上 下
2 / 82
第一章 夢見る少女、幻滅する

2

しおりを挟む
「国に着いたらどうしようかな~。ふかふかのベッドに寝転がって~それで────」
《本当に所在ない日々をお過ごしするおつもりですか、それほどの『力』を持って。冒険者として生活した方がよっぽど良いと思い────ますが……おい、聞いてんのかカス》
 毒づくアイナに一切耳を傾けず、ツルカは面倒くさそうに鼻へと小指を突っ込む。
「い や だ。のんびりするって決めたの。確定事項! だから異論は認めませんっ!」
《……ホントに社会のクズですね。社会不適合者とはこのことを言うのでしょう。ニートの代表例です。はあ、これではマスターを救って下さった命の恩人も報われませんね》
「言いすぎだろ⁉ それに、やることはしっかりやるつもりだから。そんなこというなよ!」
《まっ、ひとまず目的地はすぐそこです。城門も見えてきましたし、ほら》
 徐に歩みを進めていると、グランディール国城門前に到着。
 早速、ツルカは入国しようとしたが、門番に足を止められた。
「ごきげんよう、お嬢様。僭越ながらお聞きしたいのですが、何という一門の令嬢で」
 予想外の事を言われてツルカは苦笑する。
「お、俺は……いや、私はただの旅人なの。それでグランディール国に来たってことよ」
 令嬢と言われ、何となく嬉しそうにツルカは頬をかいた。
「な、なんと。大変、失礼致しました……。どうぞ、お入りください」
「ええ、ありがとう……まさか令嬢と勘違いされるとは……」
 不思議にも事実であるのに、すました顔でツルカはグランディールへ入国した。
 ──石材や木材で建設されているチューダースタイルの重厚な町並みが特徴的な人間国グランディール。このグランドシオルの中心に栄える大国で、全ての地方に行き交いできる中継点でもある。グランドシオルの七地方──ノリマルンナ地方、モリマヌラ地方、バルダンク地方、ダマユナセール地方、ボロッコル地方、ビジルゴス地方、ドリバルグ地方にはそれぞれ国が栄えており、その中核であるグランディール国は世界の覇権国家なのだ。
 平民から高貴な身分まで、幅広い階級の人族が住まうグランディール国は、多くの歴史と文明があり、他国と比べて雲泥万里。城下町には国が象徴する顕在的な施設や建造物などが多数存在しているが、最奥に建つグランディール王城だけでもかなりの歴史があるといわれ、外観は聖堂のようにも見える。何よりも際立つのが、城から築かれている天雲すら突き出るほど高い塔と、その周りを魔力によって公転する三つの巨大な光球だろう。あの塔は世界の端から見ても視界に捉えることができる、誇り高きこの国のシンボルと言われているのだ。しかし、塔の中を知る者は、噂では国王しかいないとのこと。
 栄えあるグランディール国は謎が多いということも否めないが、中央国だけあって普段見られないようなものや、他の町や国では存在しないものが多く見受けられる。
 例えば一つが騎士団。剣術や知略が抜きん出ている騎士団は、グランディール国に本部を置いている。立派に羽ばたく白鳥をあしらった紋章が特徴的なプレートアーマーは、まさに崇高で立派な騎士団の誇りである。最も勢力が強い兵隊であるので、この規模の国を管轄するためには騎士団が肝要だ。もちろん、グランディールだけでなく、他国にも派遣されていることから、平和を維持するために警察官とも言える騎士団は重宝されている。
 二つ目がグランドシオルの勇者と言われるアイギス率いるギルド『不朽の栄光』という世界最強の団体が存在していること。勇者含むこの五人組のギルドは、英雄とも呼ばれるほど偉大な存在。冒険者であれば一目でも拝見したいほど高名で、平民であっても憧憬の存在である。
────もっとも、ツルカにとってはどちらも歯牙にかけないことだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...