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6 謎の事件と聖人候補
990 おむすびでお昼ごはん
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990
異世界から取り寄せた鮭をオーブンで焼いてほぐし具にしたおむすびに、黄身の醤油漬けを具にしたもの、ほかにも角煮や唐揚げ入り、おかかチーズ入りなどなどたくさんの具材を使ったおむすびたち。それに具材を混ぜ込んだ色とりどりのおむすびもお皿に並べる。色鮮やかな浅漬けと具沢山のけんちん汁も添えて。
「うむ。うまいな!」
グッケンス博士は満足げにほうじ茶をすする。先程までより明らかに血色も姿勢も良くなっているので、私の異世界料理は相変わらず確かな健康効果を発揮している様子だ。
〝おむすび〟は、実はだいぶ前から博士のお気に入りだ。なぜかといえば、準備もいらず気軽に短時間で食べられて、しかもバリエーションも豊富だからだ。
こうして長く関わってきてわかったことだが、グッケンス博士の人生は常に激しく渋滞している。やりたいことやらなければならないことが、いつも地層のようにギッチリと積み重なっていて、それに時間が追いつかないのだ。ただ博士の性格もあるのだろうが、あまり本人はそれを苦にしてはいない。
(自分の人生はそういうものだって悟っちゃってるんだよねぇ)
こういう人生で、かなり煩わしいのは〝生活〟だ。生きているだけで部屋は汚れるし、着れる服は減っていくし、お腹も空く。私と出会うまでの博士は、それを卓越した魔法と見ないふり知らないふりで捩じ伏せていた。
私と出会ってからは、徐々に人間らしい〝生活〟を取り戻してくれたが、やはり時間は有限で、忙しいときの博士が寝食をおろそかにしがちなのは相変わらず完全には解消できていない。
そんなとき私は〝おむすび〟を備蓄することを思いついた。味付けを工夫した一口で食べやすい大きさのいろいろなおむすびを、やや硬めに作り《無限回廊の扉》の中に保管して、それをソーヤに定期的に博士の〝マジックバッグ〟へと在庫を見ながら補充してもらうようにしたのだ。
これでいつでも博士はお腹がすけば片手でおむすびを取り出して口に入れられる、というわけだ。
あまり褒められた食習慣ではないが、博士の健康を保つためにはいい方法だった。
私のこだわりで厳選した異世界の美味しいお米を使用している特製〝おむすび〟は、疲労回復効果が抜群で、エネルギーチャージ力がとんでもなく高いとこれまでの経験からわかっている。それに工夫を重ねた厳選素材と組み合わせると、パクッとひとくち食べるだけで元気はつらつになるというわけだ。
(まぁ、この異世界素材満載の〝おむすび〟は、私がひとつずつ作らなきゃいけないからあんまりたくさんは作れないけど、博士が日常食べる分ぐらいはなんとかなるって感じかな。だからソーヤには味見の一個以外は食べちゃダメって言ってある。言っとかないと全部食べちゃうからね)
いつもは食べやすさを考えて作っているが、今日はちゃんと座って食べられそうなので、サイズも大きめのふんわり〝おむすび〟にしてみた。卵黄の醤油漬けと鶏そぼろがたっぷり入ったものやしゃけのおにぎり、茄子の味噌炒めに明太高菜、どれもご飯が進む味だ。
「メイロードさま、このトロトロの黄身が、ああ黄身に染み込んだ醤油の香ばしい風味がなんと素晴らしい。このふんわりと握られた絶妙の炊き加減の米と程よく混ざり合い、至福の味でございます。しかもそぼろの食感がこれまた……天国が見えます」
「それは美味しいってことよね。良かったわ」
両手に〝おむすび〟を持ったまま、食べ続けるソーヤは今日も絶好調だ。私はお漬物とたっぷり具材のきのこ汁をお椀によそい、食卓についた。
「ふむ。いつも食べさせてもらっているものとはまた違うのだな。これもうまいぞ、メイロード」
「いつも博士がこうして落ち着いて食べられるようならいいのですけどね」
「ああ、この〝巨大暴走〟の決着がついたら、国のやることには関わらんようにしていかねばのぉ」
「ええ、ぜひそうしてください」
現皇帝を子どもの頃から知っているという博士は、皇室とどうやら深い因縁があるようで、こういった大きな事件が起こればさすがに知らんぷりはできない。国は国であまりに有能な〝大魔術師〟を頼らずにはいられないのだろうし……まったく頼りになりすぎる天才というのも大変なことだと思う。
「私には状況を〝見る〟ぐらいしかできませんが、怪しい兆候があればお知らせできるはずです。〝赤黒い球体〟は、今回の〝巨大暴走〟と関連があるはずだと推察できるので、あれが悪さをしないうちに正体を突き止めたいです」
きのこ汁を美味しそうに啜りながら博士がうなずく。
「確かにあれは不気味じゃな。わしの《鑑定》でも、まったく正体は掴めずなのだが、あれが邪悪な気配に満ちていることは間違いない。聖なる気に守られているメイロードならば何か見えるかもしれんの」
「そうですね、そうだといいですが……」
私たちはしっかり食べて気力体力を奮い立たせ、いよいよいまも戦いが続く〝巨大暴走〟の現場へと向かう。
(早く、この戦い終わりますように!)
異世界から取り寄せた鮭をオーブンで焼いてほぐし具にしたおむすびに、黄身の醤油漬けを具にしたもの、ほかにも角煮や唐揚げ入り、おかかチーズ入りなどなどたくさんの具材を使ったおむすびたち。それに具材を混ぜ込んだ色とりどりのおむすびもお皿に並べる。色鮮やかな浅漬けと具沢山のけんちん汁も添えて。
「うむ。うまいな!」
グッケンス博士は満足げにほうじ茶をすする。先程までより明らかに血色も姿勢も良くなっているので、私の異世界料理は相変わらず確かな健康効果を発揮している様子だ。
〝おむすび〟は、実はだいぶ前から博士のお気に入りだ。なぜかといえば、準備もいらず気軽に短時間で食べられて、しかもバリエーションも豊富だからだ。
こうして長く関わってきてわかったことだが、グッケンス博士の人生は常に激しく渋滞している。やりたいことやらなければならないことが、いつも地層のようにギッチリと積み重なっていて、それに時間が追いつかないのだ。ただ博士の性格もあるのだろうが、あまり本人はそれを苦にしてはいない。
(自分の人生はそういうものだって悟っちゃってるんだよねぇ)
こういう人生で、かなり煩わしいのは〝生活〟だ。生きているだけで部屋は汚れるし、着れる服は減っていくし、お腹も空く。私と出会うまでの博士は、それを卓越した魔法と見ないふり知らないふりで捩じ伏せていた。
私と出会ってからは、徐々に人間らしい〝生活〟を取り戻してくれたが、やはり時間は有限で、忙しいときの博士が寝食をおろそかにしがちなのは相変わらず完全には解消できていない。
そんなとき私は〝おむすび〟を備蓄することを思いついた。味付けを工夫した一口で食べやすい大きさのいろいろなおむすびを、やや硬めに作り《無限回廊の扉》の中に保管して、それをソーヤに定期的に博士の〝マジックバッグ〟へと在庫を見ながら補充してもらうようにしたのだ。
これでいつでも博士はお腹がすけば片手でおむすびを取り出して口に入れられる、というわけだ。
あまり褒められた食習慣ではないが、博士の健康を保つためにはいい方法だった。
私のこだわりで厳選した異世界の美味しいお米を使用している特製〝おむすび〟は、疲労回復効果が抜群で、エネルギーチャージ力がとんでもなく高いとこれまでの経験からわかっている。それに工夫を重ねた厳選素材と組み合わせると、パクッとひとくち食べるだけで元気はつらつになるというわけだ。
(まぁ、この異世界素材満載の〝おむすび〟は、私がひとつずつ作らなきゃいけないからあんまりたくさんは作れないけど、博士が日常食べる分ぐらいはなんとかなるって感じかな。だからソーヤには味見の一個以外は食べちゃダメって言ってある。言っとかないと全部食べちゃうからね)
いつもは食べやすさを考えて作っているが、今日はちゃんと座って食べられそうなので、サイズも大きめのふんわり〝おむすび〟にしてみた。卵黄の醤油漬けと鶏そぼろがたっぷり入ったものやしゃけのおにぎり、茄子の味噌炒めに明太高菜、どれもご飯が進む味だ。
「メイロードさま、このトロトロの黄身が、ああ黄身に染み込んだ醤油の香ばしい風味がなんと素晴らしい。このふんわりと握られた絶妙の炊き加減の米と程よく混ざり合い、至福の味でございます。しかもそぼろの食感がこれまた……天国が見えます」
「それは美味しいってことよね。良かったわ」
両手に〝おむすび〟を持ったまま、食べ続けるソーヤは今日も絶好調だ。私はお漬物とたっぷり具材のきのこ汁をお椀によそい、食卓についた。
「ふむ。いつも食べさせてもらっているものとはまた違うのだな。これもうまいぞ、メイロード」
「いつも博士がこうして落ち着いて食べられるようならいいのですけどね」
「ああ、この〝巨大暴走〟の決着がついたら、国のやることには関わらんようにしていかねばのぉ」
「ええ、ぜひそうしてください」
現皇帝を子どもの頃から知っているという博士は、皇室とどうやら深い因縁があるようで、こういった大きな事件が起こればさすがに知らんぷりはできない。国は国であまりに有能な〝大魔術師〟を頼らずにはいられないのだろうし……まったく頼りになりすぎる天才というのも大変なことだと思う。
「私には状況を〝見る〟ぐらいしかできませんが、怪しい兆候があればお知らせできるはずです。〝赤黒い球体〟は、今回の〝巨大暴走〟と関連があるはずだと推察できるので、あれが悪さをしないうちに正体を突き止めたいです」
きのこ汁を美味しそうに啜りながら博士がうなずく。
「確かにあれは不気味じゃな。わしの《鑑定》でも、まったく正体は掴めずなのだが、あれが邪悪な気配に満ちていることは間違いない。聖なる気に守られているメイロードならば何か見えるかもしれんの」
「そうですね、そうだといいですが……」
私たちはしっかり食べて気力体力を奮い立たせ、いよいよいまも戦いが続く〝巨大暴走〟の現場へと向かう。
(早く、この戦い終わりますように!)
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