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6 謎の事件と聖人候補
969 協力者たち
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969
ラケルタ・バージェの逮捕から数日、世間は大変な騒ぎになっていた。
すでに市民生活に深く根づき多くの利用者がいる魔道具が突然生産停止に陥ったのだから当然かもしれない。
この魔道具による魔法力窃盗事件についてのシド中枢の対応はとても早く、特にエスライ・タガローサの逮捕に失敗してからの動きは、大量の人員を割いてのとても規模の大きな捜査になっている。
なかでも〝ストーム商会〟に関しては、最後までタガローサが関わっていた仕事であり、しかも迫り来る〝巨大暴走〟を引き起こす原因となった〝ストーム商会〟による〝魔法力〟の搾取とそれのダンジョンへの注入という、大規模なテロの準備といっていい行動をしている。
(まだこの辺りの詳しい事情を知るのは、ごく一部の人だとは思うけど、タガローサ確保の命令は広く出てるし、お尋ね者になった大商人のことは街でも噂だ。まぁ〝巨大暴走〟について詳しい情報を得ようと思うなら、いまはタガローサを捕まえて聞き出すしかないもんね。そりゃ、必死で探すわ)
とはいえ、それはお国の事情。なんの前触れもなく生活を便利にしていた魔道具を奪われることになってしまった街の人たちは戸惑うばかりだっただろう。とくにそれが普及していた人口の多い地域では大変な騒ぎとなってしまった。
現在〝ストーム商会〟はすべての店が閉じられ、販売も交換も中止。
商品はすべて押収され、製造販売はもちろん全面禁止だ。
これに困ったのが街灯を〝ストーム商会〟の〝魔導ランプ〟に頼っていた街だった。
〝魔導ランプ〟の普及により、日が沈んでからも仕事をすることが多くなっていた人たちは、一気に昔の暮らしに戻され、仕事ができない状況になっているからだ。
〝魔導ランプ〟の明るさに慣れきっていた人たちは、必死に代替品をかき集めることに奔走しているという。
ただし、どうにもならないのがその〝価格〟だ。
元々〝ストーム商会〟の商売は利益度外視といっていい、商売として成り立っているのかも怪しいほどの低価格でその普及を急速に早めるという手法で、最初のころから私もサイデムおじさまもそのやり方には疑問を持っていた。
おじさまはある程度普及したところで値段を吊り上げてくるのでは、と予想していたが、意外なことにいまに至るまで〝ストーム商会〟はずっと低価格を維持して販売していた。それは、破格で商売として成り立つとは思ないものだったのだ。
(真っ当な商人が売っている魔道具が、〝ストーム商会〟と同じような値段で売るなんて、絶対に無理なんだもん。でも〝ストーム商会〟の目的が〝吸魔玉〟の充填と回収だとわかってみれば、納得なんだよね。赤字ギリギリだってかまわないから、とにかく数を売りたかったってことだもん)
この件に関連してのいざこざは、シドだけでなく他の国にまで及んでおり、便利な家電や灯りを失うことになった人々は、半ばパニック状態だった。
「やっぱり困ったことになりましたね」
私はサイデム商会でおじさまと話していた。
「あの〝ラーメン横丁〟での爆発騒ぎから、〝魔導ランプ〟の危険性がわかってきたからな。あれからメイロードの紹介で エルリベット・バレリオの協力が得られたおかげで、なんとか〝ストーム商会〟のランプの解析ができて助かったな。生産の目処がついてからは流通の準備も進めてきたが、まだとても間に合わん。だが、できる限りの在庫は増やした。危険な夜道に設置できる〝魔導ランプ〟の代替品だけはなんとかなりそうだ」
「よかったです。エルさんは魔道具の達人ですから、協力してもらえて本当に助かりました」
私が魔法学校時代お世話になった魔道具屋〝魔法薬師の宝箱〟の店主エルさんは、あらゆる魔道具に精通する人だった。そこで、グッケンス博士の解析を元に、その機能をできるだけ再現した安全な〝魔導ランプ〟を作ってもらえないかと、私が頼み込んだ。
「突然来たかと思えば、無茶をいう子だねぇ」
エルさんは呆れたように笑ったが、グッケンス博士の解析には感心した様子で、読みながら何度も頷いていた。
「これだけしっかりと機能を把握するとはね。あの子も立派になったもんだ。これなら、いくつか魔法陣をたしてやればなんとかなるかもしれないね。ただし、機能は少し落とすよ。このままだと危なすぎるからね」
「はい、それは承知しています。ただ、価格を……」
「はいよ、今回はたくさん売ってそれで儲けるっていうんだろう? 今日明日の金には困ってないからね。それでいいさ」
「ありがとうございます!」
そして設計してもらった〝バレリオ式魔導ランプ〟を、おじさまのコネと伝手を使ってあちこちの工房へ大量発注し、この日に備えていたのだ。
「街の治安が悪くなれば、商売にも障る。できるだけ迅速に売りたいものだ」
「大丈夫ですよ。秘密裏に出来上がったランプはオットー君の船で運んでもらってますから」
「ああオットー・シルヴァンか。あいつはいい商売を見つけたな」
不思議な縁で知り合ったオットー君は、いまは開運事業と〝天舟〟での空輸事業でサイデム商会とも付き合いの深い、大手の輸送事業者に成長している。今回の件も私がらみなら、ということでかなり融通をきかせてもらった。
(エルさんもオットー君も、心よく力を貸してくれる。ありがたいことだね)
ラケルタ・バージェの逮捕から数日、世間は大変な騒ぎになっていた。
すでに市民生活に深く根づき多くの利用者がいる魔道具が突然生産停止に陥ったのだから当然かもしれない。
この魔道具による魔法力窃盗事件についてのシド中枢の対応はとても早く、特にエスライ・タガローサの逮捕に失敗してからの動きは、大量の人員を割いてのとても規模の大きな捜査になっている。
なかでも〝ストーム商会〟に関しては、最後までタガローサが関わっていた仕事であり、しかも迫り来る〝巨大暴走〟を引き起こす原因となった〝ストーム商会〟による〝魔法力〟の搾取とそれのダンジョンへの注入という、大規模なテロの準備といっていい行動をしている。
(まだこの辺りの詳しい事情を知るのは、ごく一部の人だとは思うけど、タガローサ確保の命令は広く出てるし、お尋ね者になった大商人のことは街でも噂だ。まぁ〝巨大暴走〟について詳しい情報を得ようと思うなら、いまはタガローサを捕まえて聞き出すしかないもんね。そりゃ、必死で探すわ)
とはいえ、それはお国の事情。なんの前触れもなく生活を便利にしていた魔道具を奪われることになってしまった街の人たちは戸惑うばかりだっただろう。とくにそれが普及していた人口の多い地域では大変な騒ぎとなってしまった。
現在〝ストーム商会〟はすべての店が閉じられ、販売も交換も中止。
商品はすべて押収され、製造販売はもちろん全面禁止だ。
これに困ったのが街灯を〝ストーム商会〟の〝魔導ランプ〟に頼っていた街だった。
〝魔導ランプ〟の普及により、日が沈んでからも仕事をすることが多くなっていた人たちは、一気に昔の暮らしに戻され、仕事ができない状況になっているからだ。
〝魔導ランプ〟の明るさに慣れきっていた人たちは、必死に代替品をかき集めることに奔走しているという。
ただし、どうにもならないのがその〝価格〟だ。
元々〝ストーム商会〟の商売は利益度外視といっていい、商売として成り立っているのかも怪しいほどの低価格でその普及を急速に早めるという手法で、最初のころから私もサイデムおじさまもそのやり方には疑問を持っていた。
おじさまはある程度普及したところで値段を吊り上げてくるのでは、と予想していたが、意外なことにいまに至るまで〝ストーム商会〟はずっと低価格を維持して販売していた。それは、破格で商売として成り立つとは思ないものだったのだ。
(真っ当な商人が売っている魔道具が、〝ストーム商会〟と同じような値段で売るなんて、絶対に無理なんだもん。でも〝ストーム商会〟の目的が〝吸魔玉〟の充填と回収だとわかってみれば、納得なんだよね。赤字ギリギリだってかまわないから、とにかく数を売りたかったってことだもん)
この件に関連してのいざこざは、シドだけでなく他の国にまで及んでおり、便利な家電や灯りを失うことになった人々は、半ばパニック状態だった。
「やっぱり困ったことになりましたね」
私はサイデム商会でおじさまと話していた。
「あの〝ラーメン横丁〟での爆発騒ぎから、〝魔導ランプ〟の危険性がわかってきたからな。あれからメイロードの紹介で エルリベット・バレリオの協力が得られたおかげで、なんとか〝ストーム商会〟のランプの解析ができて助かったな。生産の目処がついてからは流通の準備も進めてきたが、まだとても間に合わん。だが、できる限りの在庫は増やした。危険な夜道に設置できる〝魔導ランプ〟の代替品だけはなんとかなりそうだ」
「よかったです。エルさんは魔道具の達人ですから、協力してもらえて本当に助かりました」
私が魔法学校時代お世話になった魔道具屋〝魔法薬師の宝箱〟の店主エルさんは、あらゆる魔道具に精通する人だった。そこで、グッケンス博士の解析を元に、その機能をできるだけ再現した安全な〝魔導ランプ〟を作ってもらえないかと、私が頼み込んだ。
「突然来たかと思えば、無茶をいう子だねぇ」
エルさんは呆れたように笑ったが、グッケンス博士の解析には感心した様子で、読みながら何度も頷いていた。
「これだけしっかりと機能を把握するとはね。あの子も立派になったもんだ。これなら、いくつか魔法陣をたしてやればなんとかなるかもしれないね。ただし、機能は少し落とすよ。このままだと危なすぎるからね」
「はい、それは承知しています。ただ、価格を……」
「はいよ、今回はたくさん売ってそれで儲けるっていうんだろう? 今日明日の金には困ってないからね。それでいいさ」
「ありがとうございます!」
そして設計してもらった〝バレリオ式魔導ランプ〟を、おじさまのコネと伝手を使ってあちこちの工房へ大量発注し、この日に備えていたのだ。
「街の治安が悪くなれば、商売にも障る。できるだけ迅速に売りたいものだ」
「大丈夫ですよ。秘密裏に出来上がったランプはオットー君の船で運んでもらってますから」
「ああオットー・シルヴァンか。あいつはいい商売を見つけたな」
不思議な縁で知り合ったオットー君は、いまは開運事業と〝天舟〟での空輸事業でサイデム商会とも付き合いの深い、大手の輸送事業者に成長している。今回の件も私がらみなら、ということでかなり融通をきかせてもらった。
(エルさんもオットー君も、心よく力を貸してくれる。ありがたいことだね)
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