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6 謎の事件と聖人候補
1004 仇敵
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1004
いまも私の頭上では、かなりの振動とともに間断なく極太の鞭が振り落とされている。
(さっきまではうるさくてたまらなかったけど、いまはこの音に安心するわ。だって、魔王の注意はこちらに向いているってことだもの)
グッケンス博士直伝の洗練された《隠蔽魔法》とセーヤ・ソーヤの磨き抜かれた隠密スキルの効果は、ちゃんとふたりを気配すらない状態で隠してくれているようで、いまのところ私とセイリュウがいるこの雲の上からエピゾフォールの注意が逸れている様子はない。
(このまま、セーヤとソーヤがミッションを完了してくれるまで絶対に気づかれないようにしなくちゃ! それには……)
私とセイリュウは、セーヤとソーヤのために、囮役に徹することにした。
「セーヤとソーヤは十分すぎるほど強いけど、あの球体を抱えたままじゃ自由に動けないだろうからね。だとすれば、ふたりが〝聖なる壁〟の修復を終えるまであの〝糸〟の注意をこちらに引いておけたら、すこしは助けになるかもね」
「そうですね……私もその方が安心です。でもどうやって注意を引きますか? ちょっと攻撃でも仕掛けてみます?」
「うーん、これ以上攻撃されるのはちょっときついかな。なにせ、この鞭みたいなやつは多量の毒を帯びた魔力でできているみたいで、あらゆる魔法に侵食してくるからね」
「ああ、それで〝聖なる壁〟もやられたんでしょうか」
「おそらくね……毒系の攻撃は継続されるとキツいよ」
セイリュウによると、この鞭に変化した〝糸〟はあらゆる毒系魔法と強烈な瘴気を放ち続けている。あの〝糸〟が〝聖なる壁〟の自己修復力を押し返しずっと外部に存在し続けていられるのも、その毒系攻撃がシールドになっているかららしい。
「かなり傷つけられているとはいえ〝聖なる壁〟の自己修復力は強大なものなんだ。それを押さえつけているのだから、エピゾフォールは全力に近い魔力をこの〝糸〟の維持に使っているね。僕の結界は強靭だけど、こんな禍々しい魔法攻撃が長く続けば結界が綻びる可能性もあるかな」
セイリュウの強力な結界でも、この容赦ない鞭の攻撃は負担が大きいようだ。
「うーん、だとすると無闇に挑発するのも悪手ですかね……」
これ以上セイリュウに負担をかけずに魔王の注意をこちらに向ける方法を考えていると、不意に鞭の攻撃がすこし緩んだ。
「?」
すると次の瞬間、ビリビリするような《念話》が頭の中に響く。
〔我の……我の邪魔をするな!〕
そして鞭の先端からドロドロの液体が形を成していき、それが人影となって立ち上がった。ゆらゆらと赤黒い液体を血のように滴らせながら徐々に人の形になっていったその姿は、頭上に刺々しいデザインの王冠らしきものをつけている。
「あれは、ま……おう?」
「ああそうだよ、メイロード。あれは実態とは違うけど、魔王エピゾフォールそのものだ。もうその姿で顕現できるところまで魔力を吸収していたとはね」
〔我の邪魔は許さぬ!〕
どうやら魔王はすでに思った以上に魔力を取り込んでいるようだが、言葉は怒りに満ちていることはわかるが単調で、魔王を直接邪魔しにきた私たちにひたすら憎悪をぶつけている。
(以前、沿海州で〝青の巫女〟セイカを助けたときに聞いた魔王らしき声はもっと冷静さがあったし、余裕も感じられたのに、いまは自分の感情を直接ぶつけてきてる。やっぱり、魔王は自分の権能に侵食されて自我を失いつつあるのかも……)
〔邪魔は許さぬ! 消えろ、消えろ! 死ぬが良い!〕
「おっと、まずいね。メイロードの結界も張ってもらおうかな」
「わかりました」
そこで素早くセイリュウの結界の外に幾重にも《物理結界》と《魔法結界》を次々に展開していると、すぐドロドロの魔王の手が動いた。そして魔王から放たれた太い針のような赤いものが大量に結界に叩き込まれる。
「え? この攻撃なに?」
その極太の針が打ち込まれた場所から、見る間に結界の上層は、ドロドロと崩れ始めた。
「メイロードしっかり! ともかく結界を維持し続けよう。あれは確実にこちらの結界を蝕み続けるが、速度も攻撃力もそこまで速くない。メイロードなら防ぎ切れる!」
「わかりました! 耐え切ってみせます!」
(セーヤとソーヤに関心が向かないなら、その方が絶対いい。とにかくいまは魔法でこの攻撃をかわし続けなきゃ。頑張るからね!)
この攻防の最中、私たちの結界に背後から突然振動が走った。
衝撃は大したものではなかったが、さすがに気になりその方向へ目をやると、そこには一艇の〝天舟〟が浮かんでいた。
見ればその〝天舟〟には〝魔力砲〟と呼ばれる大量の魔石を消費する大砲が前部甲板に置かれている。
この〝魔力砲〟は戦力増強のために研究開発された魔道具で強力な砲撃を可能にするが、とんでもない量の魔石を消費する超高燃費兵器だ。ものすごい研究費が投入されたのに、結局〝魔術師〟の方が戦力として有能であると結論づけられ、実戦では使用されたことがないと魔法学校で教えてもらった。
「あんなもの、いったい誰が……」
〝天舟〟の様子をさらに観察し、甲板でほくそ笑む男が目に入ると、私は眉を顰めた。
「エスライ……タガローサ?」
いまも私の頭上では、かなりの振動とともに間断なく極太の鞭が振り落とされている。
(さっきまではうるさくてたまらなかったけど、いまはこの音に安心するわ。だって、魔王の注意はこちらに向いているってことだもの)
グッケンス博士直伝の洗練された《隠蔽魔法》とセーヤ・ソーヤの磨き抜かれた隠密スキルの効果は、ちゃんとふたりを気配すらない状態で隠してくれているようで、いまのところ私とセイリュウがいるこの雲の上からエピゾフォールの注意が逸れている様子はない。
(このまま、セーヤとソーヤがミッションを完了してくれるまで絶対に気づかれないようにしなくちゃ! それには……)
私とセイリュウは、セーヤとソーヤのために、囮役に徹することにした。
「セーヤとソーヤは十分すぎるほど強いけど、あの球体を抱えたままじゃ自由に動けないだろうからね。だとすれば、ふたりが〝聖なる壁〟の修復を終えるまであの〝糸〟の注意をこちらに引いておけたら、すこしは助けになるかもね」
「そうですね……私もその方が安心です。でもどうやって注意を引きますか? ちょっと攻撃でも仕掛けてみます?」
「うーん、これ以上攻撃されるのはちょっときついかな。なにせ、この鞭みたいなやつは多量の毒を帯びた魔力でできているみたいで、あらゆる魔法に侵食してくるからね」
「ああ、それで〝聖なる壁〟もやられたんでしょうか」
「おそらくね……毒系の攻撃は継続されるとキツいよ」
セイリュウによると、この鞭に変化した〝糸〟はあらゆる毒系魔法と強烈な瘴気を放ち続けている。あの〝糸〟が〝聖なる壁〟の自己修復力を押し返しずっと外部に存在し続けていられるのも、その毒系攻撃がシールドになっているかららしい。
「かなり傷つけられているとはいえ〝聖なる壁〟の自己修復力は強大なものなんだ。それを押さえつけているのだから、エピゾフォールは全力に近い魔力をこの〝糸〟の維持に使っているね。僕の結界は強靭だけど、こんな禍々しい魔法攻撃が長く続けば結界が綻びる可能性もあるかな」
セイリュウの強力な結界でも、この容赦ない鞭の攻撃は負担が大きいようだ。
「うーん、だとすると無闇に挑発するのも悪手ですかね……」
これ以上セイリュウに負担をかけずに魔王の注意をこちらに向ける方法を考えていると、不意に鞭の攻撃がすこし緩んだ。
「?」
すると次の瞬間、ビリビリするような《念話》が頭の中に響く。
〔我の……我の邪魔をするな!〕
そして鞭の先端からドロドロの液体が形を成していき、それが人影となって立ち上がった。ゆらゆらと赤黒い液体を血のように滴らせながら徐々に人の形になっていったその姿は、頭上に刺々しいデザインの王冠らしきものをつけている。
「あれは、ま……おう?」
「ああそうだよ、メイロード。あれは実態とは違うけど、魔王エピゾフォールそのものだ。もうその姿で顕現できるところまで魔力を吸収していたとはね」
〔我の邪魔は許さぬ!〕
どうやら魔王はすでに思った以上に魔力を取り込んでいるようだが、言葉は怒りに満ちていることはわかるが単調で、魔王を直接邪魔しにきた私たちにひたすら憎悪をぶつけている。
(以前、沿海州で〝青の巫女〟セイカを助けたときに聞いた魔王らしき声はもっと冷静さがあったし、余裕も感じられたのに、いまは自分の感情を直接ぶつけてきてる。やっぱり、魔王は自分の権能に侵食されて自我を失いつつあるのかも……)
〔邪魔は許さぬ! 消えろ、消えろ! 死ぬが良い!〕
「おっと、まずいね。メイロードの結界も張ってもらおうかな」
「わかりました」
そこで素早くセイリュウの結界の外に幾重にも《物理結界》と《魔法結界》を次々に展開していると、すぐドロドロの魔王の手が動いた。そして魔王から放たれた太い針のような赤いものが大量に結界に叩き込まれる。
「え? この攻撃なに?」
その極太の針が打ち込まれた場所から、見る間に結界の上層は、ドロドロと崩れ始めた。
「メイロードしっかり! ともかく結界を維持し続けよう。あれは確実にこちらの結界を蝕み続けるが、速度も攻撃力もそこまで速くない。メイロードなら防ぎ切れる!」
「わかりました! 耐え切ってみせます!」
(セーヤとソーヤに関心が向かないなら、その方が絶対いい。とにかくいまは魔法でこの攻撃をかわし続けなきゃ。頑張るからね!)
この攻防の最中、私たちの結界に背後から突然振動が走った。
衝撃は大したものではなかったが、さすがに気になりその方向へ目をやると、そこには一艇の〝天舟〟が浮かんでいた。
見ればその〝天舟〟には〝魔力砲〟と呼ばれる大量の魔石を消費する大砲が前部甲板に置かれている。
この〝魔力砲〟は戦力増強のために研究開発された魔道具で強力な砲撃を可能にするが、とんでもない量の魔石を消費する超高燃費兵器だ。ものすごい研究費が投入されたのに、結局〝魔術師〟の方が戦力として有能であると結論づけられ、実戦では使用されたことがないと魔法学校で教えてもらった。
「あんなもの、いったい誰が……」
〝天舟〟の様子をさらに観察し、甲板でほくそ笑む男が目に入ると、私は眉を顰めた。
「エスライ……タガローサ?」
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