アンちゃんにおまかせ! 〜お悩みは博士とポンコツロボットとともに〜

笹木柑那

文字の大きさ
上 下
4 / 16
第一章 町の外れのおんぼろラボ

しおりを挟む
 オレの名前は海原うみはら大河たいが。みんなはオレをタイガって呼ぶ。
 さっきも言った通り、走るのも得意だし、運動も得意で、勉強もできる。
 自分で言うのもなんだけど、クラスでも人気があって、誰とでも仲良くなれる。完璧だ。
 そんなオレが必死にこんなところまでやってきたのには、ある理由がある。

「なんだよ、その理由って」

 おじさんが、オレの自己紹介を聞きながらぼさぼさの頭をかいた。アンちゃんに図星をさされてまだむっすりとしている。
 やぼったい黒ぶちメガネにぼさぼさの髪とまだらな髭、それなのに腕を組んで座る姿だけはすごくえらそうだ。
 医者でもなさそうなのに、なぜか薄汚れた白衣を着ている。
 その隣でアンちゃんは、湯呑を熱そうに持ちながら自分で注いだお茶をずずずっと啜っている。もちろん、オレの分はない。

「えっと、その前にさ。オレも聞きたいんだけど、おじさん、だれ? この子のお父さんなの?」
「アホたれ。こんなでかい子どもが産めるか。オレはまだ二十四だ」
「え。えええええ??」

 めちゃくちゃ驚いた。どこからどう見ても、四十歳とか、五十歳とかのおじさんにしか見えないのに。
 あ、でも確かに声だけを聞いたときは若そうだなって思ったんだっけ。

「アンちゃんはまだ一歳です」

 ふんす、と腰に手を当て何故か誇らしげに自己紹介したアンちゃんに、オレは再び驚きの声を上げた。

「え。えええええ?? って、いやさすがにウソでしょ」
「ウソじゃないです! アンちゃんは博士に作られてからまだ一年しか経っていません。だから一歳です」

 そうか。見た目は小学生だけど、成長するわけじゃないし赤ちゃんで生まれるわけでもないんだから、当然か。
 さっき見せられた発明品の数々は、まあ確かに残念なものばかりだったけど、どんな天才にも失敗はあるし、それを積み重ねて大発明に辿り着くものなんだろう。
 この『アンちゃん』は本当にアンドロイドなんだ。
 思い付きでここまで走って追いかけた自分を褒めたかった。
 これで長年の悩みが、解決できる!

「アンちゃんを作ったのは、おじさん?」

 最後に確認するように問いかければ、おじさんは黒ぶち眼鏡の奥からオレに胡乱げな目を向けた。

「おじさんじゃないです、博士です。博士はいつもどうでもいい発明ばかりしてますが、アンちゃんを作れるくらいすごいんですよ!」
「アン、一言多いぞ。で、だとしたら何なんだ、少年よ」
「それなら、博士! オレにも一つアンドロイドを作ってくれよ。オレそっくりのアンドロイドを!」
「おまえそっくりのアンドロイドだぁ? なんでまたそんなもんが欲しいんだよ」
「話せば長くなるんだけど」
「じゃあいい。話さんでいいから帰れ」

 追い出すように手を振った博士に、オレは慌てた。こんな機会をみすみす逃すわけにはいかない。

「いやちょっと待って! 話だけでも聞いてよ、オレの人生がかかってるんだから!」
「それは大変ですね! 博士、話くらい聞いてあげましょうよ」

 アンちゃんがお茶をずずっと啜って取りなしてくれて、博士も仕方ないというように黙って聞く姿勢になった。

「ありがとう、アンちゃん。実はオレ、四月に近くの晴山小学校に転校してきたばっかりでさ――」

 そうしてオレは話し始めた。
 お父さんが転勤ばかりで、ついていかなきゃならないオレもずっと転校を繰り返してきたこと。
 小学生の転校って、なかなかにシビアだ。
 転校生を珍しがって、わいわい囲んで受け入れてくれたクラスもあった。
 だけど、途中から入ってきた知らない奴、って感じでよそ者扱いされることも多かった。
 だからオレはどうしたらみんなに受け入れられるか、これまであれこれと試してきた。
 その結果、完璧になればいいんだってわかった。
 勉強ができれば、「ここ教えて!」って宿題を持って集まってくる。
 運動ができれば、「なあ、追いかけっこの仲間に入れよ!」って誘ってくれる。ドッチボールだって、サッカーだって誘ってもらえる。

 何より、『できる奴』だってわかると、誰も攻撃してこなくなる。勝てないからだ。
 だからオレは欠点なんて見せないように毎日毎日努力して、転校生活をやり過ごしてきた。
 だけど。
 どうしてもできないことが、一つだけあった。

「水がダメなんだ」

 ぽつりと言ったオレに、アンちゃんが首をかしげた。

「飲めないんですか? めずらしいアレルギーですね」
「ちがう! 水に、顔をつけられないんだ」
「顔は毎朝洗った方がいいです」
「洗ってるよ! そうじゃなくて」

 そこはなんとなくわかってほしいのに、あいまいな言葉じゃ気づいてくれない。機械だから、そういう人間の機微ってやつがわからないのかもしれない。
 オレは仕方なく、言いたくなくて避けていた言葉をついに口にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こどものくに こどもだけのくに

笹木柑那
児童書・童話
小学六年生のスバルは、ひょんなことから『うさぎ』にテーマパークの招待券をもらう。 そこは職業体験などができる『こどものくに』のはずだったけれど、よく読めば『こどもだけのくに招待券』と書いてある。 仲のいい友達と六人で遊びに行くと、何やら違う入り口に導かれる。 そこに並んでいた機械に寝かされて…… 目を開けたら、そこは 「なあ、ここ、俺たちの町じゃん」 でもいつもと違うところがある。 だって、ここには大人がいない。 いや。大人だけじゃない。 オレたちの他には、誰もいないんじゃないか?

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

占い探偵 ユーコちゃん!

サツキユキオ
児童書・童話
ヒナゲシ学園中等部にはとある噂がある。生徒会室横の第2資料室に探偵がいるというのだ。その噂を頼りにやって来た中等部2年B組のリョウ、彼女が部屋で見たものとは──。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

処理中です...