6 / 15
第6話
しおりを挟む
「あ……ああああ…………」
先程まで赤く染めていた想次郎の顔はみるみる青ざめていった。
「ああ……もう……だめそうです……。この状態から入れる保険ってありますかね……」
「何を意味のわからないこと言っているんですか。解毒薬、使っていたでしょう」
「解毒薬? ああそうか解毒薬解毒薬……」
ゲームと違い、コマンドでメニューが出て来るわけもなく、想次郎は必死で肩に掛けていた革製のポーチ内をまさぐる。いつのまにこんなものを持っていたかということなど、考えている余裕すらなかった。
「あ、あった! これ……かな?」
ポーチの中からこぶし大の巾着袋を見つけると、結び目を解こうとする……が、
「あ、あれ? あれ? 開かない……はぁはぁ……」
毒の影響で身体の麻痺が始まっているのか、手がおぼつかず、上手く解けない。そうしている間にも想次郎の呼吸はみるみる荒くなっていく。
「まったく、何をしているんです。かしてください」
傍らで様子を見守っていたバンシーIは想次郎の手から巾着袋をほとんどひったくるように取ると、細い指先でするりと結び目を解き、想次郎へ返した。
想次郎が中を見ると正露丸のような黒い粒上の丸薬がたくさん入っている。その中の一粒を口に放り込み、死に物狂いで嚙み潰した。
「あ! おえっ! にが! まっず!」
想次郎はその味に嘔吐しそうになりながらも何とか胃に収めると、徐々に身体が楽になっていくのを自覚でき、安堵した。
「大丈夫なようですね。まったく、いきなり話し掛けたわたしに驚きもせず、余裕な表情で『綺麗な声』だなんて返しておいて、今更これですか。毒で頭がおかしくなったのかと思いました」
「き、君……いえ、あなたは本当に……」
無事解毒をして落ち着きを取り戻した想次郎は、地面に座り込む自身を覗き込むようにするバンシーIへ手を伸ばす。
「な、なんです?」
しかし、バンシーIはまるで気味の悪いものを見るかのように、半歩後退った。
「どうするんです……これから」
想次郎から一定の距離を取りながら、バンシーIは尋ねる。想次郎と比べると冷静というだけで、彼女も同様にどうして良いのかわからない様子であった。
これまでずっと(敵モンスターとして)自分の傍にいてくれた女性が、まるで現実世界の学校のクラスメイトたちが見せる自身へ扱いと似た振る舞いを見せたことに、ややショックを受けながらも想次郎は考える。
しかし当然、考えてもろくな解が出る筈もなかった。
「とにかくここを出ましょうか。その……なんだか怖くて……」
やや冷静さを取り戻してから周囲を確認してみると、薄暗い石造りのドーム内のいたるところにグールの残骸が散らばっていた。
想次郎は吐き気を催し、思わず地面から視線を背ける。
「そうと決まれば早く出ましょう」
人間の心を取り戻したバンシーにとっても、この光景はあまり気味の良いものではないらしかった。
想次郎がふとボスエリアの出入り口へ目を遣ると、塞いでいた筈の石板がなくなっていた。想次郎とバンシーは連れだって歩を進める。
出入口へ向かって歩いている最中も嫌でも目に入る凄惨極まる光景。
地面をまばらに覆うグールの残骸。その中にバンシーの姿も複数見える。
「あああ、あのこれは……その……」
想次郎はバツが悪そうに歯切れを悪くし、横目にバンシーIの様子を伺う。
「別に何も言っていませんが。それにこれはあなたが自分でやったことではないですか」
そう言われても、想次郎は未だに信じることができなかった。確かにゲーム内の敵モンスターとして多くのグールやバンシーを倒した記憶が己の中に存在する。しかし同時に今感じているどうしようもない現実感。
今同じことをやれと言われても到底無理な気がした。
「あなたのことは……、僕はアイさんのことは傷つけるつもりはありません」
「だから何も言ってないではないですか。わたしはあなたに対し恐怖を感じているわけでも、我が身の心配をしているわけでもないですし、そこに倒れている彼らに対し仲間意識があるわけでもありません」
「そう……ですか……」
ドーム状のボスエリアを抜けた二人は、そのまま連れだって石の迷宮を抜けるべく、先を進む。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【特殊スキル】
闇属性C2:恐怖の叫び
対象に確立で状態異常:恐怖を付与する。確率は対象とのレベル差に依存する。
叫びを聞いた者の心の奥底に眠る根源的な恐怖を呼び起こすと言われている。恐怖の最中、気付く者はいない。喉が裂けそうな叫び上げる彼女自身の瞳もまた、恐怖に揺らいでいるのだということを。
先程まで赤く染めていた想次郎の顔はみるみる青ざめていった。
「ああ……もう……だめそうです……。この状態から入れる保険ってありますかね……」
「何を意味のわからないこと言っているんですか。解毒薬、使っていたでしょう」
「解毒薬? ああそうか解毒薬解毒薬……」
ゲームと違い、コマンドでメニューが出て来るわけもなく、想次郎は必死で肩に掛けていた革製のポーチ内をまさぐる。いつのまにこんなものを持っていたかということなど、考えている余裕すらなかった。
「あ、あった! これ……かな?」
ポーチの中からこぶし大の巾着袋を見つけると、結び目を解こうとする……が、
「あ、あれ? あれ? 開かない……はぁはぁ……」
毒の影響で身体の麻痺が始まっているのか、手がおぼつかず、上手く解けない。そうしている間にも想次郎の呼吸はみるみる荒くなっていく。
「まったく、何をしているんです。かしてください」
傍らで様子を見守っていたバンシーIは想次郎の手から巾着袋をほとんどひったくるように取ると、細い指先でするりと結び目を解き、想次郎へ返した。
想次郎が中を見ると正露丸のような黒い粒上の丸薬がたくさん入っている。その中の一粒を口に放り込み、死に物狂いで嚙み潰した。
「あ! おえっ! にが! まっず!」
想次郎はその味に嘔吐しそうになりながらも何とか胃に収めると、徐々に身体が楽になっていくのを自覚でき、安堵した。
「大丈夫なようですね。まったく、いきなり話し掛けたわたしに驚きもせず、余裕な表情で『綺麗な声』だなんて返しておいて、今更これですか。毒で頭がおかしくなったのかと思いました」
「き、君……いえ、あなたは本当に……」
無事解毒をして落ち着きを取り戻した想次郎は、地面に座り込む自身を覗き込むようにするバンシーIへ手を伸ばす。
「な、なんです?」
しかし、バンシーIはまるで気味の悪いものを見るかのように、半歩後退った。
「どうするんです……これから」
想次郎から一定の距離を取りながら、バンシーIは尋ねる。想次郎と比べると冷静というだけで、彼女も同様にどうして良いのかわからない様子であった。
これまでずっと(敵モンスターとして)自分の傍にいてくれた女性が、まるで現実世界の学校のクラスメイトたちが見せる自身へ扱いと似た振る舞いを見せたことに、ややショックを受けながらも想次郎は考える。
しかし当然、考えてもろくな解が出る筈もなかった。
「とにかくここを出ましょうか。その……なんだか怖くて……」
やや冷静さを取り戻してから周囲を確認してみると、薄暗い石造りのドーム内のいたるところにグールの残骸が散らばっていた。
想次郎は吐き気を催し、思わず地面から視線を背ける。
「そうと決まれば早く出ましょう」
人間の心を取り戻したバンシーにとっても、この光景はあまり気味の良いものではないらしかった。
想次郎がふとボスエリアの出入り口へ目を遣ると、塞いでいた筈の石板がなくなっていた。想次郎とバンシーは連れだって歩を進める。
出入口へ向かって歩いている最中も嫌でも目に入る凄惨極まる光景。
地面をまばらに覆うグールの残骸。その中にバンシーの姿も複数見える。
「あああ、あのこれは……その……」
想次郎はバツが悪そうに歯切れを悪くし、横目にバンシーIの様子を伺う。
「別に何も言っていませんが。それにこれはあなたが自分でやったことではないですか」
そう言われても、想次郎は未だに信じることができなかった。確かにゲーム内の敵モンスターとして多くのグールやバンシーを倒した記憶が己の中に存在する。しかし同時に今感じているどうしようもない現実感。
今同じことをやれと言われても到底無理な気がした。
「あなたのことは……、僕はアイさんのことは傷つけるつもりはありません」
「だから何も言ってないではないですか。わたしはあなたに対し恐怖を感じているわけでも、我が身の心配をしているわけでもないですし、そこに倒れている彼らに対し仲間意識があるわけでもありません」
「そう……ですか……」
ドーム状のボスエリアを抜けた二人は、そのまま連れだって石の迷宮を抜けるべく、先を進む。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【特殊スキル】
闇属性C2:恐怖の叫び
対象に確立で状態異常:恐怖を付与する。確率は対象とのレベル差に依存する。
叫びを聞いた者の心の奥底に眠る根源的な恐怖を呼び起こすと言われている。恐怖の最中、気付く者はいない。喉が裂けそうな叫び上げる彼女自身の瞳もまた、恐怖に揺らいでいるのだということを。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる