65 / 840
2 海の国の聖人候補
254 魔石家電普及計画
しおりを挟む
254
実を言えば、これは〝魔石〟ではなく〝タネ石〟を私が魔石化したものだが、見た目も機能も同じだし、余計なことを言う必要もないので〝魔石〟ということで取り引きを進める。
まだまだ成長期の私は、なるべく毎日魔法力を限界まで消費することで、魔法力量をさらに増やすことができる。
だが、〝バケモノ〟とからかわれるレベルの魔法力を持つ私、常に消費が間に合わない。そこで、残ってしまったときは、ストックしてある大量の〝タネ石〟に注入して育てるのが習慣になっている。
無駄に危ない大きな魔法を使って消費するより建設的だし、いざとなればこれを売って生活できるし、と思って続けてきたので、いまでは多少売ったほうがいいぐらい大量に《無限回廊の扉》の中に保管されている。
持ってきたのは、そのストックのほんの一部だ。
「そちらで詳しく査定していただいてからで結構ですが、私の概算では大金貨五十枚というところでしょうか」
私は、やや安めの相場価格で様子を見る。とは言っても五億円だけどね。
「ご、五十でございますか。確かに、良質の〝魔石〟ですと、そのお値段でもかなり良心的でございますね……」
いきなり飛び込んできた超大口取引に、どう受けるかタスカ幹事は思案顔だ。やはり金額の大きさとこの国での魔石の普及率の低さが気になっているのだろう。
(このままだと話が進まなそうだし……じゃ、話を進めてしまったほうがいいね)
「その前に、先程申し上げた付加価値についてお話し致しましょうか」
私は試作した大きな段ダンボール箱ぐらいのサイズの箱を取り出した。
そして、その上部に取り付けられた扉を開け、中から昨日作った刺身を取り出す。
「昨日調理したものです。試食してみて頂けますか?」
「え? 昨日でございますか? 生魚ですよね?」
タスカ幹事があからさまに嫌そうな顔になる。
「では、私から頂きますね」
箸を使って醤油で平然と刺身を食べる私をみて、驚いたタスカ幹事は、意を決したのか恐る恐るフォークで刺身を口にした。
「こ、これ本当に昨日の刺身ですか? ほどよくひんやりとして、旨味があり全く臭みもない。素晴らしく美味しいです! その箱は、マジックボックスなのでございますか?」
「いえ、違いますよ。箱の中に手を入れてみてください」
私が促すと、恐る恐る箱を開けて手を入れたタスカ幹事が、我が意を得たりと頷く。
「〝氷の魔石〟で冷やされたのですね。なるほど……」
「いえ、違いますよ。使ったのは〝水の魔石〟そして〝風の魔石〟です」
私が今回作ったのは、気化熱を利用した冷蔵庫。水を風で冷やすことで生まれる冷気を使って庫内を冷やす装置だ。
凍らせるのではなく、鮮度を数日保つといった目的ならば、これで十分な低温に保つことができる。
箱は二重構造になっており、以前森で見つけたスポンジ状の植物を断熱材として使っている。
「基本的には風と水さえあれば良いので、魔石でなくてもいいのですが、それですと一定の温度を常に保つことは難しいのです。庫内の温度の変化は、中の食品の劣化につながりますので、あまりお勧めはできません。アキツは水は潤沢のようですから、うまく工夫すれば〝風の魔石〟だけでも、一時保冷は可能だと思いますが……」
タスカ幹事は見たこともない商品を提案されて、驚きつつも既に商売としての勘定を弾き始めている様子だ。
「生鮮品をいままでより長く売れるようになれば、大きな店は相当の利益になるはずです。元々保存に優れた食品ならば、さらに長く保存できる。旬の短い食品も長く売れる……すごいですよ、これは!」
更に刺身を食べながら、美味しさに唸るタスカ幹事。
(あ、それ昆布締めにしてるから、更に美味しいんだけどね)
「おそらく魔石に馴染みがないこの国の方々にも、この方法込みで販売されれば需要が見込めるのではないかと思いました。魔石の起動に必要な魔法力はごくわずかですし、ゼロの方にはさすがに使えませんが、半数ぐらいの方には操作できると思います」
冷暗所を選べば、かなり大型の冷蔵庫でも大丈夫なはずだ。庫内の温度管理は厳密にしたほうがいいので、操作係も含めその辺りは専門スタッフを置いたほうがいいだろう。
私の考えでは保険として〝氷の魔石〟も装備し、気温が高すぎて温度が安定しない時に備えるのがベストだと思っている。
「しかし、そうなりますと……」
そう、風、水、氷この3つの魔石を揃えるとなれば、莫大な投資になる。もちろん大店であれば出せなくはないだろうが、なにせこの世界では想像もしなかっただろう商品だ。
「状況に応じて魔石を使ったり使わなかったり加減ができますので、従来の方法よりかなり長く魔石は使うことが可能です。私の試算では、一番小さな魔石でも十五から二十年は使えると思いますし、暑いときだけ使用する〝氷の魔石〟は三十年以上に亘って使える計算です」
今回の気化熱を利用した冷蔵庫は、なるべく長く使えることを考えて提案したものだ。
「それにこの商品につきましては、その販売方法にもひとつご提案がございます」
私は今回最も重要な点について話を始めた。
実を言えば、これは〝魔石〟ではなく〝タネ石〟を私が魔石化したものだが、見た目も機能も同じだし、余計なことを言う必要もないので〝魔石〟ということで取り引きを進める。
まだまだ成長期の私は、なるべく毎日魔法力を限界まで消費することで、魔法力量をさらに増やすことができる。
だが、〝バケモノ〟とからかわれるレベルの魔法力を持つ私、常に消費が間に合わない。そこで、残ってしまったときは、ストックしてある大量の〝タネ石〟に注入して育てるのが習慣になっている。
無駄に危ない大きな魔法を使って消費するより建設的だし、いざとなればこれを売って生活できるし、と思って続けてきたので、いまでは多少売ったほうがいいぐらい大量に《無限回廊の扉》の中に保管されている。
持ってきたのは、そのストックのほんの一部だ。
「そちらで詳しく査定していただいてからで結構ですが、私の概算では大金貨五十枚というところでしょうか」
私は、やや安めの相場価格で様子を見る。とは言っても五億円だけどね。
「ご、五十でございますか。確かに、良質の〝魔石〟ですと、そのお値段でもかなり良心的でございますね……」
いきなり飛び込んできた超大口取引に、どう受けるかタスカ幹事は思案顔だ。やはり金額の大きさとこの国での魔石の普及率の低さが気になっているのだろう。
(このままだと話が進まなそうだし……じゃ、話を進めてしまったほうがいいね)
「その前に、先程申し上げた付加価値についてお話し致しましょうか」
私は試作した大きな段ダンボール箱ぐらいのサイズの箱を取り出した。
そして、その上部に取り付けられた扉を開け、中から昨日作った刺身を取り出す。
「昨日調理したものです。試食してみて頂けますか?」
「え? 昨日でございますか? 生魚ですよね?」
タスカ幹事があからさまに嫌そうな顔になる。
「では、私から頂きますね」
箸を使って醤油で平然と刺身を食べる私をみて、驚いたタスカ幹事は、意を決したのか恐る恐るフォークで刺身を口にした。
「こ、これ本当に昨日の刺身ですか? ほどよくひんやりとして、旨味があり全く臭みもない。素晴らしく美味しいです! その箱は、マジックボックスなのでございますか?」
「いえ、違いますよ。箱の中に手を入れてみてください」
私が促すと、恐る恐る箱を開けて手を入れたタスカ幹事が、我が意を得たりと頷く。
「〝氷の魔石〟で冷やされたのですね。なるほど……」
「いえ、違いますよ。使ったのは〝水の魔石〟そして〝風の魔石〟です」
私が今回作ったのは、気化熱を利用した冷蔵庫。水を風で冷やすことで生まれる冷気を使って庫内を冷やす装置だ。
凍らせるのではなく、鮮度を数日保つといった目的ならば、これで十分な低温に保つことができる。
箱は二重構造になっており、以前森で見つけたスポンジ状の植物を断熱材として使っている。
「基本的には風と水さえあれば良いので、魔石でなくてもいいのですが、それですと一定の温度を常に保つことは難しいのです。庫内の温度の変化は、中の食品の劣化につながりますので、あまりお勧めはできません。アキツは水は潤沢のようですから、うまく工夫すれば〝風の魔石〟だけでも、一時保冷は可能だと思いますが……」
タスカ幹事は見たこともない商品を提案されて、驚きつつも既に商売としての勘定を弾き始めている様子だ。
「生鮮品をいままでより長く売れるようになれば、大きな店は相当の利益になるはずです。元々保存に優れた食品ならば、さらに長く保存できる。旬の短い食品も長く売れる……すごいですよ、これは!」
更に刺身を食べながら、美味しさに唸るタスカ幹事。
(あ、それ昆布締めにしてるから、更に美味しいんだけどね)
「おそらく魔石に馴染みがないこの国の方々にも、この方法込みで販売されれば需要が見込めるのではないかと思いました。魔石の起動に必要な魔法力はごくわずかですし、ゼロの方にはさすがに使えませんが、半数ぐらいの方には操作できると思います」
冷暗所を選べば、かなり大型の冷蔵庫でも大丈夫なはずだ。庫内の温度管理は厳密にしたほうがいいので、操作係も含めその辺りは専門スタッフを置いたほうがいいだろう。
私の考えでは保険として〝氷の魔石〟も装備し、気温が高すぎて温度が安定しない時に備えるのがベストだと思っている。
「しかし、そうなりますと……」
そう、風、水、氷この3つの魔石を揃えるとなれば、莫大な投資になる。もちろん大店であれば出せなくはないだろうが、なにせこの世界では想像もしなかっただろう商品だ。
「状況に応じて魔石を使ったり使わなかったり加減ができますので、従来の方法よりかなり長く魔石は使うことが可能です。私の試算では、一番小さな魔石でも十五から二十年は使えると思いますし、暑いときだけ使用する〝氷の魔石〟は三十年以上に亘って使える計算です」
今回の気化熱を利用した冷蔵庫は、なるべく長く使えることを考えて提案したものだ。
「それにこの商品につきましては、その販売方法にもひとつご提案がございます」
私は今回最も重要な点について話を始めた。
419
お気に入りに追加
13,162
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。