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第1話 冒涜?知らんがな
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「……生きてる」
目覚めて第一声に口にした言葉はそれだった。
周りの景色は気を失う以前と何ら変わらない。倒れ伏す同胞、大気に混じった血の匂い。
俺だけが生き残ってしまった。
唯一変わっている点は腹部にあったはずの傷がきれいさっぱりなくなっている点だ。
「間違いなく刺されたはずだよな?」
敵兵に剣で貫かれた箇所を何度も触って確かめたが傷痕すらなかった。
意識を手放す前に出会ったあの白服の少年が助けてくれたのだろうか。
意識を手放す前のことを思い返す。
『――治癒の神なり』
あの少年が言っていた言葉。
治すとしたらあの少年しか思い当たる節がない。
まさか本当に神様ということはなかろう。
この世界には魔法が存在する。開いた傷を跡もなく消し去ることが可能か不可能かと問われれば可能だ。
あの少年はもしかしたら治癒師だったのだろうか。察するに通りすがりの冒険者といったところか。
だとしてもこんな戦場真っただなかの地にどうして?
なんにせよ本人がいない今、ただの臆測にしかならない。
もう一度会えたなら礼を言わなければいけないな。
その想いを胸にしまい俺はこれからについて考えを巡らせる。
とりあえず、
「――辞表出しに行くか」
◆◆◆
「ご報告申し上げます。第一部隊所属ラムダ・アルカリオ一般兵、ただいま帰還いたしました」
俺が報告する相手は煌びやかな玉座に座る白いひげを生やした高齢の男。我が国、レイダムの国王、ザリオス・レイダム。
「のうのうと還ってきおって! この役立たずが! お主は王国に忠誠を誓った身であろう! ならば死しても多くの首級を挙げ、一騎でも多く屠ってこんか!」
命からがら王城に還り玉座の間に赴いた俺は国王ザリオスから罵倒の嵐を浴びせられていた。
「高い金を払っておるんだ! 一つでも国に尽くし勝利を捧げよ!」
このクソジジイは金を払えば他人の命などどうなってもいいと思っていることがよく分かった。
そもそもその金も民からかき集めた金だというのに。
今回の戦で俺の所属するレイダム騎士団の第一部隊は俺を除き全滅した。
こんなジジイのために同胞が死んでいったことを考えると心の底から怒りがこみ上げてくる。
死んででも尽くせという王の言葉を咎めるもの誰もはいない。
人がいないというわけではなく玉座の間にはお偉い役職の者たちが数人鎮座している。
薄々気づいていたがこいつらもこの国王と同類なのだろうな。
裏で脱税をしていると噂の宰相。指揮しか出さず戦場には一切出向かない騎士団長。
自分より階級の上の者には頭を下げるが下の者にはころりと態度を変え、目の敵のように暴言を浴びせるこきをつかう者たちばかりだ。
自分がいい思いができればそれでいいのだろうな。
一般兵を務めて1年と半月、今が頃合いだろう。
そう思い、懐から用意していた物を取り出す。
「お役に立てず誠に申しわけありませんでした。――なので辞職します」
俺はそう言いながら取り出した辞表を床に置いた。
「ん? 貴様今なんといった! 辞職だと? 無駄口をたたいてる暇があるなら職務を務めよ! 死ぬ気で働かんか!」
だめだ、もう怒りが抑えられん。
俺はとうとう我慢の限界に達した。
「さっきから聞いていれば……兵の命を駒としか見ないあなたに忠誠を誓え? 反吐が出る」
「ッ?! 言葉を控えんか!敵前で逃亡する臆病者が!」
沈黙を守っていた騎士団長が割って入る。
俺は騎士団長を睨み答える。
「臆病者? まるで自分は臆病者ではないかのような口ぶりですね騎士団長。あなたや国王が戦場に同行したことが一度でもありましたか? あなたたちが戦場に赴きでもすれば騎士たちの士気も上がったかもしれない。籠城をきめこみ敵前にすら立たぬ者に言われる筋合いはない」
「ぐぬっ」
図星を言われ口ごもる騎士団長。
国王に向き直り今まで溜まった鬱憤を吐き出す。
「言わせてもらうが国王、戦に勝てなかったのはあなたの責任だ。俺は言われた通り戦場に行ったし、責務を全うし命を賭けて戦った! それを臆病者よばわりする言われわない! もううんざりなんだよ。何が我が国のためだ」
俺は辞表を投げつけ踵を翻し国王に背を向ける。
「恩を仇で返すとはッ! 貴様ああッ!」
後ろから国王の怒鳴り声が聞こえるが黙殺し歩を進める。
恩をもらった覚えなどない。死線なら何度ももらったがな。
王城を出た青空の下、俺の心はすがすがしいほどにすっきりとしていた。
これで俺は自由だ。
自然と顔から笑みがこぼれる。
これからの出来事への期待で胸が膨らむ。
自由とはなんと素晴らしいものなんだろうか。
そして俺は空に向かい高らかに宣言する。
「――さぁ冒険へ出かけよう」
目覚めて第一声に口にした言葉はそれだった。
周りの景色は気を失う以前と何ら変わらない。倒れ伏す同胞、大気に混じった血の匂い。
俺だけが生き残ってしまった。
唯一変わっている点は腹部にあったはずの傷がきれいさっぱりなくなっている点だ。
「間違いなく刺されたはずだよな?」
敵兵に剣で貫かれた箇所を何度も触って確かめたが傷痕すらなかった。
意識を手放す前に出会ったあの白服の少年が助けてくれたのだろうか。
意識を手放す前のことを思い返す。
『――治癒の神なり』
あの少年が言っていた言葉。
治すとしたらあの少年しか思い当たる節がない。
まさか本当に神様ということはなかろう。
この世界には魔法が存在する。開いた傷を跡もなく消し去ることが可能か不可能かと問われれば可能だ。
あの少年はもしかしたら治癒師だったのだろうか。察するに通りすがりの冒険者といったところか。
だとしてもこんな戦場真っただなかの地にどうして?
なんにせよ本人がいない今、ただの臆測にしかならない。
もう一度会えたなら礼を言わなければいけないな。
その想いを胸にしまい俺はこれからについて考えを巡らせる。
とりあえず、
「――辞表出しに行くか」
◆◆◆
「ご報告申し上げます。第一部隊所属ラムダ・アルカリオ一般兵、ただいま帰還いたしました」
俺が報告する相手は煌びやかな玉座に座る白いひげを生やした高齢の男。我が国、レイダムの国王、ザリオス・レイダム。
「のうのうと還ってきおって! この役立たずが! お主は王国に忠誠を誓った身であろう! ならば死しても多くの首級を挙げ、一騎でも多く屠ってこんか!」
命からがら王城に還り玉座の間に赴いた俺は国王ザリオスから罵倒の嵐を浴びせられていた。
「高い金を払っておるんだ! 一つでも国に尽くし勝利を捧げよ!」
このクソジジイは金を払えば他人の命などどうなってもいいと思っていることがよく分かった。
そもそもその金も民からかき集めた金だというのに。
今回の戦で俺の所属するレイダム騎士団の第一部隊は俺を除き全滅した。
こんなジジイのために同胞が死んでいったことを考えると心の底から怒りがこみ上げてくる。
死んででも尽くせという王の言葉を咎めるもの誰もはいない。
人がいないというわけではなく玉座の間にはお偉い役職の者たちが数人鎮座している。
薄々気づいていたがこいつらもこの国王と同類なのだろうな。
裏で脱税をしていると噂の宰相。指揮しか出さず戦場には一切出向かない騎士団長。
自分より階級の上の者には頭を下げるが下の者にはころりと態度を変え、目の敵のように暴言を浴びせるこきをつかう者たちばかりだ。
自分がいい思いができればそれでいいのだろうな。
一般兵を務めて1年と半月、今が頃合いだろう。
そう思い、懐から用意していた物を取り出す。
「お役に立てず誠に申しわけありませんでした。――なので辞職します」
俺はそう言いながら取り出した辞表を床に置いた。
「ん? 貴様今なんといった! 辞職だと? 無駄口をたたいてる暇があるなら職務を務めよ! 死ぬ気で働かんか!」
だめだ、もう怒りが抑えられん。
俺はとうとう我慢の限界に達した。
「さっきから聞いていれば……兵の命を駒としか見ないあなたに忠誠を誓え? 反吐が出る」
「ッ?! 言葉を控えんか!敵前で逃亡する臆病者が!」
沈黙を守っていた騎士団長が割って入る。
俺は騎士団長を睨み答える。
「臆病者? まるで自分は臆病者ではないかのような口ぶりですね騎士団長。あなたや国王が戦場に同行したことが一度でもありましたか? あなたたちが戦場に赴きでもすれば騎士たちの士気も上がったかもしれない。籠城をきめこみ敵前にすら立たぬ者に言われる筋合いはない」
「ぐぬっ」
図星を言われ口ごもる騎士団長。
国王に向き直り今まで溜まった鬱憤を吐き出す。
「言わせてもらうが国王、戦に勝てなかったのはあなたの責任だ。俺は言われた通り戦場に行ったし、責務を全うし命を賭けて戦った! それを臆病者よばわりする言われわない! もううんざりなんだよ。何が我が国のためだ」
俺は辞表を投げつけ踵を翻し国王に背を向ける。
「恩を仇で返すとはッ! 貴様ああッ!」
後ろから国王の怒鳴り声が聞こえるが黙殺し歩を進める。
恩をもらった覚えなどない。死線なら何度ももらったがな。
王城を出た青空の下、俺の心はすがすがしいほどにすっきりとしていた。
これで俺は自由だ。
自然と顔から笑みがこぼれる。
これからの出来事への期待で胸が膨らむ。
自由とはなんと素晴らしいものなんだろうか。
そして俺は空に向かい高らかに宣言する。
「――さぁ冒険へ出かけよう」
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