71 / 82
第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる
9
しおりを挟む
「よーし、朝飯も食ったし絶好調だ。どんな相手が来ても全員返り討ちにしてやるぜ!」
「ジンったらいつも同じこと言って派手にやられるくせにー」
「う、うるせえな。黙ってろ」
「……」
意気軒高たるジンとナユ、そばで目を細めるマリナ。そんな中、胡坐をかくツルカだけ虫が好かないような辛気臭い顔をしている。当然、仲間もツルカの事を気にかけていた。
「ね、ねえツルカちゃん~。さっきからどうしてそんなに顔が怖いの~……」
ナユがにこにこと、うつむくツルカを下から覗き見たが、全く返事をしてくれない。
と、思ったが────
「……なあ」
「う、うん! ど、どうしたの?」
ツルカは溜息をつき、相も変わらず鬱屈そうに三人を見上げる。
「バルドロスって……知ってるか」
「ば、バルドロス……!」
ツルカがぽつりと呟いた名前に、三人の心情はこの上ない畏怖に変わる。
「ば、バルドロスってSランク冒険者一位候補の……」
「ああ。人類最強の能力保有者……『絶対防御』の使い手だ」
「絶対防御?」
「え、ええ。どんな攻撃も、魔力が続く限り無効化してしまうっていう……化け物じみた能力。無敵すぎるあまり、バルドロスは身勝手なことをよくするって」
「殺人やら強盗、悪事諸々。ひとまず彼の機嫌を損ねたら命は……」
「……実は俺、そいつに狙われて────」
その時、茂みから飛び出すように、一人の少女がツルカ達の陣地に踏み入った。
「ぎゃ────なになに⁉ もしかして熊⁉」
「いや、ちげえ。何でだ……。あんたが何でここに……シャイニン=マリン」
彼女とは無縁の存在だった焦りのような感情が、吹雪の剣姫──シャイニンの表情をくまなく塗りたくっている。汗が前髪にじっとり染みて、荒々しい呼吸で膝に手をついた。
「あなたは……いえ、のんきに話をしている場合ではありません。お聞きなさい、クロックがバルドロスに誘拐されました。行方は不明です……」
「え、クロックが⁉」
シャイニンが頭を抱えて話す事実に、ツルカは声を振り立てた。
「ぐあ────っ!」
「はい、いっちょあがり~。気持ちーねえ!」
享楽にふけながら、男が騎士の胴体を切り刻む。
「いいねえバリオン。芸術のような返り血だ」
「と、止まってくれ! この先には行かせるわけにはいかんのじゃ!」
グランディール王城、禁忌領域前。紋章が刻まれたオリハルコン製の堅牢な扉の前で国王が乞うように、血で塗れたコートに身を包む魔族の二人に膝を突いている。
「とっととどいた方がいいぜ? カマロナは短気だ。せっかく国王であるあなたは生かしているのに、ここまで抵抗するなんてな。こんな風になりたくないだろ?」
男が鮮血を滴らせた人間の首を持って、国王に見せびらかす。ここまでの道中には大量の人間が倒れ伏している。二人の手によって儚くも散ってしまった騎士団の亡骸だ。凄惨な光景にも一顧だにせず女──カマロナは膝を突く国王の顎を上げてねめつけると、もう片方の手で国王の額に指を添える。
「いいか、グランディール国王。言った通り、私は禁魔崩書が必要なんだ。折角、平和に申し出てお前に直接、禁魔崩書を譲ってくれと懇願したというのに、騎士団を呼び出しては私達を捕らえようとした……。私はそこに苛立ったわけだよ」
「……ど、どこでその名を知って、このグランディール国に封印されていると知ったのかは分からん。じゃが、渡すわけには────」
「『スタン』」
カマロナが一言呟くと、国王は人形になったかのように崩れてしまった。
「ジンったらいつも同じこと言って派手にやられるくせにー」
「う、うるせえな。黙ってろ」
「……」
意気軒高たるジンとナユ、そばで目を細めるマリナ。そんな中、胡坐をかくツルカだけ虫が好かないような辛気臭い顔をしている。当然、仲間もツルカの事を気にかけていた。
「ね、ねえツルカちゃん~。さっきからどうしてそんなに顔が怖いの~……」
ナユがにこにこと、うつむくツルカを下から覗き見たが、全く返事をしてくれない。
と、思ったが────
「……なあ」
「う、うん! ど、どうしたの?」
ツルカは溜息をつき、相も変わらず鬱屈そうに三人を見上げる。
「バルドロスって……知ってるか」
「ば、バルドロス……!」
ツルカがぽつりと呟いた名前に、三人の心情はこの上ない畏怖に変わる。
「ば、バルドロスってSランク冒険者一位候補の……」
「ああ。人類最強の能力保有者……『絶対防御』の使い手だ」
「絶対防御?」
「え、ええ。どんな攻撃も、魔力が続く限り無効化してしまうっていう……化け物じみた能力。無敵すぎるあまり、バルドロスは身勝手なことをよくするって」
「殺人やら強盗、悪事諸々。ひとまず彼の機嫌を損ねたら命は……」
「……実は俺、そいつに狙われて────」
その時、茂みから飛び出すように、一人の少女がツルカ達の陣地に踏み入った。
「ぎゃ────なになに⁉ もしかして熊⁉」
「いや、ちげえ。何でだ……。あんたが何でここに……シャイニン=マリン」
彼女とは無縁の存在だった焦りのような感情が、吹雪の剣姫──シャイニンの表情をくまなく塗りたくっている。汗が前髪にじっとり染みて、荒々しい呼吸で膝に手をついた。
「あなたは……いえ、のんきに話をしている場合ではありません。お聞きなさい、クロックがバルドロスに誘拐されました。行方は不明です……」
「え、クロックが⁉」
シャイニンが頭を抱えて話す事実に、ツルカは声を振り立てた。
「ぐあ────っ!」
「はい、いっちょあがり~。気持ちーねえ!」
享楽にふけながら、男が騎士の胴体を切り刻む。
「いいねえバリオン。芸術のような返り血だ」
「と、止まってくれ! この先には行かせるわけにはいかんのじゃ!」
グランディール王城、禁忌領域前。紋章が刻まれたオリハルコン製の堅牢な扉の前で国王が乞うように、血で塗れたコートに身を包む魔族の二人に膝を突いている。
「とっととどいた方がいいぜ? カマロナは短気だ。せっかく国王であるあなたは生かしているのに、ここまで抵抗するなんてな。こんな風になりたくないだろ?」
男が鮮血を滴らせた人間の首を持って、国王に見せびらかす。ここまでの道中には大量の人間が倒れ伏している。二人の手によって儚くも散ってしまった騎士団の亡骸だ。凄惨な光景にも一顧だにせず女──カマロナは膝を突く国王の顎を上げてねめつけると、もう片方の手で国王の額に指を添える。
「いいか、グランディール国王。言った通り、私は禁魔崩書が必要なんだ。折角、平和に申し出てお前に直接、禁魔崩書を譲ってくれと懇願したというのに、騎士団を呼び出しては私達を捕らえようとした……。私はそこに苛立ったわけだよ」
「……ど、どこでその名を知って、このグランディール国に封印されていると知ったのかは分からん。じゃが、渡すわけには────」
「『スタン』」
カマロナが一言呟くと、国王は人形になったかのように崩れてしまった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる