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第一章 町の外れのおんぼろラボ
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オレの名前は海原大河。みんなはオレをタイガって呼ぶ。
さっきも言った通り、走るのも得意だし、運動も得意で、勉強もできる。
自分で言うのもなんだけど、クラスでも人気があって、誰とでも仲良くなれる。完璧だ。
そんなオレが必死にこんなところまでやってきたのには、ある理由がある。
「なんだよ、その理由って」
おじさんが、オレの自己紹介を聞きながらぼさぼさの頭をかいた。アンちゃんに図星をさされてまだむっすりとしている。
やぼったい黒ぶちメガネにぼさぼさの髪とまだらな髭、それなのに腕を組んで座る姿だけはすごくえらそうだ。
医者でもなさそうなのに、なぜか薄汚れた白衣を着ている。
その隣でアンちゃんは、湯呑を熱そうに持ちながら自分で注いだお茶をずずずっと啜っている。もちろん、オレの分はない。
「えっと、その前にさ。オレも聞きたいんだけど、おじさん、だれ? この子のお父さんなの?」
「アホたれ。こんなでかい子どもが産めるか。オレはまだ二十四だ」
「え。えええええ??」
めちゃくちゃ驚いた。どこからどう見ても、四十歳とか、五十歳とかのおじさんにしか見えないのに。
あ、でも確かに声だけを聞いたときは若そうだなって思ったんだっけ。
「アンちゃんはまだ一歳です」
ふんす、と腰に手を当て何故か誇らしげに自己紹介したアンちゃんに、オレは再び驚きの声を上げた。
「え。えええええ?? って、いやさすがにウソでしょ」
「ウソじゃないです! アンちゃんは博士に作られてからまだ一年しか経っていません。だから一歳です」
そうか。見た目は小学生だけど、成長するわけじゃないし赤ちゃんで生まれるわけでもないんだから、当然か。
さっき見せられた発明品の数々は、まあ確かに残念なものばかりだったけど、どんな天才にも失敗はあるし、それを積み重ねて大発明に辿り着くものなんだろう。
この『アンちゃん』は本当にアンドロイドなんだ。
思い付きでここまで走って追いかけた自分を褒めたかった。
これで長年の悩みが、解決できる!
「アンちゃんを作ったのは、おじさん?」
最後に確認するように問いかければ、おじさんは黒ぶち眼鏡の奥からオレに胡乱げな目を向けた。
「おじさんじゃないです、博士です。博士はいつもどうでもいい発明ばかりしてますが、アンちゃんを作れるくらいすごいんですよ!」
「アン、一言多いぞ。で、だとしたら何なんだ、少年よ」
「それなら、博士! オレにも一つアンドロイドを作ってくれよ。オレそっくりのアンドロイドを!」
「おまえそっくりのアンドロイドだぁ? なんでまたそんなもんが欲しいんだよ」
「話せば長くなるんだけど」
「じゃあいい。話さんでいいから帰れ」
追い出すように手を振った博士に、オレは慌てた。こんな機会をみすみす逃すわけにはいかない。
「いやちょっと待って! 話だけでも聞いてよ、オレの人生がかかってるんだから!」
「それは大変ですね! 博士、話くらい聞いてあげましょうよ」
アンちゃんがお茶をずずっと啜って取りなしてくれて、博士も仕方ないというように黙って聞く姿勢になった。
「ありがとう、アンちゃん。実はオレ、四月に近くの晴山小学校に転校してきたばっかりでさ――」
そうしてオレは話し始めた。
お父さんが転勤ばかりで、ついていかなきゃならないオレもずっと転校を繰り返してきたこと。
小学生の転校って、なかなかにシビアだ。
転校生を珍しがって、わいわい囲んで受け入れてくれたクラスもあった。
だけど、途中から入ってきた知らない奴、って感じでよそ者扱いされることも多かった。
だからオレはどうしたらみんなに受け入れられるか、これまであれこれと試してきた。
その結果、完璧になればいいんだってわかった。
勉強ができれば、「ここ教えて!」って宿題を持って集まってくる。
運動ができれば、「なあ、追いかけっこの仲間に入れよ!」って誘ってくれる。ドッチボールだって、サッカーだって誘ってもらえる。
何より、『できる奴』だってわかると、誰も攻撃してこなくなる。勝てないからだ。
だからオレは欠点なんて見せないように毎日毎日努力して、転校生活をやり過ごしてきた。
だけど。
どうしてもできないことが、一つだけあった。
「水がダメなんだ」
ぽつりと言ったオレに、アンちゃんが首をかしげた。
「飲めないんですか? めずらしいアレルギーですね」
「ちがう! 水に、顔をつけられないんだ」
「顔は毎朝洗った方がいいです」
「洗ってるよ! そうじゃなくて」
そこはなんとなくわかってほしいのに、あいまいな言葉じゃ気づいてくれない。機械だから、そういう人間の機微ってやつがわからないのかもしれない。
オレは仕方なく、言いたくなくて避けていた言葉をついに口にした。
さっきも言った通り、走るのも得意だし、運動も得意で、勉強もできる。
自分で言うのもなんだけど、クラスでも人気があって、誰とでも仲良くなれる。完璧だ。
そんなオレが必死にこんなところまでやってきたのには、ある理由がある。
「なんだよ、その理由って」
おじさんが、オレの自己紹介を聞きながらぼさぼさの頭をかいた。アンちゃんに図星をさされてまだむっすりとしている。
やぼったい黒ぶちメガネにぼさぼさの髪とまだらな髭、それなのに腕を組んで座る姿だけはすごくえらそうだ。
医者でもなさそうなのに、なぜか薄汚れた白衣を着ている。
その隣でアンちゃんは、湯呑を熱そうに持ちながら自分で注いだお茶をずずずっと啜っている。もちろん、オレの分はない。
「えっと、その前にさ。オレも聞きたいんだけど、おじさん、だれ? この子のお父さんなの?」
「アホたれ。こんなでかい子どもが産めるか。オレはまだ二十四だ」
「え。えええええ??」
めちゃくちゃ驚いた。どこからどう見ても、四十歳とか、五十歳とかのおじさんにしか見えないのに。
あ、でも確かに声だけを聞いたときは若そうだなって思ったんだっけ。
「アンちゃんはまだ一歳です」
ふんす、と腰に手を当て何故か誇らしげに自己紹介したアンちゃんに、オレは再び驚きの声を上げた。
「え。えええええ?? って、いやさすがにウソでしょ」
「ウソじゃないです! アンちゃんは博士に作られてからまだ一年しか経っていません。だから一歳です」
そうか。見た目は小学生だけど、成長するわけじゃないし赤ちゃんで生まれるわけでもないんだから、当然か。
さっき見せられた発明品の数々は、まあ確かに残念なものばかりだったけど、どんな天才にも失敗はあるし、それを積み重ねて大発明に辿り着くものなんだろう。
この『アンちゃん』は本当にアンドロイドなんだ。
思い付きでここまで走って追いかけた自分を褒めたかった。
これで長年の悩みが、解決できる!
「アンちゃんを作ったのは、おじさん?」
最後に確認するように問いかければ、おじさんは黒ぶち眼鏡の奥からオレに胡乱げな目を向けた。
「おじさんじゃないです、博士です。博士はいつもどうでもいい発明ばかりしてますが、アンちゃんを作れるくらいすごいんですよ!」
「アン、一言多いぞ。で、だとしたら何なんだ、少年よ」
「それなら、博士! オレにも一つアンドロイドを作ってくれよ。オレそっくりのアンドロイドを!」
「おまえそっくりのアンドロイドだぁ? なんでまたそんなもんが欲しいんだよ」
「話せば長くなるんだけど」
「じゃあいい。話さんでいいから帰れ」
追い出すように手を振った博士に、オレは慌てた。こんな機会をみすみす逃すわけにはいかない。
「いやちょっと待って! 話だけでも聞いてよ、オレの人生がかかってるんだから!」
「それは大変ですね! 博士、話くらい聞いてあげましょうよ」
アンちゃんがお茶をずずっと啜って取りなしてくれて、博士も仕方ないというように黙って聞く姿勢になった。
「ありがとう、アンちゃん。実はオレ、四月に近くの晴山小学校に転校してきたばっかりでさ――」
そうしてオレは話し始めた。
お父さんが転勤ばかりで、ついていかなきゃならないオレもずっと転校を繰り返してきたこと。
小学生の転校って、なかなかにシビアだ。
転校生を珍しがって、わいわい囲んで受け入れてくれたクラスもあった。
だけど、途中から入ってきた知らない奴、って感じでよそ者扱いされることも多かった。
だからオレはどうしたらみんなに受け入れられるか、これまであれこれと試してきた。
その結果、完璧になればいいんだってわかった。
勉強ができれば、「ここ教えて!」って宿題を持って集まってくる。
運動ができれば、「なあ、追いかけっこの仲間に入れよ!」って誘ってくれる。ドッチボールだって、サッカーだって誘ってもらえる。
何より、『できる奴』だってわかると、誰も攻撃してこなくなる。勝てないからだ。
だからオレは欠点なんて見せないように毎日毎日努力して、転校生活をやり過ごしてきた。
だけど。
どうしてもできないことが、一つだけあった。
「水がダメなんだ」
ぽつりと言ったオレに、アンちゃんが首をかしげた。
「飲めないんですか? めずらしいアレルギーですね」
「ちがう! 水に、顔をつけられないんだ」
「顔は毎朝洗った方がいいです」
「洗ってるよ! そうじゃなくて」
そこはなんとなくわかってほしいのに、あいまいな言葉じゃ気づいてくれない。機械だから、そういう人間の機微ってやつがわからないのかもしれない。
オレは仕方なく、言いたくなくて避けていた言葉をついに口にした。
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