上 下
67 / 82
第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる

5

しおりを挟む
「くぁっ!」
「さて、観念しなさい。おとなしく旗を渡した方がいいですよ、ダージホンさん?」
「な、何故、吹雪の剣姫様が私の名前を……」
 とある敵陣地に襲来した吹雪の剣姫。単体で乗り込んでまとめて敵を一蹴し、陣地を制圧。残すは試験用ギルド教官──ダージホンのみだった。
「あなたはBランク冒険者担当ですから、反抗はできないはずです。見ての通り、メンバーは残念ながら戦闘不能です。潔く渡しなさい」
 ダージホンは悔しそうに旗を渡し、敗北を認める。
「……よろしい。あなたはすでに騎士団員としての道をたがえている。分かりますね」
「な、なんです」
「あなたは担当しているメンバーから多額の賄賂を受け取っているでしょう。元より評定を偽造し、彼らをAランク冒険者にしようとしていましたね」
「ま、まさか……どうしてそこまで」
「さあ、何故でしょう。ひとまず、冒険者昇格試験に邪な考えを抱くなど恥を知りなさい。あなたのことは事前に騎士団長に申し出ています。きっと解雇でしょうね」
「バカな……」
「諦めて国に戻りなさい。あなたは、もう崇高な騎士団として相応しくありません」
 軽侮するようにシャイニンは言葉を吐き捨て、ゆっくりと森の深くに消えていった。ダージホンはシャイニンが姿を消した後も、ひたすら沈黙を絶やさなかった。
「夜も深いですね……私も持ち場に戻らなければ。仲間に陣地を任せておくのもですし」
 月光が森林を照らす未明。夜風が吹き乱れ、草木が潮のように音を立てて靡く。普段のシャイニンならとっくに熟睡しているだろう。現に彼女は今にも横になりたそうだ。
「はあ、睡眠をとれないのは辛いものです。まだ私はこれでも……」
 ふと、シャイニンは歩みを止めていた。静かに目を閉じて、剣の柄を強く握りしめる。
 その時、風を切り裂くかの如し、一人の少女が刀を持ってシャイニンを襲撃した。それはまた、大空を駆ける稲妻のように閃く、肉眼では到底認識できぬほど神速な流儀。だが、シャイニンはいとも簡単に斬撃を受け止めて余裕そうに微笑む。
「え、ええ……。こ、渾身の一撃だったのに……それすら防いじゃうの……。ぐすん」
「いい一撃でしたよ。ですが、まだ存在感を消せていませんね。殺意がガンガンとこちらに向かって来ていました。ですが剣の腕には申し分ありません。流石は稲妻の一刀といったところでしょうか、マガンさん」
「し、シャイニンさんも凄いです……」
 二人は手を交わし、刀をしまう。シャイニンは稲妻の一刀──マガンを宥めるように、頭に手を置く。
 心落ち着く紅碧の下げ髪、瞳。常に強張った表情が伺えるマガンは、シャイニンと同年齢の少女だ。フードジャケットとショートパンツを着用し、小胆な性格とは裏腹に姿は少し大胆で愛らしい。驚くほど真っ白に伸びるしなやかな脚は、なんとも艶美だろうか。
 落ち着いたマガンは鞘を両手で握りしめて微笑むと、いきなり大きく目を張る。
「────ち、違います! そ、そうでした。私がシャイニンさんに会いに来たのは切り結ぶためじゃないです。あ、あのですね。今日なんですが……」
「どうしたのですか。マガン? えっと……私の目を見て話してください?」
 マガンは尻込みするようにそっぽを向くが、シャイニンは意地でもマガンと目を合わそうとする。覗くように、はたまたしゃがみ込んだり、ジャンプしたりと。
「うう……。え、えっと、私、今日ね。森林でバルドロスを見かけたの」
「……バルドロス? どうして彼が。ギルド対抗試験に参加するとは聞いていません」
「わ、分からない……。あ、あとね、姿は分からなかったけど、なんかフードローブを着た人と一緒で……。誰か、探してるみたいだった」
 剣術を共に磨いてきた昵懇の間柄だ。マガンが根も葉もない話を言うはずがない。
「一体誰を……」
「し、シャイニンさんも一応気を付けてくださいね。あ、怪しかったので」
「……あの男が怪しくない日などありません。分かりました。調査してみます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...