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2 海の国の聖人候補
245 アキツの拠点が決まりました
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245
この男性はこの店を取り仕切っている一番偉い人だそうだ。名はエンジさん。
生粋のマホロ育ちのアキツ人。
浅黒い肌に真っ白い歯が際立つ精悍なスポーツマンタイプのおじさまだ。物腰穏やかで優しい笑顔だが、やはり油断のならない商人の雰囲気も感じさせる。
「もうしばらくお会いできておりませんが、サイデム様はお元気でしょうか?
次の仕入れの際は、私もイスに伺いたいものです。
ああ、そうでした!
承っております件は、このナギワが対応致しますので、何でもお申し付けください、お嬢様」
エンジさんの紹介してくれたのは、彼の横に立ち頭を下げる女性。シンプルな白シャツの男性のような服装をしており、まだ年若く十代にも見える背格好だ。経験は浅そうだが、笑顔が可愛らしく好感が持てる。
帝国人とのハーフだそうで、どちらの言葉も堪能。更に、沿海州のローカルな言語にも精通しているそうだ。
「ありがとうございます。なるべくご迷惑をお掛けしないよう自分たちで旅をしていくつもりですが、さすがに拠点となる家探しは、当地の事情に不慣れな私共には難しいと判断し、お手数をおかけして申し訳ないとは思いましたが、お願いさせて頂きました」
私が流暢なアキツ語で挨拶して頭を下げると、少し驚いた様子を見せた後、今度は納得したようにエンジさんが頷いている。
「やはりイス最年少で商業ギルドへの登録を認められた方だ。
子供と思ってはいけませんでしたな。私共も同じ商人として接するように致します」
なぜか楽しげに頷くエンジさん。
(おじさまからの指示書には一体なんて書いてあったのやら……)
エンジさんの合図にナギワさんが、いくつかの木の板を机に置く。
「本日内見できる家をいくつかご用意致しました。
ご要望は、商いをする可能性はあるが、路面店である必要はない。住環境重視で、台所の広い家でございましたね」
「はい、その通りです」
実際のところ、いつでも自分の家に帰れる私には、住む家の広さはあまり重要ではない。とはいえ、出入りする人数と合わない大きさの家を借りて不審がられても困るので、それなりの広さの家にする必要がある。
(面倒だしお金もかかるけど、長期滞在する予定な訳だし、まぁ必要経費だよね)
「では早速内見に参りましょうか。エンジさん、今日はありがとうございました。これから、しばらくこの国に滞在することになりますので、よろしくお願い申し上げます」
私はそう言って頭を下げ、部屋を後にした。
用意されていた、この国に入って初めて見た帝国風の立派な馬車で移動しながら3つの物件を見ていくことになり、私たちは異国の街並みを楽しみながら最初の目的地に向かった。
1軒目は中心地に近い商家に適した3階建て、先ほど見たサイデム商会を小ぶりにした感じの建物だ。
アキツには高層建築はほとんどなく、物見用の櫓を除けば、3階建てが最も高い部類に入る。
立地と間取りは、商家としては申し分ないが、住むにはかなり騒々しい場所で、落ち着きはない。
(ここでの滞在中は商売はあくまで、するかもしれないレベルだし、もう少し落ち着いた場所がいいかな)
次に見た物件はマホロの富裕層の住む高級住宅街、こちらも街の中心から近いが、緑が多く余裕のある雰囲気の街並みだった。
見せてもらった物件も、二階建てで広々した贅沢な間取りだ。
もともと上流階級の方の別邸として使われていたもので、いろいろと手のかかった作りになっている。
内見した印象では、この家は正統派の上流階級向け住宅。素敵ではあるが、この建物は複数の使用人が常時メンテナンスしなければ、すぐに家の中も庭も荒れてしまう感じの物件だ。
(人を雇うのはいいけれど、いつまで使うかもわからないし、無駄はしたくないなぁ)
そして3件目は海沿いの一軒家、敷地面積も広くかすかに波の音が聞こえる平屋だった。
「この辺りは、別荘地と商用地の中間に当たります。こちらは、別荘として建てられたものですが、家主が食にこだわりがあったそうで、庭で魚を焼くための設備や、薪を使った野外オーブンなどもあるそうです」
「ここにしましょう!メイロードさま!」
ソーヤは珍しい料理道具が色々ありそうなこの家に興味津々だ。
そして私もかなり興味を惹かれている。
リビングに応接室に4ベッドルーム、こだわりのキッチン、そして海が見える広い庭……。値段も中心部に比べれば半額以下となれば、確かにもうここにするしかない気がする。
「こちらに決めました。お支払いはどう致しましょう?」
高額の買い物にも関わらず即断即決した私に、ナギワさんは少し驚いていたが、明日本契約の用意をしておくと言ってくれた。
「ご購入をお決めになった場合、本日からこちらにお泊まり頂いて構わないと家主と話をつけてあります。鍵もお渡ししておきますね」
(さすが、気が利くね)
私は鍵を受け取り、この世界で4件目の不動産を手に入れることになった。
(今日出かけられそうなのはあと一ヶ所ぐらい、ならあそこへ行かなくちゃね!)
私は、今日中にどうしても行っておきたい場所についてナギワさんに聞いた。
「お魚を売っている場所を教えてもらえますか?できれば大きい市場を教えてください!!」
この男性はこの店を取り仕切っている一番偉い人だそうだ。名はエンジさん。
生粋のマホロ育ちのアキツ人。
浅黒い肌に真っ白い歯が際立つ精悍なスポーツマンタイプのおじさまだ。物腰穏やかで優しい笑顔だが、やはり油断のならない商人の雰囲気も感じさせる。
「もうしばらくお会いできておりませんが、サイデム様はお元気でしょうか?
次の仕入れの際は、私もイスに伺いたいものです。
ああ、そうでした!
承っております件は、このナギワが対応致しますので、何でもお申し付けください、お嬢様」
エンジさんの紹介してくれたのは、彼の横に立ち頭を下げる女性。シンプルな白シャツの男性のような服装をしており、まだ年若く十代にも見える背格好だ。経験は浅そうだが、笑顔が可愛らしく好感が持てる。
帝国人とのハーフだそうで、どちらの言葉も堪能。更に、沿海州のローカルな言語にも精通しているそうだ。
「ありがとうございます。なるべくご迷惑をお掛けしないよう自分たちで旅をしていくつもりですが、さすがに拠点となる家探しは、当地の事情に不慣れな私共には難しいと判断し、お手数をおかけして申し訳ないとは思いましたが、お願いさせて頂きました」
私が流暢なアキツ語で挨拶して頭を下げると、少し驚いた様子を見せた後、今度は納得したようにエンジさんが頷いている。
「やはりイス最年少で商業ギルドへの登録を認められた方だ。
子供と思ってはいけませんでしたな。私共も同じ商人として接するように致します」
なぜか楽しげに頷くエンジさん。
(おじさまからの指示書には一体なんて書いてあったのやら……)
エンジさんの合図にナギワさんが、いくつかの木の板を机に置く。
「本日内見できる家をいくつかご用意致しました。
ご要望は、商いをする可能性はあるが、路面店である必要はない。住環境重視で、台所の広い家でございましたね」
「はい、その通りです」
実際のところ、いつでも自分の家に帰れる私には、住む家の広さはあまり重要ではない。とはいえ、出入りする人数と合わない大きさの家を借りて不審がられても困るので、それなりの広さの家にする必要がある。
(面倒だしお金もかかるけど、長期滞在する予定な訳だし、まぁ必要経費だよね)
「では早速内見に参りましょうか。エンジさん、今日はありがとうございました。これから、しばらくこの国に滞在することになりますので、よろしくお願い申し上げます」
私はそう言って頭を下げ、部屋を後にした。
用意されていた、この国に入って初めて見た帝国風の立派な馬車で移動しながら3つの物件を見ていくことになり、私たちは異国の街並みを楽しみながら最初の目的地に向かった。
1軒目は中心地に近い商家に適した3階建て、先ほど見たサイデム商会を小ぶりにした感じの建物だ。
アキツには高層建築はほとんどなく、物見用の櫓を除けば、3階建てが最も高い部類に入る。
立地と間取りは、商家としては申し分ないが、住むにはかなり騒々しい場所で、落ち着きはない。
(ここでの滞在中は商売はあくまで、するかもしれないレベルだし、もう少し落ち着いた場所がいいかな)
次に見た物件はマホロの富裕層の住む高級住宅街、こちらも街の中心から近いが、緑が多く余裕のある雰囲気の街並みだった。
見せてもらった物件も、二階建てで広々した贅沢な間取りだ。
もともと上流階級の方の別邸として使われていたもので、いろいろと手のかかった作りになっている。
内見した印象では、この家は正統派の上流階級向け住宅。素敵ではあるが、この建物は複数の使用人が常時メンテナンスしなければ、すぐに家の中も庭も荒れてしまう感じの物件だ。
(人を雇うのはいいけれど、いつまで使うかもわからないし、無駄はしたくないなぁ)
そして3件目は海沿いの一軒家、敷地面積も広くかすかに波の音が聞こえる平屋だった。
「この辺りは、別荘地と商用地の中間に当たります。こちらは、別荘として建てられたものですが、家主が食にこだわりがあったそうで、庭で魚を焼くための設備や、薪を使った野外オーブンなどもあるそうです」
「ここにしましょう!メイロードさま!」
ソーヤは珍しい料理道具が色々ありそうなこの家に興味津々だ。
そして私もかなり興味を惹かれている。
リビングに応接室に4ベッドルーム、こだわりのキッチン、そして海が見える広い庭……。値段も中心部に比べれば半額以下となれば、確かにもうここにするしかない気がする。
「こちらに決めました。お支払いはどう致しましょう?」
高額の買い物にも関わらず即断即決した私に、ナギワさんは少し驚いていたが、明日本契約の用意をしておくと言ってくれた。
「ご購入をお決めになった場合、本日からこちらにお泊まり頂いて構わないと家主と話をつけてあります。鍵もお渡ししておきますね」
(さすが、気が利くね)
私は鍵を受け取り、この世界で4件目の不動産を手に入れることになった。
(今日出かけられそうなのはあと一ヶ所ぐらい、ならあそこへ行かなくちゃね!)
私は、今日中にどうしても行っておきたい場所についてナギワさんに聞いた。
「お魚を売っている場所を教えてもらえますか?できれば大きい市場を教えてください!!」
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