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第三章 少年と悪魔と番人
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「うーむ。何故だ。勇者でもない君がどうしてこの空間に」
「あ、あの、僭越ながら申し上げますが……」
「ん、よいぞ。謙遜せずとも、私は答えよう。だから、肩の力を抜け」
「え、は、はい」
と言われても、魔王が面前に立っているとなると、どうも気が引ける。
「え、えっと────」
「こらーっ! マリアネぇぇぇ!」
いざ健太が言葉を発しようとした時、遠方から声が響き渡った。
「うん? おお、やっと来たか」
「もう、いきなりなんでどっか行くのよ!」
手を腰に当てながらふっくらと頬を膨らまし、マリアネにご立腹の様子で現れたのは、掌に収まるほどの小さな妖精だった。
「君が遅いんじゃないか。のろま~」
「なんだとっ⁉ こ、このぉ……っ、ん。それは……人?」
妖精は健太の存在に気づき、首を傾げてマリアネに問う。
「見たら分かるだろう。お前が入れたのではないのか? 見たところ特別な力もない、ただの人間だ。ならばお前の空間に侵入できるわけがないだろう」
「え、ええ? そんなバカな事が……あぁ!」
すると妖精は何かに気がついたようで、酷く青ざめた。
「マリアネの封印に全力を注いでたから、外部からの接触遮断ができてない……。ま、まさか二百年間ずっと⁉ 気が付かなかったのかな……」
「要するにお主が悪いんだな。私は悪くないんだな、よし」
「なにぃ⁉ 元はと言えばあんたが世界を混乱させて────」
マリアネと妖精は突如、見苦しい諍いをおっ始めた。
妖精は息のように毒を吐くが、マリアネはそれに一切耳を傾けず黙殺する。
「はぁ、はぁ」
「言いたいことは言えたか、おチビちゃん?」
「ってか、ちゃんと聞いてたの⁉ ねえぇぇ────ッ⁉」
(な、なんなんだこいつら……)
《とにかく、様子を伺うほうがよろしいかと》
ひとまず、健太は二人の悶着が終わるまでじっと待つことにした。
「────まったくなんなんだい、君ってやつは」
「分かった、分かった。とりあえず落ち着け。ほら、あの子を見てみろ」
マリアネは今にも意識を失いかけていた健太を指差す。
「うんこみたいなあんたの話で、死にそうな顔してる。きっと内心、おもんねえなーこのチビ、とか思われてるぞ! この小人はセミみたいによく鳴くなー、とか! がはは!」
「ムキィィィィィ! うるさいわっ! あんたと話してたら時間の無駄! ちょ、君!」
「……は、はい!」
妖精は苛立ちを帯びたかたい表情を一度弛緩させて、改めて開口する。
「君はどうしてここに? ていうか、勇者の剣に触れたってことは、君は今、墳墓に来ているの?」
「は、はい。誤って踏み入れてしまって……」
「そう。とりあえず自己紹介。私は聖剣ベナゲード。君が触れた勇者の剣、その番人だ」
「あなたが番人でしたか!」
どうやらこの妖精こそ、健太の固有能力が言っていた番人──ベナゲードらしい。
「で……私の横にいる、うんこよりも位が低いこいつが……名乗る価値もないか……」
「んだとてめぇ! 私はマリアネって名前があるんだが!」
声を荒げるマリアネに、知ったことかと言わんばかりにベナゲードはそっぽを向いた。
「なんか実感がないですよ。かつて最も恐れられていた魔王が俺の目の前にいるなんて」
「はっはっは! そこまで褒められると少し照れるな~」
「今の、どこが褒められてると思った?」
ベナゲードは呆れて、つまめるほどの手でやれやれと頭を抱える。
「聞きたいのですが、俺はどうして神器の中に……」
「ごめん。それに関しては、私の不手際が原因」
いきなり番人は健太に向かって頭を下げる。
「ここは聖剣の中。そして、神器で唯一私だけ、ここを封印場所として使える」
「封印場所……?」
「ああ。こいつ、マリアネは二百年前、グランドシオルを征服しようとした魔王だけど、最後に我が主、勇者ノマールが命を燃やして、マリアネをベナゲードに封印した。勇者は魔王を討伐することはできなかったけど、マリアネを無力化することに成功したんだ」
「なるほど……だからマリアネさんはここに」
「そうさ。しかし、こいつは暴君そのものでね。私がここに閉じ込めておくのもやっとなのさ。私はこの空間の領主だ。全力でマリアネを閉じ込めておいたばかりで、他の役割を放棄していた。そのせいで、空間の侵入口が剥き出しだったんだ……」
「だから、特別でもない俺が触れてもあなたの世界に接続できたと……」
「くう、主め……こんな大役を任されるなんて聞いてないっ!」
「まあ、そういう事らしいぞ。私を封じ込むためにベナゲードは全力を注いでいたから、他の事は疎かにしていたようだ。だから、君がこいつの空間に入ってしまった」
「納得できるような、できないような……」
結局、健太が神器の世界に侵入できた理由はベナゲードのうっかりということだった。
「あ、あの、僭越ながら申し上げますが……」
「ん、よいぞ。謙遜せずとも、私は答えよう。だから、肩の力を抜け」
「え、は、はい」
と言われても、魔王が面前に立っているとなると、どうも気が引ける。
「え、えっと────」
「こらーっ! マリアネぇぇぇ!」
いざ健太が言葉を発しようとした時、遠方から声が響き渡った。
「うん? おお、やっと来たか」
「もう、いきなりなんでどっか行くのよ!」
手を腰に当てながらふっくらと頬を膨らまし、マリアネにご立腹の様子で現れたのは、掌に収まるほどの小さな妖精だった。
「君が遅いんじゃないか。のろま~」
「なんだとっ⁉ こ、このぉ……っ、ん。それは……人?」
妖精は健太の存在に気づき、首を傾げてマリアネに問う。
「見たら分かるだろう。お前が入れたのではないのか? 見たところ特別な力もない、ただの人間だ。ならばお前の空間に侵入できるわけがないだろう」
「え、ええ? そんなバカな事が……あぁ!」
すると妖精は何かに気がついたようで、酷く青ざめた。
「マリアネの封印に全力を注いでたから、外部からの接触遮断ができてない……。ま、まさか二百年間ずっと⁉ 気が付かなかったのかな……」
「要するにお主が悪いんだな。私は悪くないんだな、よし」
「なにぃ⁉ 元はと言えばあんたが世界を混乱させて────」
マリアネと妖精は突如、見苦しい諍いをおっ始めた。
妖精は息のように毒を吐くが、マリアネはそれに一切耳を傾けず黙殺する。
「はぁ、はぁ」
「言いたいことは言えたか、おチビちゃん?」
「ってか、ちゃんと聞いてたの⁉ ねえぇぇ────ッ⁉」
(な、なんなんだこいつら……)
《とにかく、様子を伺うほうがよろしいかと》
ひとまず、健太は二人の悶着が終わるまでじっと待つことにした。
「────まったくなんなんだい、君ってやつは」
「分かった、分かった。とりあえず落ち着け。ほら、あの子を見てみろ」
マリアネは今にも意識を失いかけていた健太を指差す。
「うんこみたいなあんたの話で、死にそうな顔してる。きっと内心、おもんねえなーこのチビ、とか思われてるぞ! この小人はセミみたいによく鳴くなー、とか! がはは!」
「ムキィィィィィ! うるさいわっ! あんたと話してたら時間の無駄! ちょ、君!」
「……は、はい!」
妖精は苛立ちを帯びたかたい表情を一度弛緩させて、改めて開口する。
「君はどうしてここに? ていうか、勇者の剣に触れたってことは、君は今、墳墓に来ているの?」
「は、はい。誤って踏み入れてしまって……」
「そう。とりあえず自己紹介。私は聖剣ベナゲード。君が触れた勇者の剣、その番人だ」
「あなたが番人でしたか!」
どうやらこの妖精こそ、健太の固有能力が言っていた番人──ベナゲードらしい。
「で……私の横にいる、うんこよりも位が低いこいつが……名乗る価値もないか……」
「んだとてめぇ! 私はマリアネって名前があるんだが!」
声を荒げるマリアネに、知ったことかと言わんばかりにベナゲードはそっぽを向いた。
「なんか実感がないですよ。かつて最も恐れられていた魔王が俺の目の前にいるなんて」
「はっはっは! そこまで褒められると少し照れるな~」
「今の、どこが褒められてると思った?」
ベナゲードは呆れて、つまめるほどの手でやれやれと頭を抱える。
「聞きたいのですが、俺はどうして神器の中に……」
「ごめん。それに関しては、私の不手際が原因」
いきなり番人は健太に向かって頭を下げる。
「ここは聖剣の中。そして、神器で唯一私だけ、ここを封印場所として使える」
「封印場所……?」
「ああ。こいつ、マリアネは二百年前、グランドシオルを征服しようとした魔王だけど、最後に我が主、勇者ノマールが命を燃やして、マリアネをベナゲードに封印した。勇者は魔王を討伐することはできなかったけど、マリアネを無力化することに成功したんだ」
「なるほど……だからマリアネさんはここに」
「そうさ。しかし、こいつは暴君そのものでね。私がここに閉じ込めておくのもやっとなのさ。私はこの空間の領主だ。全力でマリアネを閉じ込めておいたばかりで、他の役割を放棄していた。そのせいで、空間の侵入口が剥き出しだったんだ……」
「だから、特別でもない俺が触れてもあなたの世界に接続できたと……」
「くう、主め……こんな大役を任されるなんて聞いてないっ!」
「まあ、そういう事らしいぞ。私を封じ込むためにベナゲードは全力を注いでいたから、他の事は疎かにしていたようだ。だから、君がこいつの空間に入ってしまった」
「納得できるような、できないような……」
結局、健太が神器の世界に侵入できた理由はベナゲードのうっかりということだった。
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