね?

「オ前。ウルサイナ。黙ラセテヤロウカ?」

 いてのまにかハントさんが彼の首もとに直接引き絞った矢先を押し当てていた。目が本気だ。

「ひっひいいいぃぃぃっっ!!?」
「ハントさん。やめてあげて。ところで君はどうしてここに来たんだい?」
「えっ?!あ、そ、そうだった!ビーグルっ、た、大変なんだっ!蛙達を見張っていた偵察隊のヨークシャが傷だらけで戻ってな。奴が言うには蛙とトカゲ、それと蛇の連合軍が俺達の集落目掛けて近づいているって言うんだよ!」
「ええっ?!」
「そ、それで俺は頭に言われて皆を連れ戻しに来たんだ。は、早く戻らなきゃやられちまうっ・・・」

 メイ爺の言う通りになった。

 今はまだ僕達に直接の被害はないけど、そんなのいつまで大丈夫かなんて分かったもんじゃない・・・。
 この危機を乗り越えるにはどうしたら──

 ピコンッ!

 頭のなかでまた急に明かりが灯る。ついさっきまで知らなかったことをきっかけの明かりが──

「ねぇ?」

 僕は目の前のコボルト達に話しかける。

「僕達ゴブリンと"同盟"を組まない?」
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