上 下
12 / 12
第1章 悲劇の始まり

12話

しおりを挟む
僕たちは森の入り口近くまで来た。
後悔が頭をよぎる。父さんと母さんを残したまま逃げてよかったのか。
だが、戻ったところでおそらく何もできない。それほどのまがまがしいなにかをあの男から感じた。
あいつの狙いはきっと僕だ。戻れば兄様は許してくれるかもしれない。でも怖い。恐怖、それが僕の意思を覆い隠す。

突然兄様が倒れる。

「どうしたの兄様」

声をかけても返事がない。様子がおかしい。でも早くしないと追いつかれてしまう。一刻の猶予もない。

そのとき後方で何かのうめき声が聞こえた。

なんだあれ。

そこには目の結膜が黒く染まり肌が黒色の何かがたっていた。

「うぅぅ」

獣のような目がこちらを睨みつける。
僕たちを見つけると猛スピードでこちらにかけてくる。

僕は鞘から剣を抜く。

アイツの追ってか。

動きが直線的だから落ち着いて対処すれば大丈夫。落ち着け、落ち着け......
兄様が動けない今僕がしっかりしないと。自分に活を入れる。

何度も兄様と練習した動作を再現する。

相手の動きをよく見て躱す。背中に回り込み足で押し蹴る。
倒れた背中から剣を突き刺す。

「はあっ」

「グガアアア」

動きが止まり安堵する。
力がなくなったそれを見ると見覚えのある顔だと気づく。

そこであいつの言っていた言葉を思い出す。

ーー「そろそろ人じゃなくなるころですかね?」

「ッ! うっ……ごめんなさい」

吐きそうになる口元を抑え今もなお倒れている兄様のほうへ向かう。

「どうしたの兄様」

「なんでかしらねーけど指が動かないんだ」

兄様の結膜が黒色に染まっている。
足と手の爪先が徐々に黒く変色していってる。
さっきの人と同じ。首筋になにかに刺された跡がある。

「刺せルイ」
先ほどの戦いを見ていたのだろう。兄様は悟ったのだ。あの黒いのと同じになる未来を。

「いやだ」

「俺が俺じゃなくなる前に早く」

「そんな……」

うまく力が入らず握りていない弱々しい兄様の握り拳が僕の胸に軽く当てられる。

「俺の分まで生きてくれルイ。お前は俺より優秀だからな。最後まで情けない兄様でゴメンな。」

そう言って笑う。

「なんで諦めるんだよ、、いつもの負けず嫌いはどこいったんだよおおお! ちけくしょおお! なおれ! なおれ! なおれ!」

母様の目も不死の病も治させた力がまるで効かなかった。

「なんで……なんで治らないんだよ!」

自惚れていたのだ、自分が特別であると。だからなんの躊躇いもなしに治してしまった。後悔してももう戻ることは出来ない。

「ルイ」
「……いやだ」

「お願いだ」

「....ぐっうああああああ」

「ありがとう……ルイ」

(兄様の分まで僕が生きる。兄様の目指していた最強の剣士に僕がなる。誰かを守れるように。って家族を守れない僕が何言ってるんだよ。
絶対に許さない。あの男だけは絶対に。)

「取り込み中悪いな」
姿を現したのは赤色に染まった髪を後ろで結び着物を着ている女性。腰には刀を携えている。

「私の名は神童 紅。状況を教えてもらおうか」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ
ファンタジー
『神様のミスにより、異世界に行く』、と言うネット界に掃いて捨てるほど存在しているありがちな展開で異世界レアルリンドに転移する事になった少女リン。 神様からお詫びとしてチートを貰うと言う最早お馴染みすぎるイベントをこなし、異世界の地に降り立ったリンは安住の地を求めて冒険の旅に出る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...