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5.魔法?
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どうして、カトカは僕の愛の告白を喜んでくれないのか?
そう思ったとき、ふっと嫌な考えが僕の頭をよぎった。
カトカには、もう、好きな人がいる?
このときの僕は、それが真実に違いないと思った。
だけど、やすやすと諦める気になれなくて、僕は次に言う言葉を探していた。
その時。
「わたし、川に行きます」
カトカが不意にそう言った。
「え……」
なにか用事があるのか。
一緒にいられるのもここまでか?
そう思った。けれど、
「一緒に、来て」
カトカがそう言ってくれたので、僕は安心した。
「行きます」
即答した。
「ユリエ」
カトカは、3歳ぐらいに見える子供に話しかけた。
「お母さん、この人と川の方に行ってくるね」
ユリエと呼ばれた子供は小さく頷く。
「ダーシャたちを見ててね。ユリエはお姉ちゃんなんだから」
「うん、ユリエ、お姉ちゃん」
返事をするユリエに満足そうな顔をするカトカ。
小さい子供たちだけを残して家を出ていいのだろうかと、一瞬思ったけど、カトカがそうするというのだから大丈夫なのだろうと思った。
僕とカトカは、その住処から外に出た。
住処としか言えない、到底家とは呼べない場所だった。
四面の壁がすべて半壊していて、屋根は隅っこの方にしか残っていない。
床も、屋根がある辺りの下にゴザ的なものが敷いてあるだけで、あとはむき出しの地面だ。
洞窟に住むコウモリのほうがまだ、雨風をしのげるところに住んでいると言えるだろう。
『どうしてこんなところに住んでいるの?』
それを聞こうとして、僕は意味がないかも知れないと思い、聞くのをやめた。
もっとまともな所に住むという選択肢があるなら、そうするだろう。
少なくとも今のカトカには、選択の余地がなくてそこに住んでいるのだ。
ありふれた言葉で言ってしまうと、とても貧しいのだろう。
(そんな貧しい人を、助ける仕組みはないのだろうか)
そんな事を考えた。
日本で言う生活保護とか(どういうものかよく知らないけど)。
カトカはどうやって収入を得て生活してるのだろうか。
どうして、どんな罪を犯したから処刑されるところだったのか。
僕はまだカトカのことを全然知らないのだと思った。
カトカは、時々僕の方を振り返りながら、僕の数歩前を歩いている。
『好きな人がいるの?』
知らないことはたくさんあるけど、それを一番聞きたかった。
でも、いきなりそれを聞くのは怖くて、他の質問を頭の中で探していた。
そうしたら、カトカがまた口を開いた。
「モリタカは、旅をする人」
確認のような質問だった。
旅をする人……。
「まあ、うん」
曖昧に返事をした。
「旅をして、この町に、来た?」
カトカがまた確認するようにそう言った。
「ああ、うん、そう」
それは間違いない事実だ。
「モリタカの心、魔法、かかってる」
カトカは僕の方を振り返りながら、そう言った。
魔法?
僕はその言葉の意味を考える。
魔法ってなんだ。
ふと、僕が契約書にサインしてカトカを助けたときのことが思い出された。
あのとき、老婆はなにか不思議な方法で、僕が書いたサインをカトカの胸に転写した。
カトカの胸にはさっきまでは僕の名前が書いてあった。
”守隆”と。今も残っているかも知れない。
あれも魔法だろうか。
それと似たような力が、僕の心に働きかけている?
カトカの表情を伺うと、いたずらっぽいような、少し悲しいような複雑な表情をしていた。
「魔法……?」
「魔法」
カトカは僕の言葉をオウム返しにする。
詳しく説明は、してくれないらしい。
まあ、僕の語彙力では、詳しい説明をされても理解できないかも知れないし、カトカもそれを理解しているかも知れない。
それにしても。
カトカが着ているのは僕が着ていたシャツ一枚だけなのだ。
シャツ一枚でも小柄で痩せているカトカの胴体部分をすっかり覆い隠してはいるのだけど、
それでも細めできれいな太ももなどはほとんど丸見えで、凄くセクシーだった。
シャツの下に下着類をつけていないという事実も僕の頭の中にピンク色の妄想をたくましくするのに十分だった。
だめだ、エッチなことを考えてる場合ではない。
それより、カトカが言う、僕の心にかかっている魔法とは何なのか、それが……。
「着いた。川」
ふいにカトカが言った。
「え? ああ、うん」
それは、確かに川だったけど、僕が想像したような綺麗なものではなかった。
水はすこし濁っているように見えたし、流れがゆっくりなところには水草か藻のようなものが繁殖しているようだった。
イメージ的にあまり清潔ではない。
「ここに、何をしに?」
僕はカトカに、ここに来た目的を聞いた。
カトカは僕の方に向き直って、
「モリタカの心に、かかった魔法、消す」
そう言った。
「ど、どうやって?」
僕は驚いて聞いた。
「どうやるのがいい?」
カトカは聞いた。
僕は、何を聞かれたのか分からない。
この国の言葉の解釈を間違えたんだろうか?
悩んでいると、
「じゃあ、カトカは、今から、水浴びをする」
いたずらっぽい笑顔で、カトカはそう宣言した。
風が少し吹いて、カトカの明るい茶色の髪を揺らした。
僕は話の展開が理解できずにいる。
そう思ったとき、ふっと嫌な考えが僕の頭をよぎった。
カトカには、もう、好きな人がいる?
このときの僕は、それが真実に違いないと思った。
だけど、やすやすと諦める気になれなくて、僕は次に言う言葉を探していた。
その時。
「わたし、川に行きます」
カトカが不意にそう言った。
「え……」
なにか用事があるのか。
一緒にいられるのもここまでか?
そう思った。けれど、
「一緒に、来て」
カトカがそう言ってくれたので、僕は安心した。
「行きます」
即答した。
「ユリエ」
カトカは、3歳ぐらいに見える子供に話しかけた。
「お母さん、この人と川の方に行ってくるね」
ユリエと呼ばれた子供は小さく頷く。
「ダーシャたちを見ててね。ユリエはお姉ちゃんなんだから」
「うん、ユリエ、お姉ちゃん」
返事をするユリエに満足そうな顔をするカトカ。
小さい子供たちだけを残して家を出ていいのだろうかと、一瞬思ったけど、カトカがそうするというのだから大丈夫なのだろうと思った。
僕とカトカは、その住処から外に出た。
住処としか言えない、到底家とは呼べない場所だった。
四面の壁がすべて半壊していて、屋根は隅っこの方にしか残っていない。
床も、屋根がある辺りの下にゴザ的なものが敷いてあるだけで、あとはむき出しの地面だ。
洞窟に住むコウモリのほうがまだ、雨風をしのげるところに住んでいると言えるだろう。
『どうしてこんなところに住んでいるの?』
それを聞こうとして、僕は意味がないかも知れないと思い、聞くのをやめた。
もっとまともな所に住むという選択肢があるなら、そうするだろう。
少なくとも今のカトカには、選択の余地がなくてそこに住んでいるのだ。
ありふれた言葉で言ってしまうと、とても貧しいのだろう。
(そんな貧しい人を、助ける仕組みはないのだろうか)
そんな事を考えた。
日本で言う生活保護とか(どういうものかよく知らないけど)。
カトカはどうやって収入を得て生活してるのだろうか。
どうして、どんな罪を犯したから処刑されるところだったのか。
僕はまだカトカのことを全然知らないのだと思った。
カトカは、時々僕の方を振り返りながら、僕の数歩前を歩いている。
『好きな人がいるの?』
知らないことはたくさんあるけど、それを一番聞きたかった。
でも、いきなりそれを聞くのは怖くて、他の質問を頭の中で探していた。
そうしたら、カトカがまた口を開いた。
「モリタカは、旅をする人」
確認のような質問だった。
旅をする人……。
「まあ、うん」
曖昧に返事をした。
「旅をして、この町に、来た?」
カトカがまた確認するようにそう言った。
「ああ、うん、そう」
それは間違いない事実だ。
「モリタカの心、魔法、かかってる」
カトカは僕の方を振り返りながら、そう言った。
魔法?
僕はその言葉の意味を考える。
魔法ってなんだ。
ふと、僕が契約書にサインしてカトカを助けたときのことが思い出された。
あのとき、老婆はなにか不思議な方法で、僕が書いたサインをカトカの胸に転写した。
カトカの胸にはさっきまでは僕の名前が書いてあった。
”守隆”と。今も残っているかも知れない。
あれも魔法だろうか。
それと似たような力が、僕の心に働きかけている?
カトカの表情を伺うと、いたずらっぽいような、少し悲しいような複雑な表情をしていた。
「魔法……?」
「魔法」
カトカは僕の言葉をオウム返しにする。
詳しく説明は、してくれないらしい。
まあ、僕の語彙力では、詳しい説明をされても理解できないかも知れないし、カトカもそれを理解しているかも知れない。
それにしても。
カトカが着ているのは僕が着ていたシャツ一枚だけなのだ。
シャツ一枚でも小柄で痩せているカトカの胴体部分をすっかり覆い隠してはいるのだけど、
それでも細めできれいな太ももなどはほとんど丸見えで、凄くセクシーだった。
シャツの下に下着類をつけていないという事実も僕の頭の中にピンク色の妄想をたくましくするのに十分だった。
だめだ、エッチなことを考えてる場合ではない。
それより、カトカが言う、僕の心にかかっている魔法とは何なのか、それが……。
「着いた。川」
ふいにカトカが言った。
「え? ああ、うん」
それは、確かに川だったけど、僕が想像したような綺麗なものではなかった。
水はすこし濁っているように見えたし、流れがゆっくりなところには水草か藻のようなものが繁殖しているようだった。
イメージ的にあまり清潔ではない。
「ここに、何をしに?」
僕はカトカに、ここに来た目的を聞いた。
カトカは僕の方に向き直って、
「モリタカの心に、かかった魔法、消す」
そう言った。
「ど、どうやって?」
僕は驚いて聞いた。
「どうやるのがいい?」
カトカは聞いた。
僕は、何を聞かれたのか分からない。
この国の言葉の解釈を間違えたんだろうか?
悩んでいると、
「じゃあ、カトカは、今から、水浴びをする」
いたずらっぽい笑顔で、カトカはそう宣言した。
風が少し吹いて、カトカの明るい茶色の髪を揺らした。
僕は話の展開が理解できずにいる。
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