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第三章 こどもだけだって
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オレたちがこの世界に来てから、二週間が経とうとしていた。
キャンプを始めてからはもう一週間。
最初の日は疲れてお風呂にも入らずに寝たけど、二日目からはドラム缶風呂に入った。
見た目からしてもうマンガみたいで、みんなで笑った。
でもマンガとは違うのが、ここがすっごくリアルな仮想世界だってこと。
だから何も知らずに最初にドラム缶風呂に足を突っ込んだ晴樹は、「あっち~~!」って飛び上がった。
ドラム缶の下で火を焚いてるんだけど、金属だからそこに触るとめちゃくちゃ熱いんだ。
裕太が慌てて『こどもでもできる! サバイバルブック』で調べて、木の板を底に敷けばいいんだって知った。
だけどこんな生活にも、オレたちは慣れつつあった。
「オレ、追加の薪買ってくるな。他にホームセンターで買うものある?」
「あ、カセットコンロのガスをお願い!」
「あとライターもよろ~」
「オッケー」
オレは率先して仕事をこなすようにした。
オレだってみんなの役に立ちたい。
自分だけでも楽しめば勝ちだなんて、もう思わない。
せっかくここには五人も仲間がいるんだから。
買い出しを終えて戻ってくると、穂乃果が荷物を受け取りに出迎えてくれた。
「ありがとう。スバル、最近、頑張ってるね」
穂乃果はこんなオレのこともちゃんと見ていてくれて、気づいてくれた。
あの夜、オレは自分を恥ずかしいと思った。だから情けない自分を変えたかったんだ。
二人で荷物を運んでいくと、実莉衣が、のんびりとアウトドアチェアに座っている晴樹を、大丈夫かな? って目で見ていた。
「晴樹、ますますほっぺがぽよんぽよんになってない? 最近動きも、こう、のったりしてるっていうか」
「えー? オレの話? だってさー、外で食べるご飯ってうまいよな! なんかいくらでも食べられちゃうっていうか」
「まさか晴樹、拾い食いとかしてないよね? もうどこのお店も電気は消えてるんだから、プリンとかデザートなんて絶対食べちゃだめだからね? 絶対腐ってるから」
「わかってるよー」
あはははとあごを揺らして笑う晴樹に、実莉衣は「本当かな~」って顔をしていた。
「実莉衣、なんかみんなのお母さんみたいだな」
ぽつりと思ったままに呟いてしまったら、実莉衣にキッと睨まれた。
「あんたたちがしっかりしてないからでしょー? もう」
「実莉衣ちゃんも、心配、してるんだよ」
穂乃果が少し困った顔でフォローしたけれど、最近の実莉衣はちょっとトゲトゲしてるっていうか、イライラしてるなって感じることがある。
この生活で一番ストレスを感じているのは間違いなく実莉衣だろう。
他のみんなはけっこう本気で楽しんでるのがわかるけど、実莉衣は時々、ため息をついているのを見かけるから。
キャンプは楽しいけど、やっぱり家に帰りたいと思う時があるんだろうな。
オレたちは荷物を取りに行ったり、好きな時に帰れるけど、実莉衣はそうじゃない。
自分のものは何も持ってないし、それだけじゃなくて、家でゆっくりお風呂に入れないのも女子にはすごく辛いみたいだ。
当たり前のことが、当たり前にできない。
それは、オレがゲームができない! ってわめくのとはわけが違う。
食べ物だって、最初は冷凍されてた肉や冷凍食品が解けたのを食べられたけど、今はもうそれも腐ってしまっている。
川で魚でも釣ればいいじゃん、って思ったら、そう、この世界には生き物がいないんだ。
野菜は裕太が本で調べた食べられる野草と、実莉衣が一生懸命水やりをしてるリーフレタス、主食は災害用の缶詰のパンやアルファ米。肉は、魚肉ソーセージと魚の缶詰。
それらを焼いたり混ぜたりしてアレンジしてなんとか食べてるけど、だんだん飽きてくる。
実莉衣じゃなくても、だんだんテンションが下がっていくのは仕方がなかった。
それから、出口探しに進展がないことも一つの要因だった。
ご飯や風呂の準備をしていないときは、みんなそれぞれに出口を探しに行ってるんだけど、これがなかなか見つからない。
だってそもそも、ドアの形をしてるのかどうかもオレたちは知らないんだ。
元々あるドアが出口になっているのか、新しく出口ができているのか、光っていたり何か目印があるのか、普通のドアなのかどうかも知らない。
探し始めるとあまりに途方もなくて、ちょっと絶望を感じてしまう。
裕太はずっと一人でこんなことしてたんだって思うと、改めてごめんって思った。
「じゃあおれ、そろそろ出口探しに行ってくるよ」
裕太が水や非常食を入れたリュックを背負って出かけようとしたから、思わずオレは声をかけた。
「今日はどのあたりを探すつもりなんだ?」
オレたちは本屋で地図を買って、それを見て担当区分を決めてある。
この河原を中心として、自転車で行って帰って来れる距離を半径にして、コンパスで円をかく。そこに等間隔に三本の線を引いて、六ピース入りのチーズみたいに六等分にしたんだ。
その中をそれぞれが好きな時に好きなように探すことになってるんだけど。
「うん。最近ずっとできるだけ遠くに行ってみてたんだけど、今日はちょっと原点に戻ってみようかと思ってる」
「原点に戻る、って?」
「晴樹がさ、バスも電車もタクシーも使えないってことは、オレたちが自転車か歩いて行けるところに出口はあるんじゃないか、って。それ聞いたら、なるほどなと思ったんだよね」
なるほど。それは盲点だったかもしれない。
ゲームばっかりしてたオレは、ゴールと言えば遠くにあるものってイメージだったから、実はみんなで拠点を移動して、探す範囲を広げた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
だけど考えてみれば、この世界の目的は旅をすることじゃない。大人がいない世界の中、子どもだけで生き抜いて出口を見つけることだ。
だとしたら遠くまで探しに行かなきゃいけない場所に出口なんか作らないかもしれない。
「原点に戻る、か。じゃあオレも、今日は近場を探してみようかな」
「うん。また夕方に報告しあおう。じゃあ、行ってくる」
そう言って土手を上がって、裕太は自転車に乗って出かけて行った。
そしてその日、裕太が帰ってくることはなかった。
キャンプを始めてからはもう一週間。
最初の日は疲れてお風呂にも入らずに寝たけど、二日目からはドラム缶風呂に入った。
見た目からしてもうマンガみたいで、みんなで笑った。
でもマンガとは違うのが、ここがすっごくリアルな仮想世界だってこと。
だから何も知らずに最初にドラム缶風呂に足を突っ込んだ晴樹は、「あっち~~!」って飛び上がった。
ドラム缶の下で火を焚いてるんだけど、金属だからそこに触るとめちゃくちゃ熱いんだ。
裕太が慌てて『こどもでもできる! サバイバルブック』で調べて、木の板を底に敷けばいいんだって知った。
だけどこんな生活にも、オレたちは慣れつつあった。
「オレ、追加の薪買ってくるな。他にホームセンターで買うものある?」
「あ、カセットコンロのガスをお願い!」
「あとライターもよろ~」
「オッケー」
オレは率先して仕事をこなすようにした。
オレだってみんなの役に立ちたい。
自分だけでも楽しめば勝ちだなんて、もう思わない。
せっかくここには五人も仲間がいるんだから。
買い出しを終えて戻ってくると、穂乃果が荷物を受け取りに出迎えてくれた。
「ありがとう。スバル、最近、頑張ってるね」
穂乃果はこんなオレのこともちゃんと見ていてくれて、気づいてくれた。
あの夜、オレは自分を恥ずかしいと思った。だから情けない自分を変えたかったんだ。
二人で荷物を運んでいくと、実莉衣が、のんびりとアウトドアチェアに座っている晴樹を、大丈夫かな? って目で見ていた。
「晴樹、ますますほっぺがぽよんぽよんになってない? 最近動きも、こう、のったりしてるっていうか」
「えー? オレの話? だってさー、外で食べるご飯ってうまいよな! なんかいくらでも食べられちゃうっていうか」
「まさか晴樹、拾い食いとかしてないよね? もうどこのお店も電気は消えてるんだから、プリンとかデザートなんて絶対食べちゃだめだからね? 絶対腐ってるから」
「わかってるよー」
あはははとあごを揺らして笑う晴樹に、実莉衣は「本当かな~」って顔をしていた。
「実莉衣、なんかみんなのお母さんみたいだな」
ぽつりと思ったままに呟いてしまったら、実莉衣にキッと睨まれた。
「あんたたちがしっかりしてないからでしょー? もう」
「実莉衣ちゃんも、心配、してるんだよ」
穂乃果が少し困った顔でフォローしたけれど、最近の実莉衣はちょっとトゲトゲしてるっていうか、イライラしてるなって感じることがある。
この生活で一番ストレスを感じているのは間違いなく実莉衣だろう。
他のみんなはけっこう本気で楽しんでるのがわかるけど、実莉衣は時々、ため息をついているのを見かけるから。
キャンプは楽しいけど、やっぱり家に帰りたいと思う時があるんだろうな。
オレたちは荷物を取りに行ったり、好きな時に帰れるけど、実莉衣はそうじゃない。
自分のものは何も持ってないし、それだけじゃなくて、家でゆっくりお風呂に入れないのも女子にはすごく辛いみたいだ。
当たり前のことが、当たり前にできない。
それは、オレがゲームができない! ってわめくのとはわけが違う。
食べ物だって、最初は冷凍されてた肉や冷凍食品が解けたのを食べられたけど、今はもうそれも腐ってしまっている。
川で魚でも釣ればいいじゃん、って思ったら、そう、この世界には生き物がいないんだ。
野菜は裕太が本で調べた食べられる野草と、実莉衣が一生懸命水やりをしてるリーフレタス、主食は災害用の缶詰のパンやアルファ米。肉は、魚肉ソーセージと魚の缶詰。
それらを焼いたり混ぜたりしてアレンジしてなんとか食べてるけど、だんだん飽きてくる。
実莉衣じゃなくても、だんだんテンションが下がっていくのは仕方がなかった。
それから、出口探しに進展がないことも一つの要因だった。
ご飯や風呂の準備をしていないときは、みんなそれぞれに出口を探しに行ってるんだけど、これがなかなか見つからない。
だってそもそも、ドアの形をしてるのかどうかもオレたちは知らないんだ。
元々あるドアが出口になっているのか、新しく出口ができているのか、光っていたり何か目印があるのか、普通のドアなのかどうかも知らない。
探し始めるとあまりに途方もなくて、ちょっと絶望を感じてしまう。
裕太はずっと一人でこんなことしてたんだって思うと、改めてごめんって思った。
「じゃあおれ、そろそろ出口探しに行ってくるよ」
裕太が水や非常食を入れたリュックを背負って出かけようとしたから、思わずオレは声をかけた。
「今日はどのあたりを探すつもりなんだ?」
オレたちは本屋で地図を買って、それを見て担当区分を決めてある。
この河原を中心として、自転車で行って帰って来れる距離を半径にして、コンパスで円をかく。そこに等間隔に三本の線を引いて、六ピース入りのチーズみたいに六等分にしたんだ。
その中をそれぞれが好きな時に好きなように探すことになってるんだけど。
「うん。最近ずっとできるだけ遠くに行ってみてたんだけど、今日はちょっと原点に戻ってみようかと思ってる」
「原点に戻る、って?」
「晴樹がさ、バスも電車もタクシーも使えないってことは、オレたちが自転車か歩いて行けるところに出口はあるんじゃないか、って。それ聞いたら、なるほどなと思ったんだよね」
なるほど。それは盲点だったかもしれない。
ゲームばっかりしてたオレは、ゴールと言えば遠くにあるものってイメージだったから、実はみんなで拠点を移動して、探す範囲を広げた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
だけど考えてみれば、この世界の目的は旅をすることじゃない。大人がいない世界の中、子どもだけで生き抜いて出口を見つけることだ。
だとしたら遠くまで探しに行かなきゃいけない場所に出口なんか作らないかもしれない。
「原点に戻る、か。じゃあオレも、今日は近場を探してみようかな」
「うん。また夕方に報告しあおう。じゃあ、行ってくる」
そう言って土手を上がって、裕太は自転車に乗って出かけて行った。
そしてその日、裕太が帰ってくることはなかった。
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