806 / 840
6 謎の事件と聖人候補
995 〝世界の裂け目〟
しおりを挟む
995
極上のスパ体験と楽しく美味しいご飯、そしてさわやかなハーブが香る最高のベッドでのしっかりとした睡眠。
(最高にのんびりできた癒しの夜だったなぁ。セーヤとソーヤにはホントに感謝しかないな。この騒動が終わったらなにかしてあげようっと)
体調万全の私は、フルーツパンケーキとハーブティーという朝食を食べ終えると、前日に《無限回廊の扉》を設置した沿海州沖の小島へ移動した。
待っていてくれたアタタガ・フライも元気そうだ。
「おはようございます、メイロードさま」
「おはようアタタガ、今日もよろしくお願いね」
「お任せください。どこまででもお連れいたしますよ」
そこへ《無限回廊の扉》から、セイリュウが顔を出した。
「あ、おはようセイリュウ。どうしてたの?」
いつもと変わらぬ笑顔のセイリュウは、あれからの行動を教えてくれる。
「魔族の影を追いながら、沿海州の様子を探ってきたよ。あまり実りはなかったけどね。それから大神殿の巫女に状況を伝えてきた」
「セイカに?」
「ああ、考えたくはないけど最悪の事態が起こった場合、沿海州は最も〝聖なる壁〟に近いからね。沿海州全域に影響力がある〝天地教〟には、多くの人が助けを求めることになるだろう。そのときには人々の支えになってもらう必要があるからね」
「そうね……起こらないと思いたいけど、もし突然大きな災厄が襲ってきたら大変なことだもの。いま沿海州の人たちはどの程度事情を知っているのかしら?」
「そうだね。さすがに帝国の首都で起こった〝巨大暴走〟については情報が入っているようだけど、遠い地のことだしあまり不安は広がっていないよ。街はどこものどかなものだった」
「そうよね、沿海州から大陸は遠いもの」
「対岸の火事だよね。それにエピゾフォールについては、もともとシドでもごく一部しか知らされていないことだから」
その危機感の温度差は当然と言えば当然なのだが、パレス近郊で起こっている壮絶な戦いも見てきているセイリュウは、今後世界を揺るがすことになるかもしれない事態のことも当然考えている。
「でも、セイカ・ミカミにはできる限りの事実を知っておいてもらわないとね」
「そうですね。それでセイカは?」
「〝天地教〟はこれから、大きな祈りの儀式に入るそうだよ。セイカも大神殿の中に籠るそうだ。彼らの祈りには力があるから、きっと助けになるだろう」
イルガン大陸の〝聖天神教〟には、現世利益を与えるとされる守護神が多くいて、商売の神様〝ヘステスト〟や芸術の女神〝フィラーラ〟などがいる。そういう神に祈ることで成功や上達を願うということも、よくあることだ。
それに比べて沿海州の人々の信じる〝天地教〟は神に助けを請わないそうだ。ただ天地に感謝を捧げ、そして世の安寧を祈る。こうした〝祈り〟には邪気を払効果があり、セイリュウのような聖獣はときとしてこうした祈りの力で大きなことを成すことができるそうだ。
「セイカも頑張ってくれてるんですね。私も早くあの〝糸〟の行く先を見つけなくちゃ」
「ああ、そうだね。それができるのはメイロードだけだ。僕も確認したが、その〝糸〟はやはりどうしても確認できなかったよ。ちょっと聖獣としての自信を失うね。ともあれ、ここからは僕も一緒に行くよ」
私は空を見上げる。やはり、私には青い空にどこまでも赤黒い〝糸〟が浮かぶ光景が昨日と変わらず確認できる。
「ありがとう。じゃ、出発ね」
セイリュウは龍に姿を変え、並走して飛んでいくという。その方が、何か起こったとき素早く対処できるから、だそうだ。
(つまり、ここからはどんな危険が降りかかるかわからないってことね)
気を引き締めた私とセーヤ・ソーヤは飛行箱の中に入り、定位置につき出発する。アタタガのスピードは今日も軽快だ。
〝糸〟を追い高速で飛び続けて数時間、私たちはついにそれが始まっている場所へと辿り着いた。
その手前には、認識阻害の大規模な結界があったが、セイリュウが何やら呪文を唱えるとそれを通過することができた。だが、その奥にも視認できるような〝壁〟はない。ないが、そこで世界が分断されていることは明らかだった。
「これ〝聖なる壁〟……」
先ほど始まっていると言ったが、正確に言えば、その〝糸〟は中空に浮かんで途切れているように見える。それは〝聖なる壁〟がその先の光景を見せないようにして立ちはだかっているためだ。見ていても周囲には海と空それしかない。
だが、異質なものが見える場所がある。われわれが追ってきた赤黒い〝糸〟の周囲だけ、空間が歪んでいて、時折電流が走っているかのような光や紫が買った黒い点が現れては消えているのだ。
「ここだったのか」
セイリュウが唸っている。
そう、ここが魔王エピゾフォールの侵入口〝世界の裂け目〟に間違いなかった。
極上のスパ体験と楽しく美味しいご飯、そしてさわやかなハーブが香る最高のベッドでのしっかりとした睡眠。
(最高にのんびりできた癒しの夜だったなぁ。セーヤとソーヤにはホントに感謝しかないな。この騒動が終わったらなにかしてあげようっと)
体調万全の私は、フルーツパンケーキとハーブティーという朝食を食べ終えると、前日に《無限回廊の扉》を設置した沿海州沖の小島へ移動した。
待っていてくれたアタタガ・フライも元気そうだ。
「おはようございます、メイロードさま」
「おはようアタタガ、今日もよろしくお願いね」
「お任せください。どこまででもお連れいたしますよ」
そこへ《無限回廊の扉》から、セイリュウが顔を出した。
「あ、おはようセイリュウ。どうしてたの?」
いつもと変わらぬ笑顔のセイリュウは、あれからの行動を教えてくれる。
「魔族の影を追いながら、沿海州の様子を探ってきたよ。あまり実りはなかったけどね。それから大神殿の巫女に状況を伝えてきた」
「セイカに?」
「ああ、考えたくはないけど最悪の事態が起こった場合、沿海州は最も〝聖なる壁〟に近いからね。沿海州全域に影響力がある〝天地教〟には、多くの人が助けを求めることになるだろう。そのときには人々の支えになってもらう必要があるからね」
「そうね……起こらないと思いたいけど、もし突然大きな災厄が襲ってきたら大変なことだもの。いま沿海州の人たちはどの程度事情を知っているのかしら?」
「そうだね。さすがに帝国の首都で起こった〝巨大暴走〟については情報が入っているようだけど、遠い地のことだしあまり不安は広がっていないよ。街はどこものどかなものだった」
「そうよね、沿海州から大陸は遠いもの」
「対岸の火事だよね。それにエピゾフォールについては、もともとシドでもごく一部しか知らされていないことだから」
その危機感の温度差は当然と言えば当然なのだが、パレス近郊で起こっている壮絶な戦いも見てきているセイリュウは、今後世界を揺るがすことになるかもしれない事態のことも当然考えている。
「でも、セイカ・ミカミにはできる限りの事実を知っておいてもらわないとね」
「そうですね。それでセイカは?」
「〝天地教〟はこれから、大きな祈りの儀式に入るそうだよ。セイカも大神殿の中に籠るそうだ。彼らの祈りには力があるから、きっと助けになるだろう」
イルガン大陸の〝聖天神教〟には、現世利益を与えるとされる守護神が多くいて、商売の神様〝ヘステスト〟や芸術の女神〝フィラーラ〟などがいる。そういう神に祈ることで成功や上達を願うということも、よくあることだ。
それに比べて沿海州の人々の信じる〝天地教〟は神に助けを請わないそうだ。ただ天地に感謝を捧げ、そして世の安寧を祈る。こうした〝祈り〟には邪気を払効果があり、セイリュウのような聖獣はときとしてこうした祈りの力で大きなことを成すことができるそうだ。
「セイカも頑張ってくれてるんですね。私も早くあの〝糸〟の行く先を見つけなくちゃ」
「ああ、そうだね。それができるのはメイロードだけだ。僕も確認したが、その〝糸〟はやはりどうしても確認できなかったよ。ちょっと聖獣としての自信を失うね。ともあれ、ここからは僕も一緒に行くよ」
私は空を見上げる。やはり、私には青い空にどこまでも赤黒い〝糸〟が浮かぶ光景が昨日と変わらず確認できる。
「ありがとう。じゃ、出発ね」
セイリュウは龍に姿を変え、並走して飛んでいくという。その方が、何か起こったとき素早く対処できるから、だそうだ。
(つまり、ここからはどんな危険が降りかかるかわからないってことね)
気を引き締めた私とセーヤ・ソーヤは飛行箱の中に入り、定位置につき出発する。アタタガのスピードは今日も軽快だ。
〝糸〟を追い高速で飛び続けて数時間、私たちはついにそれが始まっている場所へと辿り着いた。
その手前には、認識阻害の大規模な結界があったが、セイリュウが何やら呪文を唱えるとそれを通過することができた。だが、その奥にも視認できるような〝壁〟はない。ないが、そこで世界が分断されていることは明らかだった。
「これ〝聖なる壁〟……」
先ほど始まっていると言ったが、正確に言えば、その〝糸〟は中空に浮かんで途切れているように見える。それは〝聖なる壁〟がその先の光景を見せないようにして立ちはだかっているためだ。見ていても周囲には海と空それしかない。
だが、異質なものが見える場所がある。われわれが追ってきた赤黒い〝糸〟の周囲だけ、空間が歪んでいて、時折電流が走っているかのような光や紫が買った黒い点が現れては消えているのだ。
「ここだったのか」
セイリュウが唸っている。
そう、ここが魔王エピゾフォールの侵入口〝世界の裂け目〟に間違いなかった。
1,558
お気に入りに追加
13,141
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。