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神様は交代制らしいです

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「…………ええと、その。なんか、すみませんでした」
「まあ、可愛い嫁さん貰って興奮するのもわかるからなあ。…………それにしてもなんでこんな時間にこんなに人が出てきてんだ?」
「そう! それがね、この可愛い子の双子だって女が騒いでたのよ。いかにも私は悲劇のお姫様です! って感じで喚き散らしてたの。ほら、そこの……ええっと、…………熊さんに捕まってる子よ」
「もういいよ、熊で。どうせ毛むくじゃらのむさいおっさんだよ、俺は」
「ああ……えっと。…………あの熊さんが捕まえてる女の子だな。確かに双子だとわかる程そっくりだな」

 熊さん--多分愛称としてみんなからそう呼ばれているのだろう--が少し拗ねている。
 が、やはり熊にしか見えないのだ。
 例え、名前を思い出せてもらえないとしても、愛称で呼ばれているから街の皆に好かれているのがわかる。

「ほら! だから言ったじゃない! 私とそこの女は双子だって。……あんたは忌み子で、生贄として捧げられたはずなのに、なんで? なんで、私より幸せそうなのよ……!」
「前言撤回する。お前の言う通りそこの兄ちゃんの嫁さんには全く似てないな」
「だろう? 当然、鈴音のが可愛いからな」
「ちょっと、貴方まで無視するの?」
「兄ちゃん、惚気は今やめてくれよ。もう前回のでどんだけその子が好きか解ったから。……それに、今それどころじゃないだろうよ」
「…………残念だ。まだまだ語り足りないのに」
「そ、そうか……。それより、そいつどうするんだ? なんか、忌み子とか生贄とか喚いてるが……どういう事だ?」
「そのまんまの意味よ。そこの女は忌み子なのにも関わらず生かされて、生贄にされたはずなのに生きてるのよ! 山神様はこの女殺さずに何してるのよ……!」

 その山神様は今琴音を睨んでいる。
 ……露ほども知らないのは解るがこんな大勢の前で喚く話ではないと思う。

「俺は鈴音と二人で過ごしたいだけだから名乗り出ないぞ。ただただ、鈴音の夫・・・・として暮らしたいだけだからな」
「まあ、そうですよね」

 こそっと山吹は胸の内を明かしてくれた。
 とりあえず、神として崇められるのでは無く普通に・・・暮らしたいのだそうだ。
 ……名乗り出たところで琴音が大人しくなるとも限らない。寧ろもっと騒ぐ気がする。

「お前さんの言う山神様って、あの方じゃろ? ほら、なんて言ったかのう? …………いかん、歳をとって神様の名をど忘れしてもうた」

 一人のご老人が山神様を知っているようだ。と言っても山吹には全く反応してないので、覚えてるのかは定かではない。

「え! おじいちゃん会ったことあるの!? すごーい!!」
「そうさな、あれは百年前。儂が五つになった頃じゃった。山に山菜を取りに父と一緒に行ったのだが、はぐれてもうてな。獣は出るわ、魔獣はでるわ……そら恐ろしかったわい。……日が暮れ始めた時に、『童、お主迷子か? どれ儂が送ってやる。家はどこじゃ』と大層綺麗なお顔をされた男に助けられてなあ……あれが後で山神様だと知ったのだが。その山神様が娘を生贄として寄越せとは言わないと思うんじゃが……はて? 神が代わったのかのう?」

 感心した声が周囲から上がる。ご老人は百五歳とは思えないほど元気で、かなり記憶力がいいようである。しかも、彼は幼い頃に山神様に会ったことがあると言う。
 思わず隣の山吹を見上げる。

「俺は五十年程前に山神になったから前の神だろう。一度もそんな話本人から聞いたことないがな」
「世代交代あるんですね……」
「一応、な。形だけだが」

 店の開店時間も近くなった影響か、先ほどよりも人が集まり始め、騒ぎが大きくなってきた。
 更には集まった群衆から、琴音を指差し、『店で喚いてた迷惑な女だ』という内容の怒声や、様々な罵声も聞こえる。

「うるさいわね! ……ていうか、熊。離しなさいよ! 私はそこの女と話があるのよ! 鈴音、あんた生贄でしょう? なんで生きてるのよ……なんで? 生贄なんだから、死んでないとおかしいじゃない……なんでよ!」








「おい、そこの女。貴様のその認識は間違っておる」

 低い男性の声が響いた。
 たいして大きくもない声なのだが、群衆を鎮めるには充分な威圧感があった。
 途端、ひやりと冷たい空気が満ちる。
 先程まで夏が近づいているのがわかる程に暖かかった気温が少し下がり、数ヶ月前のあの時期と被る。

 声のした方を見ると透き通った水のような長い髪をなびかせながら、一人の男性がこちらへ近づいている。
 周りに群がって見ていた人達も自然と道を開ける程に畏怖する空気をその身に纏っている。

 それだけではない。
 なによりも、彼の瞳が怖い。
 琴音を今にも射殺したそうな程鋭い眼。それはまるで獲物を狙う獣さながら。
 そしてその瞳は血が滴るような色。うっすらと光るのがまた更に恐怖を煽る。

 騒ぎの中央までゆっくりと、琴音を、周囲を萎縮させながら歩く。既に琴音は恐怖で身がすくみ、喋る事すら出来なくなっている。
 ちょうど真ん中でその歩みを止めた。
 琴音から視線を外し、こちら--いや、隣の山吹を見る。

「妻の命日で山に寄ってみれば……何やら街が騒がしいではないか。のう? 山吹」
「あー、今日だったのか。奥さんの命日。……すまんな、騒がしくしてしまって」
「それで街まで降りてみれば……なんぞ、この小娘は。嘘偽りを周囲に喚いておるではないか。……何よりもかしましい小娘だ。山吹、お主も何故正しい情報を教えなんだ。現山神はお主だろうに」

 山吹が今の山神様だ。
 そう告げられると、周囲から驚きの声が上がる。物珍しそうに、山吹と鈴音を見ている群衆。
 そんなに見られるのは居心地が悪い。

「なんでばらすんだよ……。くそ、黙ってるつもりだったんだが……もういいか。正しい情報も何も、俺あんたからなんも聞いてないんだぞ。……山翔やまとは、俺に山神を継がせて直ぐに消えただろう?」
「はて? そうだったかのう?」
「またそうやってとぼけるのか? ……俺もその辺知らないんだ。教えてくれ。生贄ってなんだ? 忌み子ってなんだ? 俺はあんたから花嫁が捧げられるとしか聞いてないんだ」

 何とも杜撰ずさんな情報だ。
 たが、彼が前山神様の山翔。
 お爺さんを山から助けた恩人の綺麗な顔した山神様。
 ……確かに、綺麗な顔をしている。
 どちらかと言うと  鐐  しろがねと似たような雰囲気の美人さんである。
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