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第四章 喫茶店の看板娘、渋々と教官をする
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「え、ええ……」
国民の憩いの場であるグランディール国中央広場。巨大な噴水と緩やかに流れる川、街中だというのに森にでもいるようなほど風光明媚な空間。深く吸入れた空気には街の匂いも少なからず含まれているが、吸えば吸うほどそこには心安らぐ野趣がある。
────そう、元はあるはずだったのだ。
「静粛に、静粛に! 冒険者諸君、少し黙れ! おいそこ────ッ!」
「……おい、ここは初詣かなにかか?」
祭りでも始まるのかと疑ってしまうほど、冒険者がやたら噴水周りに繫盛していた。
「まさかこんな場所で招集するなんて……。もっと迷惑にならないところあっただろ」
くつろぐ為にここに赴いた国民らは、恐らくツルカと同じ事を思っている。
「ちょ、ならべっ! 静かにならばんか──ッ!」
冒険者らの列を正そうと噴水前の台から騎士が指示するが、なかなか上手くいかない。
「まあ、こんなにいるんじゃ、まともに指示も通らないわな」
《この日のためにグランドシオル各地から冒険者が来るわけですから、致し方ないことでしょう。ざっと五百はいますからねー》
ツルカは諦めずに声を張り上げる騎士を横目にしながら気長に待つ。
「ちょ、そこ! そこも! ちょっとは黙れ────おおっ⁉」
「そんなんじゃダメッス。みんな反応するわけ無いッスよ」
「て、偵察隊司令長官!」
「な、なんで長ったらしい名前の方で呼ぶんスか……?」
必死に声を枯らす騎士の肩を引いて、女の人が割り込んだ。
見た目は年頃の若人。茶髪のポニーテールに身軽そうなトレンチワンピース、その上からジャケットを羽織り、全体的に色合いは暗め。
一見、ただの女性のように見えたが、胸辺りに見慣れない勲章を身に付けていた。ツルカが身に付けている騎士としての勲章とは違い、枠に剣と盾、そして杖がバランスよくデザインされている独特な勲章だ。
「……ってあれ?」
ツルカはやや不思議そうに首を傾げる。耳をすませば鳥のさえずりが聞こえ、緩やかな風の音が鮮明に聞こえてくる。いつからだろうか、冒険者全員が静まり返っていたのだ。
「ほら、黙ったでしょ?」
「ノンナ様が前に出たからでしょう……。普通は黙らないですよ」
彼女の名前はノンナというらしい。
「ちょ、あれ……」
「間違いねえ……」
突然、騒然とし始める冒険者達。どうやらあの女性について話している。
「……うーん? あ、すいません。あれは、誰なのでしょうか?」
久方ぶりに興味という情が湧いて出た。思い切ってツルカは隣の女性騎士に伺う。
「えぇ⁉ 新人さん、うそぉ~! それは流石に無いでしょ!」
「……ん?」
女性騎士は蔑むような目でツルカを見る。
「マジかー」
「お、教えて下さいよ」
「あの方はね、騎士団組織に属する特殊部隊、世界一のギルドであり冒険者の偶像! そう、まさしくそれは勇者ギルド『不朽の栄光』よ!」
「不朽の……栄光?」
「そう! そしてあのノンナ様は、不朽の栄光の一人なんですっ!」
ツルカは少しでも不朽の栄光に惹かれようと専念したが、心に浮かんだ言葉は一つ。
(……なるほど分からん)
結局、ツルカは『不朽の栄光』というギルドには感興を得られずに終わった。
《さっきまで興味津々だったくせになんですか……。まったく。言っておきますが、『不朽の栄光』は本当に凄い集団なのですよ》
「ほう、具体的に?」
《不朽の栄光というのは、騎士団に属する特殊精鋭隊。勇者とその仲間で組まれた世界最
強のギルドです。ランクは紛うことなきSランク。ギルドメンバーは五人で、全員能力から取られた異名があります》
「能力?」
《はい。魔法には炎、水、風、土の四属性、いわゆる『基本属性』と、光と闇の『対立属性』が存在します。基本属性の『土』を完全に操ることができる魔法使い、すなわち『土の使い』と異名で呼ばれているのが、偵察隊司令長官のノンナっていう人なのでーす》
「土の使い……ノンナ……ふーん」
惜しくもあと一歩、ツルカの胸に届かない。
だが、アイナは次の一言で、ツルカの胸に一本の矢を射抜いてみせた。
《はぁ、簡単に言えば土魔法を完全に操り、さらには『今の状態』でのマスターと対等に交えることのできる存在ということです》
「俺と対等に相手できるの⁉」
我にもなく、ツルカは本当に驚いたという正直な声を上げた。
国民の憩いの場であるグランディール国中央広場。巨大な噴水と緩やかに流れる川、街中だというのに森にでもいるようなほど風光明媚な空間。深く吸入れた空気には街の匂いも少なからず含まれているが、吸えば吸うほどそこには心安らぐ野趣がある。
────そう、元はあるはずだったのだ。
「静粛に、静粛に! 冒険者諸君、少し黙れ! おいそこ────ッ!」
「……おい、ここは初詣かなにかか?」
祭りでも始まるのかと疑ってしまうほど、冒険者がやたら噴水周りに繫盛していた。
「まさかこんな場所で招集するなんて……。もっと迷惑にならないところあっただろ」
くつろぐ為にここに赴いた国民らは、恐らくツルカと同じ事を思っている。
「ちょ、ならべっ! 静かにならばんか──ッ!」
冒険者らの列を正そうと噴水前の台から騎士が指示するが、なかなか上手くいかない。
「まあ、こんなにいるんじゃ、まともに指示も通らないわな」
《この日のためにグランドシオル各地から冒険者が来るわけですから、致し方ないことでしょう。ざっと五百はいますからねー》
ツルカは諦めずに声を張り上げる騎士を横目にしながら気長に待つ。
「ちょ、そこ! そこも! ちょっとは黙れ────おおっ⁉」
「そんなんじゃダメッス。みんな反応するわけ無いッスよ」
「て、偵察隊司令長官!」
「な、なんで長ったらしい名前の方で呼ぶんスか……?」
必死に声を枯らす騎士の肩を引いて、女の人が割り込んだ。
見た目は年頃の若人。茶髪のポニーテールに身軽そうなトレンチワンピース、その上からジャケットを羽織り、全体的に色合いは暗め。
一見、ただの女性のように見えたが、胸辺りに見慣れない勲章を身に付けていた。ツルカが身に付けている騎士としての勲章とは違い、枠に剣と盾、そして杖がバランスよくデザインされている独特な勲章だ。
「……ってあれ?」
ツルカはやや不思議そうに首を傾げる。耳をすませば鳥のさえずりが聞こえ、緩やかな風の音が鮮明に聞こえてくる。いつからだろうか、冒険者全員が静まり返っていたのだ。
「ほら、黙ったでしょ?」
「ノンナ様が前に出たからでしょう……。普通は黙らないですよ」
彼女の名前はノンナというらしい。
「ちょ、あれ……」
「間違いねえ……」
突然、騒然とし始める冒険者達。どうやらあの女性について話している。
「……うーん? あ、すいません。あれは、誰なのでしょうか?」
久方ぶりに興味という情が湧いて出た。思い切ってツルカは隣の女性騎士に伺う。
「えぇ⁉ 新人さん、うそぉ~! それは流石に無いでしょ!」
「……ん?」
女性騎士は蔑むような目でツルカを見る。
「マジかー」
「お、教えて下さいよ」
「あの方はね、騎士団組織に属する特殊部隊、世界一のギルドであり冒険者の偶像! そう、まさしくそれは勇者ギルド『不朽の栄光』よ!」
「不朽の……栄光?」
「そう! そしてあのノンナ様は、不朽の栄光の一人なんですっ!」
ツルカは少しでも不朽の栄光に惹かれようと専念したが、心に浮かんだ言葉は一つ。
(……なるほど分からん)
結局、ツルカは『不朽の栄光』というギルドには感興を得られずに終わった。
《さっきまで興味津々だったくせになんですか……。まったく。言っておきますが、『不朽の栄光』は本当に凄い集団なのですよ》
「ほう、具体的に?」
《不朽の栄光というのは、騎士団に属する特殊精鋭隊。勇者とその仲間で組まれた世界最
強のギルドです。ランクは紛うことなきSランク。ギルドメンバーは五人で、全員能力から取られた異名があります》
「能力?」
《はい。魔法には炎、水、風、土の四属性、いわゆる『基本属性』と、光と闇の『対立属性』が存在します。基本属性の『土』を完全に操ることができる魔法使い、すなわち『土の使い』と異名で呼ばれているのが、偵察隊司令長官のノンナっていう人なのでーす》
「土の使い……ノンナ……ふーん」
惜しくもあと一歩、ツルカの胸に届かない。
だが、アイナは次の一言で、ツルカの胸に一本の矢を射抜いてみせた。
《はぁ、簡単に言えば土魔法を完全に操り、さらには『今の状態』でのマスターと対等に交えることのできる存在ということです》
「俺と対等に相手できるの⁉」
我にもなく、ツルカは本当に驚いたという正直な声を上げた。
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