利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

254 魔石家電普及計画

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254

実を言えば、これは〝魔石〟ではなく〝タネ石〟を私が魔石化したものだが、見た目も機能も同じだし、余計なことを言う必要もないので〝魔石〟ということで取り引きを進める。

まだまだ成長期の私は、なるべく毎日魔法力を限界まで消費することで、魔法力量をさらに増やすことができる。
だが、〝バケモノ〟とからかわれるレベルの魔法力を持つ私、常に消費が間に合わない。そこで、残ってしまったときは、ストックしてある大量の〝タネ石〟に注入して育てるのが習慣になっている。

無駄に危ない大きな魔法を使って消費するより建設的だし、いざとなればこれを売って生活できるし、と思って続けてきたので、いまでは多少売ったほうがいいぐらい大量に《無限回廊の扉》の中に保管されている。

持ってきたのは、そのストックのほんの一部だ。

「そちらで詳しく査定していただいてからで結構ですが、私の概算では大金貨五十枚というところでしょうか」

私は、やや安めの相場価格で様子を見る。とは言っても五億円だけどね。

「ご、五十でございますか。確かに、良質の〝魔石〟ですと、そのお値段でもかなり良心的でございますね……」

いきなり飛び込んできた超大口取引に、どう受けるかタスカ幹事は思案顔だ。やはり金額の大きさとこの国での魔石の普及率の低さが気になっているのだろう。

(このままだと話が進まなそうだし……じゃ、話を進めてしまったほうがいいね)

「その前に、先程申し上げた付加価値についてお話し致しましょうか」

私は試作した大きな段ダンボール箱ぐらいのサイズの箱を取り出した。

そして、その上部に取り付けられた扉を開け、中から昨日作った刺身を取り出す。

「昨日調理したものです。試食してみて頂けますか?」

「え? 昨日でございますか? 生魚ですよね?」

タスカ幹事があからさまに嫌そうな顔になる。

「では、私から頂きますね」

箸を使って醤油で平然と刺身を食べる私をみて、驚いたタスカ幹事は、意を決したのか恐る恐るフォークで刺身を口にした。

「こ、これ本当に昨日の刺身ですか? ほどよくひんやりとして、旨味があり全く臭みもない。素晴らしく美味しいです! その箱は、マジックボックスなのでございますか?」

「いえ、違いますよ。箱の中に手を入れてみてください」

私が促すと、恐る恐る箱を開けて手を入れたタスカ幹事が、我が意を得たりと頷く。

「〝氷の魔石〟で冷やされたのですね。なるほど……」

「いえ、違いますよ。使ったのは〝水の魔石〟そして〝風の魔石〟です」

私が今回作ったのは、気化熱を利用した冷蔵庫。水を風で冷やすことで生まれる冷気を使って庫内を冷やす装置だ。
凍らせるのではなく、鮮度を数日保つといった目的ならば、これで十分な低温に保つことができる。

箱は二重構造になっており、以前森で見つけたスポンジ状の植物を断熱材として使っている。

「基本的には風と水さえあれば良いので、魔石でなくてもいいのですが、それですと一定の温度を常に保つことは難しいのです。庫内の温度の変化は、中の食品の劣化につながりますので、あまりお勧めはできません。アキツは水は潤沢のようですから、うまく工夫すれば〝風の魔石〟だけでも、一時保冷は可能だと思いますが……」

タスカ幹事は見たこともない商品を提案されて、驚きつつも既に商売としての勘定を弾き始めている様子だ。

「生鮮品をいままでより長く売れるようになれば、大きな店は相当の利益になるはずです。元々保存に優れた食品ならば、さらに長く保存できる。旬の短い食品も長く売れる……すごいですよ、これは!」

更に刺身を食べながら、美味しさに唸るタスカ幹事。

(あ、それ昆布締めにしてるから、更に美味しいんだけどね)

「おそらく魔石に馴染みがないこの国の方々にも、この方法込みで販売されれば需要が見込めるのではないかと思いました。魔石の起動に必要な魔法力はごくわずかですし、ゼロの方にはさすがに使えませんが、半数ぐらいの方には操作できると思います」

冷暗所を選べば、かなり大型の冷蔵庫でも大丈夫なはずだ。庫内の温度管理は厳密にしたほうがいいので、操作係も含めその辺りは専門スタッフを置いたほうがいいだろう。

私の考えでは保険として〝氷の魔石〟も装備し、気温が高すぎて温度が安定しない時に備えるのがベストだと思っている。

「しかし、そうなりますと……」

そう、風、水、氷この3つの魔石を揃えるとなれば、莫大な投資になる。もちろん大店であれば出せなくはないだろうが、なにせこの世界では想像もしなかっただろう商品だ。

「状況に応じて魔石を使ったり使わなかったり加減ができますので、従来の方法よりかなり長く魔石は使うことが可能です。私の試算では、一番小さな魔石でも十五から二十年は使えると思いますし、暑いときだけ使用する〝氷の魔石〟は三十年以上に亘って使える計算です」

今回の気化熱を利用した冷蔵庫は、なるべく長く使えることを考えて提案したものだ。

「それにこの商品につきましては、その販売方法にもひとつご提案がございます」

私は今回最も重要な点について話を始めた。
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