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第三章 こどもだけだって
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トイレに行きたくなってふっと目を覚ましたオレは誰かの話し声が聞こえることに気が付いた。
男子はみんないびきをかいて眠ってる。
ってことは、穂乃果と実莉衣だ。
「よかったね、なんとかなりそうで」
「うん。私、楽しいよ」
「あんな危機的状況をこんな楽しいことに変えちゃうなんて、唯人ってすごいね」
実莉衣が言う通りだ。
電気がない、ガスがない。発電機も使えないし、カセットコンロはどれくらいもつかわからない。
唯人の提案で、そんな不安が一気に消し飛んでしまった。
むしろ、実際に子どもだけのキャンプをやってみたことで、今まで当たり前に頼ってたいろんなものがなくてもちゃんと生活できるんだって自信になった。こわいものがなくなってしまった。
これはすごいことだと思う。
「あたし、唯人にあやまらなきゃ。電気が止まって家に帰れないってわかったとき、あたし、唯人にはあたしの気持ちはわかんない! とかひどいこと言っちゃったから。それなのに、唯人はこうやってキャンプしちゃえばいいとか提案してくれて、いっぱい準備もしてくれた。唯人には帰る家だってあるし、一人でも大丈夫だったのにね」
「うん。唯人くん、普段は、わかりにくいけど、優しいよね」
「あたし、明日ちゃんとありがとって言うよ」
実莉衣って、感情的になることもあるけど素直だよな。そういうところがいい奴だと思う。
けど、あんまり勝手に話を聞いちゃ悪い。そろそろオレが起きてるってわかるように「んっんっ!」て咳払いでもして、さりげなーくトイレに行かないと。
そう思った時だった。
「でもさ、こういうことになると人の本性って出るよね!」
実莉衣の言葉に、思わずドキリとしてしまった。
「そうだね。晴樹くんは、いつも空気が読めない、とか言われちゃうけど、この世界にいると、明るくて、楽しい気持ちになれるから、すごいと、思う」
「わかる! あたし、裕太なんて真面目を飛び越えて変わってるなあ、とか思ってたけど、いざこういう世界に飛ばされたら、大活躍だったよね! 裕太が一緒にいて本当によかったよ」
「頼りに、なるよね」
唯人、晴樹、裕太……ときたら、次はオレか?!
オレはドキドキして、息をひそめて待った。
いやいやトイレに行くんじゃなかったんかい! と自分でツッコみたくなったけど、どうしても気になってしまった。
「それでさー、いっちばん頼りにならないのがスバルだよね!」
え……。
「頭ン中、ゲームゲームばっかでさ、みんなで集まって話してても、早くゲームしたいって顔に書いてあるし。なんかあると適当に勢いとノリでごまかそうとするしさ」
オレは全身に水を浴びたように身体が冷たくなっていくのを感じていた。
図星だ。
実莉衣が言っている通りだ。
恥ずかしかった。改めて自分がそんなだって思い知ることも、それを全部見抜かれていたことも。
みんな協力しあっているのに、オレだけはずっと自分のことばかり考えていた。
何とかしようと思うのも、責任を感じてたから。
自分が責められないように、なんとかごまかそうとしただけ。
オレ、何してたんだろう。
意地になって、この世界を楽しまなきゃってそればっかりで。
みんなを巻き込んだのはオレなのに、実莉衣が家に戻れないってなったときも、じゃあまた穂乃果の家に泊まればいいじゃん、とか軽く考えちゃってた。
他人事みたいに考えてたのは唯人じゃない。オレなんだ。
ごめん。
ずっとずっと、自分勝手で、ごめん!
あやまりたくて、オレが思わず立ち上がろうとした時だった。
「それだけじゃないよ」
ふいに穂乃果の声が聞こえて、オレは思わずはっと息をつめた。
「スバルはきっと、責任を感じてたんじゃないかな。それで、余計に、不安だったんだと思う。だから、みんなが暗くならないように、不安にならないように、楽しくなるように気づかってたんじゃないかなって」
そんなの、調子いいだけじゃない、って実莉衣は言ったけど、穂乃果は小さく笑って続けた。
「それにね、私たちが最初にカレーを持っていったとき、スバル、うまい、って食べてくれたんだよ」
「そりゃあお菓子ばっかり食べてたからおいしく感じたんでしょ?」
「この世界では、何を食べても、そう思った味にしか、ならない。スバルは、食べたこともない、私たちが作ったカレーを、『おいしいはず』って思って、食べてくれたんだよ」
穂乃果の言葉に、オレは思い出した。
あの時、確かに最初はうまいと思って食べたけど、ゲームがやりたくて、途中からはゲームしながら食べて、味もわかんなかったことを。
ごめん。
ごめん、穂乃果。
穂乃果はオレをそんな風に信じてくれてたのに。
穂乃果は料理をするのは楽しいって言ってたけど、今日みんなと一緒にやってみてわかった。楽しくても、大変じゃないわけじゃ、ない。
なのにオレは何にも考えずに、ただお腹に入れただけだった。
「私ね、お母さんやお父さんみたいに、ちゃんとした大人になれるのかな、って、いつか私もあんな風になれるのかなって、ずっと不安だった。だから、ここに来て、自分でいろんなことに挑戦して、失敗もあったけど、できることがたくさんあるってわかって、私もちゃんと大人になれるのかもって、初めて思えたんだ。自信になったんだ」
ふふ、って穂乃果が笑った気配がした。
「だから、私は、この六人でここに来られて、よかったと、思ってるよ。スバルが誘ってくれて、感謝してるんだ」
涙がこぼれた。
オレは声が漏れてしまわないように、ぎゅっと唇を噛みしめて我慢した。
涙が寝袋に沁みてびちゃびちゃになっても、オレは寝袋から起き出すことができなかった。
男子はみんないびきをかいて眠ってる。
ってことは、穂乃果と実莉衣だ。
「よかったね、なんとかなりそうで」
「うん。私、楽しいよ」
「あんな危機的状況をこんな楽しいことに変えちゃうなんて、唯人ってすごいね」
実莉衣が言う通りだ。
電気がない、ガスがない。発電機も使えないし、カセットコンロはどれくらいもつかわからない。
唯人の提案で、そんな不安が一気に消し飛んでしまった。
むしろ、実際に子どもだけのキャンプをやってみたことで、今まで当たり前に頼ってたいろんなものがなくてもちゃんと生活できるんだって自信になった。こわいものがなくなってしまった。
これはすごいことだと思う。
「あたし、唯人にあやまらなきゃ。電気が止まって家に帰れないってわかったとき、あたし、唯人にはあたしの気持ちはわかんない! とかひどいこと言っちゃったから。それなのに、唯人はこうやってキャンプしちゃえばいいとか提案してくれて、いっぱい準備もしてくれた。唯人には帰る家だってあるし、一人でも大丈夫だったのにね」
「うん。唯人くん、普段は、わかりにくいけど、優しいよね」
「あたし、明日ちゃんとありがとって言うよ」
実莉衣って、感情的になることもあるけど素直だよな。そういうところがいい奴だと思う。
けど、あんまり勝手に話を聞いちゃ悪い。そろそろオレが起きてるってわかるように「んっんっ!」て咳払いでもして、さりげなーくトイレに行かないと。
そう思った時だった。
「でもさ、こういうことになると人の本性って出るよね!」
実莉衣の言葉に、思わずドキリとしてしまった。
「そうだね。晴樹くんは、いつも空気が読めない、とか言われちゃうけど、この世界にいると、明るくて、楽しい気持ちになれるから、すごいと、思う」
「わかる! あたし、裕太なんて真面目を飛び越えて変わってるなあ、とか思ってたけど、いざこういう世界に飛ばされたら、大活躍だったよね! 裕太が一緒にいて本当によかったよ」
「頼りに、なるよね」
唯人、晴樹、裕太……ときたら、次はオレか?!
オレはドキドキして、息をひそめて待った。
いやいやトイレに行くんじゃなかったんかい! と自分でツッコみたくなったけど、どうしても気になってしまった。
「それでさー、いっちばん頼りにならないのがスバルだよね!」
え……。
「頭ン中、ゲームゲームばっかでさ、みんなで集まって話してても、早くゲームしたいって顔に書いてあるし。なんかあると適当に勢いとノリでごまかそうとするしさ」
オレは全身に水を浴びたように身体が冷たくなっていくのを感じていた。
図星だ。
実莉衣が言っている通りだ。
恥ずかしかった。改めて自分がそんなだって思い知ることも、それを全部見抜かれていたことも。
みんな協力しあっているのに、オレだけはずっと自分のことばかり考えていた。
何とかしようと思うのも、責任を感じてたから。
自分が責められないように、なんとかごまかそうとしただけ。
オレ、何してたんだろう。
意地になって、この世界を楽しまなきゃってそればっかりで。
みんなを巻き込んだのはオレなのに、実莉衣が家に戻れないってなったときも、じゃあまた穂乃果の家に泊まればいいじゃん、とか軽く考えちゃってた。
他人事みたいに考えてたのは唯人じゃない。オレなんだ。
ごめん。
ずっとずっと、自分勝手で、ごめん!
あやまりたくて、オレが思わず立ち上がろうとした時だった。
「それだけじゃないよ」
ふいに穂乃果の声が聞こえて、オレは思わずはっと息をつめた。
「スバルはきっと、責任を感じてたんじゃないかな。それで、余計に、不安だったんだと思う。だから、みんなが暗くならないように、不安にならないように、楽しくなるように気づかってたんじゃないかなって」
そんなの、調子いいだけじゃない、って実莉衣は言ったけど、穂乃果は小さく笑って続けた。
「それにね、私たちが最初にカレーを持っていったとき、スバル、うまい、って食べてくれたんだよ」
「そりゃあお菓子ばっかり食べてたからおいしく感じたんでしょ?」
「この世界では、何を食べても、そう思った味にしか、ならない。スバルは、食べたこともない、私たちが作ったカレーを、『おいしいはず』って思って、食べてくれたんだよ」
穂乃果の言葉に、オレは思い出した。
あの時、確かに最初はうまいと思って食べたけど、ゲームがやりたくて、途中からはゲームしながら食べて、味もわかんなかったことを。
ごめん。
ごめん、穂乃果。
穂乃果はオレをそんな風に信じてくれてたのに。
穂乃果は料理をするのは楽しいって言ってたけど、今日みんなと一緒にやってみてわかった。楽しくても、大変じゃないわけじゃ、ない。
なのにオレは何にも考えずに、ただお腹に入れただけだった。
「私ね、お母さんやお父さんみたいに、ちゃんとした大人になれるのかな、って、いつか私もあんな風になれるのかなって、ずっと不安だった。だから、ここに来て、自分でいろんなことに挑戦して、失敗もあったけど、できることがたくさんあるってわかって、私もちゃんと大人になれるのかもって、初めて思えたんだ。自信になったんだ」
ふふ、って穂乃果が笑った気配がした。
「だから、私は、この六人でここに来られて、よかったと、思ってるよ。スバルが誘ってくれて、感謝してるんだ」
涙がこぼれた。
オレは声が漏れてしまわないように、ぎゅっと唇を噛みしめて我慢した。
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