魔族のギーディは裏切らない

アキ

文字の大きさ
上 下
7 / 7
本編 魔族のギーディは裏切らない

最終話

しおりを挟む

「ベッドォ?」
 若い国王はギーディの言葉に顔をしかめた。困惑したのは一瞬で、その顔はすぐに呆れに変わった。何言ってんだこいつ。ギーディの横にいるハイネも同じ顔をしていた。少しと言わず、いやこれは結構おもしろい。
 ギーディはそれから国王に様々な注文をつけたのだが、あまりの多さに「文書にまとめておけ」と途中で遮られた。久しぶりに見る、若い王に侍る超級魔道士と超級剣士も、こころなしかうんざりしたような目をギーディへ向けていた。
 じゃあそういうことで、とギーディは場をあとにしたのだが、廊下を歩いているとふいに声をかけられた。顔を向けると、なんと先程まで居合わせた超級剣士殿だった。
「ええと…?」
「勇者と会わせてくれないか」
「あー……」
 要件をさっさと伝える守護者に、なんで知ってるんだよと顔をしかめる。ギーディの反応に、顔のいい超級剣士は初めて挑戦的な笑みを見せた。



 我が家のドアを開け、ただいまぁと言うと新聞を読んでいたナナルが顔を上げた。
「遅かったな」
「少し引き止められてた」
 そう。
 驚くべきことに討伐終了後、なぜかナナルがついてきた。故郷に帰らないのかと聞いたが、特に愛着がないので気にするなと返された。ちなみに、それなら他の連中のほうがいいのではと聞いたときは険しい顔で睨まれてしまった。なぜだ。
 ナナルは相槌を打ったあと椅子から立ち上がり、木刀を手に庭へ出る。ギーディにも、さっさと来いと言わんばかりに視線をやり、顎を上げてみせた。それには肩を竦め、ギーディも木刀を手に、いそいそとあとへ続いた。

 二人は、ギーディに家に到着した翌日から、毎日飽きもせず木刀で打ち合いをした。

 毎回ナナルはほとんど本気でかかってくるので、魔法こそ使わないものの、ギーディも全力でそれに応えた。
 勝負の結果は今の所五分五分だ。
 負けるたびにナナルは悔しげに顔を歪ませ、勝てばふんと鼻を鳴らしてギーディを見ていじわるに笑う。ギーディも大概同じようなものなので、そのため負けず嫌いの二人は延々と勝負を繰り返した。
 楽しかった。
 闘技場でやりあったときよりも、一層。

「足がもつれてるぞ、ギーディ! ハハッ、疲れてんのか?!」
「これでも、ナナルよりおっさんでな!」
「じゃあ潔く負けて引退しろ!」
「絶対いやだね!」
 打ち合いながら、ギーディはずっと楽しくてたまらなかった。
 旅の最中、うまく話せなかったことを取り戻すように、二人はああだこうだと語らった。気安い挑発も、冗談で言う罵倒も、素直な賛辞も言い合った。
 ナナルは「ちゃんと喋れるなら、最初からそうしろ!」と怒ったが、「おまえが聞かなかったんだろ!」とギーディがつい言い返すと、「ああそうだな俺が悪かったよ!」と背中を殴られた。あまりに理不尽でバイオレンスであった。
 夜になりあたりが暗くなってようやく手を止めるか、どちらかが音を上げるまで試合は続く。
 本日は王城に呼び出されてやや疲れていたギーディが「終わり!」と叫んで終了した。

 そのあとは二人で試合を振り返りながら食事を作り、食べながらも話し合い、それぞれが風呂に入る時間になってようやくギーディの家は静かになる。

 勝手に居付いたナナルだが、なぜかギーディのベッドで一緒に眠っている。最初はあとでベッドを入れるからと言ってソファで寝させていたのだが、いつからかベッドに入ってくるようになったのだ。
 それはもう困惑したギーディだったが、じっと睨まれたし、なんだかんだ悪い気がしなかったので結局許した。
 御年二十八歳のギーディにはそんな自分が大変情けない大人である自覚があった。だから、ナナルに欲情できる下衆であることは一応伝えた。「治療」のときのこともバカ正直に伝えて、うっかり欲情しても知らないからなとも釘を刺した。
 だが、ナナルはそれに「いいぞ」とあっさり一言で返事をし、さらには時々自らギーディに手を出した。
 なぜこうなった?
 ギーディは手を出したり出されたりするたびにちらっと考えるが、ナナルがとびきりいい男なのでたいてい「まあいいか」で片付けた。
 それをきっと、ナナルも望んでいた。

 その後、王に注文した素晴らしい出来のベッドが届いてからも、ギーディとナナルは一緒に眠り、ああだこうだと言いながら暮らし続けた。あまりにいいベッドなので、ナナルはとても感動し、ギーディは望みどおりの安眠を得た。
 あたたかいベッドで、あたたかいナナルを抱き枕にして眠る夜は、本当に素晴らしい。

「んっ…」
「痛むか?」
 互いの性器を扱きあうは、自然とナナルの穴に突っ込む本格的な性行まで発展した。
 ギーディが初めて彼のそこへ指を忍ばせたとき、ナナルは頬を真っ赤にして驚いていたが、ギーディが引こうとすると「続けていい」とボソボソ言った。
 ナナルと寝るようになり、ギーディは気にしたこともなかった爪の手入れを始めた。ナナルが傷付けないように気をつけながら、その指先で狭い中を探る。指を一本入れるだけできつい場所は、あたたかい粘膜でギーディの指を締め付けて彼を誘った。
 いつの間にかナナルが用意したらしい潤滑油を手に垂らし、柔らかくほぐしていく。
 潤んだ青い目がきれいで、震えるまつげが妙に可愛くて、しっとりした唇を何度もついばんだ。
「ぁ、…はぁ、ん、ん」
「……ナナル」
 ほぐすための指を増やして、囲い込んだ体を安心させるように撫でた。ナナルの吐息が甘くなり、ギーディの首に腕を回して縋り付く。少しも女性的ではない、鍛えたナナルの体は、性的にさわるとなまめかしく筋肉が動いた。
 ギーディはナナルを押し倒すとき、いつも背筋がぞくぞくする。ナナルが、ギーディにそれを許していることに、ひどく興奮した。
「ぃ、いれ、もっ、入れろ…ってば、ぁ、ぁあ…!」
 中のしこりをぐっと押すと、しなやかに背を仰け反らせてナナルが喘いだ。
 つんと尖った乳首をやわく噛むと、かわいそうな声を上げてすすり泣く。
 指を引き抜いて、ひくつく穴のふちを撫でた。勃ちあがったナナルの性器が、たらたらと汁を落として、ギーディを急かす。ナナルの足を抱え、己の性器を少し扱いてから、やわらかくした穴に押し当てた。
 ナナルの目が、期待を浮かべてそこを見る。
 それがかわいく思えて、ギーディはつい口を歪めて笑った。
「っふ、はは、すけべ」
「……はァ?!」
「あー、ほんとう、……かわいいな、ナナル」
「う、うるせ…っぁア!」
 羞恥で顔を真赤にしたナナルが、ギーディを睨んだ。それを突き崩すように、乱暴に性器を突っ込んだ。とたん快感にとろける青がきれいで、ギーディの胸に充足感が広がる。
 きゅうきゅうと狭い中を進もうと、ナナルの腰を掴んだまま揺すった。ずるずると少しずつ侵入して、やがて全部をおさめきり、ギーディは腰が溶けそうなほどの気持ちよさにため息をついた。
「ぁ、あ、…んん、はいっ、た?」
「うん、はいった」
 受け入れてくれたナナルの腹に手を置いてゆるゆると撫でると、それにも感じたのかナナルはかすかに喘いだ。
 ギーディは上体を起こし、力が抜けきってシーツの上にしどけなく体を預けるナナルを改めて見下ろした。
 濡れた口元に触れた指先も、それを湿らせる唾液も、潤む目も赤くなった頬も、快感に震える体のいたるところも、今はギーディだけのものだった。──そうだ、ナナルは俺のものだ。そう思えば思うほど、ギーディはひどく興奮して性器を膨らませ、かたくした。体内の変化に、ナナルがぴくりと反応する。
 ギーディは動かないまま、ナナルの変化をじっくりと堪能した。
「あっ、んんぅ、はぁ、ぁ、~~っ、ギーディ……っ!」
「うん?」
「はあ、ああ、ア、ゃだ、や、もーうごけよぉ……!」
「…ふは、ははは、いいよ」
 焦らしに耐えられず泣き出したナナルがかわいくて、かわいそうで、ぐっと力強く奥を叩いた。
「ぁァあ──!」
 特注のベッドのスプリングが、ギーディとナナルの動きで沈み、きしむ。
 ギーディはナナルの様子に優越で笑んだまま、奥歯を食いしばってナナルを攻め立てた。燃え盛るような独占欲が、胸の中で「もっとしろ」と叫んでいる。
 驚くほどに強くて、かわいくて、──魔族のギーディを最後は信じた年下の剣士を、快感に落とす。
 かくんかくんとねだる腰にこたえるように、ナナルのいいところを突いて、汗ばむ胸元を舐める。塩辛さに舌がピリピリとした。立った乳首に歯を立てると、若い体がガクンと跳ねた。
「あぁっ、も、だめ、いく、いく、い、ぅあア──ッ!!」
 ぐっと痛まない程度に歯を食い込ませながらわずかに引っ張ると、ギーディにきつくしがみついたナナルは射精しないまま喉を晒して達した。
 キュウとうねり締まる中の動きに、ギーディは尿道を精液が上がっていくのを感じて低く呻く。耐えたのはほんの一瞬だけであった。無防備な首に舌を這わせ、必死な声ですがるナナルに「出すぞ」と囁く。低い声に喘ぐナナルを組み伏せて、一番奥でギーディも達した。
「んあっ、ぁ、でて、ぅ、う、あ、あぁ……ん…」
「はっ…、はっ…」
「やだ、ゃ、ぃやら、ぁ、う、んあ、あ」
 吐き出した精液を彼の奥に塗り込めるように腰を押し付け、強い快感で逃げる体を抱きしめた。
 もがくナナルの両手を取り指を絡め、彼の唇を貪る。いまだ性器を突っ込んだままの内壁が、痙攣するように締まりギーディの性器をなぶった。腰を押し付けるたび、その震えは増して、口づけたままナナルが喘いだ。
 もう少し、と思ってナナルの舌をきつく吸うと、彼はびくんと腰を跳ねさせ、もう一度深く絶頂した。ナナルは舌を吸われて達するのが好きで、それがギーディにはかわいく思えてならない。
 押し開かれたナナルの両膝がギーディの腰へ甘えるように擦りつけられ、やがてゆるゆると脱力しシーツに落ちる。
 ナナルの最後の喘ぎも呑み込むように、ギーディはナナルの口内を貪った。
 ようやく満足して体を離すと、余韻でぼんやりとしているナナルが、ギーディを見上げた。
 汗で湿った彼の前髪を払ってやる。
 気持ちよくしてくれた穴から性器を引き抜こうとし、ふちのあたりで引っかかったため少しだけ勢いをつけて腰を引く。あっとかすかに喘ぐ声にまた勃ちそうで困る。
 やや緩んだ穴からギーディの精液が少し流れた。こぼれ出ないように、奥に出したつもりなのに。ギーディは少し悔しく思った。次はもっと、できるだけ奥に出そう。
 ギーディは、ナナルへ抱く独占欲や執着心に当たる、きれいな言葉を、もう知っていた。だが、ナナル本人へ伝えたことはない。握った指を離せないまま、胸の中で幾度も幾度もそれを囁く。
 いつか言いたい。
 いつ言おう。
「……ぃ」
 ナナルがかすれた声でつぶやく。
 なに、とギーディが聞き返すと、ナナルは小さく微笑んだ。眠気に勝てない子どもががんばるように。
「ギーディ、すき……」
「へ」
 寝言のような言葉を残し、疲れ切ったナナルはそのまますこんと眠りに落ちた。
 ギーディはしばし呆然とし、やがて、うぅ…と呻いて両手で顔を覆った。耳の熱さをそのままに、寝てしまったナナルを起こさないように汚れた体やベッドを速やかに清め、うーと情けなく呻きながらナナルを抱きしめてのろのろと寝転がる。
 朝起きたら返事、朝起きたら……、いつかの早朝のように脳内で繰り返しながら、ギーディは目を閉じた。
 こんなとき、旅の最中に無言でいたことを後悔する。咄嗟の返事ができなくて、胸の甘い痛みに呻くばかり。ちゃんと話せるならそうしろと、ナナルに怒られたことが思い出された。


 朝一番に見る、寝ぼけたナナルの青い目が、前からとても好きだった。
 ぽかぽかの朝の日差しの下で「……俺と結婚する?」と寝起きのまま聞くと「…おう」と寝起きの笑顔を向けられた。いろいろと順序も言葉も足りないし、情けなさが猛烈にあったけれど、ギーディは満たされた気持ちでだらしなくえへへと微笑み、ナナルを抱きしめて二度寝を満喫するのであった。
 その後、起きたナナルに「朝のことを説明しろ」と厳しい声で言われ、ベッドの上で膝を突き合わせての話し合いがあるのだが、幸福な眠りにいるギーディはまだ知らない。

 今度ナナルを、両親と行ったことのある草原に連れて行こう。一緒に寝転んで、ぐうぐうと昼寝をしよう。
 生きて帰れた二人にとって、それはたまらなく贅沢なことだろう。


 **


「かの剣士は強いんだろう?」
「もちろん」
「それなら俺もぜひ、手合わせ願いたい」
 ニヤッと笑う超級剣士に、ギーディは視線を返し、肩を竦めてみせた。
「駄目だ」
 はっきり拒絶すると、剣士はなぜと魔族に問う。だからギーディは国の守護者を見返して、口を歪ませ笑った。
「当分は俺が独り占めしたいんでね、お断りだ」
 剣士は絶句し、それからうんざりした目を向け、そうかいとだけ言って去っていった。ギーディは笑い、足取り軽くナナルのいる我が家へ帰るのだ。
 その夜、シチューにコショウをかけすぎてナナルに怒られた。



おしまい
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

KINGS〜第一王子同士で婚姻しました

Q.➽
BL
国を救う為の同盟婚、絶対条件は、其方の第一王子を此方の第一王子の妃として差し出す事。 それは当初、白い結婚かと思われた…。 共に王位継承者として教育を受けてきた王子同士の婚姻に、果たしてライバル意識以外の何かは生まれるのか。 ザルツ王国第一王子 ルシエル・アレグリフト 長い金髪を後ろで編んでいる。 碧眼 188cm体格はしっかりめの筋肉質 ※えらそう。 レトナス国第一王子 エンドリア・コーネリアス 黒髪ウェーブの短髪 ヘーゼルアイ 185 cm 細身筋肉質 ※ えらそう。 互いの剣となり、盾となった2人の話。 ※異世界ファンタジーで成人年齢は現世とは違いますゆえ、飲酒表現が、とのご指摘はご無用にてお願いいたします。 ※高身長見た目タチタチCP ※※シリアスではございません。 ※※※ざっくり設定なので細かい事はお気になさらず。 手慰みのゆるゆる更新予定なので間開くかもです。

獅子王と後宮の白虎

三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品 間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。 オメガバースです。 受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。 ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

処理中です...