某国王家の結婚事情

小夏 礼

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ダミアンとバルボラ 3(ダミアン)

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私は、それでも幸せだと思えた。




「おじいさま!」
急に幼い子供の声が聞こえて、意識が戻った。
どうやらソファで目を閉じたまま、転寝をしてしまったようだ。

目を開くと、そこには孫であるダーリヤがいた。
「こんなところでねたらダメなんですよ?おかあさまにおこられちゃいますよ?」
私の膝の上に乗りながら、そんなことを言う。

その様子に、もう一人の孫マクシムが呆れながら言った。
「ダーリヤ、お爺さまの上に乗るなよ」
「やーです」
「お前、最近太ったんだから、お爺さまが辛いだろ」
「ふ、ふとってないもん!マクシムおにいさまのいじわる!!」
孫二人のやりとりが微笑ましくて、顔がゆるんでしまう。
「まあまあ、二人とも落ち着きなさい。マクシム、私は大丈夫だから。お前もこちらにおいで」
「……うん」
膝の上のダーリヤの頭を撫でながら、マクシムに声をかける。マクシムは私の言葉に従い、私の隣に腰を下ろした。

「で、二人ともどうしたんだ?」
「僕達の先生、今日急に来れなくなって暇になったから、お爺さまに会いにきました」
「ジアーナは?」
「ジアーナおねえさまは、きぶんがすぐれないからおへやでおやすみしてます」
「そうか、それは心配だな」
「ここに来る前に会ってきましたが、姉さま大丈夫そうでしたよ」

ジアーナも孫の一人だが、四人の中で少し体が弱い。そのため、時々寝込むことがあるのだが、今回もその類だろうか。早く良くなれば良いのだが。

「ねえねえ、おじいさま」
そんな風に思っていると、ダーリヤが私の胸元をひっぱった。
「何だ?」
「きょう、レオおにいさまのおよめさんがきまったんですよね?」
「ああ、そうだな」

私が肯定すると、ダーリヤが目を輝かせた。
「レオおにいさまのおよめさん、どんなかたですか?」
婚約式には三人の孫は出ていないから、レオの相手とはまだ会っていないのだろう。
レオの相手。アリーナの孫。
「うむ。私も今日初めて会ったからまだわからないが、意志が強そうな令嬢だったな」
瞳の色は違ったが、アリーナのよく似た眼差しだった。

「あと、レオと仲良さそうだったぞ」
まだお互いよく知らない故の距離感はあれど、その雰囲気は悪くなかったと感じた。あれなら、大丈夫だろう。

「あたしともなかよくしてくれるかな?」
「大丈夫だろう」
「うふふ。あえるのたのしみです」
にこにこ笑いながらダーリヤは体を揺らした。その重みに、この子も大きくなったものだと思った。生まれた時はあんなに小さかったのに。

「僕もレオ兄さまと同じ年になったら、お嫁さん選ぶんですか?」
そんな感慨に耽っている私の横で、難しそうな顔をしてマクシムが聞いてきた。
「いや、レオは王太子だから少し早かっただけで、お前はもう少し遅くても大丈夫だろう」
「そうですか」
明らかにほっとしたように言うので、少しおかしかった。まだマクシムには早い話だから、当たり前かもしれない。

「お前たちも大きくなったら、相手を選ぶ日が来るだろう。その時はしっかり選ぶんだぞ」
「はーい」
「そして、お前達の両親のようになるんだぞ」
「お父さまとお母さまのように……ですか?」
若干、怪訝そうに言うので、気になった。

「なんだ、マクシムは両親のようになるのは嫌か?」
「……嫌というか、お父さまはお母さまのこと好きすぎるように思う。見ているこちらが恥ずかしいというか……」
両親の仲睦まじい姿を思い浮かべたのか、ややうんざりしたような顔をした。

確かに、息子夫婦は仲睦まじい。どこでも隙あらばイチャついているとも言う。主に息子が仕掛けているようだが。あれで政略結婚だとは信じられないだろうな。

「なにもあれを真似ろと言うわけではないさ」
うんざりした顔をしたマクシムの頭をあやすように撫でてやる。
「ただ、お互いを思いやれる相手を見つけてほしいだけだ」

そう、息子は間違えかけたが、間違えなかった。
だからこそ、今の幸せがあるのだろう。

「うーん?おじいさまはみつけられなかったんですか?だからおばあさまここにいないんですか?」
「お、おいっ」
無邪気に聞いてくるダーリヤに、マクシムが慌てたような声を出した。
「だって、きになるんですもの。マクシムおにいさまだってそうでしょう?」
「そ、そりゃあ、気になるけど……」

二人の様子に苦笑いが零れた。
幼子ではあるが、ダーリヤは私の嫁であるバルボラが王城にいないことを不思議に思っていたのだろう。両親が仲が良いからなおさら、なぜ私の傍にいないのかと思ったのかもしれない。

本当は違うが世間的には、私の妃であるバルボラは、不治の病で離宮にて療養中とのことになっている。
だが、貴族の間では私達の不仲は有名だ。そのため、王城ではバルボラのことは禁止にしているわけではないが、滅多に話題に出ない。たぶん、息子もバルボラが子育てを乳母に任せきりにしていたから交流はないはず。だから話題に出すこともないだろう。

それゆえ、なおさらダーリヤには不思議に思えたのかもしれない。

マクシムもそうなのだろうが、この子は年の割に聡い子だから、聞いてはいけないこととして、今まで聞いてこなかったのだろう。

「……そうだな」
私がぽつりと言うと、二人が目を瞬かせた。
「……おばあさまがここにいないのは病気のせいだが、それ以前に私とは仲が良くないんだよ」
「およめさんなのに?」
「ああ、お嫁さんだけどだ。……私が仲良くなれる人は彼女だと思ったが、違ったんだ。私は愚かだったからわからなかったんだ」
「……」
「だから、お前たちにはそうなってほしくないんだよ」

私自身はダメだったが、息子は大丈夫だった。なら孫達も大丈夫だとは思うが、心配する気持ちが出てくる。
私のようにはなってほしくないのだ。
一人で寂しいのは、私だけで十分だ。

二人に微笑めば、ダーリヤが抱きついてきた。
「わたしは、おじいさまだいすきです!」
ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられる。たぶん、私を慰めようとしてくれているのだろう。孫の優しさが心にしみる。
「私もダーリヤが大好きだぞ」
抱きしめ返せば、うれしそうに笑い声をあげる。

その様子を見ながら、マクシムが私の腕に触れた。
「僕も……お爺さまのこと好きですよ。愚かだなんて思わない」
「マクシム」
「だって、お爺さまは自分の間違いをわかっているし、僕達のことを想ってくれている。愚かじゃないですよ」

マクシムの言葉に涙が出そうだった。
そうか、そう思ってくれるのか。

私の評判は、昔ほど悪いものではなくなったが、それでも良いとは言い難いものが多い。聡いマクシムのことだから、そういう噂話も耳に入っているだろうに。それでも、私を慕ってくれるのだ。

片手を伸ばし、隣にいるマクシムを抱き寄せる。
「私もマクシムのこと好きだぞ。……二人ともありがとう。可愛い孫に好かれて、私は幸せ者だ」

二人の孫は私の腕の中で、笑ってくれた。


私は、昔、愚かさゆえに間違った選択をした。
そのために、思い合える伴侶は得られなかった。

しかし、今こうして、私を好いてくれる孫がいてくれる。
私は幸せだと素直に思った。
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