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帰りたい

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目の前の光景に私は無意識に唾を飲み込んだ。
遠く見える大きな砦の上空にはどす黒い雲が渦を巻いて稲光が走っている。
こちら側の空は綺麗な青空なだけに、向こう側は気味悪いものがある。


「お嬢さん、覚悟は決まりましたかな」

私をこの状況に追い込んだ張本人が悪びれもせず、当たり前の台詞かのように話してくる。
我慢出来ない感情が渦巻く。
「そんな顔して睨み付けないでくれ。私も反省しているんだ。だからこうして案内をしているだろう」
…本当に反省してる人間は、反省してる。なんて言わないと思う。

「ぐずぐずと泣くだけのお嬢さんが強くなったものですね。私を睨み付けるんですから」
「帰ってしなきゃいけないことがあるんだから。このまま帰れないでしょ。約束は絶対守ってよね!」

隣に立つ男は小さく笑った。
かなりの人気者らしいけど、私には胡散臭い人にしか見えない。

「もちろん。彼女はこれ以上無いくらいへこんでいるからね。これを期に構い倒しますよ」


…ごめんね。私、余計なことしたかも。
遥か彼方で事態の結果を待つ彼女に詫びながら、砦に目を移す。

何が起きるかなんてわからない。
本音は怖い。どうなるか怖い。
でも、このままにも出来ない。
やらなきゃならない。

…一緒に帰りたい。
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