私はこのセカイに平和を望み貴方はこのセカイで何を望む?

parasan

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第一章【親亡き復讐者】~Who is betrayal parents~

3:予想の-24度あたりの乱入者

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 『フェンリル』戦から早10分といったところ。後ろを向くも戦場はもう見えない。僅か10分されど10分なのだろうか、常歩なみあしではなくちょっと速めに歩くよう指示したとはいえ……
 しかしそんなことには気にせず彼女らの話題は『フェンリル』こと『異界の残党』についてだった。

「にしても『異界の残党』が500年経っても生き残っているなんて……しぶとすぎない? お姉さま?」
「そうねぇ、でも見つけ次第四龍鍛しりゅうたん狂戦士バーサーカー共──おっと。ゆ、勇敢な戦士様が駆逐してるから数は減っているはずよ」

 実のところ四龍鍛しりゅうたんの戦士様は以外と血の気が多い方々が少なからず所属している。その反面誰も請け負いたくない『異界の残党』との戦闘を好き好んで殺りたがる。つまり彼らによって四龍鍛しりゅうたんの仕事が成立しているのだ。まぁそんな彼らは影から狂戦士バーサーカーと呼ばれていたりする。ちなみにその反語が聖騎士パラディンで、イケメンが大多数。もちろん公式でない。

「それとお昼いつにします? お腹空きました」
「え、そう? 私あんまりなんだけど」
「さっきの戦闘で何もしてないからね、お姉さま……」

 ここで先の戦闘を振り返ってみよう。見事な太刀捌きで攻撃をいなすオリヴィア、ジンの魔法の援護で高く跳ぶ。これで戦闘の半分が終了、では次。太陽の光の中に隠れる奇抜な発想で『フェンリル』の一切の反撃を許さず屠った。一応死体はジンの魔法で焼却処分と……ここまでで一つもアレクシスの名前が登場していない。実は終始愛馬、絖喚コウヨビの後ろで、良く謂うと見守っていた、悪く謂うと隠れていたのだ。

「だって、私だけだと何も出来ないじゃん?」

 アレクシスの声が萎む。
 だが上目遣いのオプション付きで可愛く見えてしまう。

「『人類の擁護者』の名折れですねフフ」
「……かもね」

 オリヴィアの中では冗談のつもりで本気では思っていない。ただの思い付きだ。それなのにアレクシスの反応が芳しくない、というか本気にしているように感じる。

「冗談ですよ? お姉さま……?」
「大丈夫よ、それともうそろそろ言わせてもらうけどその『お姉さま』」
「!?」

 指摘されたオリヴィアの表情に衝撃が走る。

「い、言ってました?」
「はい。何回も」
「確かに言いかけて訂正したのは何回か……」
「むしろそれ以外は全部『お姉さま』だったわよ」
「それは……ごめんなさい」

 アレクシスの顔が心なしか曇ったように見える。
 この時彼女は心中でこう考えていた。
(リヴィア、私は……そうじゃないの。貴方、何も分かってない……)

「そうそう! お昼、お昼よ」

 暗く沈んだ空気を切り替えようとアレクシスが話題を変える。それは誰から見ても無理をしているのが明白だった。

「確かにお腹は空きました……そうだあの木陰で食べましょう」

 オリヴィアが指差すのは道端に堂々と陽を浴びる大木。
 その木陰はいまだに道に沿って流れる小川にもかかっていた。
 せっかくなので小川側で食べようと絖喚コウヨビの両腰に携えてあった鞄からレジャーシートを取り出す。それと一緒に空米庵くうまいあんで買ったおにぎりも出しておく。

「久しぶりですね。お姉ちゃん」
「……何が?」

 オリヴィアの言葉にはアレクシスが再三注意してきた『お姉さま』の語は無かった。しかしそれでも堅苦しいと思うのは直前の『久しぶりですね』と大袈裟すぎるくらいの間だろう。
 オリヴィアの言動は明らかに無理を通しているのだとアレクシスにもわかっている。そしてそれを強制──じゃないにしても求めているいるのは彼女自身だということも分かっている。
 だがときにして行動と感情はちぐはぐになってしまう。
 その結果が『何が?』の前の空白だった。

「こんな風に二人でピクニック……みたいな?」
「えー5年前もやった気がするわよ~」
「いつ?……はむ、うんおいしい」
「納涼祭の前さぁー、家の庭でやったじゃない!」
「それぇー?」

 オリヴィアが異を唱える。

「うん」
「いやいやそれピクニックって言わないから!」

 なんて言い合っているうちに気が病みそうな重苦しい雰囲気は跡形もなく消え去っていた。そして話題も楽しめそうなものに転換した。
 納涼祭、アレル帝国主催の『暑さを忘れよう!』という目的で開催される。規模的に謂えば年内で一二を争うほどの大イベントだ。なにせ"全"帝都で同時に行うので迫力は平素の帝都とは比べ物にもならない。

「まぁいいわピクニックてことにしてあげる」
「ありがとーリヴィアちゃーん」

 と、本当に感謝しているのかは甚(はなは)だしいが置いておき、アレクシスはそう言いながらオリヴィアにダイブする。準備がいいことにおにぎりは避難させておいたらしい。

「キャッ! んっ離れて!」
「えー」
「『えー』じゃない!暑い!」

 いくら何でもさっきと態度が変わりすぎではないか?と思うかも知れないがこれが彼女の持ち味だ。今のところは状況を好機に傾けているが。
 流石のアレクシスもこれ以上引き伸ばすと後々めんどくさいことになるのは分かっているので、程なくして離脱した。

「はぁー無駄な汗かいた……」
「ごめんごめんって」
「許します」
「ど、どうも……それはそうとさっさと食べて行きましょ」
「それはこっちの台詞です!」

 オリヴィアは怒り口調だが顔は真逆の童心の頃のように笑っていた。

「やっぱりおいしいわね。おにぎり」

 アレクシスがおにぎりを口に放り込み、咀嚼、嚥下えんげする行程を終えてから感想を述べる。

「それさっき言ったー」
「何回言ったっていいじゃない、減るもんじゃないし」
「だったらもっと具体的な感想にしてよね」
「はいはい」

 やがて昼食を終えた姉妹+馬2頭は《ヤルト村》へ歩き出した。
 さて、道中も彼女達の話題は尽きることを知らなかった。

「ねぇリヴィア……私気付いちゃった……」

 こういう恐ろしい口調は前に経験がある。大抵くだらないことを言って終わりだが…こちらもそれっぽく返す。

「……なに?」
「私達、今年の納涼祭行けないじゃん……」

 オリヴィアに雷が落ちたような衝撃が走る。どうやら予想ははなっからしておらず、更に彼女の中では極々重要事項だった。

「私としたことが……うかつだった……」
「んー。一回ぐらいいいじゃん!」
「良くないわよ……!! あの日だけなんだよ護衛を兼ねてアリーに会えるのは……」

 それは遡ること─と謂うほど昔ではないが、オリヴィアが高校時代の頃とても中のよい友人がいた。
 彼女の名前はアリーヤといい周りからはアリーと呼ばれていた。
 そして納涼祭で護衛をするとなると対象は王族ぐらいしかいない。詰まるところこのアリーなる人物は現国王の娘なのだ。

「あっ!高校のお友達か……ドンマイ!」
「いや待てよ……」

 なにやら妙案が発案したのかしかめっ面になる。今脳内で何度もその発想が正しいのか考証する。

「どうしたの?」
「今年も葉の月の後半だよね?」
「えぇ最後に広告見たときは例年通りだったわ」
「ならそれまでに『正体不明アンノウン』をとっちめればアリーに会える!」
「はぁー」

 今度はアレクシスのほうが呆れる始末だ。

「あのねーまだなーーーんにも分かってない、それこそ男か女かすら判明してないやつを……はぁー」

 何度目かのため息をついたのだった。



─《ヤルト村》道中 《マホ村》付近─

 駈足かけあし(時速20キロメートル程)でペースアップを始めて20分。絖喚コウヨビ不羇フキの足を考えると常歩なみあしのペースに戻す頃合いだ。
 道のりではちょうど中間地点にあたる。事前のオリヴィアとアレクシスの話し合いでは付近の《マホ村》で休憩を取ろうと予定していた。

「リヴィア、ここら辺だよね」
「……だね」

 「ここら辺」で察したのか、地図を広げて現在地を確認する。
 眼下に広がる平野には分岐点である。右側に続くのが《マホ村》への道。反対に左が《ヤルト村》への直行ルートだ。

「行きましょう」

 分岐路を正しい方向へ進み《マホ村》を目指す。
 ここで違和感に二人は気付く。

「人がいないわね……」
「こんなところに用は無いんじゃない?」

 オリヴィアがもっともな理由を挙げる。だがどこか腑に落ちない様子のアレクシス。しかし気にしすぎということで落ち着いた。
 ザザ──
 先の道とは違い左側の雑木林から物音がする。『フェンリル』戦を彷彿させるのは容易だった。

「お姉さま」
「えぇ──」

 オリヴィアが「お姉さま」と言ったのを咎めないのはアレクシスも気が張っているせいだろう。
 それほど迄に『フェンリル』戦では恐怖を味わった。
 しかし雑木林から飛び出したのは予想していたもの恐ろしい獣では無かったのだ。

「エマ! 速くしろ!」
「はぁ……はぁ……待って! お兄ちゃん!」

 多分雑木林からの物音の正体は偶然か否か、『フェンリル』戦同様にオリヴィア達の行く先を塞いでいる謎の少年と幼女だろう。
 一方オリヴィアとアレクシスはあまりに率爾そつじな事態に直面し、硬直を余儀なく食らう。
 更に追い討ちをかけたのは少年と幼女に続く第三の乱入者だった。

「てめぇらぁッ! ただじゃおかねぇぞぉッ!」

 鼻息をフガフガと荒げながら姿を現したのは一言で言い表すと小太りのおっさん、しかし手に持つ無粋な棍棒がより"狂暴"の印象を強める。風貌もさることながら口調からして相当お怒りらしい。
 数少ない状況証拠から判断すると小太りのおっさんが子ども達を襲おうとしているのは誰が見ても見間違うことはない。ならその現場を素通りする選択肢は彼女達には職業上、道徳上で存在しない。
 ひとまず賊の動きを止めることをはじめとし、不羇フキからおりる、

Nodethhiteノーデスハイトflyingフライングjordジョーゾone stoneワン ストーンAlexisアレクシス

 高速詠唱で6単語の短い五法句を詠唱する。そして術者句には『Alexisアレクシス』の単語が入っていた。
 五大素の一つ、ジョーゾを使ったこの五法句。方法句と対象句には『flyingフライング』意味は飛翔、『one stoneワン ストーン』こちらは一つの石ころだ
 この五法句、通称『石弾飛翔せきだんひしょう魔法』は最短の位置に落ちている"石ころ"と呼べる大きさの石を飛ばす魔法。飛ばす方向は術者の体の向きで決定する。
 わりと必要語句が少なく、習いたての人でも使うことができる。主に自衛用として使う人もいるとかなんとか。
 そして五法句によって選ばれた小石はおっさんとおそらく兄妹のふたりの間を通りすぎた。

「なっ……!?」

 喫驚するおっさん。あと少し速く襲い掛かっていたら横顔の直撃は確実だった、もし当たり処が悪ければ脳震盪のうしんとうはあり得るだろう。
 当然たがおっさんの矛先は命を脅かしかけたオリヴィア達の元へ向いた。

「なにしや……ふざけるなよぉ! このあまッ!」

 支離滅裂な言葉を口にする。
 きっと頭の中は真っ白で状況を完全には処理しきれていないのだろう、それが今の台詞に表れている。
  見てわかる通りちょっとだけ高価な喧嘩を勝ってしまったようだ。

「止まりなさい!」

 制止は促した。
 しかしこれで大人しく従った試しがない。
 目の前のおっさんもそれに倣い、一歩踏み出す。
 鞘に収まっている《二刀一重の太刀にとうひとえのたち》の柄に手を置く。
 あまり考えたくないがいつでも抜刀できるように心構えはしておく。
 
「止まれ!」

 更に声色こわいろを強めて警告する。
 おっさんが立ち止まりオリヴィアの正体を言い当てようとする

「その身形みなり……さては剣士様だな」

 悪き者を罰するものと分かっても竦み上がりはしなかった。

「まず武器を捨てろ!……お姉さま、子供の保護を」
「わかった、気を付けて……」

 アレクシスは半時計回りで子供たちに近寄る。
 ところが対峙するおっさんは棍棒を捨てることなく、むしろ固く握りしめた。が、おっさんは武力ではなく何故か事情を話し始めた。もしオリヴィアの《二刀一重の太刀にとうひとえのたち》で戦(おのの)いたなら好都合だ。

「いいか! こいつらはなぁ俺の食い物を何もかも食っちまったんだよ!」

 右手にもつ得物で以前の標的だった子供たちを指す。殴られると思ったのか怯えあがる。もしかしたら本当に殴られた経験があり、条件反射によるものかもしれない。たが、今視線を外せば瞬く間に接近される気がして確認できない。
 そして脳内におっさんの言い分を噛みしめ、唖然する。このときオリヴィアはこう考えただろう、まさかそんなことで。と……

「なっ……いかなる場合でも子供を傷つける理由にはならないはずよ!」
「あんたらみたいな遊んでいられるご身分の剣士には理解できねぇだろうがこっちは生きるか死ぬかのギリギリなんだよ!」

 どちらが悪か問われればむこうなのは歴然だ。なのに少し申し訳なくなってしまうどころか同情してしまう。
 ここで動いたのはアレクシスだった、それも解決策を知っているようだった。

「本来なら私達が首を突っ込んでいい世界じゃないのよリヴィア。ただ目の前で子供が危険に晒されるのを黙っているほど無関心でもなくってよ」

 前者はオリヴィアに、後者はおっさんに。
 サブリナパンツのポケットを探るアレクシス。取り出したのは金貨一枚だった。
 アレル帝国が定める通貨単位は《クロネス》。一応硬貨と紙幣があり、流通硬貨・紙幣は1,5,10,50,100,500《クロネス》が硬貨、1000,5000,10000《クロネス》が紙幣。
 アレクシスが取り出した金貨は500《クロネス》。だいたい一般的な料理店で一品のお値段に相当する。

「あげるわ」

 金貨をおっさんに向けてピンと独特の音と共に親指で飛ばす。
 急に金貨が飛んできても慌てる素振りはなく、平然と手が空いている左手で受け止める。

「なに? 足りないの?」
「……ちっ、十分だ」

 この場を納める金貨に対しなにやら考えているようだ。それもこれ以上欲張らずに受け取ることで終結した。

「そう、ならさっさと消えなさい」

 その言葉に対しておっさんの動きは迅速だった。すぐさま雑木林の中に姿を消した。
 さて、次は襲われていた兄妹たちに事情を聴かねば。たち位置では一番近いのはアレクシス。必然的に彼女が最初に口を開いた。

「名前は?」
「……」

 問いの答えは沈黙。かの兄妹は激動の出来事で放心状態で名前を聞かれたことを認識できていない。
 いまだに雑木林を見つめている兄妹の前に腰をおろす。ついでにフードも外す。

「名前は?」

 改めて兄妹に問う。
 はっと驚きアレクシスと目を合わせる。そのとき男の子の頬が赤みを帯びたのはきっと気のせいではない。
 今回はアレクシスの質問にも気付き、二人は名前を答えた。

「お、俺はリチャード。こいつはエマ」

 気前よく兄妹二人の名前を一度に教えてくれた。名字はまだわからないが兄がリチャード、妹がエマと謂うらしい。
 主にリチャードに更に質問する。

「それじゃあリチャード君。お家はどこ? 送ってあげる」
「……そんなもんない」

 予想の斜め上を通る解答だった。「えっ……」と呟きそうになるも堪える。
 ここで後ろで見守っているオリヴィアに目だけで確認をとる。この子達をどうするかだ。
 次には妥当なことを聞いた

「お父さんお母さんは?」
「いない…………」

 またもやリチャードの口からとんでもないことが語られる。いや、今回は脳内の片隅で予想はしていたお陰が驚愕の声が漏れることはなかった。

「でも前にお世話になってた人なら知ってる……」

 アレクシス側から質問はしていないが有益な情報が得られた。

「誰かな?」

 優しく問いかける。

「《マホ村》のフェイスおばあちゃん家」

 なんということか、オリヴィア達が行き先に指定していた《マホ村》ではないか。これなら道中連れていくだけだ。

「よかった! そこにお姉ちゃん達も行くつもりなの」
「ほんと!」

 ここに来てエマが目を輝かせて真偽を確かめようとした。それはまるで誕生日プレゼントを貰ったようだった。

「本当だよ」

 オリヴィアが後ろから真実だと伝える。
 アレクシスが一つ大事なことを忘れているのに気が付いた。

「そういえば自己紹介がまだだったね。私はアレクシスで──」
「私はオリヴィア、よろしくね二人とも」

 アレクシスの自己紹介の後、少し間があったそれをバトンタッチだと悟ったオリヴィアはアレクシスの期待どうりに続けて自己紹介を始めた。
 そして彼らは一つの問題にぶち当たる。その解決のためとある選択をアレクシスが兄妹に投げ掛ける。

「で、君たち《マホ村》までお馬さんに乗って行くけど大丈夫?」
「俺は大丈夫……エマは?」
「私も大丈夫だよお兄ちゃん」
「ならよかった。それで私とそこのお姉ちゃん、どっちと一緒に乗る?」

 はて、リチャードとエマはどっちを選ぶのだろうか。今までの二人の反応を見る限り、リチャードはアレクシスを選ぶのはもう決まりと言っても過言ではない。ならばエマが私と一緒になるだろう。そんな打算をしていたオリヴィア、しかし──

『ん!』

 兄妹が同時に指を指す。、そうアレクシスに向けて。

「こらこらお馬さんに乗れるのはふたりまでだよ?」

 兄妹を窘(たしな)める姉。今回はお姉さまといえど反論せざるおえない。

「くっ……容姿なら、容姿ならまだ希望はあったのに……」

 オリヴィアがぶつぶつ呟く。どうやら実力ならまだしも容姿でなら勝てる希望があると思っていたらしい。まぁ客観的(今回は成人男性)に見たら五分五分の結果になる。しかし今は子供、ましてや容姿より性格的に選んだかもしれないのだ。

「ならじゃんけんだ! エマ!」

 余り物を押し付けあうような扱いだった。
 ちなみにじゃんけんの結果はリチャードの勝ちでエマがオリヴィアの不羇フキに乗ることになった。
 にしてもふたりに指名されたときのアレクシスのドヤ顔は一体何を思ってのことだったのだろうか。
 こうしてオリヴィアにとって誠に同意しがたい人気投票を経て短いながらの旅の組み合わせが決定した。
 というわけでアレクシスはリチャードと絖喚コウヨビに、オリヴィアはエマと不羇フキに跨がった。

「……エマちゃん私でいいの?」
「うーん……お姉ちゃん優しそうだもん!」

 あぁ、なんていい子なんだろう。そんなこと言われてしまったら追及しようとした謎の「うーん……」も見過ごしちゃう。
 と、母性?溢れる思考に漂うオリヴィアだった。



─《マホ村》─

 おっさんの乱入と新たな旅の友、リチャードとエマ。彼らとの出会いの出来事からだいたい30分。
 ついに到着した《マホ村》。だがそこには彼らの知る町並みはもう見当たらなかった。余談だがオリヴィアとアレクシスは以前、この村を訪れているのでわずかだが雰囲気程度は覚えている
 うろ覚えに近いとしても決してこの光景は昔の姿と一致しないだろう。
 さて、端的に《マホ村》の状況──否、を説明しようか。
 まず何軒かの家は倒壊、むしろそれが最も状態がいい。では最悪の家は……まぁわけだ。
 この悲惨とも謂うべき状況にオリヴィアは片手で口を押さえ、アレクシスはいつの間にか姿を現したジンとなにやら険しい顔で相談している。そして子供たちは。果たして姉妹と兄妹の間にどれ程の絶望の懸隔があるのだろうか。
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