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GUIは偉大な発明です。

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ルシフェルが手渡されたタブレット端末をタップすると、液晶パネルらしき箇所が淡く光った。

「うわっ、画面がついた!」

タブレット端末の画面にはいくつかのアイコンが配置されている。
デフォルトの壁紙設定は、なんか玉座の前でかしずく配下の天使たちと、それを偉そうに睥睨へいげいしているルシフェルという画像だ。
ルシフェルは思わず顔を背けた。
アイラリンドに尋ねる。

「……なに……この、変な壁紙……?」
「変ではございません。素敵にございます」
「ふ、ふぅん。でもこれは、取り敢えず変更するから」
「あっ、そんな。もったいのうございます……」

こっぱずかしくなったルシフェルは、即座に壁紙設定を変更した。
今度はどこにでありそうな風景壁紙である。
アイラリンドは残念そうだ。

ルシフェルは改めて、手元のタブレット画面を眺めた。
アイコンが配置されている。
端から順に『生産』『操作』『情報』『設定』
など。
アイコンは他にもまだいくつかある。

「んっと。こうかな?」

手始めにルシフェルは『生産』のアイコンをタップしてみた。
端末液晶にゲームアプリ風のウィンドウが展開される。
そこには『天地開闢かいびゃく』『生命創生』『物質創造』など、他にも細分化されたいくつかの項目が並んでいた。

試しに『物質創造』を選択し、さらに派生したいくつもの選択肢――武器、防具、建物、日用品、その他、多岐に渡る――のなかから『家具』を選ぶ。

そしてルシフェルは『ハンモック』をタップし、色や材質や形状などを細かくカスタマイズ。
最後にポップアップ場所として、今いる寝室を指定した。
すると――



ポンっとハンモックが現れた。
ルシフェルは目を丸くする。

唐突な、それこそゲームのアイテムドロップみたいな現れ方ではあるものの、目の前に出現したハンモックはリアルそのものだった。

「――ふぁ⁉︎ なんか出てきたんだけど! って、これ、今俺がアプリで作ってたハンモックじゃない⁉︎ なんで?」
「わぁ! 面白そうなのが出てきたの!」

ジズがパタパタ飛んだかと思うと、ハンモックにダイブした。
金具が軋む。
ジズの小柄な身体を受け止めたハンモックは、金具をギシギシ鳴らしながらゆらゆらとネットを揺らしている。

「きゃ! きゃ! これ揺れてバランスが取りにくいの! でも楽しいー。えへへ」

はしゃぐジズを他所に、アイラリンドが頭を下げる。
ルシフェルは困惑している。

「ルシフェル様、おめでとうございます。問題なく奇跡を行使なさいましたご様子。僭越ながら私、アイラリンドは少しホッと致しました」
「……どういうこと?」
「いま、ルシフェル様は神の権能をお使いになられたのです」

ルシフェルは手元のタブレット端末に視線を落とした。
自分は特に何かをしたつもりはない。
なのにアイラリンドは、ルシフェルが奇跡を行使したと言う。
つまりこのタブレット端末に、神の権能が宿っているということだろうか。
尋ねてみると、アイラリンドはふるふると首を横に振った。

「いいえ、違います。そのタブレット端末はあくまで補助ツール。ルシフェル様に、神の権能を直感的、かつ視覚的にご行使頂くために不肖この私めがご用意させて頂きました、ただの玩具おもちゃにございます」

ルシフェルはなるほどと思う。
つまりはGグラフィカルUユーザーIインターフェースは大事だねって話だ。

かつて日本、……というより世界のPC市場においても旧来のコマンドライン入力から、カラフルなGUIを搭載したWindows95が登場して爆発的に普及したことがある。
見た目の分かりやすさは大切なのだ。

アイラリンドは続ける。

「もし仮にルシフェル様以外の他者がそのタブレット端末を操作しても、何も起きません。そもそも端末には何の力も宿っていないのですから。神の権能は貴方様の御霊に根付いたもの。意識はせずとも、いま奇跡を行使なさったのはルシフェル様ご自身なのでございます」
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