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神の怒り

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広範囲に渡る大規模な災害級下降気流ダウンバーストが生じた。

そこかしこで隕石のごとき巨大な雹が飛び交い、猛烈な勢いで無数の竜巻が巻き起こる。
しかしこれらの言わば単なる自然現象などは、ただの前触れに過ぎない。

――天から光が降りてきた。
世界が白く染まる。
音も景色も、すべてが消失した。

は天よりきたりて世界を浄化せし白光びゃっこう

光の正体は直径数十キロにも及ぶ極太の稲妻、その雷光だった。
しかもこれはただの落雷などでは決してなく、神威しんいを宿した浄化のいかづちだ。
空前絶後のその威力たるや、天の最高峰、第七天アラボトのすべてを崩壊させんとするほどである。



巨体全部で覆い被さるようにして屋敷を護っていた空獣ジズに、神罰が降り注ぐ。

《――きゃああああああああああっ!》

神の怒りを一身に受けたジズが、悲痛な声を上げた。
苦悶している。

空獣化したジズの身体は、常から十重二十重とえはたえにも及ぶ強力な障壁を纏っている。

それは、
『超高位神力遮断障壁』
『超高位魔力遮断障壁』
『超高位物理遮断障壁』
果てには『次元断層』まで――

ゆえに並の攻撃ではジズに届かない。
毛ほどの傷も負わせられない。
しかし神罰はそれら全ての護りをいとも容易くぶち抜き、ジズという存在の中心、その神核にダメージを与える。

(――ぁ、)

ジズの意識が一瞬飛んだ。
崩れ落ちそうになる。
しかしジズは、自分が護るべき存在――ルシフェルの姿を思い出す。
優しく頭を撫でてくれるルシフェルの姿。
そのぬくもり。
失いたくはない。
ジズはすんでのところで脚を踏ん張った。
決死の想いで屋敷を護り続ける。

《……ぐぎぎぎぎぎ……! た、耐える……絶対に耐えてみせるの……! だってジズが耐えきれずに死んじゃったら、次は屋敷にいるリンドや……ルシフェル様が……!》



――永劫かのごとき刹那。
ようやく神罰が収まった。

見渡す限りの大地は完全に浄化され、草木の一本すら残ってはいない。
しかしそんな中で、ただジズが護り続けた屋敷だけが、なんとか形を残していた。

空獣ジズが崩れ落ちる。
ずしんと地面を大きく揺らしてから、ジズはその巨体を地に横たわらせた。
瀕死である。
ジズはもはや虫の息であり、しかしそれでも《……護るの……護るの……》と、消え入りそうな想いを呟き続けている。

屋敷内ではすべての天使メイドが床に倒れていた。
ジズの防御をすり抜けた僅かな稲妻が、メイドたちを襲ったのだ。
アイラリンドも倒れている。
これはアイラリンドと直結した超天空城、ひいては第七天アラボトが神罰により深刻なダメージを受けた影響である。

「みんな! だ、大丈夫⁉︎」

ルシフェルが叫んだ。
まず最初にアイラリンドを抱え起こして息があることに安堵すると、次に天使メイドたちの安否を確認して回る。

「……よ、良かった……。だ、誰も、死んでない……」

すべてジズのおかげだ。
付近一帯は壊滅的被害を被ったものの、ジズがその身を呈して屋敷を護ってくれたおかげで、こうして人的被害はゼロに抑えられたのだ。

ルシフェルは感謝を伝えるとともに、ジズの容体を確認するため、ボロボロになったテラスに走り出た。
すると、その時――



上空で積乱雲が発達していく。
広範囲にわたる雲は大きく渦を巻き、再び超巨大積乱雲スーパーセルを形成していく。

――神罰、神の怒り。
その再来である。

ルシフェルは目を疑った。

「……な、なんで⁉︎」

慌ててタブレット端末取り出し、神罰アプリを確認する。
そして神罰実行回数がリピートに設定されていることに気付き、愕然とした。

「……う、嘘……」

慌ててリピート設定を取り消す。
しかし時すでに遅しだ。
上空ではすでに、超巨大積乱雲が出来上がっていた。
ルシフェルにはこれをキャンセルする方法が分からない。

呆然となったルシフェルは、周囲を見渡した。
ジズも、アイラリンドも、天使メイドたちも、みなが意識を失っている。
いや、天使メイド統括たる土曜の座天使ソロネシェバトだけはいち早く意識を取り戻し、なんとかルシフェルを護ろうともがいてはいる。
けれどもシェバトも、一度膝立ちまで起きあがってから、また床に崩れ落ちた。

天には神の怒りの予兆。
この神罰が再び下されれば、今度こそ確実にみんな死んでしまう。
ルシフェルは絶望に顔を覆った。
その時――



次元震が起きた。
屋敷の上空。
そこで第七天アラボトと、アラボトを除く他の六つの天国が接続されていく。
繋がった先は――

第一天、ヴィロン。
第二天、ラキア。
第三天、シャハクィム。
第四天、ゼブル。
第五天、マオン。
第六天、マコン。

救いがもたらされる。
接続された各々の天国から、光輝なる三対六翼を戴く熾天使たちセラフィム――
すなわちルシフェルを護る守護天使、精強なる天の護り手たちが姿を現したのであった。
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