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第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

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「歴史を振り返り説明しますと、ここマリアネ大山脈は知っての通り、魔王マリアネの名から取られています。かつて、ビジルゴス地方にはアトリアという国があり、水の国と呼ばれるほど美しく広大な自然が広がっていました。しかし約二百年前、猖獗を極めた大戦により水の国は魔王マリアネにより覆滅し、見るに忍びない惨状を呈された。伝説によると、神竜すらも操ることのできない『大天神』級魔法によるものだといいます」
「……知ってる。『大天神』級魔法……未だに人類未到達領域の魔法で、グランドシオルを治める『七星神竜』も操れない、伝説の魔法階級」
「下から手品、奇術、魔導、回生、賢人、天人、魔王、神竜、神王……伝説の魔法階級である大天神、滅災破帝めっさいはてい。私だって『奇術』級魔法使いなのに、レベルが違いすぎるわ。魔王マリアネって、神竜をも凌ぐ強さで、歴代最強の魔王って言われてるでしょ」
「はい。その魔王マリアネによる『大天神』級魔法で、水の国であった大陸は地表を丸ごと抉られ、溢れ出した溶岩によりこの大山脈を形成した。延々と聳える山脈は、魔王マリアネの魔法によって創造されたものと言っても過言ではありません。そうして戦後から、山脈を『マリアネ大山脈』と名付けられ、今でも残る悲惨な戦争の具象となっている……。魔王マリアネが『大天神』級魔法を使ったというのはにわかに信じがたい事ですが、こうして今も伝説として言い伝えられています。魔王は世界の秩序を正す者だった。しかし、戦争によってその偉大さが欠落してしまった。マリアネという魔王は本物の悪魔として、皆様も認知しておられると思います」
 もちろんのこと、老人の話を聞いて一番怯えていたのは、かの魔王と全く同じ姿である白髪の少女だった。
(あの人……そんなにヤバい魔王だったの⁉)
 なんと、魔王マリアネは最年少にして歴代無二。さらにはグランドシオルを統制する七星神竜を凌駕する世界最強の魔王だったらしい。
(うそうそ……。なら俺、その……なんちゃら級の魔法使えるの⁉)
《詠唱と正確な魔力操作さえできれば……。危険すぎるあまり、マスターには隠していたのに、ここで明かされてしまうとは。いや、やるなよ、分かってんだろうな?》
 アイナは普段の沈着とした口調とは違って、まさに焦ったようにツルカを恫喝する。
「戦後から起きている不可解な現象……その核心を探るため、我々冒険者ギルド協会が自ら赴いているといったところです」
「え、あなたは冒険者ギルド協会の人なんですか!」
「おっと、そうでした。私はビジルゴス国所属の冒険者ギルド協会会員です。戦闘があり得る場合があるので、騎士団の皆様も連れています。冒険者ギルドを管轄する我々は、冒険者のみなさまに快くクエストを受けていただきたい。ならば、その妨げになる現象を解きに来たまで────ッ⁉」
「な、なんだ⁉」
 いきなり唸るような轟然が山脈を劈き、壮絶な地鳴りが襲う。
 それは自然の理である天変地異でもなければ、暇を持て余した神々の悪戯でもない。
「この揺れ……まるで、何かが動いたような……」
「なっ───みなさん、あれを!」
 突然、老人が果てなく広がる青天井を指差す。
「ええ⁉ な、なによ、あの黒いやつ!」
 空に羽ばたく漆黒の巨体。まさしく魔物を統べる者、ドラゴンであった。
「なんじゃ、あの大きさは!」
「ちょ、その後ろ!」
 ドラゴンを追尾するように、一つの影がその後ろを翔る。
「人か……? 空を飛んでるぜ⁉」
 ドラゴンと人影は、山脈の向こうへと飛び去っていく。
「こうしてはいられん! あれは見過ごすべきものではない。みなさま、こちらに山脈の反対へと繋がる洞窟があります。追いましょう!」
 老人は騎士団を引き連れて、尻に火がついたように洞窟へと走り出した。
「────おいっ、待てよ!」
 こちらの話も聞かず走る老人を、仕方なくツルカ達は追いかけた。

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