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第13話 希望

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 『努力は報われる』

 なんて無責任で残酷な言葉。

 私もきっと強くなれる、そう信じて努力を続けた。

 だけど、希望は時間と共に擦り切れ
 そして、私の中から跡形もなく消え去った。

 きっとこの言葉を語った人は報われたんだろう。

 報われるまで頑張れたんだろう。

 もう疲れた。立ち上がることも上を向くことも。

 私に力があれば、もっと強ければ。

 どんなに…。



 「まだ終わってないぞ」

 声が聞こえた。力強く、自分が死ぬ間際であると微塵も感じさせない声が。

 「この状況でよく言えますね…」

 「まだ生きている」

 「…もう私は諦めたんです。もういいんです。あなたを巻き込んでしまってごめんなさい」

 「死ぬのは勝手だが、俺はまだ死ねない。俺には夢があるから。絶対に叶えないといけない夢が」

 「…不思議です。あなたを見ていると諦めなければ不可能を可能にできる、そう錯覚してしまいます。もう一度立ち上がりたい、そう思ってしまいます。変ですね、立ち上がっても辛いだけなのに」

 「なぜ人が立ち上がろうとするか知っているか。立ち上がった先に希望があるからだ、叶えたい夢があるからだ」

 「私に希望はないです。もう真っ暗なんです」

 「立ち上がりたいと思ったんだろ。だったらお前はどこかに希望を見つけたんだ」

 私の希望…。

 そっか。私はこの人に希望を感じたんだ。どんな状況でも諦めない強さ。それがどうしようもなく羨ましいと感じたんだ。

 「あなたは誓えますか…。どんな困難でもどんな戒めを受けようと立ち上がり続けられるとあなたは誓えますか?」

 「誓える」

 即答だった。微塵の迷いもない強い意志がそこにはあった。

 錆付き枯れ果てていた自分の心が動くのが分かった。

 もう動かないで、もう立ち上がりたくない。

 だけど立ち上がりたいと思う私がここにいる。
 また立ち上がっていい、諦めなくていいと考えてしまう私がここにいる。
 なんだろうこの気持ちは。私はこの気持ちを知っている。そうだ、はるか昔、きっと強くなれると信じ努力してきた時と同じ感情。

 その時、右手の甲の紋様が青く光りだす。
 それは奴隷商で刻まれた奴隷と主人を繋げる紋様。

 彼の手の紋様もまた赤く光り輝いていた。
 魔力と共に諦めるなという意思が奴隷紋を通して伝わってくる。
 そして、暗い雲に隠れていた希望が顔を出す。 

 「生きろシア、お前は

 ――"自由だ"」

 ――奴隷紋の命令は絶対遵守。
 

 その瞬間、ギーモアによってシアの左手につけられた『Guilty』という文字がパリンッという音と共に弾け飛んだ。

 「見つけました、私の希望」
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