58 / 837
2 海の国の聖人候補
247 楽しくお料理
しおりを挟む
247
料理好きだったというこの家の前オーナーのおかげで、新しい家の料理環境は悪くなさそうだ。
道具や食器も全て譲られたので、直ぐに料理ができ、沿海州風の食器も色々使える。
(素晴らしい!)
残念ながら沿海州の物件なので、高級別荘とは言っても、魔導系の道具はなかった。でも、必要なら持ち込めばいいだけのことだ。
改めてキッチンを詳しく見た所、前の持ち主が料理好き、そしてもてなし好きだったのは間違いないようで、調理道具も食器もとっても充実している。
大陸ではあまり見ない魚料理に合いそうな土物の食器もたくさんあり、見ているだけで嬉しくなってしまう。
ナギワさんもご招待したことだし、《無限回廊の扉》を出たり入ったりしているところを見られてもまずいので、今日はこのキッチンだけを使って料理をしていこう。
彼女は一旦お店に戻った後、夕食の時間帯に再度来ることになっているので、それまでが料理時間だ。
必要と思われる道具を揃えてから、まずは大量のお湯を沸かしつつ、下拵えをしていこう。
「やっとまともにこれが役立つ日が来たわ!」
臨戦態勢の私は出刃包丁を片手に割烹着でキッチンに仁王立ちしている。
「ああ、それもメイロードさまが鍛治工房に特注していた包丁のうちの一本ですね。確かに、あまりお使いになっているところを見たことがありませんでした。魚用だったのでございますね」
「ふふふ」
ご機嫌の私は、大小様々の魚を次々に、捌いていく。
魚の解体は散々前世でやっていたので、カツオぐらいの大きさの魚でも余裕だが、知らない魚にはどんな毒や危険があるかわからないので、一応慎重に調べながら進めていこう。
《鑑定》で得た情報を参照しながら、初めての魚も次々に捌いていく。
ソーヤは、魚のさばき方をよく知らないというので、まずは私が手本を見せながら捌いていく。
私のやり方を見て覚えたら、ソーヤもすぐ参戦するそうだ。
「こんな色々な魚を捌くところから魚料理が見られるなんて、なんて面白い経験でしょう!メイロードさま、楽しいですね!」
家事妖精もわくわくが止まらないようだ。
赤身の魚、白身の魚、小骨の多いものに油の多いもの、魚の個性は色々だ。
もうすでに《鑑定》は済んでいるので、魚の特徴は把握済みだ。
「まずは昆布締めを作っておきましょうか」
白身の魚を薄めに削ぎ切り、酒で表面を軽く拭いた昆布で挟んで、少し重石をして冷暗所で保存する。
先ほどの市場から買ってきた昆布を使ってみたが、問題なさそうだ。
でも、こういう使い方はアキツではしていない。出汁を取るのではなく煮物の具材として使ったりしているようだ。
(もったいないな、とは思うけど天然物だけで生産量はそう多くないみたいだからなぁ。値段もそこそこ高いし)
「昆布で挟むだけ……これだけですか?」
不思議そうなソーヤだが、後で食べて驚いてもらおう。
さて、次は煮付けだ。
油の乗ったいい型の赤魚があったので、こってり味でつまみにもおかずにも最高の煮付けを作ろうと思う。
「とは言っても、特に難しいことはないんだけどね。新鮮な魚で作る煮付けは一味違うよ、期待してね!」
今日は醤油もみりんも日本酒も使って、和食パーティ。
(醤油が市場で見つからなかったのはがっかりだけど、魚醤文化が浸透しているところを見ると可能性はまだあると思う。山間部の方に足を伸ばしてみたほうがいいかもしれない)
「あとは、茶碗蒸しも作ろうかな。
あ、天ぷらもしよっと!」
昆布と鰹節に近い半乾燥のアキツ風生節カオカオを使って出汁を引く。
(これこれ!この香り!!)
私はソーヤに桂剥きを教え、飾り包丁もいくつか教えてみた。
ソーヤは楽しそうに新しい技術の習得に取り組んでいる。きっとソーヤなら、あっと言う間に私より上手く出来るようになるに違いない。
ソーヤとふたり、大量の海産物を捌きながら、味見をし、批評し合い、料理法を考えたりしていると、本当に楽しくて仕方がない。
この世界で生き抜くため、後先考えず突っ走った結果、やたら有名になってしまった私は、なんだか色々と窮屈だと思っていたのかもしれない。
出汁や醤油のいい香りが漂うキッチンに響く包丁の音……なんて心地いい。
誰も自分のことを知らない場所で好き放題できることに、今とても開放感を感じている。
しかも新しい土地の新しい素材に出会えて、更に美味しい料理がもうすぐ出来上がる。
(最高だね!)
私は元のオーナーが残してくれた野趣あふれる沿海州産のステキな食器類を選びながら、幸せを噛み締めていた。
料理好きだったというこの家の前オーナーのおかげで、新しい家の料理環境は悪くなさそうだ。
道具や食器も全て譲られたので、直ぐに料理ができ、沿海州風の食器も色々使える。
(素晴らしい!)
残念ながら沿海州の物件なので、高級別荘とは言っても、魔導系の道具はなかった。でも、必要なら持ち込めばいいだけのことだ。
改めてキッチンを詳しく見た所、前の持ち主が料理好き、そしてもてなし好きだったのは間違いないようで、調理道具も食器もとっても充実している。
大陸ではあまり見ない魚料理に合いそうな土物の食器もたくさんあり、見ているだけで嬉しくなってしまう。
ナギワさんもご招待したことだし、《無限回廊の扉》を出たり入ったりしているところを見られてもまずいので、今日はこのキッチンだけを使って料理をしていこう。
彼女は一旦お店に戻った後、夕食の時間帯に再度来ることになっているので、それまでが料理時間だ。
必要と思われる道具を揃えてから、まずは大量のお湯を沸かしつつ、下拵えをしていこう。
「やっとまともにこれが役立つ日が来たわ!」
臨戦態勢の私は出刃包丁を片手に割烹着でキッチンに仁王立ちしている。
「ああ、それもメイロードさまが鍛治工房に特注していた包丁のうちの一本ですね。確かに、あまりお使いになっているところを見たことがありませんでした。魚用だったのでございますね」
「ふふふ」
ご機嫌の私は、大小様々の魚を次々に、捌いていく。
魚の解体は散々前世でやっていたので、カツオぐらいの大きさの魚でも余裕だが、知らない魚にはどんな毒や危険があるかわからないので、一応慎重に調べながら進めていこう。
《鑑定》で得た情報を参照しながら、初めての魚も次々に捌いていく。
ソーヤは、魚のさばき方をよく知らないというので、まずは私が手本を見せながら捌いていく。
私のやり方を見て覚えたら、ソーヤもすぐ参戦するそうだ。
「こんな色々な魚を捌くところから魚料理が見られるなんて、なんて面白い経験でしょう!メイロードさま、楽しいですね!」
家事妖精もわくわくが止まらないようだ。
赤身の魚、白身の魚、小骨の多いものに油の多いもの、魚の個性は色々だ。
もうすでに《鑑定》は済んでいるので、魚の特徴は把握済みだ。
「まずは昆布締めを作っておきましょうか」
白身の魚を薄めに削ぎ切り、酒で表面を軽く拭いた昆布で挟んで、少し重石をして冷暗所で保存する。
先ほどの市場から買ってきた昆布を使ってみたが、問題なさそうだ。
でも、こういう使い方はアキツではしていない。出汁を取るのではなく煮物の具材として使ったりしているようだ。
(もったいないな、とは思うけど天然物だけで生産量はそう多くないみたいだからなぁ。値段もそこそこ高いし)
「昆布で挟むだけ……これだけですか?」
不思議そうなソーヤだが、後で食べて驚いてもらおう。
さて、次は煮付けだ。
油の乗ったいい型の赤魚があったので、こってり味でつまみにもおかずにも最高の煮付けを作ろうと思う。
「とは言っても、特に難しいことはないんだけどね。新鮮な魚で作る煮付けは一味違うよ、期待してね!」
今日は醤油もみりんも日本酒も使って、和食パーティ。
(醤油が市場で見つからなかったのはがっかりだけど、魚醤文化が浸透しているところを見ると可能性はまだあると思う。山間部の方に足を伸ばしてみたほうがいいかもしれない)
「あとは、茶碗蒸しも作ろうかな。
あ、天ぷらもしよっと!」
昆布と鰹節に近い半乾燥のアキツ風生節カオカオを使って出汁を引く。
(これこれ!この香り!!)
私はソーヤに桂剥きを教え、飾り包丁もいくつか教えてみた。
ソーヤは楽しそうに新しい技術の習得に取り組んでいる。きっとソーヤなら、あっと言う間に私より上手く出来るようになるに違いない。
ソーヤとふたり、大量の海産物を捌きながら、味見をし、批評し合い、料理法を考えたりしていると、本当に楽しくて仕方がない。
この世界で生き抜くため、後先考えず突っ走った結果、やたら有名になってしまった私は、なんだか色々と窮屈だと思っていたのかもしれない。
出汁や醤油のいい香りが漂うキッチンに響く包丁の音……なんて心地いい。
誰も自分のことを知らない場所で好き放題できることに、今とても開放感を感じている。
しかも新しい土地の新しい素材に出会えて、更に美味しい料理がもうすぐ出来上がる。
(最高だね!)
私は元のオーナーが残してくれた野趣あふれる沿海州産のステキな食器類を選びながら、幸せを噛み締めていた。
354
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。