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2 海の国の聖人候補
246 マホロ中央魚市場
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246
(おお、さかなだー! 海産物だぁー!)
テンション急上昇中の私がいるのは、アキツ随一の規模を誇る中央魚市場、小売業者が集まったエリアだ。
築地の場外市場みたいな感じだろうか。
見渡す限り海の香りのする店ばかりが立ち並んでおり、色々な海産物の専門店が軒を連ねている。
「朝の方が、もっと活気もあり、新鮮な魚が揃っていますが、まぁ、アキツでもここより大きい魚市場はないですね」
案内してくれたナギワさんもちょっと得意げだ。
これでも朝に比べれば人通りも少なめだというが、昼を回った今もまだまだ、まっすぐに歩くのにちょっと苦労するぐらいの活気だ。
(もう、アキツの活気は全部ここに集中しちゃっているみたいだね)
その活気ある市場の中、私は見たことのない海産物を端から《鑑定》しながら、ガンガン買っていく。
氷や冷蔵の設備や魔法はやはりないようで、その代わりなのか魚介の周囲には冷たい水が流されている。
売られている魚介類は、名前こそ全く違うが、以前の世界でも見たことのあるようなものと、全く見たことのない奇妙なものがほぼ半々で、中には本当にこれを食べるのかと尻込みしたくなるようなグロテスクなものもあった。
だが、とにかく、おおよその情報が解って〝可食〟の鑑定が出たものは端から試しに料理して食べてみたい。〝生食可〟の海産物は、端から刺身にして食べたい。
そう、私は新鮮で珍しい刺身がもの凄く食べたかったのだ!
私とソーヤの食い意地にまみれた物欲タッグは、後ろからついてきているセイリュウとナギワさんを呆れさせる勢いで、片っ端から店を回っていった。
「いくらむげ……マジックバックがあるからって、無茶な買い方はしない方がいいと思うぞー。明日という日もあるんだしー」
セイリュウが一応保護者の義務という感じで諌めようとしてくるが、私には何も聞こえない。
聞こえないったら、聞こえない!
「海苔だ、海苔がある!ワカメが!ああ、あれはハマグリじゃないかしら!!」
やはりアキツは海産物の宝庫だった。これで異世界ドメスティック寿司への扉が開いたかもしれない。
(いや、この国なら既にあるんじゃないか?)
知りたいことはたくさんあるが、今は目の前の品物の《鑑定》に集中しよう。
以前の世界では見たこともない海草を眺めていると、いい香りが漂ってきた。
(これは……)
香りの方には、屋台で汁物を売る店。私がフラフラと立ち寄るとソーヤは直ぐに買いに走ってくれた。
「白身魚と地野菜の汁物だそうです。魚は色々混ざっているそうで、味付けは地元の名産を使っているとの話でした」
その魅惑的な香りに一口すすった私は、驚いた。
(これは、醤油っぽいけど、色も薄いし、何か違う。これは何だろう?)
一生懸命《鑑定》していくとカタハタという魚を発酵させた調味料、ということが分かった。
(カタハタは地魚、それの発酵食品……つまり魚醤だ!さすが魚の国、この国なら色々な発酵文化が進んでいるに違いない!)
「ナギワさん、この味付けに使われているもの、魚醤だと思うんですが、どこで売っているかわかりますか?」
私から魚スープを受け取って一口飲んだナギワさんはすぐに分かったようだ。
「ああ、これはこの辺りではよく使われる〝ナープル〟という調味料です。沿海州では色々な地域で味の違う魚醤が作られているんですよ。
では、調味料を扱う大店がありますので、そちらへご案内しましょう」
私はスキップせんばかりの勢いで、ご機嫌にナギワさんの後をついていく。
「何も今日全部見て回らなくてもいいだろう。これからしばらくいるつもりなら、明日の楽しみに残しておいてもいいんじゃないのか?」
ずっと私たちの買い物に同行してくれているセイリュウは、私のあまりの勢いにかなり引いているようだ。
「取り敢えず、今日は調味料だけ見たら帰りますよ。ふっふー、期待して下さい。今日の夕食は絶対美味しいですから!」
「わかった、わかった。楽しみにしてるよ」
これ以上諌めてもムダ、っとすっかり諦めた様子で手を挙げたセイリュウを置いて、勢いよく駆け出す。
(今日は、海産物尽くしの和食パーティだ!)
(おお、さかなだー! 海産物だぁー!)
テンション急上昇中の私がいるのは、アキツ随一の規模を誇る中央魚市場、小売業者が集まったエリアだ。
築地の場外市場みたいな感じだろうか。
見渡す限り海の香りのする店ばかりが立ち並んでおり、色々な海産物の専門店が軒を連ねている。
「朝の方が、もっと活気もあり、新鮮な魚が揃っていますが、まぁ、アキツでもここより大きい魚市場はないですね」
案内してくれたナギワさんもちょっと得意げだ。
これでも朝に比べれば人通りも少なめだというが、昼を回った今もまだまだ、まっすぐに歩くのにちょっと苦労するぐらいの活気だ。
(もう、アキツの活気は全部ここに集中しちゃっているみたいだね)
その活気ある市場の中、私は見たことのない海産物を端から《鑑定》しながら、ガンガン買っていく。
氷や冷蔵の設備や魔法はやはりないようで、その代わりなのか魚介の周囲には冷たい水が流されている。
売られている魚介類は、名前こそ全く違うが、以前の世界でも見たことのあるようなものと、全く見たことのない奇妙なものがほぼ半々で、中には本当にこれを食べるのかと尻込みしたくなるようなグロテスクなものもあった。
だが、とにかく、おおよその情報が解って〝可食〟の鑑定が出たものは端から試しに料理して食べてみたい。〝生食可〟の海産物は、端から刺身にして食べたい。
そう、私は新鮮で珍しい刺身がもの凄く食べたかったのだ!
私とソーヤの食い意地にまみれた物欲タッグは、後ろからついてきているセイリュウとナギワさんを呆れさせる勢いで、片っ端から店を回っていった。
「いくらむげ……マジックバックがあるからって、無茶な買い方はしない方がいいと思うぞー。明日という日もあるんだしー」
セイリュウが一応保護者の義務という感じで諌めようとしてくるが、私には何も聞こえない。
聞こえないったら、聞こえない!
「海苔だ、海苔がある!ワカメが!ああ、あれはハマグリじゃないかしら!!」
やはりアキツは海産物の宝庫だった。これで異世界ドメスティック寿司への扉が開いたかもしれない。
(いや、この国なら既にあるんじゃないか?)
知りたいことはたくさんあるが、今は目の前の品物の《鑑定》に集中しよう。
以前の世界では見たこともない海草を眺めていると、いい香りが漂ってきた。
(これは……)
香りの方には、屋台で汁物を売る店。私がフラフラと立ち寄るとソーヤは直ぐに買いに走ってくれた。
「白身魚と地野菜の汁物だそうです。魚は色々混ざっているそうで、味付けは地元の名産を使っているとの話でした」
その魅惑的な香りに一口すすった私は、驚いた。
(これは、醤油っぽいけど、色も薄いし、何か違う。これは何だろう?)
一生懸命《鑑定》していくとカタハタという魚を発酵させた調味料、ということが分かった。
(カタハタは地魚、それの発酵食品……つまり魚醤だ!さすが魚の国、この国なら色々な発酵文化が進んでいるに違いない!)
「ナギワさん、この味付けに使われているもの、魚醤だと思うんですが、どこで売っているかわかりますか?」
私から魚スープを受け取って一口飲んだナギワさんはすぐに分かったようだ。
「ああ、これはこの辺りではよく使われる〝ナープル〟という調味料です。沿海州では色々な地域で味の違う魚醤が作られているんですよ。
では、調味料を扱う大店がありますので、そちらへご案内しましょう」
私はスキップせんばかりの勢いで、ご機嫌にナギワさんの後をついていく。
「何も今日全部見て回らなくてもいいだろう。これからしばらくいるつもりなら、明日の楽しみに残しておいてもいいんじゃないのか?」
ずっと私たちの買い物に同行してくれているセイリュウは、私のあまりの勢いにかなり引いているようだ。
「取り敢えず、今日は調味料だけ見たら帰りますよ。ふっふー、期待して下さい。今日の夕食は絶対美味しいですから!」
「わかった、わかった。楽しみにしてるよ」
これ以上諌めてもムダ、っとすっかり諦めた様子で手を挙げたセイリュウを置いて、勢いよく駆け出す。
(今日は、海産物尽くしの和食パーティだ!)
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