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6 謎の事件と聖人候補
992 魔王の贄
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992
《王への供物》それは魔王エピゾフォールだけが持っている固有スキルだ。
この他者を死に至らしめその〝魔力〟を我がものにできるという力によって、はるか昔からすでに魔王は強大な魔力を有していた。そしてこの魔王の攻撃力に翻弄された過去の人間たちは数多くの死者を出し、魔族との戦いでたびたび苦戦を強いられたという。
そしてあるとき魔族は自軍の増強のため一時的に自分たちの拠点へと戻った。
ここでいまでは〝神話〟となった事件が起こる。
ふたつの勢力が完全にふたつの大陸に分かれたこのとき、神は決して相いれない魔族と人族を〝エイガン大陸〟と〝イルガン大陸〟このふたつの大陸で完全に分断するという選択をしたのだ。神は一瞬にして世界をふたつに分ける《聖なる壁》を作り出し、両者の関わりを完全に絶ったのだ。
(さすがのエピゾフォールも、神様が作り上げたこの壁には全然歯が立たなかったから、それ以来魔族がこのイルガン大陸に現れたことはなかったんだよねぇ。
そのまま千年以上経過してるわけで、魔族や〝魔王〟が半ば伝説化したおとぎ話になっちゃうのも当然かな。もう、そのことを知らない人も多いし)
私にしても、これまでの体験や経過がなければ、魔族の存在やその脅威をなかなか実感できなかっただろう。
(いま思えば〝呪いの鳥〟を使ったり、沿海州で毒を撒いたり、いろいろ嫌がらせのようなちょっかいを出してたのは、魔族がイルガン大陸に影響を与えられるようになってきていた〝兆し〟だったんだなぁ。でも、それと忘れ去られた壁の向こうの魔族をすぐ結びつけるのは難しいよね。
だからこうしてエピゾフォールの影がはっきり出てくるまで、誰も魔族がこの世界にやってくるなんて考えてなかったと思うし、そもそも魔王執念深すぎるし、長生きすぎない?)
これまで、とても遠回しな方法で、もうすでに何度かエピゾフォールはこの大陸に干渉してきている。何千年経とうが、彼らの人間もしくはこの大陸への侵略の意思はまったく変わっていないということなのだろう。しかもそれが徐々に大きな影響を与えるものに変化している。
この状況を考えると《聖なる壁》はすでに完全な状態にはなく、エピゾフォールはその破壊をいまも進めているように思える。
私はつい先ほどまで、タガローサを懐柔し《ストーム商会》を作り上げ、人間からかすめ取った〝魔法力〟を集めることで巨大なダンジョンを作り出し〝巨大暴走〟を起こして人々を攻撃する……それがエピゾフォールによる人間界への〝侵略〟の方法だと思っていた。
確かに、シド帝国の要である〝帝都パレス〟を狙ってのことだ、それもあるのだろう。だが、それだけではないのかもしれない。そのことにグッケンス博士も気づいている。
私は背中に冷や汗が出るのを感じていた。
そこにセイリュウの≪念話≫が届く。
(すごくイヤな予感がする……)
〔メイロード、グッケンス博士に伝えて。《王への供物》を遠隔で使うことは、できなかったはずだ。だけど、それは千年以上昔の話。いまのエピゾフォールの魔力があれば、絶対できないとは言い切れない〕
私がそれをグッケンス博士に伝えると、博士は大きくため息をつき、頭を抱えた。
「それでは、こうして総員で戦い続けている、我々が命をかけて倒し続けている魔物の〝魔力〟はすべてエピゾフォールの〝エサ〟として取り込まれているというわけか! ああ、なんと忌々しい‼︎」
「ああ、そんな……でもこの戦いは……」
「そうじゃ! 絶対に止めるわけにはいかない。我らは戦い、魔物を滅し続けなければより多くに犠牲が出る。だがそれが奴の狙いだとは……魔王がこの世界に姿を現せるまで、人間がその身を犠牲にして魔物を殺し、奴に餌を与え続けろというのか! エピゾフォールめ、よくぞここまで人を利用してくれるものよ!」
徐々に大きさを増している赤黒い球体を睨む博士の目は、いままで見たことのない険しさだった。
「でも、こんなまどろっこしい方法を使っているんです。まだ本体はこちらに現れられないんでしょう? なら何かうつ手があるはずです!」
私は赤黒い玉をもう一度見る。
「博士、私……私にだけ見えるあの赤くて細い紐のようなものを辿ってみようと思います。あれがつながっている場所にもしかしたら《聖なる壁》の裂け目があるのかもしれません。もしそれが塞げれば、私たちの勝ちじゃないですか?」
「確かにそうだが、そんなことができるとは……」
「いずれにせよ、このままでは敵の思う壺のままジリ貧です。それに、この紐みたいなものが見えるのって私だけなんでしょう? なら、私が行ってみるしかないじゃないですか」
「うっ……」
私に危ないことをさせたくない博士だったが、さすがに言葉に詰まってしまった。
「大丈夫ですよ、博士。途中でセイリュウとも合流しますし、守りのためにミゼルにもついてきてもらいます。あの子がいれば、大抵のものは退けられるでしょう?」
私はミゼルに《念話》を送る。
〔そんなわけだけで、ちょっと手を貸してくれる?〕
〔他ならぬメイロードさまのためですもの。もちろんですわ! それに音楽には平和が必要です〕
〔うん、そうよね。ありがとう、ミゼル!〕
「じゃ、行ってきます!」
私はグッケンス博士を降ろし、《無限回廊の扉》を使ってミゼルを持ち出すと、そのまま再びアタタガに再び乗り込んだ。
〔アタタガ、私が指示する通りに全速力で飛んでね〕
〔お任せください、メイロードさま!〕
《王への供物》それは魔王エピゾフォールだけが持っている固有スキルだ。
この他者を死に至らしめその〝魔力〟を我がものにできるという力によって、はるか昔からすでに魔王は強大な魔力を有していた。そしてこの魔王の攻撃力に翻弄された過去の人間たちは数多くの死者を出し、魔族との戦いでたびたび苦戦を強いられたという。
そしてあるとき魔族は自軍の増強のため一時的に自分たちの拠点へと戻った。
ここでいまでは〝神話〟となった事件が起こる。
ふたつの勢力が完全にふたつの大陸に分かれたこのとき、神は決して相いれない魔族と人族を〝エイガン大陸〟と〝イルガン大陸〟このふたつの大陸で完全に分断するという選択をしたのだ。神は一瞬にして世界をふたつに分ける《聖なる壁》を作り出し、両者の関わりを完全に絶ったのだ。
(さすがのエピゾフォールも、神様が作り上げたこの壁には全然歯が立たなかったから、それ以来魔族がこのイルガン大陸に現れたことはなかったんだよねぇ。
そのまま千年以上経過してるわけで、魔族や〝魔王〟が半ば伝説化したおとぎ話になっちゃうのも当然かな。もう、そのことを知らない人も多いし)
私にしても、これまでの体験や経過がなければ、魔族の存在やその脅威をなかなか実感できなかっただろう。
(いま思えば〝呪いの鳥〟を使ったり、沿海州で毒を撒いたり、いろいろ嫌がらせのようなちょっかいを出してたのは、魔族がイルガン大陸に影響を与えられるようになってきていた〝兆し〟だったんだなぁ。でも、それと忘れ去られた壁の向こうの魔族をすぐ結びつけるのは難しいよね。
だからこうしてエピゾフォールの影がはっきり出てくるまで、誰も魔族がこの世界にやってくるなんて考えてなかったと思うし、そもそも魔王執念深すぎるし、長生きすぎない?)
これまで、とても遠回しな方法で、もうすでに何度かエピゾフォールはこの大陸に干渉してきている。何千年経とうが、彼らの人間もしくはこの大陸への侵略の意思はまったく変わっていないということなのだろう。しかもそれが徐々に大きな影響を与えるものに変化している。
この状況を考えると《聖なる壁》はすでに完全な状態にはなく、エピゾフォールはその破壊をいまも進めているように思える。
私はつい先ほどまで、タガローサを懐柔し《ストーム商会》を作り上げ、人間からかすめ取った〝魔法力〟を集めることで巨大なダンジョンを作り出し〝巨大暴走〟を起こして人々を攻撃する……それがエピゾフォールによる人間界への〝侵略〟の方法だと思っていた。
確かに、シド帝国の要である〝帝都パレス〟を狙ってのことだ、それもあるのだろう。だが、それだけではないのかもしれない。そのことにグッケンス博士も気づいている。
私は背中に冷や汗が出るのを感じていた。
そこにセイリュウの≪念話≫が届く。
(すごくイヤな予感がする……)
〔メイロード、グッケンス博士に伝えて。《王への供物》を遠隔で使うことは、できなかったはずだ。だけど、それは千年以上昔の話。いまのエピゾフォールの魔力があれば、絶対できないとは言い切れない〕
私がそれをグッケンス博士に伝えると、博士は大きくため息をつき、頭を抱えた。
「それでは、こうして総員で戦い続けている、我々が命をかけて倒し続けている魔物の〝魔力〟はすべてエピゾフォールの〝エサ〟として取り込まれているというわけか! ああ、なんと忌々しい‼︎」
「ああ、そんな……でもこの戦いは……」
「そうじゃ! 絶対に止めるわけにはいかない。我らは戦い、魔物を滅し続けなければより多くに犠牲が出る。だがそれが奴の狙いだとは……魔王がこの世界に姿を現せるまで、人間がその身を犠牲にして魔物を殺し、奴に餌を与え続けろというのか! エピゾフォールめ、よくぞここまで人を利用してくれるものよ!」
徐々に大きさを増している赤黒い球体を睨む博士の目は、いままで見たことのない険しさだった。
「でも、こんなまどろっこしい方法を使っているんです。まだ本体はこちらに現れられないんでしょう? なら何かうつ手があるはずです!」
私は赤黒い玉をもう一度見る。
「博士、私……私にだけ見えるあの赤くて細い紐のようなものを辿ってみようと思います。あれがつながっている場所にもしかしたら《聖なる壁》の裂け目があるのかもしれません。もしそれが塞げれば、私たちの勝ちじゃないですか?」
「確かにそうだが、そんなことができるとは……」
「いずれにせよ、このままでは敵の思う壺のままジリ貧です。それに、この紐みたいなものが見えるのって私だけなんでしょう? なら、私が行ってみるしかないじゃないですか」
「うっ……」
私に危ないことをさせたくない博士だったが、さすがに言葉に詰まってしまった。
「大丈夫ですよ、博士。途中でセイリュウとも合流しますし、守りのためにミゼルにもついてきてもらいます。あの子がいれば、大抵のものは退けられるでしょう?」
私はミゼルに《念話》を送る。
〔そんなわけだけで、ちょっと手を貸してくれる?〕
〔他ならぬメイロードさまのためですもの。もちろんですわ! それに音楽には平和が必要です〕
〔うん、そうよね。ありがとう、ミゼル!〕
「じゃ、行ってきます!」
私はグッケンス博士を降ろし、《無限回廊の扉》を使ってミゼルを持ち出すと、そのまま再びアタタガに再び乗り込んだ。
〔アタタガ、私が指示する通りに全速力で飛んでね〕
〔お任せください、メイロードさま!〕
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