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6 謎の事件と聖人候補
991 戦場の上空で
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991
アタタガ・フライの飛行は以前とは比較にならないぐらい高速になっていた。
ソーヤによると、アタタガにも例の〝情熱解説〟を聞かせつつ、ストックしている料理をあれこれ食べてもらっているそうで、そうした料理の中の異世界素材が、やはり彼の潜在能力を大きく上昇させているらしい。
そのおかげで、パレスの中から乗り込んで飛び立ってからものの数分で現地の到着してしまった。
(うわぁ、早すぎるよ! びっくりだよ、アタタガ!)
とりあえずそこで高速飛行を解除してもらい、そこからは上空から状況を見ようということになった。アタタガにはホバリングしてもらいながら、私たちは乗っている飛行箱の窓から外をのぞいた。
ーーそこに広がっていた光景は、想像以上に〝戦場〟だった。
まさにいま眼下に何度目かの魔物たちの波が押し寄せていて、地鳴りとともに周囲は舞い上がった埃でモヤがかかったような状態だ。
(これを吸い込んだら、かなり息苦しくなりそうね)
みたところ、やはりまだパレス側の主戦力は魔術師の様子で、ダンジョンの左右に造られた巨大な壁の上から主に火系の魔法が襲いくくる魔物に向かって放射されている。
ただ、現在押し寄せている魔物はすでにそれだけで撃退できるレベルを超えてしまっているようだ。上空からだとよくわかる。あちこちで火系の魔法攻撃を潜り抜けた魔物が先へと進もうと目を血走らせて迫っていた。
魔術師は《氷槍》や《雷鳴》《水鞭》といったいろいろな属性に対応できる人たちが出張ってきているし、攻撃に必要な〝魔法力〟の負担も増加しているようだ。
それでも取りこぼされた少数の魔物は、魔法騎士と兵士の混合軍が仕留めているようで、状況をこうして間近にしても〝巨大暴走〟の侵攻は完全に食い止められていた。
「いまのところ被害は最小限に抑えられているようで安心しました」
私がグッケンス博士に笑顔でそういうと、一瞬博士は難しい顔をしたが、すぐにいつもの顔でうなずいてくれた。
「そうじゃな……よくやっているな」
博士はきっと、これから厳しい状況が訪れることを覚悟しているのだろう。だが、この戦いに手を出さない私が簡単に大丈夫だとも言えないし、簡単に口を挟めるものではない。
(でも、できることもあるかもしれない。上空を偵察しなくちゃ)
私はアタタガに指示を出して、なるべく上空の赤黒い球体に近づいてくれるよう頼んだ。
〔了解です。それではもう少し上昇しますね〕
〔お願いね。ただ、危険かもしれないから、距離は少しとりましょう〕
そして私たちは窓から球体を凝視する。
報告で聞いていた〝赤黒い球体〟は、こうして間近で見るとかなり表面にゴツゴツとした岩のようなざらつきがあり、それでいて表面はテラテラと光っていた。例えるなら黒曜石の表面にたえず血が流れ続けているような気味の悪い見た目だった。
「博士、あの球体、なんだか動いていませんか?」
「ふむ……確かにのぉ。脈動というわけでもなさそうだが、生きているかのようにも見える。不気味じゃな」
私はさらに詳しく知ろうと《鑑定》そして《真贋》を発動する。
すると私の目の前は赤黒い〝何か〟でいっぱいになった。
「えっ、これ一体なに⁉︎」
先ほどまでの埃っぽい状態とはまったく違う、私の目の前に広がる赤黒いモヤのような何かは、上空の球体に引き寄せられ徐々に吸い込まれているようだ。それが吸い込まれるたび〝赤黒い球体〟は脈打っているのだ。
私は急いで博士に私に見えているものを伝えた。
「わしには見えないが、お前さんが嘘を言うとも思えん。おそらくメイロードの魔法にはお前さんの強い加護による補正があるのだろう。特に〝聖性〟が強いためこの怪異を知覚できるのかもしれんな」
グッケンス博士はそこから状況を見据えながらしばらく考え込んだ。
その間もずっと私が観察していると、私はあることに気づいた。
(あれは、なんだろう?)
「博士、グッケンス博士! あの……博士には見えますか? あの細い糸のようなもの!」
私は指さす。
「どれ……いや、それもわしには見えんな」
「そうですか。なんだろう、ずっと長く続いているんですけど」
「ああ、そういうことか! メイロード、セイリュウに聞いておくれ」
「えっ、はい。なんですか?」
「《王への供物》を遠隔で行うことができるのかを知りたいのじゃ」
アタタガ・フライの飛行は以前とは比較にならないぐらい高速になっていた。
ソーヤによると、アタタガにも例の〝情熱解説〟を聞かせつつ、ストックしている料理をあれこれ食べてもらっているそうで、そうした料理の中の異世界素材が、やはり彼の潜在能力を大きく上昇させているらしい。
そのおかげで、パレスの中から乗り込んで飛び立ってからものの数分で現地の到着してしまった。
(うわぁ、早すぎるよ! びっくりだよ、アタタガ!)
とりあえずそこで高速飛行を解除してもらい、そこからは上空から状況を見ようということになった。アタタガにはホバリングしてもらいながら、私たちは乗っている飛行箱の窓から外をのぞいた。
ーーそこに広がっていた光景は、想像以上に〝戦場〟だった。
まさにいま眼下に何度目かの魔物たちの波が押し寄せていて、地鳴りとともに周囲は舞い上がった埃でモヤがかかったような状態だ。
(これを吸い込んだら、かなり息苦しくなりそうね)
みたところ、やはりまだパレス側の主戦力は魔術師の様子で、ダンジョンの左右に造られた巨大な壁の上から主に火系の魔法が襲いくくる魔物に向かって放射されている。
ただ、現在押し寄せている魔物はすでにそれだけで撃退できるレベルを超えてしまっているようだ。上空からだとよくわかる。あちこちで火系の魔法攻撃を潜り抜けた魔物が先へと進もうと目を血走らせて迫っていた。
魔術師は《氷槍》や《雷鳴》《水鞭》といったいろいろな属性に対応できる人たちが出張ってきているし、攻撃に必要な〝魔法力〟の負担も増加しているようだ。
それでも取りこぼされた少数の魔物は、魔法騎士と兵士の混合軍が仕留めているようで、状況をこうして間近にしても〝巨大暴走〟の侵攻は完全に食い止められていた。
「いまのところ被害は最小限に抑えられているようで安心しました」
私がグッケンス博士に笑顔でそういうと、一瞬博士は難しい顔をしたが、すぐにいつもの顔でうなずいてくれた。
「そうじゃな……よくやっているな」
博士はきっと、これから厳しい状況が訪れることを覚悟しているのだろう。だが、この戦いに手を出さない私が簡単に大丈夫だとも言えないし、簡単に口を挟めるものではない。
(でも、できることもあるかもしれない。上空を偵察しなくちゃ)
私はアタタガに指示を出して、なるべく上空の赤黒い球体に近づいてくれるよう頼んだ。
〔了解です。それではもう少し上昇しますね〕
〔お願いね。ただ、危険かもしれないから、距離は少しとりましょう〕
そして私たちは窓から球体を凝視する。
報告で聞いていた〝赤黒い球体〟は、こうして間近で見るとかなり表面にゴツゴツとした岩のようなざらつきがあり、それでいて表面はテラテラと光っていた。例えるなら黒曜石の表面にたえず血が流れ続けているような気味の悪い見た目だった。
「博士、あの球体、なんだか動いていませんか?」
「ふむ……確かにのぉ。脈動というわけでもなさそうだが、生きているかのようにも見える。不気味じゃな」
私はさらに詳しく知ろうと《鑑定》そして《真贋》を発動する。
すると私の目の前は赤黒い〝何か〟でいっぱいになった。
「えっ、これ一体なに⁉︎」
先ほどまでの埃っぽい状態とはまったく違う、私の目の前に広がる赤黒いモヤのような何かは、上空の球体に引き寄せられ徐々に吸い込まれているようだ。それが吸い込まれるたび〝赤黒い球体〟は脈打っているのだ。
私は急いで博士に私に見えているものを伝えた。
「わしには見えないが、お前さんが嘘を言うとも思えん。おそらくメイロードの魔法にはお前さんの強い加護による補正があるのだろう。特に〝聖性〟が強いためこの怪異を知覚できるのかもしれんな」
グッケンス博士はそこから状況を見据えながらしばらく考え込んだ。
その間もずっと私が観察していると、私はあることに気づいた。
(あれは、なんだろう?)
「博士、グッケンス博士! あの……博士には見えますか? あの細い糸のようなもの!」
私は指さす。
「どれ……いや、それもわしには見えんな」
「そうですか。なんだろう、ずっと長く続いているんですけど」
「ああ、そういうことか! メイロード、セイリュウに聞いておくれ」
「えっ、はい。なんですか?」
「《王への供物》を遠隔で行うことができるのかを知りたいのじゃ」
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