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第三章 こどもだけだって

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 そうしてみんなは荷物を取りにそれぞれの家に向かった。
 実莉衣は家に戻れないから、穂乃果の家に一緒に行って、荷物を運ぶのを手伝うことになった。
 オレも家になんかないかなーってうろうろして回って、そうだ! って思い出した。
 確か、避難用のリュックをお母さんが作ってたはず。
 オレも作れって言われて軽いお菓子と自分の着替えと暇つぶしの漫画を一冊入れたけど、お母さんのリュックには家族みんなが使えるようなものがいろいろ入ってたはず。
 そう思って玄関に行ったら、あった、あった。
 でっかいリュックにパンパンに荷物がつまってる。

「うっわ、おもっ!」

 ちょっと持ってみたけど、ずしっと足に響くくらい重い。
 チャックを開ければ、出てくる、出てくる。
 手回し充電器付きラジオだろ?
 シートに軍手、それから乾電池。
 ライトがついてるけどこれは、非常用の笛か。
 簡易トイレまで入ってたのにはびっくり。

「これ全部お母さんが用意してたのか」

 よく集めたなと思うし、こんなリュックによくこれだけ詰め込めたなと思う。
 それに、オレには重いから入れなくていいって言ってた水のペットボトルが、小さいのだけど三本も入ってる。
 お父さんとお母さんと、それからオレの分だ。
 お父さんは帰りも遅いし、出張に行ってることも多い。
 だからお母さんがこれを背負って避難するつもりだったはずだ。
 オレの分も、かわりにこんな重いリュックを背負って。
 そう考えたら、なんか、お母さんごめんって思った。
 地震とか台風とか、いつ来るかわかんないもののために必死になれなかったけど、本当に必要になったときのありがたみが今ならわかる。
 だからオレは、全部リュックにつめ直して背負った。
 本当に避難しなきゃいけない時が来たら、その時はオレが背負うんだ。お母さんの分も。
 そう決めた。

 穂乃果と実莉衣の用意が終わるのを待って、オレたちは河原へと向かった。
 穂乃果の家から持ち出してきたのは、カセットコンロと、冷凍食品がいくつか。ラップに包んだ冷凍の肉もあった。

「豪華なバーベキューができるな」

 河原はそんなに遠くないから、必要なものがあったらすぐに取りに帰れるし。
 本当のアウトドアでは火をつけるのが大変だっていうけど、ライターだってあるし、ダメならカセットコンロを使えばいい。
 ずるいかな?
 いやいや、これはこどもサバイバルなんだ。ただのアウトドアじゃあない。
 生き抜くことが第一なんだから、そんなことは言ってられない!
 使える物は使わなくちゃ。
 荷物は穂乃果の家にあったキャンプ用のキャリーカートに入れて、オレがガラガラと引っ張って歩いた。
 もちろんあのパンパンのリュックも背負ってる。

「大丈夫? 重く、ない?」
「キャリーカートは車輪がついてるから全然重いって感じしないし、河原は近いしな。平気だよ」

 心配そうな穂乃果にそう答えれば、後ろからチャリンチャリーンって間の抜けた自転車のベルが聞こえた。
 振り返れば裕太が「おーい」って片手を振っている。

「すごい荷物だな」
「裕太も前のカゴと後ろのカゴになんかでかいの積んでるじゃん。その自転車、おばさんのか?」
「うん。おれの自転車じゃ、荷物が入りきらないからさ」

 並んで歩けば、すぐに河原が見えた。
 広く整地された、ちょっとした運動公園みたいなところに、緑と茶色のテントが張ってある。

「あ。あのテント、唯人と晴樹かな?」
「おーい、持ってきたぞー」

 荷物を持って土手を下りれば、それぞれのテントから唯人と晴樹が出てきて、手招きした。

「これ、いいだろ? 本当のキャンプみたいでさ」
「みんなでスバルん家に泊まるのもいいけどさ、今日はここでキャンプしようよ!」

 唯人と晴樹の提案に、オレたちはわっと盛り上がった。

「たしかにバーベキューするだけじゃもったいないよな。それ、いいじゃん!」
「なんかここに来て一番わくわくしてるかも!」
「私、キャンプ、初めて。嬉しい」

 わいわい騒いでいると、裕太が「ふっふっふ」とにやりと笑った。

「というわけで、おれは寝袋もってきた」

 そう言って裕太は、自転車のカゴに積んであったでかくて黒い枕みたいなのを、ぼん、ぼん、ぼんってテントに投げ入れた。

「裕太、それ寝袋だったのか!」

 実はオレもキャンプなんてやったことない。だから寝袋がどんなのか、初めて見る。

「さっきバーベキューセットを運んで来たら、晴樹と唯人がテント持って来てたからさ。もう一回家に取りに帰ったんだよ」
「緑の小さいテントは女子二人。茶色のテントは男子四人な」

 テントとテントの間には、バーベキューセットも置かれていた。

「食べ物もあるし、なんか残りの三週間くらい余裕で過ごせそうだよな」
「それどころか、すごいわくわくする!」

 みんなの顔は、明るく笑ってた。
 この世界に来てから一番の笑顔だった
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