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プレゼント
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誕生日、子供の日、クリスマス、お正月のお年玉の代わりにと、年に何回もまさきとりくはプレゼントをもらう。
それを楽しみに日々生きているところもある二人だ。
常日頃から欲しいものができると、「今度の誕生日プレゼントはこれにしよ!」と二人でわいわいと話している。
それを必死に聞き取り、望ましくない方向にいってしまわないようにと微調整するのは至難の技。
「俺、今度はサンダルマンデッキ買ってもらうんだー」
それは今持っているのと別のカードゲームの話ではないのか。
陽一とドハマりして何万円もつぎ込んで、ランダムで五枚ずつ入っている拡張パックを買ってはレアを狙い、強くしてきたはずだ。
それなのに、今度は別のカードゲーム、だと……?
かよ子がそんなことを許せるはずがない。
たとえ陽一が大喜びして「おお、いいな! 今度はそっちやろうぜ」と盛り上がろうとも。
「ぼくはね、おままごとセットにする。保育園で女の子たちがうるさいからさ。練習しておかないと」
おままごとセット? 練習?!
保育園生活はそんなにハードなのか。
女子とうまくやるにはそこまでせねばならないのか。
しかしそれでは本当にほしいものがもらえないことになる。
こちらもなんとか軌道修正しなければ。
だが今はあくまで二人で楽しくユメを語っているにすぎない。
そこにかよ子が口を挟むのは無粋だ。
まだ変わる可能性も大いにあるのだから、ここは黙って見守ろうと決める。
「でさー、クリスマスプレゼントは俺、一万円もらったらいいのかなって思うんだよね」
サンタに現金!!
現金をせびるのか!!
まさきはまだサンタクロースを信じている。
優しい世の中になったものだと思う。
かよ子が子供の頃は、小学校にも上がればクラスの誰かは「サンタクロースなんていねえし。うちのじいさんだったし」とか言い出す奴がいたわけで、あ、お父さんじゃないんだ、とか思ったりしたわけである。
かよ子自身はクリスマスプレゼントをもらったことがなかったし、最初からサンタクロースはいないと言われていた。
確かに仏教だから関係ないものではあるのだが、そのくせクリスマスケーキだけは買ってもらっていた。
だからといってまさきとりくの夢を壊すつもりはない。
時折まさきにそっと聞かれることがある。
「ねえ。本当にサンタさんているの?」
最初は答えに窮したが、今は決まってこう答えている。
「お母さんは見たことないから、いるのかいないのかわからないんだ。だけどさ、サンタさんからプレゼントをもらった人も、手紙をもらった人もたくさんいるじゃない? そんなのお父さんだよって言う子もいるけど、じゃあ他の子の家も全部そうなのかなっていうと、そんなのわからないでしょ? こっそり本物のサンタさんがプレゼントを配ってるかもしれないよ」
「じゃあ、鬼は?」
「それもお母さんは見たことない。だけど昔話って、本当にあったことを形を少しずつ変えて語り継いでるものなんだって。だから昔は本当に鬼がいたかもしれないし、今もこっそり隠れてどこかに住んでるかもしれないよね。お母さんは本物の熊も見たことがないし、クジラも見たことがない。この目で見たことのないけど本当に生きてるものはたくさんあるんだから、まだ見てないだけかもしれないよね」
まさきは納得したような、していないような曖昧さで「ふうん」と相槌を打つ。
答えは自分で見つけていくだろう。
そして。
かよ子はプレゼントに関してずっと思っていることがある。
子供の頃に読んだ漫画とか。
児童書とか。
母の日や誕生日に母にプレゼントをするという泣かせる話を何度か読んだことがある。
私もこんな風にお母さんを喜ばせたいな、と代わりに夕飯を作ってみたり、エプロンやカーネーションを買ったり、テレビでやっていた、女の人たちが「ほしー! 絶対ほしー!」と言っていた口紅を買ってみたりした経験がかよ子にはある。
喜ばれるかどうかは別として、それがりくとまさきには、ないのだ。
大きくなってきたし、そろそろかな?
とずっと待っているのだが、ついぞそんなときは訪れない。
原因の一つは、様々な家庭の形が増えている昨今、保育園では母の日も父の日もスルーするからである。
敬老感謝の日もスルー。
だからかよ子が強制的に幼稚園で描かされ近くのスーパーに貼りだされていたような母の似顔絵を描いてくることもないし、似顔絵入りの手鏡なんてものをプレゼントされることもない。
誕生日にはかろうじて思い出した陽一が「おめでとう!」と言えば、後追いで「おめでとー」と言ってくれるくらいで、陽一からのケーキもなければ子供たちからの心のこもった贈り物もない。サプライズもない。
陽一に関しては、忘れられていることが多く、期待するだけがっかりしてしまうと何度も身に沁みた結果、「プレゼントもケーキも一切用意しなくてよい」と通達している。
それでもちょっとしたケーキくらい用意せえや! とかよ子は思うのだが、そういうときだけ忠実に言われたことを守るのが陽一だ。
陽一がそれをしないからか、子供たちもそんな気は起こさない。
そうして諦めとユメとの間で毎年揺れていたかよ子だったが、まさきが小学二年生になる今年の誕生日だけは一味違った。
「あ。おかあさん今日誕生日だったんだ。じゃあこれあげる」
そう言ってにっこりと笑い渡してくれたのは、たまたま今手に持っていた、折り紙のカエル。
「これさ、しっぽのところを押して離すと飛ぶんだよ。折り紙なのにすごいでしょ」
カエルに尻尾はなかったと思うが言いたいことはわかる。
「わ、本当だねー。ありがとう、まさき」
いらん。とは親が決して言ってはいけないことだとかよ子は思っている。
嬉しいはずなのに「めっちゃ適当!!」という悲しい気持ちを抱えながら笑顔を返すかよ子に、まさきは「大事にしてね! お母さんの宝箱にいれておいて!」とダメ押しする。
「うん、ありがとう。大事にするね」
適当でもたまたまでも、まさきが初めてくれた誕生日プレゼントだ。
しっかりかよ子の宝箱というまさきの作品収納ケースに入れるだろう。
そしてそれをぼんやり見ていたりくも、自分のおもちゃ箱を漁りはじめた。
そして取り出したのは、何日か前に保育園で描いてきたという恐竜の絵だった。
「これ、一番うまくできたやつだから。おかあさんにあげる」
「ありがとう。大事にするね」
何故おもちゃ箱の中にお絵かきの紙が入っているのか問い詰めたいが、今はその時ではない。
くしゃくしゃになり、端には破った後のある荒々しいそれを、かよ子は丁寧に二つ折りにした。
これも宝箱という名の作品収納ケースに入れよう。
まさきもりくも何故か満足そうにかよ子を見ていて、その二人の顔を見ていたらかよ子も自然と笑った。
「本当にありがとうね、まさき、りく」
どんな適当でも。ただの思いつきでも。
今彼らが大事にしていたものをかよ子にプレゼントしてくれたのだ。
かよ子は胸が温かくなるのを感じながら、二階へとそれらを仕舞いに行った。
その背後で。
「ちゃんとプレゼントあげたし、今度の俺たちの誕生日プレゼントは絶対サンダルマンデッキもらえるよ!」
「僕はやっぱりおままごとセットじゃなくて、リサちゃん人形のお洋服にするよ。女の子たちが、それ持ってないと『ヤバイ』って言うからさ」
かよ子は聞こえなかったと自分に言い聞かせ、大事な宝物を箱の中へと仕舞いこんだ。
それを楽しみに日々生きているところもある二人だ。
常日頃から欲しいものができると、「今度の誕生日プレゼントはこれにしよ!」と二人でわいわいと話している。
それを必死に聞き取り、望ましくない方向にいってしまわないようにと微調整するのは至難の技。
「俺、今度はサンダルマンデッキ買ってもらうんだー」
それは今持っているのと別のカードゲームの話ではないのか。
陽一とドハマりして何万円もつぎ込んで、ランダムで五枚ずつ入っている拡張パックを買ってはレアを狙い、強くしてきたはずだ。
それなのに、今度は別のカードゲーム、だと……?
かよ子がそんなことを許せるはずがない。
たとえ陽一が大喜びして「おお、いいな! 今度はそっちやろうぜ」と盛り上がろうとも。
「ぼくはね、おままごとセットにする。保育園で女の子たちがうるさいからさ。練習しておかないと」
おままごとセット? 練習?!
保育園生活はそんなにハードなのか。
女子とうまくやるにはそこまでせねばならないのか。
しかしそれでは本当にほしいものがもらえないことになる。
こちらもなんとか軌道修正しなければ。
だが今はあくまで二人で楽しくユメを語っているにすぎない。
そこにかよ子が口を挟むのは無粋だ。
まだ変わる可能性も大いにあるのだから、ここは黙って見守ろうと決める。
「でさー、クリスマスプレゼントは俺、一万円もらったらいいのかなって思うんだよね」
サンタに現金!!
現金をせびるのか!!
まさきはまだサンタクロースを信じている。
優しい世の中になったものだと思う。
かよ子が子供の頃は、小学校にも上がればクラスの誰かは「サンタクロースなんていねえし。うちのじいさんだったし」とか言い出す奴がいたわけで、あ、お父さんじゃないんだ、とか思ったりしたわけである。
かよ子自身はクリスマスプレゼントをもらったことがなかったし、最初からサンタクロースはいないと言われていた。
確かに仏教だから関係ないものではあるのだが、そのくせクリスマスケーキだけは買ってもらっていた。
だからといってまさきとりくの夢を壊すつもりはない。
時折まさきにそっと聞かれることがある。
「ねえ。本当にサンタさんているの?」
最初は答えに窮したが、今は決まってこう答えている。
「お母さんは見たことないから、いるのかいないのかわからないんだ。だけどさ、サンタさんからプレゼントをもらった人も、手紙をもらった人もたくさんいるじゃない? そんなのお父さんだよって言う子もいるけど、じゃあ他の子の家も全部そうなのかなっていうと、そんなのわからないでしょ? こっそり本物のサンタさんがプレゼントを配ってるかもしれないよ」
「じゃあ、鬼は?」
「それもお母さんは見たことない。だけど昔話って、本当にあったことを形を少しずつ変えて語り継いでるものなんだって。だから昔は本当に鬼がいたかもしれないし、今もこっそり隠れてどこかに住んでるかもしれないよね。お母さんは本物の熊も見たことがないし、クジラも見たことがない。この目で見たことのないけど本当に生きてるものはたくさんあるんだから、まだ見てないだけかもしれないよね」
まさきは納得したような、していないような曖昧さで「ふうん」と相槌を打つ。
答えは自分で見つけていくだろう。
そして。
かよ子はプレゼントに関してずっと思っていることがある。
子供の頃に読んだ漫画とか。
児童書とか。
母の日や誕生日に母にプレゼントをするという泣かせる話を何度か読んだことがある。
私もこんな風にお母さんを喜ばせたいな、と代わりに夕飯を作ってみたり、エプロンやカーネーションを買ったり、テレビでやっていた、女の人たちが「ほしー! 絶対ほしー!」と言っていた口紅を買ってみたりした経験がかよ子にはある。
喜ばれるかどうかは別として、それがりくとまさきには、ないのだ。
大きくなってきたし、そろそろかな?
とずっと待っているのだが、ついぞそんなときは訪れない。
原因の一つは、様々な家庭の形が増えている昨今、保育園では母の日も父の日もスルーするからである。
敬老感謝の日もスルー。
だからかよ子が強制的に幼稚園で描かされ近くのスーパーに貼りだされていたような母の似顔絵を描いてくることもないし、似顔絵入りの手鏡なんてものをプレゼントされることもない。
誕生日にはかろうじて思い出した陽一が「おめでとう!」と言えば、後追いで「おめでとー」と言ってくれるくらいで、陽一からのケーキもなければ子供たちからの心のこもった贈り物もない。サプライズもない。
陽一に関しては、忘れられていることが多く、期待するだけがっかりしてしまうと何度も身に沁みた結果、「プレゼントもケーキも一切用意しなくてよい」と通達している。
それでもちょっとしたケーキくらい用意せえや! とかよ子は思うのだが、そういうときだけ忠実に言われたことを守るのが陽一だ。
陽一がそれをしないからか、子供たちもそんな気は起こさない。
そうして諦めとユメとの間で毎年揺れていたかよ子だったが、まさきが小学二年生になる今年の誕生日だけは一味違った。
「あ。おかあさん今日誕生日だったんだ。じゃあこれあげる」
そう言ってにっこりと笑い渡してくれたのは、たまたま今手に持っていた、折り紙のカエル。
「これさ、しっぽのところを押して離すと飛ぶんだよ。折り紙なのにすごいでしょ」
カエルに尻尾はなかったと思うが言いたいことはわかる。
「わ、本当だねー。ありがとう、まさき」
いらん。とは親が決して言ってはいけないことだとかよ子は思っている。
嬉しいはずなのに「めっちゃ適当!!」という悲しい気持ちを抱えながら笑顔を返すかよ子に、まさきは「大事にしてね! お母さんの宝箱にいれておいて!」とダメ押しする。
「うん、ありがとう。大事にするね」
適当でもたまたまでも、まさきが初めてくれた誕生日プレゼントだ。
しっかりかよ子の宝箱というまさきの作品収納ケースに入れるだろう。
そしてそれをぼんやり見ていたりくも、自分のおもちゃ箱を漁りはじめた。
そして取り出したのは、何日か前に保育園で描いてきたという恐竜の絵だった。
「これ、一番うまくできたやつだから。おかあさんにあげる」
「ありがとう。大事にするね」
何故おもちゃ箱の中にお絵かきの紙が入っているのか問い詰めたいが、今はその時ではない。
くしゃくしゃになり、端には破った後のある荒々しいそれを、かよ子は丁寧に二つ折りにした。
これも宝箱という名の作品収納ケースに入れよう。
まさきもりくも何故か満足そうにかよ子を見ていて、その二人の顔を見ていたらかよ子も自然と笑った。
「本当にありがとうね、まさき、りく」
どんな適当でも。ただの思いつきでも。
今彼らが大事にしていたものをかよ子にプレゼントしてくれたのだ。
かよ子は胸が温かくなるのを感じながら、二階へとそれらを仕舞いに行った。
その背後で。
「ちゃんとプレゼントあげたし、今度の俺たちの誕生日プレゼントは絶対サンダルマンデッキもらえるよ!」
「僕はやっぱりおままごとセットじゃなくて、リサちゃん人形のお洋服にするよ。女の子たちが、それ持ってないと『ヤバイ』って言うからさ」
かよ子は聞こえなかったと自分に言い聞かせ、大事な宝物を箱の中へと仕舞いこんだ。
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