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6 謎の事件と聖人候補
945 隆起
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945
「探しますって……ご覧になったことあるんですか、極小サイズの〝マジックバッグ〟?」
「ありません! でも探します!」
エンデさんの目があまりにもキラキラしているので、私はそれ以上何も言えず、
「そうですか……見つかることを祈ってます」
とほほ笑むと、私の言葉に嬉しそうに何度も頷いたエンデさんからは
「商品化がかないましたら、メイロードさまにもしっかり発案者の権利金をお渡しいたしますので、それまでしばらくお待ちください!」
と、満面の笑顔で提案されてしまったが、私は笑顔でそれを辞退した。
「いいえ、それは結構です。これは私の部下のための工夫で、それ以上のことは私は考えていないのです。ですからこれをあなたが商品化しても私は権利を主張するつもりはないのです。そしてその代わり、私はこれ以上はなんの助言もいたしませんよ」
「いい仕事をさせていただける機会になるかと思いましたのに、それは残念です……わかりました! きっと私がこれを商品にしてみせます!」
よほど商人心がくすぐられるアイディアだったのか、エンデさんは何度も私に感謝の言葉を述べ、私の発想を褒め称え続けた。いたたまれなくなった私は
「えっと……商品化、がんばってください」
とだけ笑顔のまま言って、足早にその場をあとにしたのだった。
ソーヤの報告によると、そのあともエンデさんは興奮気味に〝剣士の荷馬車〟のお仲間に新しい画期的な商品を見つけたかもしれないと語っていたそうだ。
「なんでも、いままで〝マジックバッグ〟はその容量の大きさで価値が決まっていたそうで、容量がとても小さなものは見向きもされず、売りモノとしてはほぼ無価値とされていたそうです。
メイロードさまのお作りになったあの小さなポーチは、そんな価値のなかった商品に〝武器専用一点収納庫〟という用途を与えることでとんでもない付加価値を生み出した、とそれは興奮されていました」
「それは…‥そうかもしれないけど、そもそもそんな極小の〝マジックバッグ〟ないでしょう?」
「いままではまったく評価されていなかったので、デッドストックとして眠っているものが多くあるはずだとエンデは考えているようです。今後は逆に極小の〝マジックバッグ〟の争奪戦が起こることのなるかもしれませんね」
「でも、極小だというだけじゃ、あのポーチと同じとはいえないんだけどねぇ……、まぁ、それは売る人が考えればいっか」
マルコとロッコのポーチが特殊なのには、私が製作者であるゆえに使えるスキルが関係しているのだが、私とまったく同じやり方でなくとも解決法があるのかもしれないし、一点収納限定の特殊ポーチを商品化するつもりなら、自分たちでなんとかできる方法を見つけたほうがいいだろう。
(道は険しいかもしれないけど、私に頼ってたら再現性がないもん。それじゃ、商売にはならないよね)
そんな朝の一幕も落ち着き、私は再び地図班の仕事を始めた。その日の移動はとても順調で、価値の高い魔獣もちらほら現れたため、一同とても機嫌良く、第七層までも少しというところまでたどり着いた。
だが、ついにこの特殊ダンジョンは我々に牙を剥き始めた。
数匹の魔獣と戦うため広範囲に散らばっていたとき、突然、ダンジョン中に響くような地鳴りが始まったのだ。
「一堂、本隊へ戻れ! すぐにだ‼︎」
テーセウスさんやエンデさん、その近くに入り人たちも、散開している冒険者たちに叫ぶ。訓練された彼らは、すぐに指示通り動き始めたが、魔物と戦いながらの移動はそう簡単ではない。
急ぎ走る彼らを阻むように、地面があるところでは隆起し、あるところでは飲み込まれるように沈み、さらにこの階層自体の大きさも徐々に広がりをみせていた。
天井からは石も降るという状況だったが、魔法使いの皆さんがすぐに《物理結界》を張ってくれたため、本隊に被害はなさそうだ。地図班の私とルエラさんは《地形把握》で、刻々と変わりゆくその様子を記録し続けていたが、その横でイアはブルブルと震えへたりこんでいた。
「イア、しっかりなさい!」
真っ青な顔で震えている弟子に、ルエラさんが声をかける。
「大丈夫よ。この現象は階段付近では起こらないみたいだから、この場所なら安全だと思うわ」
「ええ、そうですね。メイロードさまのおっしゃる通りです。イア、あなたもしっかり地形の変化を見て状況を観察なさい!」
「は、はいぃ、ひぃ!」
再び地響きと共に変わりゆく地形にイアは頭を抱えてへたり込む。
そんな恐怖は十分ほど続いた。
「メイロードさま……どうやらお力をお借りしなければならないようでございます」
一応、地鳴りがおさまったところで、現状を写した地図を見ながら、ルエラさんが私に真剣な顔を向けた。
地図には壁に閉じ込められた人たちが二ヶ所に確認できる。彼らが自力であの壁を崩すことは不可能だ。
私はルエラさんと涙目のイアになんでもないことのように軽い口調でこう言った。
「それじゃ〝壁抜き〟行ってきまーす! あとはお願いね」
私はイアに地図と筆記具を渡し、壁へと近づいていった。
(《完全脳内地図把握》)
私はここまでに得られた地図情報そして《索敵》を統合し、この場の地図と人や物の動きを把握する。
(さてお仕事を始めますか。まずはどこから助けよう?)
「探しますって……ご覧になったことあるんですか、極小サイズの〝マジックバッグ〟?」
「ありません! でも探します!」
エンデさんの目があまりにもキラキラしているので、私はそれ以上何も言えず、
「そうですか……見つかることを祈ってます」
とほほ笑むと、私の言葉に嬉しそうに何度も頷いたエンデさんからは
「商品化がかないましたら、メイロードさまにもしっかり発案者の権利金をお渡しいたしますので、それまでしばらくお待ちください!」
と、満面の笑顔で提案されてしまったが、私は笑顔でそれを辞退した。
「いいえ、それは結構です。これは私の部下のための工夫で、それ以上のことは私は考えていないのです。ですからこれをあなたが商品化しても私は権利を主張するつもりはないのです。そしてその代わり、私はこれ以上はなんの助言もいたしませんよ」
「いい仕事をさせていただける機会になるかと思いましたのに、それは残念です……わかりました! きっと私がこれを商品にしてみせます!」
よほど商人心がくすぐられるアイディアだったのか、エンデさんは何度も私に感謝の言葉を述べ、私の発想を褒め称え続けた。いたたまれなくなった私は
「えっと……商品化、がんばってください」
とだけ笑顔のまま言って、足早にその場をあとにしたのだった。
ソーヤの報告によると、そのあともエンデさんは興奮気味に〝剣士の荷馬車〟のお仲間に新しい画期的な商品を見つけたかもしれないと語っていたそうだ。
「なんでも、いままで〝マジックバッグ〟はその容量の大きさで価値が決まっていたそうで、容量がとても小さなものは見向きもされず、売りモノとしてはほぼ無価値とされていたそうです。
メイロードさまのお作りになったあの小さなポーチは、そんな価値のなかった商品に〝武器専用一点収納庫〟という用途を与えることでとんでもない付加価値を生み出した、とそれは興奮されていました」
「それは…‥そうかもしれないけど、そもそもそんな極小の〝マジックバッグ〟ないでしょう?」
「いままではまったく評価されていなかったので、デッドストックとして眠っているものが多くあるはずだとエンデは考えているようです。今後は逆に極小の〝マジックバッグ〟の争奪戦が起こることのなるかもしれませんね」
「でも、極小だというだけじゃ、あのポーチと同じとはいえないんだけどねぇ……、まぁ、それは売る人が考えればいっか」
マルコとロッコのポーチが特殊なのには、私が製作者であるゆえに使えるスキルが関係しているのだが、私とまったく同じやり方でなくとも解決法があるのかもしれないし、一点収納限定の特殊ポーチを商品化するつもりなら、自分たちでなんとかできる方法を見つけたほうがいいだろう。
(道は険しいかもしれないけど、私に頼ってたら再現性がないもん。それじゃ、商売にはならないよね)
そんな朝の一幕も落ち着き、私は再び地図班の仕事を始めた。その日の移動はとても順調で、価値の高い魔獣もちらほら現れたため、一同とても機嫌良く、第七層までも少しというところまでたどり着いた。
だが、ついにこの特殊ダンジョンは我々に牙を剥き始めた。
数匹の魔獣と戦うため広範囲に散らばっていたとき、突然、ダンジョン中に響くような地鳴りが始まったのだ。
「一堂、本隊へ戻れ! すぐにだ‼︎」
テーセウスさんやエンデさん、その近くに入り人たちも、散開している冒険者たちに叫ぶ。訓練された彼らは、すぐに指示通り動き始めたが、魔物と戦いながらの移動はそう簡単ではない。
急ぎ走る彼らを阻むように、地面があるところでは隆起し、あるところでは飲み込まれるように沈み、さらにこの階層自体の大きさも徐々に広がりをみせていた。
天井からは石も降るという状況だったが、魔法使いの皆さんがすぐに《物理結界》を張ってくれたため、本隊に被害はなさそうだ。地図班の私とルエラさんは《地形把握》で、刻々と変わりゆくその様子を記録し続けていたが、その横でイアはブルブルと震えへたりこんでいた。
「イア、しっかりなさい!」
真っ青な顔で震えている弟子に、ルエラさんが声をかける。
「大丈夫よ。この現象は階段付近では起こらないみたいだから、この場所なら安全だと思うわ」
「ええ、そうですね。メイロードさまのおっしゃる通りです。イア、あなたもしっかり地形の変化を見て状況を観察なさい!」
「は、はいぃ、ひぃ!」
再び地響きと共に変わりゆく地形にイアは頭を抱えてへたり込む。
そんな恐怖は十分ほど続いた。
「メイロードさま……どうやらお力をお借りしなければならないようでございます」
一応、地鳴りがおさまったところで、現状を写した地図を見ながら、ルエラさんが私に真剣な顔を向けた。
地図には壁に閉じ込められた人たちが二ヶ所に確認できる。彼らが自力であの壁を崩すことは不可能だ。
私はルエラさんと涙目のイアになんでもないことのように軽い口調でこう言った。
「それじゃ〝壁抜き〟行ってきまーす! あとはお願いね」
私はイアに地図と筆記具を渡し、壁へと近づいていった。
(《完全脳内地図把握》)
私はここまでに得られた地図情報そして《索敵》を統合し、この場の地図と人や物の動きを把握する。
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