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第二章 クエストに向かう少女、やり過ぎる

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「な、なら次からアイナの言う通りにするよ。俺に指示を出してくれ。な?」
《一回私の命令を無視してますけどね⁉ 『手品』級魔法を唱えてって言いましたよ⁉》
「ご、ごめんって! 今度はしっかり聞くから! な? アイナの打開策構築能力は、伊達じゃないからさ。俺がここまで生きてこられたのも、アイナのおかげなんだし」
《……んまあ? 全てを見据える事ができる女神、アイナの助言は絶対ですからぁっ!》
 自分で言ってどうする、と言いたげにツルカは優しく微笑んだ。
 実際、ツルカがアイナの解析を信頼する一番の理由は、こうして生きていることだ。死に至り、グランドシオルへと転生してきたツルカは生存することすら困難な状態だったが、そんな状況下でも助かるために助言をしてくれたのが固有能力であるアイナだった。
《始めは食料確保が大変でしたね。もし、アイナの助言がなければ、あの洞窟でとっくにバイバイしてました。ちゃんと、生き残るための知恵も持っておかないと》
「そんなこと言われてもサバイバル経験もない俺に何ができるってんだよぉ……」
《分かっています。アイナはツルカ=ハーランの固有能力。全般の補助を務めます。知恵を与えるのも私の仕事です。マスターはいつでもこの私を頼ってください》
 主に忠誠を誓った本来のあるべき姿で、アイナはそう言った。
 態度が急変するアイナに少なからずツルカは動転したが、すぐに冷静さを取り戻す。
「うん……あんがと。あとさ」
《はい?》
「えっと、お前が妙に優しくなると怖いからいつも通りにしてくれ。そう、怖いから」
《な、なぁ────ッ⁉》
 急に冷めたような調子で、ツルカは脇見しながら言う。
《せっかく元気づけようとしたのになんですか!》
「だっていっつも鬱陶しいお前が、いきなり優しくなられたら対応に困る」
《鬱陶しいって……マスターがおっしゃった事ではありませんか!》
「そうだよ。だからいつも通りにしていい。忘れてないならさ」
《はぁ。たまには優しくしたらと思いましたが、そうですか、ああそうですか。ふふっ》
 ツルカとアイナは共に一笑し、誓い合った言葉を口にした。
「《軋轢を生ずる仲であれ。そして、全てを乗り越える友であれ》」
 これはツルカとアイナが共にパートナーであるための掟である。些細な諍いごときで、絶縁するほどの仲ではないということだ。
 まだ『アイナ』と名が付けられていなかった頃の彼女は、主であるツルカに忠誠を誓い、非礼な振る舞いは全く無かった。まるでそのままプログラムされた言葉を話し、主の
命令にただただ従う機械のような固有能力は、ツルカにとって窮屈だった。
 だが、二人が関わっていくうちに何かと日常となっていた無駄な諍いや、しがない話。これはマスターであるツルカが変えてくれた、一つの賜物だった。
「慣れるまでは無理しなくていいって言ったけど、今となっちゃあこんなにもご立派な性格になりやがって。やれやれ、昔の威厳たっぷりだったアイナ様はどこに行ったのやら」
《その言い方は何かと不愉快ですね。許していただけるのであれば、今すぐ縁を切らせて頂きたいのですが》
「冗談に聞こえないから! お前がいなくなったら本当にこの世界で生きられない!」
《冗談じゃないです。バイバイしたいです》
「うるせぇ! ほ、ほら。まずはイワトカゲを探さないといけないしさ。そんな話はいいじゃん。ね? ね、ね?」
 震えた声でなんとか話を紛らせようと、ツルカはクエストに話題を切り替える。
《別にどうだっていいじゃないですか》
「なんで⁉ お前がクエストやれって言ったんだぞ! 今さら放棄か⁉」
《いえ、だって目の前にいますし》
「……え?」
 ふとツルカは脇見してしまっている目線を前方に向ける。そこには、人間を丸呑みできるほどの大きな爬虫類が静かに佇んでいた。
「え、え?」
《どうやら、マスターのうるせぇ声が、イワトカゲを呼んだみたいですね》
「言い方が気に食わないな⁉」
 肉体全てが岩で構成されているかのようにゴワゴワとした外皮。それはまさにイワトカゲと言えるものだった。人間すらも絡みとってしまいそうなほど長い舌をぺろりと出し、一秒たりともツルカから目を離そうとしない。
「あれーっ。こいつの目、おかしいなぁ。確実に俺を食料として見てるんですが」
《そうでしょうね》
「………」
 戦慄のようなものが全身を駆けると、ツルカはふと鼻白む。
「イヤ……なんですけど」
《なら、倒しましょう。あれ、マスター?》
「き、気持ちわりぃ、絶対食べられたくない。今すぐ始末しないと」
《あ、あれ? おかしいですね。なぜそんな力んだ握りこぶしを形作っているんです?》
「お、おおお、おおおお俺の前から消えちまえぇぇぇぇぇッ!」
 そして、ツルカは叫喚とともに、勢いよく拳をイワトカゲに向かって突き出した。
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