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6 謎の事件と聖人候補
951 《#流風弾__エア・バレット__#》無双
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951
「メイロードさま、無茶なことはおやめください!」
〝壁抜き〟ができるだけでも規格外の魔法力を消費しているはずなのに、その何十倍もの魔法力があってもできるかどうかわからない〝高速大量壁抜き〟をしようとする私に、ルエラさんはオロオロとそう叫ぶが、それに私は笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ、問題ありません。それに、おそらく上層へ戻ればここほどは危険が差し迫っていないはずです。とにかく、この階層から一刻も早く退避する、いまはそれが一番重要です。だから、そのために全力でいきます!」
私はそう言いながら、ルエラさんや周囲に《物理結界》を展開してしっかりと保護してから、《流風弾》の超高速乱射を始めた。
《流風弾》が使えるようになってから、その威力についてはグッケンス博士と一緒に何度も評価実験を重ねてきた。《流風弾》は私が魔法学校にいたときに作ってしまった前世の〝銃器〟をイメージした新しい魔法だ。新しい物好きのグッケンス博士は、当然の如くこの新しい攻撃魔法に興味津々で、実験にもよく付き合ってくれた。
さすが博士は魔法の達人だけあって、私の雑な説明と実演から魔法の構造を理解すると、瞬く間に《流風弾》を習得し、再現できるようになった。そして、妙にこだわりの強い魔法使いがふたりが被験者となり実験できる……となれば次はその性能についての詳細な実験をということになる。
「芯とするものによって、この威力はかなり変化するな。できる限り数値化してみたいものじゃ」
「ええ、固いものほど威力が増しますし、爆発力のある素材を応用すれば、さらに攻撃力は高まるでしょうね。とりあえず千回ぐらい打って平均値を出しましょうか」
「うーむ、ではまず芯となる素材の強度を変えて実験、その後は大きさを変えて実験じゃな」
「そのあとは魔法力の量を変えて、素材との相性も確かめてましょうか」
「ふむふむ、これはなかなか興味深い論文ができそうじゃのぉ」
こんな調子で膨大な魔法力にまかせて実験しまくった結果、私は自分に出せる《流風弾》の出力をかなり自在に操れるようになっていた。そして、実験場だったセイリュウの霊山で私が本気でエアバレットを打ち込んだ結果、固い岩石でできた大きな山がひとつ消し飛んでしまった。
「あっ、やっちゃった」
その山はセイリュウが壊してもいいと言ってくれたものだったが、まさか完全に吹っ飛ばすとは思っていなかったようで、あのときはだいぶ呆れた目で見られたと記憶している。
というわけで、これまでの〝壁抜き〟の経験からしても、この〝高速大量壁抜き〟はできる自信があったので、判断が早くできたのだ。
「被弾を防ぐための《物理結界》は三重に張りましたが、避難のためここに近づいてくる冒険者の皆さんには気をつけていてくださいね」
「は、はい。及ばずながら、お助けさせていただきます。イアも結界魔法の準備をしておくのですよ!」
「わかりました!」
ルエラさんとイアさんは、最初に撤退する手筈になっていた生活補助班の人たちが危険のある場所に不用意に近づきすぎないよう、サポートに回ってくれる。
私の魔法のせいなのだが、この〝壁抜き〟最前線では砂埃と大量の小石が雨霰のように、しかもかなりの速度で飛散しており、私も結界がなかったら決して近づきたくない壮絶な現場になっている。
このなかなか派手な鑿岩現場が稼働し始めて数分あと、いままでより多く出現し始めた魔獣と戦いながら、もう第一陣がすでに私の近くまでやってきて待機し始めた。
「あと少しだけ待ってください! 魔物の襲撃に気をつけて」
この修羅場に生活支援班の人たちも翻弄されていたが、ルエラさんとイアさんが彼らの安全確保にキビキビと動いてくれ、マルコとロッコも彼らをよく守ってくれている。それでも湧いてくるなかなか強敵の魔物たちもセーヤ・ソーヤ、そしてセイリュウがことごとく倒してくれた。
(このメンバーなら、背後は安心かな。よし、集中、集中!)
私は〝完全脳内地図〟で周辺の様子をモニターしながらも、手を休めず《流風弾》の連射を続けた。いや、実は途中からは崩れた瓦礫の中の大きめの石を使い《流風石弾》にして、さらに破壊力を強化し、十分ほどで上の層へと続く階段の場所まで直線で避難できる道を完成させた。
「よし、開いた! さあ、いきましょう!」
私の号令に、パーティー全員が動き始める。いよいよ撤退開始だ!
「メイロードさま、無茶なことはおやめください!」
〝壁抜き〟ができるだけでも規格外の魔法力を消費しているはずなのに、その何十倍もの魔法力があってもできるかどうかわからない〝高速大量壁抜き〟をしようとする私に、ルエラさんはオロオロとそう叫ぶが、それに私は笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ、問題ありません。それに、おそらく上層へ戻ればここほどは危険が差し迫っていないはずです。とにかく、この階層から一刻も早く退避する、いまはそれが一番重要です。だから、そのために全力でいきます!」
私はそう言いながら、ルエラさんや周囲に《物理結界》を展開してしっかりと保護してから、《流風弾》の超高速乱射を始めた。
《流風弾》が使えるようになってから、その威力についてはグッケンス博士と一緒に何度も評価実験を重ねてきた。《流風弾》は私が魔法学校にいたときに作ってしまった前世の〝銃器〟をイメージした新しい魔法だ。新しい物好きのグッケンス博士は、当然の如くこの新しい攻撃魔法に興味津々で、実験にもよく付き合ってくれた。
さすが博士は魔法の達人だけあって、私の雑な説明と実演から魔法の構造を理解すると、瞬く間に《流風弾》を習得し、再現できるようになった。そして、妙にこだわりの強い魔法使いがふたりが被験者となり実験できる……となれば次はその性能についての詳細な実験をということになる。
「芯とするものによって、この威力はかなり変化するな。できる限り数値化してみたいものじゃ」
「ええ、固いものほど威力が増しますし、爆発力のある素材を応用すれば、さらに攻撃力は高まるでしょうね。とりあえず千回ぐらい打って平均値を出しましょうか」
「うーむ、ではまず芯となる素材の強度を変えて実験、その後は大きさを変えて実験じゃな」
「そのあとは魔法力の量を変えて、素材との相性も確かめてましょうか」
「ふむふむ、これはなかなか興味深い論文ができそうじゃのぉ」
こんな調子で膨大な魔法力にまかせて実験しまくった結果、私は自分に出せる《流風弾》の出力をかなり自在に操れるようになっていた。そして、実験場だったセイリュウの霊山で私が本気でエアバレットを打ち込んだ結果、固い岩石でできた大きな山がひとつ消し飛んでしまった。
「あっ、やっちゃった」
その山はセイリュウが壊してもいいと言ってくれたものだったが、まさか完全に吹っ飛ばすとは思っていなかったようで、あのときはだいぶ呆れた目で見られたと記憶している。
というわけで、これまでの〝壁抜き〟の経験からしても、この〝高速大量壁抜き〟はできる自信があったので、判断が早くできたのだ。
「被弾を防ぐための《物理結界》は三重に張りましたが、避難のためここに近づいてくる冒険者の皆さんには気をつけていてくださいね」
「は、はい。及ばずながら、お助けさせていただきます。イアも結界魔法の準備をしておくのですよ!」
「わかりました!」
ルエラさんとイアさんは、最初に撤退する手筈になっていた生活補助班の人たちが危険のある場所に不用意に近づきすぎないよう、サポートに回ってくれる。
私の魔法のせいなのだが、この〝壁抜き〟最前線では砂埃と大量の小石が雨霰のように、しかもかなりの速度で飛散しており、私も結界がなかったら決して近づきたくない壮絶な現場になっている。
このなかなか派手な鑿岩現場が稼働し始めて数分あと、いままでより多く出現し始めた魔獣と戦いながら、もう第一陣がすでに私の近くまでやってきて待機し始めた。
「あと少しだけ待ってください! 魔物の襲撃に気をつけて」
この修羅場に生活支援班の人たちも翻弄されていたが、ルエラさんとイアさんが彼らの安全確保にキビキビと動いてくれ、マルコとロッコも彼らをよく守ってくれている。それでも湧いてくるなかなか強敵の魔物たちもセーヤ・ソーヤ、そしてセイリュウがことごとく倒してくれた。
(このメンバーなら、背後は安心かな。よし、集中、集中!)
私は〝完全脳内地図〟で周辺の様子をモニターしながらも、手を休めず《流風弾》の連射を続けた。いや、実は途中からは崩れた瓦礫の中の大きめの石を使い《流風石弾》にして、さらに破壊力を強化し、十分ほどで上の層へと続く階段の場所まで直線で避難できる道を完成させた。
「よし、開いた! さあ、いきましょう!」
私の号令に、パーティー全員が動き始める。いよいよ撤退開始だ!
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