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第17話 鎖

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 「ラムダ、最後に一つ聞きたいことがある。ギーモア神父は貴族たちから不自然なほどの金銭の援助を受けていた。その理由はおそらく先程言った真偽の証明による偽装行為の依頼だと考える。そして、もう一つ信じがたい噂があった」

 「噂?」

 「ギーモア神父は死者を蘇らせることができる」

  「なッ!?」

 「お前は神の力を使えば可能だと思うか」

 「可能だとしてもそんなことはしてはいけない。それは命を懸けて人生を真っ当した死者への冒涜だ」

 「そうか。つまらぬことを聞いたな」

 フレム国王は深刻な表情でそう言った。

◆◆◆

 「すまないな」

 玉座の間から出た廊下でリズベルが俺に向かい謝罪の言葉をかける。

 「監視のことか? 俺がそっちの立場でも同じように思うからな。仕方ないだろう」

 「いや、そのこともなのだが。うちの妹は剣の腕は確かなのだがどうも負けん気が強くてな。その…面倒をかけると思う」

 「ははっ、なるほどな。それよりもフレム国王の最後の問、妙に深刻な顔をしていたな」

 「国王陛下は幼くして両親を亡くしてしまったんだ。きっと会いたいんだろうな。もう一度」

 国王が若い理由にはそいった事情があったのか。少し強く言い過ぎたかもしれない。

「ところで国王が言っていた祭りの準備というのは?」
 
 「ああ、祭りというのはこの国で年に一度開かれる武神祭のことだ。この時期になると国中の町や村から腕の立つ強豪たちが集まって参加する」

 「武神祭か。優勝したら何か貰えるのか?」

 「我が王が可能な限りの願いを叶える。財貨や王城の宝物庫にある宝具は勿論のこと優勝すれば名も知れ渡るだろうな」

 「へぇー太っ腹ですね」

 「それほど大事な大会なのだよ。この国は冒険者国家。強さこそが最も重視される。武神祭で優勝することは冒険者たちだけでなく兵や騎士たちの一つの目標でもあるんだ。皆の指揮を上げるためにも盛大に開催されるのでうちのものたちは今の時期、大忙しなんだ。シア殿も参加してみては?」

 「わ、私はそんなに強くなありませんから」
 
 「教会での音声は聞いていたぞ。ギーモア神父を完膚なきまで倒していたではないか」

 「そうだぞ、シア。祭りで優勝して俺に贅沢をさしてくれ」

 「そ、そんな。ご主人様まで」

 「あっそういえば」

 何か思い出した表情でリズベルが懐から何か袋のようなものを取り出し俺に差し出す。

 「これは?」

 「サーベルタイガーを倒した討伐報酬と素材料だ。渡すのをすっかり忘れていた」

 「すごいです! こんなにたくさん」

 受け取った袋に金貨が40枚程入っていた。金貨1枚あたり1万ベリーなので40万ベリーもの大金が袋の中には詰まっていた。これだけあれば1ヶ月くらいは安心して生活できるだろう。

 「いいのか?」

 「その娘を買ってあまり余裕がないのだろう?遠慮はするな」

 「何でもお見通しか。それでは遠慮なく受け取っておこう。何から何まで本当に助かった」

◆◆◆

 リズベルに礼を告げ俺たちは王城を後にした。

 その頃には日が沈みすっかり暗くなっていた。

 「そういえばシア。もう奴隷をしなくていいんだぞ」

  その言葉を聞きシアが立ち止まる。

 「わ、わたしがいると迷惑ですか」

 「いや迷惑ではないが。あれだけの実力があればこの国でも生きていけるだろうし、奴隷から解放されたほうがいいだろう?」

 「いいんです、私はこれで」

 そう言うシアの表情は会った時よりも生き生きとしていた。まるで生きる理由を見つけたかのように。

 こちらとしてもシアが側にいてくれる方がこれから依頼を受ける時に助かるしこのままでも別段問題はないが。

 「そうか。だが、その首輪は取りに行くぞ。周りの目が気になるしな」

 「はい!」

 立ち止まっていたシアが俺の隣まで駆け足で辿り着く。

 「ご主人様」

 「なんだ?」

 「鎖は確かに縛り付けるものかもしれません。でも、繋ぐためのものにもなるんですよ」

 「…繋ぐためのもの、か」

 「それより早く行かないと宿が見つからなくってしまいますよ!」
 
 そう言いシアが駆け出す。慌てて俺もシアを追って走る。

 「おい待て! シア! そんなに急がなくても大丈夫だろう!」

 「…ずっと隣にいます。…あなたは私の希望ですから」

 シアはラムダに聞こえぬようそっとそう呟いた。
 

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