上 下
6 / 7

5.魔法?

しおりを挟む
 どうして、カトカは僕の愛の告白を喜んでくれないのか?
 そう思ったとき、ふっと嫌な考えが僕の頭をよぎった。

 カトカには、もう、好きな人がいる?

 このときの僕は、それが真実に違いないと思った。
 だけど、やすやすと諦める気になれなくて、僕は次に言う言葉を探していた。
 その時。

「わたし、川に行きます」
 カトカが不意にそう言った。

「え……」
 なにか用事があるのか。
 一緒にいられるのもここまでか?
 そう思った。けれど、

「一緒に、来て」
 カトカがそう言ってくれたので、僕は安心した。
「行きます」
 即答した。

「ユリエ」
 カトカは、3歳ぐらいに見える子供に話しかけた。
「お母さん、この人と川の方に行ってくるね」

 ユリエと呼ばれた子供は小さく頷く。
「ダーシャたちを見ててね。ユリエはお姉ちゃんなんだから」
「うん、ユリエ、お姉ちゃん」
 返事をするユリエに満足そうな顔をするカトカ。

 小さい子供たちだけを残して家を出ていいのだろうかと、一瞬思ったけど、カトカがそうするというのだから大丈夫なのだろうと思った。

 僕とカトカは、その住処から外に出た。
 住処としか言えない、到底家とは呼べない場所だった。
 四面の壁がすべて半壊していて、屋根は隅っこの方にしか残っていない。
 床も、屋根がある辺りの下にゴザ的なものが敷いてあるだけで、あとはむき出しの地面だ。
 洞窟に住むコウモリのほうがまだ、雨風をしのげるところに住んでいると言えるだろう。

『どうしてこんなところに住んでいるの?』

 それを聞こうとして、僕は意味がないかも知れないと思い、聞くのをやめた。
 もっとまともな所に住むという選択肢があるなら、そうするだろう。
 少なくとも今のカトカには、選択の余地がなくてそこに住んでいるのだ。
 ありふれた言葉で言ってしまうと、とても貧しいのだろう。

(そんな貧しい人を、助ける仕組みはないのだろうか)
 そんな事を考えた。
 日本で言う生活保護とか(どういうものかよく知らないけど)。

 カトカはどうやって収入を得て生活してるのだろうか。
 どうして、どんな罪を犯したから処刑されるところだったのか。
 僕はまだカトカのことを全然知らないのだと思った。

 カトカは、時々僕の方を振り返りながら、僕の数歩前を歩いている。

『好きな人がいるの?』

 知らないことはたくさんあるけど、それを一番聞きたかった。
 でも、いきなりそれを聞くのは怖くて、他の質問を頭の中で探していた。
 そうしたら、カトカがまた口を開いた。

「モリタカは、旅をする人」
 確認のような質問だった。
 旅をする人……。
「まあ、うん」
 曖昧に返事をした。

「旅をして、この町に、来た?」
 カトカがまた確認するようにそう言った。
「ああ、うん、そう」
 それは間違いない事実だ。

「モリタカの心、魔法、かかってる」
 カトカは僕の方を振り返りながら、そう言った。
 魔法?
 僕はその言葉の意味を考える。
 魔法ってなんだ。
 ふと、僕が契約書にサインしてカトカを助けたときのことが思い出された。
 あのとき、老婆はなにか不思議な方法で、僕が書いたサインをカトカの胸に転写した。
 カトカの胸にはさっきまでは僕の名前が書いてあった。
 ”守隆”と。今も残っているかも知れない。
 あれも魔法だろうか。
 それと似たような力が、僕の心に働きかけている?

 カトカの表情を伺うと、いたずらっぽいような、少し悲しいような複雑な表情をしていた。

「魔法……?」
「魔法」

 カトカは僕の言葉をオウム返しにする。
 詳しく説明は、してくれないらしい。
 まあ、僕の語彙力では、詳しい説明をされても理解できないかも知れないし、カトカもそれを理解しているかも知れない。

 それにしても。
 カトカが着ているのは僕が着ていたシャツ一枚だけなのだ。
 シャツ一枚でも小柄で痩せているカトカの胴体部分をすっかり覆い隠してはいるのだけど、
 それでも細めできれいな太ももなどはほとんど丸見えで、凄くセクシーだった。
 シャツの下に下着類をつけていないという事実も僕の頭の中にピンク色の妄想をたくましくするのに十分だった。

 だめだ、エッチなことを考えてる場合ではない。
 それより、カトカが言う、僕の心にかかっている魔法とは何なのか、それが……。

「着いた。川」
 ふいにカトカが言った。
 
「え? ああ、うん」
 それは、確かに川だったけど、僕が想像したような綺麗なものではなかった。
 水はすこし濁っているように見えたし、流れがゆっくりなところには水草か藻のようなものが繁殖しているようだった。
 イメージ的にあまり清潔ではない。

「ここに、何をしに?」
 僕はカトカに、ここに来た目的を聞いた。
 カトカは僕の方に向き直って、
「モリタカの心に、かかった魔法、消す」
 そう言った。

「ど、どうやって?」
 僕は驚いて聞いた。
「どうやるのがいい?」
 カトカは聞いた。
 僕は、何を聞かれたのか分からない。
 この国の言葉の解釈を間違えたんだろうか?
 悩んでいると、
「じゃあ、カトカは、今から、水浴びをする」
 いたずらっぽい笑顔で、カトカはそう宣言した。

 風が少し吹いて、カトカの明るい茶色の髪を揺らした。
 僕は話の展開が理解できずにいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヘリオンの扉

ゆつみかける
ファンタジー
見知らぬ森で目覚める男。欠落した記憶。罪人と呼ばれる理由。目覚め始める得体のしれない力。縁もゆかりもない世界で、何を得て何を失っていくのか。チート・ハーレム・ざまあ無し。苦しみに向き合い、出会った人々との絆の中で強くなっていく、そんな普通の異世界冒険譚。 ・第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ・NolaブックスGlanzの注目作品に選ばれました。 2024.12/06追記→読みやすくなるように改稿作業中です。現在43話まで終了、続きも随時進めていきます。(設定や展開の変更はありません、一度読んだ方が読み直す必要はございません) ⚠Unauthorized reproduction or AI learnin.

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

石川メアの異世界召喚術式作製法

所為堂篝火
ファンタジー
【※異世界モノではありません】女子中学生4人組が〝異世界〟目指します。 よくある【異世界モノ】に飽きた貴方。少し趣向を変えた異世界題材のお話はいかがですか? 「異世界へ行く」ってどういうこと? 所謂、「異世界召喚もの」 とは言えない内容かもしれません。 異世界に行くのかもしれません。行かないのかもしれません。 行けるのかもしれません。行けないのかもしれません。 異世界なんてあるのかどうかもわかりません。 でも、あると信じなければ行けないところなのでしょう。 真面目で人一倍気が強く、他者を決して認めない中学二年の少女、石川メアの通う学校にある日、『異世界から来た魔術師』を自称する一人の少女が転校してくる。 絶対に関わるまいとするメアの思い虚しく、成り行きでその世間知らずの自称魔術師少女の面倒を見ることになり、そして気が付けば共に異世界渡航を目指すことになるのだが・・・

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

インフィニティ~私の師匠は世界最強の魔法使いです!~

白井銀歌
ファンタジー
主人公のメイ・マリネールは魔法学校の劣等生。 ある日、彼女にインフィニティという特殊能力があることが判明し、校長の薦めで世界最強の魔法使いに弟子入りすることになった。 普段は少々だらしないが、ここぞという時にはイケメンな師匠のジュリアス・フェンサーに弟子として大切にされるメイ。 さらには超美形の王子様にも気に入られて、平凡だったメイの日々は大きく変わっていく…… 彼女は立派な魔法使いになれるのか!? 2021年3月5日追記:完結しました!ありがとうございました!!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...