利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

999 心強い援軍

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 999

 迫り来る魔物たちと戦う〝巨大暴走〟の最前線では混乱が広がっていた。

 ダンジョンとは関連のない魔物によるまったく想定外の襲撃が何度も発生したことで、〝巨大災厄〟に向けて準備されてきた作戦が大幅に狂い始めたのだ。すでに人員や物資の補給が乱れ始めた影響で徐々に前線の隊列が保てなくなりつつあり、現場はその対応に追われ始めている。

 そんな中、現場指揮官たちがテーセウスの天幕に集められた。逼迫した状況を解消し、すぐにでも今後の前線配備について考えをまとめ打開策を実行しなければならないのだ。だが、現場の報告を聞けば聞くほど状況が良くないことが露呈していく。

「ダメだ。他の補給基地も魔物の襲撃を受けているそうだ」
「では今後も予定通りには物資が到着しないということか」
「ああ、交代する人員の到着もまだまだ遅れるだろう……まずいことになったな」

 この状況が長引けば、圧力を増しているダンジョンからの魔物に対し、前線が維持できなくなり、やがて後退を強いられることになるのは明らかだ。だが、後ろに帝都パレスが控える彼らにとって、それは絶対に避けたい行為だった。

 危機的な状況の中作戦を考える彼らに、参謀本部からの《伝令》が届いたことが伝えられた。

「参謀本部より《伝令》! 四十三名の〝魔術師〟を〝天舟アマフネ〟により輸送する。彼らの能力については現地で直接聞き取り配置するように。彼らはセルツから到着した魔法学校の職員であり、いずれも高い〝魔法力〟を有する〝準国家魔術師〟である、とのことです」

「おお、それはありがたい」
「これだけの〝国家魔術師〟が新たに投入できれば、十分戦線を維持できる」
「この近距離だ。〝天舟アマフネ〟での輸送であれば、次の波までに到着も間に合いますな」
「では新たな味方の到着までにできることをしていこう!」

テーセウスの号令によりこれからやってくる〝魔術師〟たちを戦力に加えた戦闘計画が立てられ、新たな人員配置のための準備をしていると〝天舟アマフネ〟の到着が伝えられた。

「さすがに〝天舟アマフネ〟での輸送は早いな」

《伝令》の二時間後に前線基地に到着した〝天舟アマフネ〟から降り立った〝魔術師〟たちの代表は、早い足取りでテーセウスのテントにやってきた。

「テーセウス指揮官、セルツ魔法学校より〝準国家魔術師〟四十三名ただいま到着いたしました。ワタクシはセルツ魔法学校職員のチェット・モートと申します」

「この〝巨大暴走〟の前線指揮官を任されているエルディアス・テーセウスだ。早速だが君たち四十七名の使える魔法と実力について、正確な情報がほしい」

「はい。こちらが四十三名の名簿及び簡単な履歴です」

モートは非常にキビキビとした態度で、すぐさまこちらに必要な情報をまとめ上げた書類を手渡してきた。その様子は元軍属だった過去を感じさせ、この状況にとても好ましいものだった。まだ年若い彼が代表となっているのも、きっとそのせいだろうと想像できる。

「私たちは〝準国家魔術師〟という立場でございます。こうして国の大事には参戦させていただきますが、なにせ多くが日頃研究職にあり、実践経験はあまりありません。さらに教授方はご高齢の方も多くその点には多少不安は残ります。また、私のように戦闘に向いた魔法使いは半数ほどになりますので、残りは防衛および後方支援へ配置いただければと思います」

「なるほど……攻撃に優れた〝魔術師〟は半数か。だが、現状を考えればこの比率はありがたい。防御や防壁に優れた者がいま必要だからな」

パラパラと名簿に目を通していたテーセウスの目が止まる。

「ミンス伯爵だと……? こちらはルロイ・ミンス教授か⁉︎」
「驚かれましたか。そうです、〝特級魔術師マスターウィザード〟であられるミンス教授です。体調不良とご高齢を理由に〝国家魔術師〟としてはお役に立てないと、ずっと戦線から離れておられました。ですが、今回は参戦していただけたのでございます」

「私の魔法学校時代の恩師のおひとりだが……そうか、それはありがたいが、体調はどうなのだ?」

(私が学生だったころから研究者として尊敬できる方だったが、いつも頬がコケ血色の悪い顔をしていたはずだ。常に不機嫌そうで近寄りがたい雰囲気で、口さがない学生からは〝倒壊寸前の老木〟と揶揄されていた……本当に大丈夫なのか)

ミンス教授の学校での姿を知るテーセウスは不安気にうならざるを得なかった。

「心配いらんよ。体調は万全だ」

そこへ現れたのは細身ではあるが健康的な体格で肌も若々しい壮年の〝魔術師〟だった。

「ど、どなたかな?」

反射的にそう聞いたテーセウスに、モートがあらためて紹介する。

「こちらがルロイ・ミンス魔法学校教授、その方でございます」

「はぁ! まるっきり別人ではないか!」

テーセウスは思わず大声を出す。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。昔しか知らん者に会うと、大抵この反応をされるのぉ、モート、私はそんなに変わったかの?」

「ええ、別人ですからね。どう見ても」

まだ目を丸くしているテーセウスに苦笑いしながらモートが言う。

「博士はのご指導で体質を劇的に改善されまして、現在ではお若いときより〝魔法力〟が安定されるようなったのです。そのおかげで、こうして戦場にもきていただけるようになりました」

「そ、そうか……いや、それは誠にありがたい! ミンス教授、厳しい戦いでございますが、ご助力をお願い申し上げます」

「うむ。私の〝武装魔具〟にも良い機会だ。ダンジョンからまろび出てきた魔物どもを蹴散らして見せよう。もちろん、私の最新の《防御術式》も存分に役立ててほしい」

「助かります! では、皆さんの配置についてですが……」

テーセウスはかつての恩師のそのあまりの変貌ぶりに驚きながらも、強い援軍を得られたことに安堵していた。

(ミンス伯爵家秘蔵の強力な〝武装魔具〟と体調万全の教授、そして五十名近い〝国家魔術師〟。これならば、しっかり前線を維持できる! どなたか知らないが、ああ……ミンス教授の健康を取り戻してくれた医師よ、感謝する‼︎)

それがメイロードであることなど知る由もないテーセウスは、ミンス教授を健康にしてくれた医師に手を合わせ心の底から大感謝したのだった。



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