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6 謎の事件と聖人候補
949 ダンジョンで会議
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949
私が休憩に入る前に連絡があった通り、食後にはダンジョン内で今後の方針を決めるための会議が開かれた。
ダンジョンの中とはいえ、きちんと土魔法で成形された椅子と机でできた会議室は立派なものだ。
(魔法ってほんとに便利だよね)
この会議には私も出席を求められた。こうしたトップが集まる方針決定会議に招かれてしまうことで、このダンジョン攻略に私もかなり深く関わっているのだと改めて実感させられる。
全員揃ったところで、早速テーセウスさんが現状を確認するように話し始める。
「ここまでわれわれのパーティーは、順調に進んでいるといえるだろう。ダンジョンの厳しさを鑑みれば、損耗も非常に軽微だ。このパーティーは実に優秀だな。もちろん戦闘の数は少なくないのだから若干の負傷者はあったが、それも十分回復可能な程度で留まっており、配置の変更が必要になるような事態も起こっていない。まだわれわれは万全の状態だ。
ひとつの階層にかける攻略時間については、さすがに第六階層に至ったあたりからかなり厳しさを増してきているが、地形変動が頻発し始めている状況を考慮すれば、それもまだ想定の範囲内と言っていいだろう」
続いてピントさんが話す。
「予想通りではありますが地図の作成については、地形変動のせいでまったくお手上げですわね。せっかく優秀な魔法使いがおりますのに残念なことです。それでも、地形以外の情報はしっかり取集できています。魔法によるダンジョン攻略についても、有意義な実地見聞ができておりますし、とくにこのダンジョンで初めて遭遇した魔物については有益な攻略情報を積めております」
さらにエンデさんが続ける。
「採取に関しては、すでに満足できる結果を残したといえるね。これまでの階層だけでもこのダンジョンは採取先としてかなり有望だ。概算だが第七層の段階で、すでに利益が遠征費の十倍を超えている。危険も大きいが見入りはそれ以上だよ、ここは」
満足そうにうなずく皆さんに、再びテーセウスさんが語りかける。
「初めから覚悟していたように、この壁が動くダンジョンの正確な地図を持ち帰ることはできない。それでもわれわれはギルドに報告できる多くの情報を収集できたと考える。収益の確保も十分過ぎるほどだ。となれば、そろそろ撤退時期を考えねばならないだろう」
大きなパーティーの場合、撤退時期の判断を少しでも誤れば、人にもモノにも莫大な損害が出てしまう。それに今回は地図を作ることによる収益を見込めないのだ。となれば、完全踏破を強行する理由もあまりない。
「第九階層の《索敵》の結果はどうなのかしら?」
ピントさんの言葉にルエラさんが答える。
「厳しくはなってまいりますね。魔物は一体ごとの強さが格段に上がっておりますし、厄介なスキルを持つ魔獣や得体の知れない未知の魔物も多くなってきました。それに……壁の変化速度がさらに激しくなってきております。この先はこうした変動に対応できず巻き込まれて負傷する……という事故が起こる可能性がさらに高まっていくでしょう」
「そうか……」
「うーん」
「どういたしましょうね」
現状、パーティーのダメージがほぼないためさらに奥へと進むという選択は当然ありだろう。とくに強さと名誉を重んじる攻略重視の〝金獅子の咆哮〟は可能なかぎり前に進みたいと考えているはずだ。そして収益重視の〝剣士の荷馬車〟は、最も損害がなく利益が十分確保できているいま、素早く撤退したいと考えているだろう。そして魔法使い集団の〝朝日の誓約〟はおそらく中立だ。
「あの……みなさんに聞いていただきたいことがあります」
会議がそれぞれの思惑で硬直しかけたところで、私は手を挙げた。
「なにか意見があればぜひ聞かせてください、メイロードさま」
微笑むテーセウスさんに促され、私は先ほどヒスイから得た情報を彼らに伝えることにした。
「私にはこちらにいるセーヤとソーヤ以外にも契約している妖精がいます。それはドライアドのヒスイという子なのですが、その子から先ほど《念話》が届いたのです」
(さすがに実際会ってきたっていうわけにはいかないからなぁ。外部からこのダンジョン深くまで《念話》が通るかどうかなんて知らないけど、このダンジョンに関しては誰も詳しくは知らないはずだから、ここはそういうことで話を進めちゃお)
「ヒスイは地中の状態を調べることができるという力のある子なのですが、どうやらこのダンジョンの特殊性にも関係があると思われる、ある重大な情報を教えてくれました。それは……」
みんなの目が真剣に私を見ている。誰も私の言葉を疑わないし、軽んじもしない。ならば私は彼らを必ず説得しなければならない。手を握りしめ、慎重に言葉を選びながら再び口を開く。
「信じられないと思いますが、このダンジョンはまだ成長しています。しかも、このダンジョンの成長を促しているのは、いまもまだ供給され続けている強力な〝魔力〟なのです」
私が休憩に入る前に連絡があった通り、食後にはダンジョン内で今後の方針を決めるための会議が開かれた。
ダンジョンの中とはいえ、きちんと土魔法で成形された椅子と机でできた会議室は立派なものだ。
(魔法ってほんとに便利だよね)
この会議には私も出席を求められた。こうしたトップが集まる方針決定会議に招かれてしまうことで、このダンジョン攻略に私もかなり深く関わっているのだと改めて実感させられる。
全員揃ったところで、早速テーセウスさんが現状を確認するように話し始める。
「ここまでわれわれのパーティーは、順調に進んでいるといえるだろう。ダンジョンの厳しさを鑑みれば、損耗も非常に軽微だ。このパーティーは実に優秀だな。もちろん戦闘の数は少なくないのだから若干の負傷者はあったが、それも十分回復可能な程度で留まっており、配置の変更が必要になるような事態も起こっていない。まだわれわれは万全の状態だ。
ひとつの階層にかける攻略時間については、さすがに第六階層に至ったあたりからかなり厳しさを増してきているが、地形変動が頻発し始めている状況を考慮すれば、それもまだ想定の範囲内と言っていいだろう」
続いてピントさんが話す。
「予想通りではありますが地図の作成については、地形変動のせいでまったくお手上げですわね。せっかく優秀な魔法使いがおりますのに残念なことです。それでも、地形以外の情報はしっかり取集できています。魔法によるダンジョン攻略についても、有意義な実地見聞ができておりますし、とくにこのダンジョンで初めて遭遇した魔物については有益な攻略情報を積めております」
さらにエンデさんが続ける。
「採取に関しては、すでに満足できる結果を残したといえるね。これまでの階層だけでもこのダンジョンは採取先としてかなり有望だ。概算だが第七層の段階で、すでに利益が遠征費の十倍を超えている。危険も大きいが見入りはそれ以上だよ、ここは」
満足そうにうなずく皆さんに、再びテーセウスさんが語りかける。
「初めから覚悟していたように、この壁が動くダンジョンの正確な地図を持ち帰ることはできない。それでもわれわれはギルドに報告できる多くの情報を収集できたと考える。収益の確保も十分過ぎるほどだ。となれば、そろそろ撤退時期を考えねばならないだろう」
大きなパーティーの場合、撤退時期の判断を少しでも誤れば、人にもモノにも莫大な損害が出てしまう。それに今回は地図を作ることによる収益を見込めないのだ。となれば、完全踏破を強行する理由もあまりない。
「第九階層の《索敵》の結果はどうなのかしら?」
ピントさんの言葉にルエラさんが答える。
「厳しくはなってまいりますね。魔物は一体ごとの強さが格段に上がっておりますし、厄介なスキルを持つ魔獣や得体の知れない未知の魔物も多くなってきました。それに……壁の変化速度がさらに激しくなってきております。この先はこうした変動に対応できず巻き込まれて負傷する……という事故が起こる可能性がさらに高まっていくでしょう」
「そうか……」
「うーん」
「どういたしましょうね」
現状、パーティーのダメージがほぼないためさらに奥へと進むという選択は当然ありだろう。とくに強さと名誉を重んじる攻略重視の〝金獅子の咆哮〟は可能なかぎり前に進みたいと考えているはずだ。そして収益重視の〝剣士の荷馬車〟は、最も損害がなく利益が十分確保できているいま、素早く撤退したいと考えているだろう。そして魔法使い集団の〝朝日の誓約〟はおそらく中立だ。
「あの……みなさんに聞いていただきたいことがあります」
会議がそれぞれの思惑で硬直しかけたところで、私は手を挙げた。
「なにか意見があればぜひ聞かせてください、メイロードさま」
微笑むテーセウスさんに促され、私は先ほどヒスイから得た情報を彼らに伝えることにした。
「私にはこちらにいるセーヤとソーヤ以外にも契約している妖精がいます。それはドライアドのヒスイという子なのですが、その子から先ほど《念話》が届いたのです」
(さすがに実際会ってきたっていうわけにはいかないからなぁ。外部からこのダンジョン深くまで《念話》が通るかどうかなんて知らないけど、このダンジョンに関しては誰も詳しくは知らないはずだから、ここはそういうことで話を進めちゃお)
「ヒスイは地中の状態を調べることができるという力のある子なのですが、どうやらこのダンジョンの特殊性にも関係があると思われる、ある重大な情報を教えてくれました。それは……」
みんなの目が真剣に私を見ている。誰も私の言葉を疑わないし、軽んじもしない。ならば私は彼らを必ず説得しなければならない。手を握りしめ、慎重に言葉を選びながら再び口を開く。
「信じられないと思いますが、このダンジョンはまだ成長しています。しかも、このダンジョンの成長を促しているのは、いまもまだ供給され続けている強力な〝魔力〟なのです」
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