利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
57 / 837
2 海の国の聖人候補

246 マホロ中央魚市場

しおりを挟む
246

(おお、さかなだー! 海産物だぁー!)

テンション急上昇中の私がいるのは、アキツ随一の規模を誇る中央魚市場、小売業者が集まったエリアだ。

築地の場外市場みたいな感じだろうか。

見渡す限り海の香りのする店ばかりが立ち並んでおり、色々な海産物の専門店が軒を連ねている。

「朝の方が、もっと活気もあり、新鮮な魚が揃っていますが、まぁ、アキツでもここより大きい魚市場はないですね」

案内してくれたナギワさんもちょっと得意げだ。

これでも朝に比べれば人通りも少なめだというが、昼を回った今もまだまだ、まっすぐに歩くのにちょっと苦労するぐらいの活気だ。

(もう、アキツの活気は全部ここに集中しちゃっているみたいだね)

その活気ある市場の中、私は見たことのない海産物を端から《鑑定》しながら、ガンガン買っていく。

氷や冷蔵の設備や魔法はやはりないようで、その代わりなのか魚介の周囲には冷たい水が流されている。

売られている魚介類は、名前こそ全く違うが、以前の世界でも見たことのあるようなものと、全く見たことのない奇妙なものがほぼ半々で、中には本当にこれを食べるのかと尻込みしたくなるようなグロテスクなものもあった。

だが、とにかく、おおよその情報が解って〝可食〟の鑑定が出たものは端から試しに料理して食べてみたい。〝生食可〟の海産物は、端から刺身にして食べたい。

そう、私は新鮮で珍しい刺身がもの凄く食べたかったのだ!

私とソーヤの食い意地にまみれた物欲タッグは、後ろからついてきているセイリュウとナギワさんを呆れさせる勢いで、片っ端から店を回っていった。

「いくらむげ……マジックバックがあるからって、無茶な買い方はしない方がいいと思うぞー。明日という日もあるんだしー」

セイリュウが一応保護者の義務という感じで諌めようとしてくるが、私には何も聞こえない。
聞こえないったら、聞こえない!

「海苔だ、海苔がある!ワカメが!ああ、あれはハマグリじゃないかしら!!」

やはりアキツは海産物の宝庫だった。これで異世界ドメスティック寿司への扉が開いたかもしれない。

(いや、この国なら既にあるんじゃないか?)

知りたいことはたくさんあるが、今は目の前の品物の《鑑定》に集中しよう。

以前の世界では見たこともない海草を眺めていると、いい香りが漂ってきた。

(これは……)

香りの方には、屋台で汁物を売る店。私がフラフラと立ち寄るとソーヤは直ぐに買いに走ってくれた。

「白身魚と地野菜の汁物だそうです。魚は色々混ざっているそうで、味付けは地元の名産を使っているとの話でした」

その魅惑的な香りに一口すすった私は、驚いた。

(これは、醤油っぽいけど、色も薄いし、何か違う。これは何だろう?)

一生懸命《鑑定》していくとカタハタという魚を発酵させた調味料、ということが分かった。

(カタハタは地魚、それの発酵食品……つまり魚醤だ!さすが魚の国、この国なら色々な発酵文化が進んでいるに違いない!)

「ナギワさん、この味付けに使われているもの、魚醤だと思うんですが、どこで売っているかわかりますか?」

私から魚スープを受け取って一口飲んだナギワさんはすぐに分かったようだ。

「ああ、これはこの辺りではよく使われる〝ナープル〟という調味料です。沿海州では色々な地域で味の違う魚醤が作られているんですよ。

では、調味料を扱う大店がありますので、そちらへご案内しましょう」

私はスキップせんばかりの勢いで、ご機嫌にナギワさんの後をついていく。

「何も今日全部見て回らなくてもいいだろう。これからしばらくいるつもりなら、明日の楽しみに残しておいてもいいんじゃないのか?」

ずっと私たちの買い物に同行してくれているセイリュウは、私のあまりの勢いにかなり引いているようだ。

「取り敢えず、今日は調味料だけ見たら帰りますよ。ふっふー、期待して下さい。今日の夕食は絶対美味しいですから!」

「わかった、わかった。楽しみにしてるよ」

これ以上諌めてもムダ、っとすっかり諦めた様子で手を挙げたセイリュウを置いて、勢いよく駆け出す。

(今日は、海産物尽くしの和食パーティだ!)
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。