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第四章 喫茶店の看板娘、渋々と教官をする

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「はい嬢ちゃん、定食セットね~」
 少女はトレーに乗った定食セットを受け取り、なるべく角の席に座る。
 前菜のようなものを口に含んで賞翫した後、一度フォークをおいた。
「……おかしくない?」
《いえ、そんなこと言われても……》
 ここは騎士団中央本部の三階にある大食堂。
 城下町や王城を一望できる出窓と、アンティーク風に趣向された額縁に、気品を重んじる絵画が飾られ、驕奢をほしいままにした空間となっている。最奥の壁には、精緻に彫刻された羽ばたく白鳥を象る騎士団の紋章が大きく装飾されている。
 騎士団でもないというのに少女──ツルカは、そこでまだ食べていなかった昼食にありついていた。元はクエストを早急に終わらせ、宿にて昼食を食べようと思っていたが。
「んで、なんだよこれ。なんなんだよ、このずぶとい資料は……!」
《もうすぐ行われる、冒険者昇格試験の詳細ですねっ!》
「……んなこと聞いてんじゃねぇよぉぉぉぉ!」
《じゃなんですか》
「おかしいだろっ! なんで俺が騎士団に臨時で入って、昇格試験の教官をすることになったんだ。挙句の果てには勲章すら渡されちゃって。俺はただのCランク冒険者だぞ!」
《いえ、ただの冒険者ではないと思いますが》
「なんだよ、人手不足だから? ……最近優秀だと噂の俺が、騎士団の臨時教官に最適だとぉ……! ふざけんじゃねえ。優秀な奴ならもっとそこらにいるだろうか」
 ツルカはべたりと机に突っ伏して、死んだ魚のような目で鼻をほじる。
 事の詳細は実に単純だ。ツルカが騎士団中央本部に連れてこられた理由は、冒険者昇格試験における臨時の教官を引き受けて欲しいというもの。
 何かと冒険者になることを拒んでいたツルカだが、日々クエストをこなして功績を積み上げてきた。伴って、彼女自身が望んでもいない知名度も自然と上昇していた。故に、騎士団は彼女の事を知り、現在不足していた教官を大活躍中のツルカに依頼したのだ。
「いや、でもやっぱりおかしいよな⁉ 断ったのに! 無理やりさ、しかも俺の事を子どもとしっかり認識しながら無理にお願いしてたよな。なんでこんな美少女の意見も聞かず、片意地に騎士団の臨時士にさせようとしてんだ!」
《自分で美少女とか言わないでください、気持ち悪いったらありゃしません》
「うるっせえぞ─────ああっ⁉」
 机を叩きつけたせいで、ツルカは危うく汁物をこぼしかけた。
《だいたい、何が不満なんですか。確かに成り行きは気に食わないかもしれませんが、騎士団という職業はグランドシオルの頂点に立つものです。ほら、うるさいほどおっしゃっているお金が凄く儲かるんですよ》
「ちきしょう、ホントに納得できねえな。なんで俺が騎士団なんかに……結局、断れなかったし。もう頼れる人材がいないんですぅ~! って泣きながら言われたらさ……」
 ツルカはスプーンを勢いよく手に取ると、その小さな口へと惣菜を掻き込んでいく。
「……うぅ。どうじよゔ。めんぼーなよがんがじでぎだ……」
《飯ぃ飲み込んでから喋れやガキ》
「ごっくん。こほん。えっと……臨時士って、とりあえず騎士団に入るんだろ? ってことは……グランドシオルの警察官なんじゃん。俺、今日から臨時の警察官なんじゃん」
《悲しそうな顔しないでください。アイナは何もできないのですから》
「素っ気ないなぁ……。えっと……資料……」
 ツルカは机の端に置いておいた資料に、ようやく目を通してみた。
「騎士団主催、来月に行われる冒険者昇格試験の詳細……か。試験用ギルドに教官として所属する者専用の資料ね」
《……うむ、詳しいことは全て書いていそうですね。評価のことやルールなど……これほど資料も太いのですから、読むのも億劫ですね》
「面倒は嫌なんだって。ルールもなんにも知らないけど大丈夫かよ……あれ、まって?」
 ツルカは資料を一枚めくってさらっと文字を眺めていると、ある一文に目を留めた。
「『資料配布日は試験用ギルドを結成する為、教官一同は必ずこの資料を持参すること』」
《そういえばちょうど、明日から冒険者昇格試験の期間に移るのでは──────》
『放送、騎士団教官担当に告ぐ。ただいまよりグランディール国中央広場にて後日から一ヶ月間に渡って行われる冒険者昇格試験の試験用ギルドを結成する。本日は試験用ギルドに一名ずつ教官を配属する為、今すぐ教官担当の者はグランディール国中央広場に招集せよ。尚、資料を忘れずに持参せよ』
 騎士団本部に、魔力による放送が流れた。
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