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第3章 勇者たちの行方
1.
しおりを挟む松本 健二郎が状況を理解するのに時間がかかった事は言うまでもない。
何故なら、さっきまで自分たちは教室にいたはずなのだ。
友人達と話をしており、椅子に座っていたはずなのだ。
「ここは、どこだ………」
周りを見るとどうやら他のクラスメイト達もおり
みんな混乱しているようだ。
「ここはどこ………」
「学校にいたはずなのに………」
俺たち以外にも黒い服の神父のような人たちが俺たちを囲むようにして立っており
白い服を着て倒れている人たちがいる。
「よくぞ来てくださいました。勇者殿」
低い声がフロア全体を包む。
この声、教室にいた時に聞いた声だ。
クラスメイト全員でフロア前方を見る。
「我がリービッヒ国へようこそいらっしゃいました。異世界の勇者様方」
男の隣には、小柄で着飾った女性が
私たちに祈りを向けかのようにして手を合わせていた。
「召喚が成功したのも、エリーゼのおかげだ。」
「いいえ、とんでもございませんわ。娘として当然のことをしたまでですわ。
なぜならこの国の危機ですもの」
「そうだな、だがこの国の危機も彼らがいれば問題ないだろう」
「えぇ、私はそう確信しておりますわ」
未だ頭が追いついていかない。
「すみません。ここはどこなのでしょうか。
日本ではないのは分かりましたが……」
健二郎は、追いつかないながらもこの場を理解しようとしていた。
「そうだな、ここはリービッヒ国という。
お前さんらとは違う世界にある国だ。
ここにはお前さん達には我が国の危機を救ってもらいたく
国王の名の下に君たちを召喚させてもらった」
「異世界召喚ってやつか!」
一部のクラスメイト達が騒ぐ。
最近そういった異世界転生や異世界召喚ものが流行っているのは
健二郎もわかってはいたが、
(まさか実際に異世界へ、なんてありえるのか)
健二郎は癖である唇に人差し指の第二関節をつけるような形で考える。
(確かに俺たちは教室にいた。その後ハウリングしたかのような
声が響き、床が光って、いつの間にかここに。移動した際の記憶が全くない)
「まさか、本当に異世界へ転移したというのか……」
健二郎がそう呟くと、
困惑していたクラスメイト達が一斉に騒ぎ出す。
「返して、返してよ」「お父さん、お母さん……」
「夢よ、夢!こんなのありえないわ」
「うわ、マジもんかよ!」
「これ勇者無双しちゃう感じかwww」
驚く者、混乱して泣きじゃくる者、
理解できず呆然とする者、物語の世界だと嬉々する者
様々な感情がその場には溢れていた。
「皆さん!!!」
エリーゼと言われていた女性が
一言でその場を静かにさせた。
「混乱させるようなことになってしまい申し訳ありません。
けど、今の私たちには貴方達が希望の光なのです。
この世界には魔物がおり、必ずや近い未来に魔王一族がここを襲ってくると
この私に女神の予言が伝えてきました。
ただ、私たちは無力でして、魔物を倒せるのは、皆様方しかおりません。
どうか皆様のお力をお貸しくださいませ。お願いいたします。勇者の方々。」
「そいうなら」
「この国の危機ですものね」
「俺たちは希望の光だからな」
クラスメイト達がポジティブな思考へと変わっていく。
(なんなんだこの違和感…)
俺以外に違和感を感じているものが居るのか、、、
健二郎は周りを見回す。
そして、気づいたのだーーーーー
「和田と深見がいない、、、」
「そういえば、、、」「クラスにはいたよな?」
「あいつらランデブーか?笑」「相変わらずだな」
一部の男子生徒がおちょくるが、
健二郎からしたらライバルでもあり、この場にいたら
この違和感に気づくことができるであろう和田がいないのだ。
「エ、エリーゼ様。
皆さんは、一体何人召喚したのでしょうか。」
「何人、、、、
そこに居る白装束の人たち分ですわよ?」
エリーゼはにっこりと笑った。
俺は、クラスメイトをかき分け、人数を数える。
全員で30名だった。俺たちのクラスも30名。
間違いなく、全員転移されているはずだ。
「俺たちのクラスは30名、だがここには28名しかいない」
「もしかしたら、他の世界とかですかね~。
でもいいじゃないですか。30名中28名も成功したんですから」
「そうだな」「失敗して変なところに行くよりいいわよね」
「俺らは成功した側にいるんだ」
(また、この違和感だ……)
「そうです、皆さんは選ばれた者なのです!
これから皆さんには本当の勇者になっていただきたく
思いますがそれは明日以降にいたしましょう。
まずは皆様お疲れでしょうから、
皆様のお部屋を用意しておりますのでお休みください。
ただあいにく1人1部屋となりませんが、ご了承くださいませ。
そしてささやかながら皆様との出会いに感謝し
宴を設ける準備もしております」
(エリーゼ様の声を聞くと、なんだか頭に靄がかかったような感じに……)
思わず、顔をしかめてしまう。
「松本くん、耳を塞いで、声を気にしちゃダメ、、、」
小声で声をかけてきたのは、〈安藤 沙織〉だった。
「話したいことがあるの、夜会えないかな?
松本くんの他には遠藤くんにも声かけてるから」
遠藤……、俺は遠藤の方をみる。
そんなに遠くはない距離で、遠藤が俺たちの方を見ていた。
「それじゃ」
あれ、安藤の姿が消えたように見えた。
いや違う、すごい速さで俺から離れていたのだ。
それは、あたかも俺の傍に来ていないような感じだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その夜は国王が用意した宴会が行われた。
クラスメイト達は昼間の話が嘘だったかのように盛り上がっている。
違和感しか感じなかった俺は近くの円柱に寄りかかり
ジュース片手にその様子を見ていた。
(なぜみんな陽気でいられるんだ。)
女子の方は部屋に用意されていたのかドレスを着ている。
(明日から勇者になれと言われているのに、危機感というものはないのか………。)
それに和田と深見に関しても、
不思議なことに途中からみんな気にしないようになっていた。
(あんなでも、クラスメイトのはずだ…なのに何故……。
あたかも別の事に意識が向いたようなーーーーー)
「松本くん」
小声で安藤が話しかけてきた。
「あんど……」
「声を出さないで、誰に聞かれているか分からないから」
「だれかって………」
俺は後ろから声がするため、振り返ろうとする。
「だから声を出さないで、後ろも振り向かないで」
「……………」
「今日の23時に西広場の裏手で待ってるから。じゃ」
そういうと安藤は行ってしまった。
あれ、いま安藤は他のクラスメイト達と話している。
(ーーーーーどういうことだ)
俺にはさっぱりだった。
「けんじろーう。楽しんでるーーー??」
陽気に声をかけてきたのは、持田だった。
正直、俺は苦手としているタイプである。
あざといのが好きな男はたくさんいると思うが
(俺は追いかけられより、追いたいタイプなんだよ)
ふと和田の事を思い出した。
いかん、いかん。
これはもう忘れた恋だ。これは………
「あたし、健二郎が勇者だと思うんだー?どうかな?」
「知らん」
「健二郎は自分のステータス見てないの?」
「なんだそれ」
「ステータスオープンって言うと自分の前に画面が出てくるんだよ」
俺は持田に言われるがままにステータスを見た。
《ケンジロウ 勇者 Lv15》
確かに画面のようなものが見えた。
そして、俺は持田の言う通り勇者という者らしい。
(このまま、持田に伝えたら、、どうなるんだ?)
正直健二郎は躊躇っていた。
勇者など、俺には不釣り合いだからだ。
こんな時、和田にいてほしいと思うのは
きっと、、、、、
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