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6 謎の事件と聖人候補

955 強行軍

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955

試行錯誤をしながらいくつかの土魔法を駆使して、なんとか満足のいく形に下層へ続く階段の埋め立てをすることができた。

(とはいえ、いろんな魔法を使うとやっぱり時間がかかるなぁ……私の満足に時間をかけすぎてもよくないし、つぎからは魔法を調整して時間をかけない工程を試しながら埋めてみようっと)

完全脳内地図把握パーフェクト・ナビゲーション》を使い、階段付近にはぎっちり全体に土が詰まっていると確認したあと、私はみなさんが休憩している場所へと向かった。

「きっと心配させちゃってるわね。急ぎましょう」

私の姿が見えるとテーセウスさん、ピントさん、エンデさんがすぐに駆け寄ってきた。三人とも顔色が悪くないところを見ると〝爆弾おむすび〟の効果はあったようだ。

「メイロードさま、心より感謝申し上げます。これで後顧の憂いなく進むことができます」

少し神妙な感じで、静かにそう言うテーセウスさんの声にも張りが戻っていて、疲労を感じさせない。

彼のちょっと後ろにいたピントさんは私に何か言いたげだったが、そこはうまく目で制して小さく首を振った。

(そういった話はいまはやめておきましょう、ね?)

おそらく高い《鑑定》スキルをお持ちのピントさんは、ある程度人物に関しての鑑定もできるのだろう。となれば、彼女にはここにいる冒険者たち全員のレベルが一瞬で一割以上底上げされているという事実が見えているはずだ。

しかも体力も回復させた上で基礎値そのものも上昇しており、意欲も十分な状態になっている。

(何度も戦いを強いられながらの逃避行の直後で、心身共に疲れ切っていたさっきまでとあまりにも違う状況になっているから、普通ならその〝異常〟にすぐ気づくとこなんだろうけど、全員がそうなっているから、うまく状況の変化は隠せている……と思う。冷静に《鑑定》されれば、すぐわかることだけどね)

私は笑顔でピントさんたちに話しかける。

「おむすび美味しかったようですね。よかったです。では、次の階層へ向かいましょうか。このダンジョンは、一刻も早く脱出した方がいいですからね」

「メイロードさま……素晴らしい、本当に素晴らしい〝回復食〟でございました。皆に代わり御礼を言わせてくださいませ」

ピントさんはそれだけ言って、ちょっと涙ぐんでいる。

全員動ける状態だと確認できております。すぐ、行動を始めることにいたしましょう」

テーセウスさんもあの〝爆弾おむすび〟に何か仕掛けがあったのだろうと気づいてはいる様子だが、あえてそこには言及しないでくれている様子だ。

「総員移動準備!」

テーセウスさんの声がかかると、全員が力強く立ち上がった。

「ここからはダンジョン脱出を最優先とした強行軍となる。だが、怯むな! われわれなら大丈夫だ!」

リーダーの言葉に、ふてぶてしく笑う人、真剣な表情で応える人、冒険者たちはそれぞれのやり方で気合を入れていた。

ここからはできる限り行軍を止めないよう水系の魔法使いたちが各人の水袋をしっかりと満たし、三つのポーションと私が用意したちょっとした携帯食も渡された。小麦粉をぎゅっと固めたような長方形をしたショートブレッドタイプの携帯食は、チョコレート味とチーズ味の二種類で、この材料にも異世界素材をたっぷり使っている。

前世ではお馴染みのエナジーバーを自己流に作ってみたものだが、美味しく栄養もしっかり摂れ、歩きながらでも簡単に食べられる。
〝まごわやさしい〟といって、和食によく使われる健康食材、豆、ゴマ、ワカメ、野菜、魚、椎茸(きのこ類)、芋を、しかも異世界産にこだわってできるだけ取り入れることで、腹持ち良く筋力・持久力アップの効果も得られるよう調整した。

(この装備でどこまで行けるかわからないけど、上層階へ進むほど危険は小さくなるはずだ。大変だけどここが踏ん張りどころ。みんな、頑張ろうね!)

「私は最後に移動します。先ほどのようにガッチリとはいきませんが、各階の出入り口周辺は少しでも固めておいた方がいいでしょう。《地形探索》の段階で、もし〝壁抜き〟が必要と判断すれば、すぐそちらへ向かいますのでご安心くださいね」

エンデさんは私の言葉に、とても辛そうな表情を一瞬見せたが、すぐに微笑んでくれた。

「不甲斐ないことですが、一番年若いあなたに最も危険な〝しんがり〟をお願いするのが、この場では賢明な判断である…‥のですね。お願いいたします、そしてどうかご無事で! メイロードさま!」

よく通るテーセウスさんの声に、冒険者の皆さんの目が私に注がれる。行軍の最後に残るという少女に向けられる目は、哀れみのような、悲しみにようなものだったが、私は笑顔のままでいた。だが、そんな空気も一瞬で変わった。

「安心してよ、メイロードは僕たちが守る。なにも心配なんかいらないさ!」

セイリュウがそう宣言し、セーヤとソーヤも私の横に立つ。

その様子に一同は不安が減ったのだろう、口々に「頼むぞ!」といった言葉を言いながら移動を始める。

「そうでしたね……あなたは最高の従者をお持ちですからね。ではお気をつけて! 先でお待ちしておりますよ、メイロードさま」

エンデさんがそう言うと、会釈をしてから先頭に立って走り出した。

最初マルコとロッコは、とても私たちと残りたそうだった。だが、気持ちを切り替えたようだ。

「くやしいですが、俺たちでは足手まといになってしまうでしょう。俺たちは支援班の仲間を守って先に行きます」
「ええ、そうしてあげて。気をつけてね」

私の言葉に、ふたりは何度もこちらを振り返りながら支援班へと戻っていった。

さぁ、いよいよ最速脱出を目指す強行軍の始まりだ!
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