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第二章 クエストに向かう少女、やり過ぎる

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───。
──────一週間後。

「え~、今日も昼上がり?」
「はい。……なにか」
 とある町の一角にある喫茶店。なにやら、裏方で揉め合っている美女と美少女がいた。
「だって、ツルカさん、毎日昼で上がるじゃない~!」
「やりたい事があるんですって」
 ツルカはぐったりとした様子で店長に告げる。だが、店長は納得いかず駄々をこねた。
「いやだぁ~! ツルカさんいなくなったら困るんだってぇ!」
「ちょ、は、離れろ! うえぇぇ!」
 店長はツルカに縋り付き、頬と頬を擦り合わせながら泣き叫ぶ。
「い~や~ぁ! わたし、ツルカさんいないと──────グヘェッ⁉」
 ツルカはやむを得えず、執拗にくっつく店長を忖度なしに蹴り飛ばした。吹き飛んだ店長は断末魔のような唸り声を発しながら、崩れていった。

「店長……日に日におかしくなってんな……」
《ふふっ、マスターの事がよっぽど好きなんですね~》
 あの後、容赦なくツルカは昼過ぎに喫茶店のバイトを上がっていた。
「店長に許可すら貰ってないや。普通なら定時でもないのに勝手に上がったら怒られるけど、なんかあの人ならどうとでもなる気がする。危機感を感じない」
《店長が怒らなさそうって事ですか? アイナも同意見です。逆に、明日になったらまた泣きながら縋り付いてきそうです》
「ハハッ、確かに」
《きっと、店長はマスターがいないと客が来ないので、なんとか店に留まらせようとしたのでしょうね。お金のためなら手段を問わない、悪い大人の例です》
「そこまで言わなくても。ま、どちらにしたって昼からはそれって決めたしな。店長には悪いけど、店で働く時間はこれから午前限りになりそうだ」
《クエスト、ですね。不思議なものです。面倒故に、ずっとクエストを拒んでいたマスターが、今では進んでやるようになっているのですからね》
 感情のないはずのアイナは、心なしか嬉しそうだった。
「人って……やっぱり、一度経験しないと分かんないんだよ。うん」
《なに悟ってるんですか、気持ち悪い》
「き、気持ち悪い⁉」
 相変わらず自然と出るアイナの毒舌は、受ける当の本人も驚くばかりだ。
「ゴホン。ま、まあ? あんなに面倒がってたクエストも、一度やってみればいいもんだって分かったからな。アイナが最初に言ってたことはよく身に染みて分かった」
《そうでしょう? だからあれほどクエストをやれと言っていたのに》
「ごめん~。だからほら、今はちゃんとやってるでしょ」
 冒険者登録及びカードの制作を済まし、初めてクエストに挑んでからツルカは一日一回クエストを行うようになっていた。お金を稼ぐ効率が良いこともあるが、実は他にも大きな訳があって、ツルカはクエストを受けないわけにはいかなかったのだ。
「よしっ、冒険者ギルド到着~」
 ツルカが扉を開くと、中にいた冒険者が一斉にこちらを振り向いては騒然とし始める。
「うわ……今日も私は有名人ですこと、オホホ……」
《……初めてクエストを受けた日の事、忘れてないでしょう? マスターはCランク冒険者なのにも関わらず、一つ上のBランク討伐クエストを難なくクリアした人ですからね》
「はぁ……確かに有名になるのも仕方ないか」
 ツルカは魂も一緒に抜けきってしまうような深い溜息をつく。
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