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【番外編】20年後の話・1
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末娘が何か思いつめたような顔をしながら近寄ってきたので、
私は思った。
あ、なんか面倒なこと言い出しそうだなと。
「お母さま、このまま地上に降りることはできますか?」
うん、期待を裏切ない言葉が聞こえた。
私はため息をひとつこぼした。
この娘は、まったく……
「一体どうしたのだ?」
ここ20年ぐらいは大人しくしていたというのに。
私が半ばあきれながら聞くと、
末娘は、やや前のめりになりながら話し出した。
「あのですね、私、地上から帰ってきてから、
あの子をこっそり見続けていたんです」
うん、知っている。
暇があれば、あの男の様子を見るために
地上を覗いていたのを。
「あの子の瞳がだんだん綺麗になってきて、
そのことはとっても嬉しいのです。
でも、あの子、ちっとも幸せそうではないのです。
いつも難しそうな顔をして、自分の幸せではなく
ただただあの国のことしか考えていないようで……心配なのです」
まぁ、あの男としては、罪の意識が強すぎて、
自身の幸せなど考えられないのだろう。
「あれから20年経ったのですよ?
地上の時間から考えたら長い時間でしょう。
もうアーリアから解放されて、あの子自身の幸せを考えてもいいと思うのです。
でもあの様子だと、そんなことしそうにないんです」
確かに何かきっかけがなければ、難しいだろうなぁ。
「だから、私、あの子に言いたいんです。
もういいんだよって。あなたの償いは終わったんだよって。
私から言ったら、聞いてくれるかもしれないでしょう?」
末娘はそう言って私をじっと見つめる。
娘の言いたいことはわかった。
というか、まだあの男のことを気にいっているのだな。
随分思い入れているようだが、まさか……
いや、このことは、まだこれ以上考えないでおこう。
さて、どうするか。
私としては、末娘が地上に関わるのはまだ早い気がしている。
この娘はちょっと好奇心が強すぎるし、
思い込んだら突っ走ってしまう傾向にあるし。
ほんと、誰に似たんだか。
あ、夫か。
確か10年前に、また勇者やってくるからいい子で待っててね
とか言って地上に降りていったなぁ。
あやつもいつになったら落ち着いてくれるんだ?
いや、まぁそういうところも好きだけど。
いかんいかん、話がそれた。
今は夫ではなく、末娘のことだ
少し心配だが、禁止して暴走されるよりは、
約束をさせて許してやる方が良かろう。
……我ながら甘いと思うが、いいのだ。
「末娘や、私との約束を守ってくれるなら許してやるぞ?」
「はい、お母さま」
末娘は、嬉しそうに返事をした。
うん、良い笑顔だ。
「まず、このまま顕現するのはダメだ。お前の性質を媒体にして地上に行きなさい」
「はい」
「それと、あの男が1人の時に会いに行きなさい。
他の人間に気づかれてはダメだ。話をするのもあの男とだけだ」
「はい」
「あと……かならず戻ってくること。地上に行ったままではダメだからな」
「……はい」
最後の約束にだけ、ちょっと返事が遅かった。
視線もちょっとだけ逸らしたし。
はぁ、大丈夫だろうか。
「末娘や、約束を破ったら……」
「お母さま。私、お母さまとの約束は破りませんわ。
ちゃんと守ります」
私の心配をよそに、今度はしっかり私の目をみて返事をした。
まぁ、信じてやろう。
仮に帰ってこないようだったら、他の子を迎えにやればよいか。
「では、行っておいで」
「はい。ありがとうございます、お母さま」
………………………………………
読んでくださってありがとうございます。
感想の受付なのですが、諸事情により個々のお返事ができそうにないので、
閉じさせてもらいました。申し訳ありません。
これまでに感想を書いていただいた方、ありがとうございました。
お返事はできませんが、読ませていただきました。
私は思った。
あ、なんか面倒なこと言い出しそうだなと。
「お母さま、このまま地上に降りることはできますか?」
うん、期待を裏切ない言葉が聞こえた。
私はため息をひとつこぼした。
この娘は、まったく……
「一体どうしたのだ?」
ここ20年ぐらいは大人しくしていたというのに。
私が半ばあきれながら聞くと、
末娘は、やや前のめりになりながら話し出した。
「あのですね、私、地上から帰ってきてから、
あの子をこっそり見続けていたんです」
うん、知っている。
暇があれば、あの男の様子を見るために
地上を覗いていたのを。
「あの子の瞳がだんだん綺麗になってきて、
そのことはとっても嬉しいのです。
でも、あの子、ちっとも幸せそうではないのです。
いつも難しそうな顔をして、自分の幸せではなく
ただただあの国のことしか考えていないようで……心配なのです」
まぁ、あの男としては、罪の意識が強すぎて、
自身の幸せなど考えられないのだろう。
「あれから20年経ったのですよ?
地上の時間から考えたら長い時間でしょう。
もうアーリアから解放されて、あの子自身の幸せを考えてもいいと思うのです。
でもあの様子だと、そんなことしそうにないんです」
確かに何かきっかけがなければ、難しいだろうなぁ。
「だから、私、あの子に言いたいんです。
もういいんだよって。あなたの償いは終わったんだよって。
私から言ったら、聞いてくれるかもしれないでしょう?」
末娘はそう言って私をじっと見つめる。
娘の言いたいことはわかった。
というか、まだあの男のことを気にいっているのだな。
随分思い入れているようだが、まさか……
いや、このことは、まだこれ以上考えないでおこう。
さて、どうするか。
私としては、末娘が地上に関わるのはまだ早い気がしている。
この娘はちょっと好奇心が強すぎるし、
思い込んだら突っ走ってしまう傾向にあるし。
ほんと、誰に似たんだか。
あ、夫か。
確か10年前に、また勇者やってくるからいい子で待っててね
とか言って地上に降りていったなぁ。
あやつもいつになったら落ち着いてくれるんだ?
いや、まぁそういうところも好きだけど。
いかんいかん、話がそれた。
今は夫ではなく、末娘のことだ
少し心配だが、禁止して暴走されるよりは、
約束をさせて許してやる方が良かろう。
……我ながら甘いと思うが、いいのだ。
「末娘や、私との約束を守ってくれるなら許してやるぞ?」
「はい、お母さま」
末娘は、嬉しそうに返事をした。
うん、良い笑顔だ。
「まず、このまま顕現するのはダメだ。お前の性質を媒体にして地上に行きなさい」
「はい」
「それと、あの男が1人の時に会いに行きなさい。
他の人間に気づかれてはダメだ。話をするのもあの男とだけだ」
「はい」
「あと……かならず戻ってくること。地上に行ったままではダメだからな」
「……はい」
最後の約束にだけ、ちょっと返事が遅かった。
視線もちょっとだけ逸らしたし。
はぁ、大丈夫だろうか。
「末娘や、約束を破ったら……」
「お母さま。私、お母さまとの約束は破りませんわ。
ちゃんと守ります」
私の心配をよそに、今度はしっかり私の目をみて返事をした。
まぁ、信じてやろう。
仮に帰ってこないようだったら、他の子を迎えにやればよいか。
「では、行っておいで」
「はい。ありがとうございます、お母さま」
………………………………………
読んでくださってありがとうございます。
感想の受付なのですが、諸事情により個々のお返事ができそうにないので、
閉じさせてもらいました。申し訳ありません。
これまでに感想を書いていただいた方、ありがとうございました。
お返事はできませんが、読ませていただきました。
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