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第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる
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「くぁっ!」
「さて、観念しなさい。おとなしく旗を渡した方がいいですよ、ダージホンさん?」
「な、何故、吹雪の剣姫様が私の名前を……」
とある敵陣地に襲来した吹雪の剣姫。単体で乗り込んでまとめて敵を一蹴し、陣地を制圧。残すは試験用ギルド教官──ダージホンのみだった。
「あなたはBランク冒険者担当ですから、反抗はできないはずです。見ての通り、メンバーは残念ながら戦闘不能です。潔く渡しなさい」
ダージホンは悔しそうに旗を渡し、敗北を認める。
「……よろしい。あなたはすでに騎士団員としての道をたがえている。分かりますね」
「な、なんです」
「あなたは担当しているメンバーから多額の賄賂を受け取っているでしょう。元より評定を偽造し、彼らをAランク冒険者にしようとしていましたね」
「ま、まさか……どうしてそこまで」
「さあ、何故でしょう。ひとまず、冒険者昇格試験に邪な考えを抱くなど恥を知りなさい。あなたのことは事前に騎士団長に申し出ています。きっと解雇でしょうね」
「バカな……」
「諦めて国に戻りなさい。あなたは、もう崇高な騎士団として相応しくありません」
軽侮するようにシャイニンは言葉を吐き捨て、ゆっくりと森の深くに消えていった。ダージホンはシャイニンが姿を消した後も、ひたすら沈黙を絶やさなかった。
「夜も深いですね……私も持ち場に戻らなければ。仲間に陣地を任せておくのもですし」
月光が森林を照らす未明。夜風が吹き乱れ、草木が潮のように音を立てて靡く。普段のシャイニンならとっくに熟睡しているだろう。現に彼女は今にも横になりたそうだ。
「はあ、睡眠をとれないのは辛いものです。まだ私はこれでも……」
ふと、シャイニンは歩みを止めていた。静かに目を閉じて、剣の柄を強く握りしめる。
その時、風を切り裂くかの如し、一人の少女が刀を持ってシャイニンを襲撃した。それはまた、大空を駆ける稲妻のように閃く、肉眼では到底認識できぬほど神速な流儀。だが、シャイニンはいとも簡単に斬撃を受け止めて余裕そうに微笑む。
「え、ええ……。こ、渾身の一撃だったのに……それすら防いじゃうの……。ぐすん」
「いい一撃でしたよ。ですが、まだ存在感を消せていませんね。殺意がガンガンとこちらに向かって来ていました。ですが剣の腕には申し分ありません。流石は稲妻の一刀といったところでしょうか、マガンさん」
「し、シャイニンさんも凄いです……」
二人は手を交わし、刀をしまう。シャイニンは稲妻の一刀──マガンを宥めるように、頭に手を置く。
心落ち着く紅碧の下げ髪、瞳。常に強張った表情が伺えるマガンは、シャイニンと同年齢の少女だ。フードジャケットとショートパンツを着用し、小胆な性格とは裏腹に姿は少し大胆で愛らしい。驚くほど真っ白に伸びるしなやかな脚は、なんとも艶美だろうか。
落ち着いたマガンは鞘を両手で握りしめて微笑むと、いきなり大きく目を張る。
「────ち、違います! そ、そうでした。私がシャイニンさんに会いに来たのは切り結ぶためじゃないです。あ、あのですね。今日なんですが……」
「どうしたのですか。マガン? えっと……私の目を見て話してください?」
マガンは尻込みするようにそっぽを向くが、シャイニンは意地でもマガンと目を合わそうとする。覗くように、はたまたしゃがみ込んだり、ジャンプしたりと。
「うう……。え、えっと、私、今日ね。森林でバルドロスを見かけたの」
「……バルドロス? どうして彼が。ギルド対抗試験に参加するとは聞いていません」
「わ、分からない……。あ、あとね、姿は分からなかったけど、なんかフードローブを着た人と一緒で……。誰か、探してるみたいだった」
剣術を共に磨いてきた昵懇の間柄だ。マガンが根も葉もない話を言うはずがない。
「一体誰を……」
「し、シャイニンさんも一応気を付けてくださいね。あ、怪しかったので」
「……あの男が怪しくない日などありません。分かりました。調査してみます」
「さて、観念しなさい。おとなしく旗を渡した方がいいですよ、ダージホンさん?」
「な、何故、吹雪の剣姫様が私の名前を……」
とある敵陣地に襲来した吹雪の剣姫。単体で乗り込んでまとめて敵を一蹴し、陣地を制圧。残すは試験用ギルド教官──ダージホンのみだった。
「あなたはBランク冒険者担当ですから、反抗はできないはずです。見ての通り、メンバーは残念ながら戦闘不能です。潔く渡しなさい」
ダージホンは悔しそうに旗を渡し、敗北を認める。
「……よろしい。あなたはすでに騎士団員としての道をたがえている。分かりますね」
「な、なんです」
「あなたは担当しているメンバーから多額の賄賂を受け取っているでしょう。元より評定を偽造し、彼らをAランク冒険者にしようとしていましたね」
「ま、まさか……どうしてそこまで」
「さあ、何故でしょう。ひとまず、冒険者昇格試験に邪な考えを抱くなど恥を知りなさい。あなたのことは事前に騎士団長に申し出ています。きっと解雇でしょうね」
「バカな……」
「諦めて国に戻りなさい。あなたは、もう崇高な騎士団として相応しくありません」
軽侮するようにシャイニンは言葉を吐き捨て、ゆっくりと森の深くに消えていった。ダージホンはシャイニンが姿を消した後も、ひたすら沈黙を絶やさなかった。
「夜も深いですね……私も持ち場に戻らなければ。仲間に陣地を任せておくのもですし」
月光が森林を照らす未明。夜風が吹き乱れ、草木が潮のように音を立てて靡く。普段のシャイニンならとっくに熟睡しているだろう。現に彼女は今にも横になりたそうだ。
「はあ、睡眠をとれないのは辛いものです。まだ私はこれでも……」
ふと、シャイニンは歩みを止めていた。静かに目を閉じて、剣の柄を強く握りしめる。
その時、風を切り裂くかの如し、一人の少女が刀を持ってシャイニンを襲撃した。それはまた、大空を駆ける稲妻のように閃く、肉眼では到底認識できぬほど神速な流儀。だが、シャイニンはいとも簡単に斬撃を受け止めて余裕そうに微笑む。
「え、ええ……。こ、渾身の一撃だったのに……それすら防いじゃうの……。ぐすん」
「いい一撃でしたよ。ですが、まだ存在感を消せていませんね。殺意がガンガンとこちらに向かって来ていました。ですが剣の腕には申し分ありません。流石は稲妻の一刀といったところでしょうか、マガンさん」
「し、シャイニンさんも凄いです……」
二人は手を交わし、刀をしまう。シャイニンは稲妻の一刀──マガンを宥めるように、頭に手を置く。
心落ち着く紅碧の下げ髪、瞳。常に強張った表情が伺えるマガンは、シャイニンと同年齢の少女だ。フードジャケットとショートパンツを着用し、小胆な性格とは裏腹に姿は少し大胆で愛らしい。驚くほど真っ白に伸びるしなやかな脚は、なんとも艶美だろうか。
落ち着いたマガンは鞘を両手で握りしめて微笑むと、いきなり大きく目を張る。
「────ち、違います! そ、そうでした。私がシャイニンさんに会いに来たのは切り結ぶためじゃないです。あ、あのですね。今日なんですが……」
「どうしたのですか。マガン? えっと……私の目を見て話してください?」
マガンは尻込みするようにそっぽを向くが、シャイニンは意地でもマガンと目を合わそうとする。覗くように、はたまたしゃがみ込んだり、ジャンプしたりと。
「うう……。え、えっと、私、今日ね。森林でバルドロスを見かけたの」
「……バルドロス? どうして彼が。ギルド対抗試験に参加するとは聞いていません」
「わ、分からない……。あ、あとね、姿は分からなかったけど、なんかフードローブを着た人と一緒で……。誰か、探してるみたいだった」
剣術を共に磨いてきた昵懇の間柄だ。マガンが根も葉もない話を言うはずがない。
「一体誰を……」
「し、シャイニンさんも一応気を付けてくださいね。あ、怪しかったので」
「……あの男が怪しくない日などありません。分かりました。調査してみます」
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